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突然地面が崩れて、二人は重力に逆らえずそのまま落ちていく。
「っ!!!」
「ア、アリア!!」
かろうじてリューズが掴んだアリアの腕を手繰り寄せ、腰を抱いて叫んだ。
「真下に風魔法!」
「でも衝撃消せない!」
「いいから!」
「~~~! ぶ、防飄風!」
激しい風の塊が壁になる寸前、リューズがリボルバー型の魔銃を喚び出してそれを狙う。撃ち出された青い光の球がぶつかって、アリアが驚く間もなくクッと反動で体が浮いた。
でもそれも一瞬。また落下していく。耳元でもう一度!、と聞こえた。彼女は言われるままに魔法を放つ。それをまたリューズが撃って落下の速度を緩めていく。地面が見える頃に武器を消して選択したアイテムの革袋を投げた。
地面に触れるや否や【スライム風マット】と薄く白い文字で表示される。直後それがポヨンっとトランポリンほどの大きさに膨らむ。追うように二人がその上に落下し跳ね上がる。突然のことに受け身を取れなかった二人が、ドシンッと地面にぶつかり転がった。
「…うぐっ」
「ぐえ」
地面に手をつき体を起こしてリューズが「いった…」と呟き周囲を見渡す。だけど松明一つない真っ暗な空間だった。なにも見えない。ひとまず彼は腰のランプを点灯させる。ポっとその周りが明るくなった。すると、ちょうどスライム風マットが溶けていくのが見えた。彼は頭を抱えて小声で悲鳴を上げる。
「なぁあああ! う、嘘だろ?! 俺のスライム…高かったのに」
「スライム風マットってアイテム名出てたね。助かったよ」
「うぅ……他人事だと思って」
「また買えばいいじゃない」
「また買えばって……いくらしたと思ってんの?」
「いくら?」
「それなり……あー、スライムの核集め直しかよぉ~」
「核? まあいいや。それよりこれ、怪しくない?」
「特別な材料なの。レア素材でさ、街の工房に預けて作成してもらえるんだけど…って、ん?」
リューズがアリアの視線を追う。ランプの明かりに照らされる壁。周りはどこを見ても岩ばかりの中で不自然に濃い藍色をしている。サイズは手の平より大きい。隣に並んで、彼女と同じようにいろいろな角度からその壁を眺め始めた。
ざっと見ても取っ手や割れ目のようなものは見当たらない。しばらくしてその藍色の部分に手を添えたアリアが「ねえ」と声をかける。
「やっちゃう?」
「なにを?」
「開けるってこと」
「どういう……ってそういうことか。いや、ダメだろ」
「なんで?」
「なんでって、さっきの衝撃の原因がわからない以上、騒がしくするのは得策じゃないってこと。とりあえずもう少し周り見てみようぜ」
「えぇ~…」
不満そうに口をとがらせながらも歩き始めるリューズにしぶしぶついていく。彼は松明が機能していないゴツゴツした通路を、自身のランプだけを頼りに進んでいく。途中、索敵スキルを展開しながら様子を窺う。隣で「衝撃が起きた原因の方向ってわかるの?」と聞いてくるアリアに彼は「ああ」と返した。
「落ちる前に距離を計っておいた。地面が割れた原因はこの先にあると思うよ」
「こういうのってよくあること?」
「いや」
軽く首を横に振ってランプを前方にあてる。マップを開いて位置の確認をしていく。ある程度目星がついたのか、画面を消して歩き始めた。
「こういうのは初めてだよ。ボス戦に誰かが乱入するくらいならありそうだけど、ダンジョン自体が壊れるなんて聞いたことない。ましてや下の階に強制移動なんて普通じゃあり得ない」
「そうなんだ」
「うん。だってさ、こんなに一気に下の階に送られるとか低レベルじゃキツイだろ?」
「たしかにね。じゃあイレギュラーってことなんだ」
「イレギュラーっていうか…お、もうすぐだ」
リューズの言う通り、先の方に薄明りが見える。アリアが駆けだした。それを慌てて引き留める。
「おい! いきなり行くな」
「あ、ごめん。つい」
「俺が先に行く。アリアは入口で待ってて」
「わかった」
頷く彼女を置いて、リューズが警戒しながら大きな空洞の中に入っていく。上の階のボス部屋と同じように石英の結晶がいたるところにあるが、松明はついていない。このエリアを訪れたプレイヤーはいないという証だった。
もしかしたらまだボスがいるかもしれない──かすめた考えを振り切るように首を振る。
とにかく原因を探ろうと細かくランプを当てていく。だが天井を崩壊させるほどの異変はないように思える。一度アリアの元に戻ろう。そう決めたリューズの視界に淡い光がちらりとかすめる。
直前まで何もなかったはずの中央部分が光っている。それは鼓動のように光が弱まったり強まったりしていた。ふと、真ん中に影が見えているのに気づく。……何かがいる、とリューズが喉を鳴らした。
「……」
一度迷ったものの彼は、武器を構えて恐る恐る近づいていく。間近に迫ってもその謎の物体は身動き一つしない。つるりとした淡い光で楕円型。繭のようにも卵のようにも見える。大きさはリューズの半分ほど。彼は武器を再度構え直してさらに距離を詰める。持っているアサルトライフル型の魔銃の先でつつこうとした瞬間、その得体の知れない物体がパンッと弾けた。
「?!!」
