血術使いの当主様

重陽 菊花

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深雪の決意

柊家の当主就任と家業再開の宣言

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【六月十八日】
 目が覚めると自室で寝ていて時刻は夜中の二時だった、車の中で寝たまま漆蛇ウルチが布団に運んでくれたんだろうが漆蛇が居ない、黒いワンピースのまま化粧も落とさずに寝てしまっていた。
この年になると化粧をしたまま寝るなんて許されない、肌の治安が悪くなる。
風呂に入ろうと思い着換え類を持って風呂場に行き、いつも通り風呂を済ませて着替えて自室に戻ると襖が龍神の絵柄になっていた。
今此処に入ると寝かせて貰えないし面倒くさいと思い人間三人の部屋に行き襖を開けて一番奥に双子のオネエ様が寝ていて壱捨駒ヒシャコマが手前に寝ていた、この三人とは間違いも何も無いし襲撃に遭っても一番安全なオネエ様の間に壱捨駒の掛布団を奪い横になると暖かくてそのまま寝てしまった。
 朝、弐無月ニナツキ参無月ミナツキの悲鳴で目が覚めた。
「何で貴女が此処ココで寝てるの!」
「自分の部屋はどうしたのよ!」
「俺の布団が無いのは深雪ちゃんが使ってたのね」
「夜中に起きて風呂に入ってる間に自室の襖が龍神の柄になってたから…早く寝たくて此処で寝た、おはよう」
「「おはようじゃないわよ!」」
「深雪ちゃんのせいで風引いちゃうよ」
「そもそも女の子が男の部屋で寝るってどういう神経してるのよ!」
「何かあったらどうするのよ!」
「燃やせば良くない?そもそも私を襲う勇気有る?」
「「「無い」」」
「なら良いじゃん」
掛け時計を見るとまだ朝の六時だった。
「昨日は寝るのが遅かったから九時まで寝るから朝ごはんはいらないから双子ちゃんに伝えといて、おやすみ」と寝たふりを決め込んだ。
「「おやすみじゃないわよ!」」
「…深雪ちゃん」
「血術を使いだしてからねてる時間が増えたわね」
「貧血とかで起きてられないのかしら?」
「此処で寝られても困るから漆蛇を呼びましょう」
「壱捨駒呼んで来て」
「三分経っても戻って来なかったら死んたと思って」
「骨くらいは拾ってあげるわよ」
「へいへい」と壱捨駒が出て行くと、直ぐにドタドタと大きな足音を立てて漆蛇が来て私を抱き上げて自室に運んでくれて布団に入れてくれた、当たり前の様に抱きついて一緒に寝た。
「深雪ちゃん…九時だよ…起きて」
「昼ごはんまで寝る…漆蛇ギュってして」
「俺の扱いが分かってて…可愛いね、おやすみ」
漆蛇に抱きしめられながら二度寝成功。
「深雪ちゃん…お昼だから起きて」
「おやつの時間まで寝る…漆蛇…またギュってして」
「もう深雪ちゃんは」
ギュっとされながら三度寝成功。
 襖をスパーンと開ける音が聞こえたが気にせず寝ていると弐無月と参無月の足音が枕元まで来た。
「「何時まで寝てるのよ!!」」
「時間いっぱい寝かせて…」
「漆蛇は当主様の目覚ましの役割なのよ」
「一緒に寝こけるなんてあり得ないわ!」
「寝不足の深雪ちゃんが会合中に寝ちゃったり、寝不足で本領発揮出来なくてもいいの?」
「…アンタ最近痛い所を付いて来るわね」
「深雪ちゃんは龍神と霊力と生命力を共有してるから霊力切れにはならないし生命の危機になれば龍神が出てきたり異空間に飛ばしたりして死ぬ事は無いが、血術に使う血は深雪ちゃん自身が作るしか無いから寝るのは仕方が無い事なんだ」
「…だから最近所構わず寝るのね…」
「寝るというより起きてられないんだよ…意識を持っていかれる感じ…支度まで寝かせて…」
「「また寝たわ」」
「…支度まで寝かせてあげよう」
「ありがとう…おやすみ」
 また襖をスパーンと開ける音が聞こえたが気にせず寝ていると弐無月と参無月の足音が枕元まで来た。
「もう時間よ」
「これ以上は持てないわ」
「「寝たふりしない」」
「漆蛇…双子のオネエ様が来たよ…祓おうかな」
「祓って一緒に寝よう」
「「ぶち殺すぞクソ蛇」」
「んだとクソガキ殺すぞ」
「三人ともそんな喧嘩してる余裕は無いから深雪ちゃんを連れて行かないと」
 まともな壱捨駒におぶられて双子ちゃんが待つ部屋に連れて行かれた。
