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業務開始は突然に①

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「……はあ~…」

 ちょうど良い温度のお湯の中で、思い切り全身の力を抜く。外は真っ暗だけど朝風呂感覚。なんだか不思議。だけどこうしてゆったり出来る時間は素直に有難い。食事のあとにお風呂を勧めてくれた執事さんには感謝だ。

 そういえば、その間に私の部屋を整えてくれるんだっけ。

 ちなみに、食事後の付き添いやらお仕度やらは丁重にお断りした。だってこのお屋敷、一人も同性がいないんだもの。執事さんはたまたま皆出払っていて、なんて言われたけど、だからといって男性陣にお世話してもらうわけにはいかないからね。

 なんて考えながら目を瞑る。

「……」

 ピチョンと滴が落ちてくる。全体が白い石で造られた浴室。浴槽は大理石みたいにツルツル。そこに寄りかかって腕で目を覆う。先程のことを思い出していた。

 結論から言うと食事会は地獄の……いや、ちょっと苦しい時間だった。

 フェルクスさん家の料理人の皆さまが、私を客人としてもてなしてくれたのは嬉しい。そのおかげで広いテーブルの上が様々な料理で溢れかえっていたのだから。

 見たことあるものから、ないものまで、ね。

 心から喜んだのは言うまでもないの。ただ、万全の状態だったら、より嬉しかった。残念ながら今の私の胃はすでに完徹朝食モードだったから。

 そんな状態でフルコースはキツかったのだ。胃がキリキリして大変だった。

 でも、せっかく私のために用意してくれたから残したくはないって思うじゃない。会話もそこそこに、フェルクスさんの話を聞きながら細かく咀嚼した。胃に負担がかからないようにと。それが功を奏してくれたらいいんだけど。

 そういえば食事の席でいろいろ紹介されたなぁ。と、思い出す。このロギアスタ邸の皆さま方。
 
 たしか、総料理長のマギラスから始まり、その下に何人かいて、屋敷の総監督者はガルシアさんだったかな。

 玄関でも出会った執事の方がガルシアさんよね。何かあれば彼に言えばいいとのこと。ピッチリと髪を整えて眼鏡をしていたあの人。そこそこ年配の方。そして使用人の皆様方もたくさんいて、追い追いでいいよ、とフェルクスさん……フェルも言っていた。

「フェル……」

 婚約者役なのだから愛称で、と言われたけどなんだか気恥ずかしい。改めて考えると彼の容姿は好みだし、接し方も柔らかくて居心地がいい。

 そんな彼の婚約者だなんて、よくよく考えると大胆だったかも。

 急に頬に熱がこもるのを感じて、隠れるようにお湯に沈む。だけど抑えきれない熱で頭まで浮かされ始めた気がした。

 というか、むしろ全身が熱い……あれ、これのぼせそう?

「……出よう」

 急いでザバっとお湯からあがる。このまま倒れたりなんかしたら今度は私が全裸女になるじゃない。それだけは避けたい。

 というわけで早々に浴室から出ることにした。
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