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しおりを挟む「うわっ」
飛びついてくる何かに驚くリューズ。勢い余って尻餅をついて、でもそこをさらに相手が覆いかぶさってくる。それは人の感触にも似ていて咄嗟に腕を掴んで確かめた。
「ちょっ、なに!!」
距離を作って確認した相手は淡く輝く青い髪の女の子。しかも何故か濡れていて何も身に着けていない全裸の状態だった。リューズは先ほどと違う驚きとともに後ろに下がる。
「うわぁっ!」
「な、なに?! どうしたの!?」
「え?! いや! 違う! なんでもない!」
「え? ん?」
声を聞きつけてアリアが駆け寄ってくる。リューズは急いでその少女に自身の上着をかける。そして慌てて背に押し込め、アリアが覗き込んでくるのを身を挺して隠した。
だが、邪魔だと言わんばかりに押しのけられて少女を見られてしまう。やましいことは何一つないものの、リューズは気まずそうに言い訳を並べる。
「急にこの子が現れたわけで! 不可抗力っていうか……べ、別に見てないけどさ!」
「わかったから、ちょっとリューズどいて。ねえ、あなたどこから来たの? ケガはない?」
アリアは彼女のそばに寄って左右から見る。パッと見たところ怪我があるようには見えなかった。それからゆっくりと雑にかけられていた上着を正して前を閉じる。アリアが手を出すと少女がおずおずと手を重ねた。
「立てる?」
「……」
返事はないものの、見つめてくる瞳を肯定と取って、そっと支えながら立ち上がる。立ち上がるとリューズの上着だけでは下半身が隠れきれていないのがわかる。彼女は予備で持ってきたカーディガンを腰に巻いてあげた。
けれど謎の少女は不思議そうに自身の体を見る。その様子を見ていたアリアは「もしかして」と言う。
「ご新規さん? まだゲームに慣れてないのかな? 名前は言える?」
「ぅあ…」
「?」
「声が出ないの? 私よりひどいバグ? まさか敵じゃないよね?」
「それはないと思うけど」
二人のそばで、少女は口をパクパクしたり、歪めたりして声を出そうとする。アリアが「そうだよね」とリューズに答え、手伝うように「あーいー」と動き方を教えた。
しばらくして少女は「な、まえ…」と口に出す。見ていたリューズが間に入る。
「全然馴染まないね。まさかエミュレーターでも使ってる?」
「なにそれ」
「簡単に言うと別の媒体をFBCの代わりに使ってログインしてるってこと。ここの運営は許可してなかったと思うから違法になるかな。中途半端なキャラ設定はそのせいかも」
「じゃあ正規品使えばいいの?」
「そりゃあね。でもこの子はもうログインしてるし、キャラ作っちゃったから無理じゃない?」
「そう」
二人がそんなやりとりをしている中、少女がアリアの手を引く。視線を向けると少女が小さく口を動かした。
「なま、え…」
「うん? 名前、教えてくれるの?」
頷く少女がゆっくりと言葉を形作っていく。
「ふぁ…う…ら…」
「ファウラ?」
「ファウラっていうの?」
リューズとアリアがほとんど同時に言う。少女はぎこちなく頷いた。アリアが安心させるようにニコッと笑って両手を握る。
「ファウラね。私はアリア、あーりーあ。言える?」
「ありあ」
「そうよ。こっちはリューズ」
「リュー…ズ」
「そうそう。上手ね」
見た目の歳は二人ともそう変わらないのに、どこかお姉さんのような雰囲気を出している。アリアはファウラの背に手を添えてリューズに言った。
「とにかくこんな格好でこんなところにいるのは危険じゃない? いったん街に戻ろうよ」
「そうだけど戻る道が……ん。いけそう?」
マップを表示させたリューズが何かに気づく。ちょうど少女がいた付近に転移マークが現れていた。これなら帰れる、と彼が続ける。
「たぶん、この迷宮のラスボスがこのエリアなのかも。だから転移マークが出現したとか?」
「そういえばリューズは一回攻略したんじゃなかったっけ?」
「ん? ああ。ここはさ、ローグライク寄りでダンジョンがランダム生成されるんだよ」
「ランダム? ボスの場所も?」
「そ。だから最初二手分かれてる道も確認しに行っただろ」
「そういうことね。てっきり攻略したって方が嘘なのかと思ってた」
そうアリアがこぼすと、驚いたようにリューズが声を上げる。
「え、そんな風に見られてたの? 俺」
「いやまあ……そういうのってよくあるじゃない?」
「いやいや、ないだろ。てか、嘘つきだと思われてたってことだよね?」
「だから勘違いもあるかなって」
「今めっちゃ嘘って言ってたじゃん」
「そんなことないって! ほら、さっさといこ。早くこの子、街に連れていかないと」
そそくさと少女の背を押してアリアが歩き出す。「心外なんだけど!」と不満げにしていたリューズだが、ファウラに話しかけるアリアが聞く耳持たないとみると仕方がないと諦める。それから何気なく索敵スキルを展開して「結局さ」と呟いた。
「ここのボスはどこに行ったんだろうな」
「私たちがショートカットしちゃって準備が出来てなかったとか?」
「戦う準備?」
「そう」
「そんなまさか。他の雑魚もいないんだぜ?」
「それは知らないけど。いないならいいじゃない。それより転移ってどうやるの?」
「ああ、近づくと転移マークが地面に表示されるから…ほら、そこ」
「このピンクのところ?」
「そ。全員乗れば…っていや、無理か。起動するのにはさ」
「乗ったよ」
「だから起動するのには…っ! なん」
何かを訴えようとするリューズの言葉を遮るように地面が輝き始める。彼の慌てた声を最後に三人の姿は線のような色素を残して消えていった。
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