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しおりを挟む先日の出会いから数日経ったある日、リューズとアリアは町外れの森の中にいた。見上げるほどの大木の前でアリアが首をかしげる。
「ここが初心者用の迷宮なの?」
一見するとただの植物にしか見えない。迷宮と言われたものの、付近には入口も建物のようなものもない。不思議そうに眺める彼女へリューズが「そうだよ」と答える。
「ここは初級でも難易度の高いダンジョンなんだ。見つけづらいってのもあって人はあまり来ない。穴場って感じだな」
「難易度高いって…私まだレベル低いんだけど」
ゲームを始めてから何度か顔を合わせていた二人。だいたいいつも町中と周辺の狩り場だけを行き来し、操作説明をしていた。細々とモンスターを狩ってはいたものの大して経験値は詰んでいない。
ゲームに疎いアリアもさすがに尻込みする。
そんな彼女を安心させるようにリューズが先に歩き出した。彼女も渋々追いかける。
「大丈夫だって。俺もこの間来たばかりだけど、特に困るようなこともなかったよ」
「この間って…そういえばリューズのレベルは?」
ちょっと前にランキング上位者と戦っていたのだから当然、高レベルだと思っていた。簡単な戦闘指導も受けているし、それほど低いはずがない、とアリアが聞く。その疑問にリューズはさらっと返した。
「まだ20だよ」
「20!?」
自分とさほど変わらないのに闘技場では軽くあしらって~、などと言っていたのか、と思うと驚きを通りこして呆れてしまう。アリアは気を取り直すようにあんぐり開けていた口を閉じて、咳払いした。
「ま、まあ。このゲーム、別にレベルが全てじゃないしね。狙撃の腕は高いんでしょ? 今まで見たことないけど」
「どうかな。普通?」
「ほんとあの時は運がよかったのね」
戦闘についての理解が深まってきたからこそ、レベル差が大きいときの勝敗もわかるようになってきた。アリアはここ最近で取り入れた知識をフル動員してひとり考察する。
「…きっとステータスが元の身体能力を引き継ぐ余力のおかげかしら。後半にギミックが反応したのも一因よね。となるとあの大男は私より身体能力が低い…?」
「俺らはバグで二人分だったし、向こうも油断してたってのはあるよ。本気の欠片も出てなかったんじゃない? てかそれ、この間俺が言ったことだけどね」
「そうだった?」
「そうだった。ほら、入口が開くよ」
話しているうちに気づけば大木のすぐそばにいた。リューズが手をかざすと青い文様が浮かび上がる。闘技場でも見たそれに、アリアは首を傾げた。
「そういえばその魔方陣みたいなの、なに?」
「ん? ああ、ただの個人を識別するマークだよ。お宝とか入手しても誰が取ったかわからなくなるだろ? それを判別するためのスタンプみたいなものかな」
「ふーん」
「ちなみにアリアのは赤だよな。何度か見た」
「え? そうなの?」
「え、何度か出てるだろ」
「見たことない」
「気にしてなかっただけだろ。まあいいや、このあたりに手をかざしてみなよ。見れるから」
「へー」
言われた通りに大木の幹へ手を当ててみる。すると覚えのある感覚がして手のひらが熱くなる。瞬間、パッと大きく花開くように赤い円形の文様が浮かぶ。蔓が絡み合う中に花と宝石、中央に拳の絵のデザイン。あっ、と息をのむのと同時に消え大木が震える。
「…っ!」
ゴゴゴと響く地面にアリアが驚いて後ずさった。リューズは反対に前に出る。自身のステータス画面を見ながら操作をしつつ言う。
「ここはさ、深緑の迷宮って呼ばれてるんだ」
「森だから?」
「まあ、それもあると思うけど。この世界にある48のダンジョンは色分けされてて、赤・青・緑・その他の四色の区画で濃淡によって難易度分けされてる」
「つまりここは緑系統でも濃いから難しいってこと」
「察しがいいな。そう、どの色でも明るい色の方が簡単ってことだな」
「じゃあ、一番難しいのは」
「漆黒だって聞いたよ。開いたな。行こうか」
彼の言う通り、大木が真っ二つに割れて大きなアーチをつくるようにトンネルができている。中は真っ黒で奥が見えない。入るのを躊躇うアリアを置いて、リューズは進んでいく。近づくと左右の松明がボッと灯った。
「明かりが」
「便利だよな。一応ランプとかも街で売ってるから必要なら買っておきなよ」
「うん。あとで見とく」
後を追って隣に並ぶ。入口から離れると次第に暗さが際立つ。ざっざっと二人の足音だけが聞こえ始めると話題に詰まる。アリアが悩みながら口を開く間際、リューズが足を止めた。
「…ここからエンカウントするようになるから」
「敵が出るのね」
「そ。準備はいい?」
「もちろん」
むしろ無言が続いて気まずくなるよりマシだ、と一瞬思ったことを押し込めて、きゅっと握った拳を胸の前で合わせて軽く叩く。
「前衛はバッチリ任せて」
「心強いな」
そう言って二人は奥へと消えていった。
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