「「おはようございます!!」」
「おはよろおね」
「おはようございます、よろしくお願いしますの略だと思うわ」
「寝ぼすけ当主様をよろしくね」
「「漆蛇さんは深雪ちゃんを支えててください」」
「任せろ」
胡座をかいた漆蛇の脚の間に横向きに座らされ漆蛇に固定されている状態で葵ちゃんが化粧をして菫ちゃんが髪の毛をセットしてくれた。
「これ飲んで」と壱捨駒に鉄分が入ってるストローの刺さった紙パックの飲み物を渡された。
「これ美味しくない」
「我儘言わないの」
「このサプリも飲んで」と弐無月にカプセルを渡され、参無月に水を渡された。
「これ飲んで幼児化して会合欠席していいとか?」
「そんな訳無いでしょう」
「幼児化しても会合に連れて行くわよ」
「会合面倒くさい」
「欠席するか?」
「「欠席させる訳ねぇだろ」」
「寝てたい…漆蛇説得して」
「深雪ちゃんが欠席って言ってんだから欠席で良いだろ」
「欠席できる訳ねぇだろ」
「少しは考えろよクソ蛇」
「どうして三人は仲良く出来ないの?深雪ちゃんも大変だね」
「それな」
「漆蛇さん、深雪様を立ってください」
漆蛇に腕を引っ張られ立ち上がると、漆蛇は双子ちゃんに追い出された。
「今日は白の長襦袢なんだね」
「紫と青のぼかしの振袖に」
「金地の帯に白系の小物」
「凄い龍神の配色感…」
「髪飾りは前回同様に家紋の簪に蝶のつまみ細工の髪飾りです」
手際良く着付けをしてくれた。
「「今日も可愛い!!」」
「草履は帯と同じ生地」
「スマートフォンは帯に挿して」
「懐に入れると気崩れるので気を付けて」
「はぁい」
 襖を開けると居間に男四人と式が待っていた。
「「「主様可愛いです!」」」
「「「漆蛇さんには気を付けてください」」」
「深雪ちゃん可愛いね」と漆蛇が手を握って来た。
「本当に双子ちゃんはセンスが良いわね」
「これからもよろしくね」
「「お任せください!!」」
「そろそろ出る時間だから準備して」
人間三人は黒い五つ紋の着流しに黒い五つ紋の長羽織を入っている。
壱捨駒は墨色の角帯・弐無月は紫の角帯・参無月は青い角帯を締めていて、壱捨駒は後で髪を纏めて、兄弟は各色の化粧をしている。
漆蛇は黒い狩袴に紫の狩衣に烏帽子エボシを被り、式は五つ紋の白いきものを着て黒い帯を締めている、男の子は黒い長髪を後で一本縛りで、女の子は黒髪を桃割れにし、ちんころ髪飾りと小物類は名前の色で揃えて私と同じ家紋の簪と蝶の簪を挿して、帯は立て矢結びをして薄く化粧をして紅をさしている。
「子供達…凄く可愛い…」
「本当に可愛いわねぇ」
「各々の家の反応が楽しみねぇ」
「式って各家で違うの?」
「全然違うわよ」
「この子達の初めの頃の姿とか…綺麗ではないわね」
「常に面を付けてたり、紙を付けてたりと色々よ」
「なるほど…従者は?」
「側近とか優秀だと綺麗なきものを着てるけど下っ端や捨て駒は割とお粗末な格好をしてるわ」
「壱捨駒も汚らしい不衛生な奴だったよな」
「まともな姿になれて良かったわね」
「へいへい、そろそろ出ないと!」
「式の子供達は当主様が呼ぶまで待機ね」
「漆蛇は…まあ良いわ、当主様の着崩れに気お付けてね」
「分かってる」
「…行って来るね…葵ちゃんと菫ちゃんは屋敷をよろしくね」
「そういえば、平井権八ヒライゴンパチは何処に行ったのよ」
「外で待機してる!」
「皆が戻るまで外に居るって!」
「頼もしい…平井権八様々」
「じゃあ行って来るわ」
「よろしくね」
「「お任せください!」」
 五人で屋敷を出ると屋根の上に居る平井権八が手を振っていた、やべぇかっけぇと思いながら手を振り返し駐車場にむかった。
「会合に遅刻する人とかいるの?」
「基本的に居ないわねぇ」
「よっぽどの用事があったら事前に言うわねぇ」
「だって壱捨駒、遅刻したらオネエ様が殺すって」
「「ふふふ…楽に死ねると思うなよ」」
「「怖すぎる…」」
昨日と同じ座席順で座り出発した。
「私と漆蛇は空気だから事前情報とかいらないよね?」
「そうね、いらないわね」
「わかった!おやすみ!」
「「また寝るのかよ」」
「帰ったら貧血に聞く薬調べないと」
「深雪ちゃん…おやすみ」
漆蛇と弐無月が帯が崩れない様に抑えてくれながら寝た。

