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モクエンの悲鳴が止んでリューズが耳から手を離す。逃げるように伸ばしていた蔓をシュルシュルとしまっていくのを見ながら、彼も自分の体を見た。
「今のところ不具合もなさそうだ。アリアの技は問題なく発動できる。あとは俺の方か」
『じゃあ、遠距離で行く?』
「ああ。……いや……無理だ!」
『え?』
リューズが「大技が来る!」と身を翻し駆け出す。背後ではモクエンが蔓を完全にしまいきるとグッと小さく縮こまっていた。知らぬ間に周囲に、粉塵のような淡く光る黄色い花粉が舞っている。それらが輝き始める。逃げきれないと判断したリューズは咄嗟に体を捻り、前方に両手を翳した。
「防飄風!」
中央でモクエンがカッと光り、反応した粉塵が爆発していく。アリアの姿をしたリューズが唱えた風の魔法で、強風が壁の形をつくり衝撃を緩和した。砂埃の舞う中、リューズが間髪入れず走り出す。大技を使ったあとは隙が大きくなる──その隙を突くために。
「強き炎を纏いて気高き一撃を! フォティ…っ!」
追撃に炎の拳撃を選ぶ。けれど最後まで詠唱する前に、細い蔓が彼の足首を掴んだ。よけることもできず巻き付くそれに足を取られる。グイッとひかれて持ち上げられていく。
「うわ」
『リューズ!?』
「だ、大丈夫!」
逆さまのまま高く持ち上げられる。その先はモクエンの頭上。リューズが「ちょうどいい」と呟いた。本来の持ち武器である赤いライフル型の魔銃を構える。モクエンの頭上に照準を合わせると、その中心から線が入っていった。
それがゆっくり左右へ開いていく。まるで大きな口のように内部には牙がびっしりと生えていた。
「うゎ…ぐっ!」
もわぁ~っ吐き出される臭気に鼻をつまむ。瞬間、スルスルッと足首の蔓が抜けていく感覚がした。
「あっ!」
支えのなくなった体がその大きな口の中へ落ちていく。彼はフッとライフルをしまった。アリアが驚く。
『え、なんで??』
「距離的にダメージが出ない」
『でもそれじゃあ無抵抗に』
「ならないよ、この体なら!」
スローモーションと同じ感覚で完全に口の中へ落ちるその刹那、彼は体をひねり拳に力を籠めた。
「強き炎を纏いて気高き一撃を! 紅炎拳!」
瞬間、宙て描かれ広がっていく赤い線。アリアの文様が浮かぶとその線がボワッと燃え上がる。さらに拳に押し込められて勢いのある炎がモクエンを襲った。
「──!!」
声にならない断末魔。耳を貫く叫びに耳をふさぐ。モクエンが霧散し体が地面に追突する寸前、衝撃に備えて丸くなる。だが、覚悟したほどの痛みはなかった。
ポヒュンと空気の抜ける音がして、ドテッと地面に転がる。
「いった」
「わ! …っ!」
リューズが顔を上げると傍にアリアがいた。彼女は打ちつけた腰をさすっている。目が合うと「あれ」と首をかしげた。
「戻った?」
「みたいだな」
「なんで?」
「わからん」
「何もなかったよね?」
「うん。持続時間でもあったのかもな。でもとりあえず」
リューズが片手を顔の高さまで上げて、手の平をアリアに向ける。彼女が不思議そうにした。
「うん?」
「ほら…あれ」
「あれ?」
「いや、ノリでやっただけで……」
「あ!」
気づいたアリアが、パンッとリューズの手に手の平で軽く叩く。続けてニッと笑った。
「こういうのいいね、協力したって感じ」
「だな。じゃあ、そろそろ戻っ──!」
「うわ」
突然、ドンっと響き地面が下から打ちつかれ、二人が一瞬跳ねる。ハッと二人が振り返った時には地面に亀裂が走っていた。すぐにリューズが叫ぶ。
「外に!」
慌てて立ち上がり駆けだすものの、崩れる速度にはかなわない。逃げ切ることは無理だ、と判断したリューズが咄嗟にアリアの手を掴んだ。
「アリア!」
