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お疲れ様でした④

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 自分の荷物を適当に置いて、部屋の観察もそこそこにベッドへダイブする。

「やぁ…」

 やっと……やっと休める。

 さっき見たスマホの画面はもうすぐ昼になるところだった。仕事終わりから今までホント長かった。

 体はすでにアラートを出している。まぶたは重いし頭もよく働かない。いつ落ちてもおかしくない。

 でももう抗う必要などない。薄手なのに温かい掛け布にくるまり丸くなる。ゆっくり目を瞑るとすぐに心地好さがやってきた。

 そのまどろみに身を委ねかけた瞬間、打ち破るように扉がトントンと叩かれた。

「……」

 申し訳ないが今の私は一刻も早く夢の住民になりたい。体を動かす気力もないし体力もない。無視を決め込もうとした矢先、控えめなフェルの声が聞こえた。

「ルミ、起きてるかい?」

 正直返事をしたくない。というか、さっき出ていってからまだ経ってないよ。さっき言ってくれてもよかったんだよ? それでも声をかけられた以上このままっていうのも気が引ける。

「……うぅ……」
 
 懸命に体を持ち上げる。でも動かない。

 無理だ。仕方ない、寝よう。

 さすがに返事がなければ諦めてくれるはず。でも、とまだ動く意識の片隅、微かに悩んだ末に小さく答えておいた。

「……寝て…ま~す……」
「入るよ」
「……」

 あれ、いいって言ったっけ? おぼろげながらにそう思う。おまけにすぐ扉が開く音がしたから、反射的に残る体力を総動員してモゾモゾと動く。なんとか掛け布から顔だけ出したけど、サイドテーブルの明かりが意外に眩しい。きっといま目が3になってる。

 つけっぱなしにしてた明かりで、うっすら人影が見える。ゆっくり近づいてくるそれを目を凝らして見る。ちょうどフェルが傍に来るところだった。

 彼はいつの間にか、ラフなシャツと黒いズボンに変わっている。そのままベッドの端に腰を下ろして、サイドテーブルのランプの光を寄せてきた。

 ちょ、まぶしっ!

 逃げるように掛け布の中へ戻る。光が和らいで、ただフェルの気配と声だけがする。

「夜分にすまないね」

 返事をしないわけにもいかないので短く応える。

「……いえ」

 でも眠気には勝てなくて、うつらうつらしていると「そのままでいいから聞いて欲しい」と声がした。

「さっきは有難う」
「……何も……してない」
「いや、とても心強かったよ。おかげでずいぶん助かった」
「……」
「……」

 それはよかった、と答えようとしたけど声にならない。彼は少しの沈黙のあと、「君は」と続けた。

「不思議な人だね。異国の人だからかな。距離感が心地よくて安心する…」

 途切れた言葉、だけどすぐ小さな呟きが聞こえる。

「アンバルが…今の状況に辟易してると言ったが、それは私も同じだったんだ。波風立てないようにと接しながら、心のどこかで嫌気がさしていた。思い出したくない…記憶すら甦って……」

 息をのむ音が掠めた気がする。「だけど」と続く。

「……どうにかなりそうな時に君が……きっかけに…」

 まどろむ世界に溶け込んでいくフェルの声。そのあとは曖昧であまり覚えていない。かろうじて最後に労う言葉と布の上からポンポンと軽く叩かれたような気がした。
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