リューズが驚く間もなく、中の生き物がガバッと飛び掛かってくる。咄嗟に防ごうとしたものの上手く行かず、勢いに押されて尻餅をついた。
「っ!!!」
「ア、アリア!!」
かろうじてリューズが掴んだアリアの腕を手繰り寄せ、腰を抱いて叫んだ。
「真下に風魔法!」
「でも衝撃消せない!」
「いいから!」
「~~~! ぶ、防飄風!」
激しい風の塊が壁になる寸前、リューズがリボルバー型の魔銃を喚び出してそれを狙う。撃ち出された青い光の球がぶつかって、アリアが驚く間もなくクッと反動で体が浮いた。
でもそれも一瞬。また落下していく。耳元でもう一度!、と聞こえた。彼女は言われるままに魔法を放つ。それをまたリューズが撃って落下の速度を緩めていく。地面が見える頃に武器を消して選択したアイテムの革袋を投げた。
地面に触れるや否や【スライム風マット】と薄く白い文字で表示される。直後それがポヨンっとトランポリンほどの大きさに膨らむ。追うように二人がその上に落下し跳ね上がる。突然のことに受け身を取れなかった二人が、ドシンッと地面にぶつかり転がった。
「…うぐっ」
「ぐえ」
地面に手をつき体を起こしてリューズが「いった…」と呟き周囲を見渡す。だけど松明一つない真っ暗な空間だった。なにも見えない。ひとまず彼は腰のランプを点灯させる。ポっとその周りが明るくなった。すると、ちょうどスライム風マットが溶けていくのが見えた。彼は頭を抱えて小声で悲鳴を上げる。
「なぁあああ! う、嘘だろ?! 俺のスライム…高かったのに」
「スライム風マットってアイテム名出てたね。助かったよ」
「うぅ……他人事だと思って」
「また買えばいいじゃない」
「また買えばって……いくらしたと思ってんの?」
「いくら?」
「それなり……あー、スライムの核集め直しかよぉ~」
「核? まあいいや。それよりこれ、怪しくない?」
「特別な材料なの。レア素材でさ、街の工房に預けて作成してもらえるんだけど…って、ん?」
リューズがアリアの視線を追う。ランプの明かりに照らされる壁。周りはどこを見ても岩ばかりの中で不自然に濃い藍色をしている。サイズは手の平より大きい。隣に並んで、彼女と同じようにいろいろな角度からその壁を眺め始めた。
ざっと見ても取っ手や割れ目のようなものは見当たらない。しばらくしてその藍色の部分に手を添えたアリアが「ねえ」と声をかける。
「やっちゃう?」
「なにを?」
「開けるってこと」
「どういう……ってそういうことか。いや、ダメだろ」
「なんで?」
「なんでって、さっきの衝撃の原因がわからない以上、騒がしくするのは得策じゃないってこと。とりあえずもう少し周り見てみようぜ」
「えぇ~…」
不満そうに口をとがらせながらも歩き始めるリューズにしぶしぶついていく。彼は松明が機能していないゴツゴツした通路を、自身のランプだけを頼りに進んでいく。途中、索敵スキルを展開しながら様子を窺う。隣で「衝撃が起きた原因の方向ってわかるの?」と聞いてくるアリアに彼は「ああ」と返した。
「落ちる前に距離を計っておいた。地面が割れた原因はこの先にあると思うよ」
「こういうのってよくあること?」
「いや」
軽く首を横に振ってランプを前方にあてる。マップを開いて位置の確認をしていく。ある程度目星がついたのか、画面を消して歩き始めた。
「こういうのは初めてだよ。ボス戦に誰かが乱入するくらいならありそうだけど、ダンジョン自体が壊れるなんて聞いたことない。ましてや下の階に強制移動なんて普通じゃあり得ない」
「そうなんだ」
「うん。だってさ、こんなに一気に下の階に送られるとか低レベルじゃキツイだろ?」
「たしかにね。じゃあイレギュラーってことなんだ」
「イレギュラーっていうか…お、もうすぐだ」
リューズの言う通り、先の方に薄明りが見える。アリアが駆けだした。それを慌てて引き留める。
「おい! いきなり行くな」
「あ、ごめん。つい」
「俺が先に行く。アリアは入口で待ってて」
「わかった」
頷く彼女を置いて、リューズが警戒しながら大きな空洞の中に入っていく。上の階のボス部屋と同じように石英の結晶がいたるところにあるが、松明はついていない。このエリアを訪れたプレイヤーはいないという証だった。
もしかしたらまだボスがいるかもしれない──かすめた考えを振り切るように首を振る。
とにかく原因を探ろうと細かくランプを当てていく。だが天井を崩壊させるほどの異変はないように思える。一度アリアの元に戻ろう。そう決めたリューズの視界に淡い光がちらりとかすめる。
直前まで何もなかったはずの中央部分が光っている。それは鼓動のように光が弱まったり強まったりしていた。ふと、真ん中に影が見えているのに気づく。……何かがいる、とリューズが喉を鳴らした。
「……」
一度迷ったものの彼は、武器を構えて恐る恐る近づいていく。間近に迫ってもその謎の物体は身動き一つしない。つるりとした淡い光で楕円型。繭のようにも卵のようにも見える。大きさはリューズの半分ほど。彼は武器を再度構え直してさらに距離を詰める。持っているアサルトライフル型の魔銃の先でつつこうとした瞬間、その得体の知れない物体がパンッと弾けた。
「?!!」
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