「リュー…!!?」
ふっと足元の気配が消える。二人が息をのんだ。
「今のところ不具合もなさそうだ。アリアの技は問題なく発動できる。あとは俺の方か」
『じゃあ、遠距離で行く?』
「ああ。……いや……無理だ!」
『え?』
リューズが「大技が来る!」と身を翻し駆け出す。背後ではモクエンが蔓を完全にしまいきるとグッと小さく縮こまっていた。知らぬ間に周囲に、粉塵のような淡く光る黄色い花粉が舞っている。それらが輝き始める。逃げきれないと判断したリューズは咄嗟に体を捻り、前方に両手を翳した。
「防飄風!」
中央でモクエンがカッと光り、反応した粉塵が爆発していく。アリアの姿をしたリューズが唱えた風の魔法で、強風が壁の形をつくり衝撃を緩和した。砂埃の舞う中、リューズが間髪入れず走り出す。大技を使ったあとは隙が大きくなる──その隙を突くために。
「強き炎を纏いて気高き一撃を! フォティ…っ!」
追撃に炎の拳撃を選ぶ。けれど最後まで詠唱する前に、細い蔓が彼の足首を掴んだ。よけることもできず巻き付くそれに足を取られる。グイッとひかれて持ち上げられていく。
「うわ」
『リューズ!?』
「だ、大丈夫!」
逆さまのまま高く持ち上げられる。その先はモクエンの頭上。リューズが「ちょうどいい」と呟いた。本来の持ち武器である赤いライフル型の魔銃を構える。モクエンの頭上に照準を合わせると、その中心から線が入っていった。
それがゆっくり左右へ開いていく。まるで大きな口のように内部には牙がびっしりと生えていた。
「うゎ…ぐっ!」
もわぁ~っ吐き出される臭気に鼻をつまむ。瞬間、スルスルッと足首の蔓が抜けていく感覚がした。
「あっ!」
支えのなくなった体がその大きな口の中へ落ちていく。彼はフッとライフルをしまった。アリアが驚く。
『え、なんで??』
「距離的にダメージが出ない」
『でもそれじゃあ無抵抗に』
「ならないよ、この体なら!」
スローモーションと同じ感覚で完全に口の中へ落ちるその刹那、彼は体をひねり拳に力を籠めた。
「強き炎を纏いて気高き一撃を! 紅炎拳!」
瞬間、宙て描かれ広がっていく赤い線。アリアの文様が浮かぶとその線がボワッと燃え上がる。さらに拳に押し込められて勢いのある炎がモクエンを襲った。
「──!!」
声にならない断末魔。耳を貫く叫びに耳をふさぐ。モクエンが霧散し体が地面に追突する寸前、衝撃に備えて丸くなる。だが、覚悟したほどの痛みはなかった。
ポヒュンと空気の抜ける音がして、ドテッと地面に転がる。
「いった」
「わ! …っ!」
リューズが顔を上げると傍にアリアがいた。彼女は打ちつけた腰をさすっている。目が合うと「あれ」と首をかしげた。
「戻った?」
「みたいだな」
「なんで?」
「わからん」
「何もなかったよね?」
「うん。持続時間でもあったのかもな。でもとりあえず」
リューズが片手を顔の高さまで上げて、手の平をアリアに向ける。彼女が不思議そうにした。
「うん?」
「ほら…あれ」
「あれ?」
「いや、ノリでやっただけで……」
「あ!」
気づいたアリアが、パンッとリューズの手に手の平で軽く叩く。続けてニッと笑った。
「こういうのいいね、協力したって感じ」
「だな。じゃあ、そろそろ戻っ──!」
「うわ」
突然、ドンっと響き地面が下から打ちつかれ、二人が一瞬跳ねる。ハッと二人が振り返った時には地面に亀裂が走っていた。すぐにリューズが叫ぶ。
「外に!」
慌てて立ち上がり駆けだすものの、崩れる速度にはかなわない。逃げ切ることは無理だ、と判断したリューズが咄嗟にアリアの手を掴んだ。
「アリア!」
「リュー…!!?」
ふっと足元の気配が消える。二人が息をのんだ。
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