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事情②

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「……それが理由のひとつとも言える」
「…なるほど」

 小一時間くらいだろうか。フェルクスさんの口は止まらなかった。まず、この国の歴史から語られた。訪問者が親しいか親しくないか、それだけ知りたかっただけなのにそもそもこの国は~から始まった。

 もうだいぶ前半の話が薄れてしまったけど要はことを荒立てたくない・・・・・・・・・・事情があったということらしい。

 もともと王国の騎士に爵位はなかった。貴族と一線を画す存在だったから。互いの領域は侵さない、そんな暗黙の了解すらあった。

 だけど雲行きが変わったのは少し前のこと。前々から爵位の授与基準には様々意見があったものの、長く続いた歴史から変えることが憚られていた。

 ただ、あるとき突然一部の騎士へ『騎士爵』が王家より与えられた。理由は国境沿いの魔物討伐に関する功績、だそうだけど、寝耳に水といった感じで皆戸惑ったみたい。辞退しようにもその後から王様が公に出てこられなくなったから半ば強制的に受け入れさせられた。噂だと病だなんて言われているものの真偽はわからない。

 けど一番困ってしまったのは騎士爵を授けられた方々
。もとは騎士と貴族は一線を引いた付き合いをしていたって話だけど、その実、野蛮だと嫌煙されていた部分もあったらしい。

 それが爵位を得た途端、手のひら返し。婚姻相手に望むようになった、ということ。

「いずれはまた元の体制に戻すよう打診している。だが今の状態で諍いが出来てしまえば元に戻ったときにも遺恨が残る。それだけは避けたいんだ」
「でも、そのせいでお嫁さん候補が増えて苦労しているんですよね」
「そうだな。ちょうど上級貴族の数が減っていると聞いてはいたんだ。取り潰し、没落、婚姻による後継者不足……。このままでは階級制度そのものの存続が危ぶまれる。かといって血筋を重視する彼らが平民を入れるのは抵抗があったのだろう」

 そこで目を付けられてしまったのが今回の騒動の一番の原因ってことみたい。

「つまり、品薄だった市場に突然良品が投入されたってことですかね」
「ん? いや……どうだろ。分かりやすいけど商品に例えられるのはちょっと」

 困ったように眉根を寄せる。自分なりに解釈したつもりだったけど表現として複雑だったみたい。でも、とにかくそんな状況なら取り合いになるのも納得してしまう。

 特に自分の好みの人がいれば強行手段に出てしまうのも頷ける。素直に「ごめんなさい」と返して続けた。

「とりあえず今の状況が想定外だということは理解しました」
「分かってくれて嬉しいよ。後継者に悩む気持ちは私も分かる。彼等の必死さも当然だと思うんだ。多少、強引な手を取らざるを得ないことも理解してるつもりだ」

 多少、と聞きながら、でも、と思ってしまう。さっきのはやり過ぎだと思う。正直、異常な域だと言っても過言ではない。

 これが麻痺・・ってことかな。

 ついでに言うと、彼は爵位のせいだと思ってるみたいだけどたぶん違う。ちらっと視線を向ければフェルクスさんがふと、手元の書類に目を落としていた。ゆっくりと金色の髪が頬に流れ落ちる。このルックスも原因のひとつじゃないかな。

 見ていたら彼は小さく息を吐いて、静かに長い睫毛を伏せた。

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