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事情④

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 気づけば外は陽が暮れ始め、淡い水色の雲に橙が染みていた。私の週末のアイスは思いがけず小旅行に変わってしまった。

 でもこれはこれでいいかな、と考え始めたころ、フェルクスさんが「じゃあ」と口を開く。

「本来の目的に戻ろうか。地図は地域別に用意した方が...」
「まだ一つ残ってますよね。私を婚約者だと紹介したこと」
「……」

 ローテーブルの上に広げた紙類。その一枚に手を伸ばした彼が動きを止める。

 そう、もう一つ大きな問題が残ってる。私の言葉にフェルクスさんはこちらを見ることなく口を開いた。

「あれは…誤った行動だと思っている。訂正なら後日おこなうつもりだ」
「けど、あの方の言動を見る限り、しばらくその通りにしておくべきだと思いますが…どうですか?」

 私の提案に顔を上げて、でも眉をひそめて視線をそらす。絞り出すように言った。

「……そういう……わけにはいかないんだ」
「必要性は感じてるんですね」
「っ! 君をこれ以上、巻き込むことはできない」

 こちらを見る彼の瞳は言葉と裏腹に不安げに揺れていた。ここまで来たら、乗りかかった船かなと思い始めた。

 小さく首を振って、安心させるように口角を上げる。

「お気遣いは嬉しいですが、これはそういう話じゃありません。私と契約しませんか?」
「契約?」
「ええ。私を仮の婚約者にするかわりに物資の提供をお願いしたいんです。すでにお話しした通り、着の身着のままこの国に来たので何も持っていないんです」
「……なるほど」

 でも直後、迷ったように「いや、しかし」と続ける。

「君は客人として連れてきた。宿ならここに泊まればいい。いくらいてくれても構わない。もとよりそのつもりで連れてきたんだ。なにか入り用の物があれば邸の者に言ってくれ。全て用意させる」
「その対価に婚約者のフリをさせて欲しいんです」
「対価なんていらないよ」
「それだと私はただ飼い慣らされるだけじゃないですか」
「そんなつもりは……」
「対等であるなら契約しましょう。期間はとりあえず一年。細かい条件は要相談で。いかがですか?」

 じっと訴えるように見つめる。しばらくして根負けした様子で「……わかった」と頷いた。
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