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びふぉー②

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「これでよし」
「ずいぶん簡単なんですね」

 いまだ半信半疑といった感じでセルトンが小さな鍵穴を眺めている。不法侵入者が入り込む裏口──南の扉の鍵穴に、ありったけの接着剤を流し込んであげたのだ。

 このアリステギア王国にも接着用の物質はあるらしい。けどそれは時間をかけて固まるタイプ。しかもその時間も丸一日以上必要で、あまり使用されていないらしい。

 だから瞬間接着剤なんて見たことがないと驚かれ、便利なものですね、と感心された。
 
 接着剤がバッチリくっついてるのを確認して、パンパンと手を払う。

「これで当分この扉は使えなくなったから、次は……」
「端切れですね」

 すかさず答えるセルトン。私は頷いて、その場所へ案内をお願いした。

 独り暮らしをするならストーカー対策に異性の下着を干した方がいい。昔友人にされたアドバイス。

 結局実行することはなかったけど、それをいま応用出来ないか、と考えた。婚約者わたしという存在を周りに知らしめて、認知していただく。

 まあ、そしたら私が標的になるかもしれない。さっきみたいに襲われることもあり得なくはない。けどそれでも、もうただ黙ってやられるつもりはない。

 カバンの中にヘアスプレーはあったはずだし、ただ痴漢撃退用のじゃないのが悔やまれるけど。一応スマホもある。連絡は…できないけど。でも大きな音を立てるのには使えるかもしれない。

 対策を立てておけば、それほど怖くないかもしれない。

 ひとり意気込んでいたら、別棟まで先導してくれていたセルトンが急に立ち止まる。完全に油断してた。

「うわっ! ぷっ」

 勢い余って思いきりぶつかると、振り返った彼の方が慌てた。

「ああ! すみませんすみません! 一言言ってから止まるべきでした」
「違う違う。私の方がボーッとしてたから、ごめんなさい」

 鼻の頭をさすりながらセルトンの背後に目を向ける。どこかノスタルジックな雰囲気の建物。本館よりも遥かに小さめだけど、円形で可愛らしい建物があった。

「ところで、ここに端切れがあるの?」

 セルトンの横をすり抜けて背伸びして、小窓から中を覗き見ると素敵な刺繍のクッションが見える。お母様の部屋にあったのと同じ感じで繊細な作りをしていた。

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