ーー夢を見ている自覚があるーー
 私は今の姿で屋敷の縁側座り隣には上下黒の狩衣を着て烏帽子を被ってない龍神が座っている。
「深雪は悪い子だね、夜中に会いに行ったのに会ってくれないなんて」
「…すみません…最近睡魔に勝てなくて…」
「そうだね、血の神様と真名を結びたい何て…本当に悪い子だね」
「…本当にすみません」
「深雪に私の目をあげようと思ってね」
「龍神様の目?」
「私の目は便利だからあげる」
「…ありがとうございます」
夜中に会っておけば良かったと後悔している。
「ふふふ…後悔してるんだね、特別に今回はあげるけど、今夜は迎えに行くからね」
「…お待ちしてます…頂いた龍神様の目は外部から見えるのですか?」
「私の目を使っている時は瞳孔が縦に割れて紫か青が出て来る、御三家や上級で分かる程度だから目に気が付かない奴は…此の界隈で生きる価値がないね」
「…龍神様って…優しいのか意地悪なのかわからないですね」
「ふふふ…私は深雪を寵愛しているけど伝わらないのか、残念だな。睡魔を取ってあげたのに」
「すみません…疎くて…ありがとうございます」
「疎い深雪も可愛いね、そろそろ起こされるから一旦お別れだね、今夜ね」
「承知しました」

「深雪ちゃん…深雪ちゃん…起きて」
「おはよう」
「今回は目覚めが良いのね」
「そうだね…頭がスッキリ、夢に龍神が出て来て龍眼リュウガンを貰ったんだけど」四人が黙り込んだ。
「使用時に瞳孔が縦に割れて紫か青がランダムで出て来るらしいんだけど、これが見えるのは御三家と上流位って言われたんだけど見える?」
「「凄く綺麗な青」」
「宝石みたい」
「漆蛇…拗ねないで」と元々繋いでいた左手を強く握るとそっぽを向いていた漆蛇が私の唇の横ににキスをして双子のオネエ様に怒られた。
「取り敢えず挨拶するのは御三家だけでいいわ」
「上級は?」
「実力が格下だから良いのよ」
「御三家も実力は格下だけどね」
「挨拶無しは不味いわね」
「取り敢えず加賀家に挨拶すれば他の二つの家には紹介して貰えるわ」
「それだけで十分よ」
「此処の屋敷は畳の部屋に案内されるから正座をして両手を膝の上に置いて手の甲を見せているだけで良いわ」
「車から降りたら呪詛子達を呼んで」
「わかった」
「車を降りたらアタシ達は勿論漆蛇も敬語を使うのよ、それと当主様の事は主様よ!」
「これは当主様の力関係を証明する場だからアンタが失敗したら当主様の立場が悪くなるの」
「「わかった?返事は?」」
「…わかった」
「当主様の前をアタシと参無月で歩くから当主様は私達の間を着いて来て、漆蛇と壱捨駒は当主様の後ろを歩いて」
「背後からの襲撃を警戒して、その後ろを呪詛子達が男子と女子の一列の二列で歩かせて」
「あの子達なら分かってるから大丈夫だと思うけど」
「「当主様と漆蛇はとにかく本当に喋らないでね」」
「挨拶もアタシ達がするから聞かれた事には簡潔に答えて、頷いて済むなら喋らないで!」
「漆蛇…絶対に言う事は聞いてね、柊家の黒幕は弐無月だから」
「深雪ちゃんの為に従う」
「ありがとう…そういう漆蛇が好き」
「ほら着いたから降りましょう」
「当主様は参無月が車を開けてエスコートするまで降りないでね」
「漆蛇はドアが開いたら降りてね返事は?」
「「はぁい」」
 ドアが開き漆蛇が降りると参無月にエスコートされて車から降りた。
「呪詛子を出して」と耳打ちをされて子供達を呼んだら、スッと出て来た。
言われた通り弐無月と参無月の後ろを着いて行くと漆蛇と壱捨駒が言われた通りに着いて来て、説明をしてないのに子供達は弐無月の言った通りに並んで着いて来た。
駐車場から屋敷までは距離があり広い庭が有るのに誰もいなく遅刻したのでは?と思う程に静かだった。
 弐無月と参無月が先に玄関を上がり参無月にエスコートされて屋敷に入った、屋敷には下足番が居て私達の草履を下駄箱に閉まってくれた。
使用人に通された部屋は上座が三席空いていて、横に並ぶ左側が上流で右側が中流で上流の隣には下級が座り、中級の隣には反社や公安などの外部が座り、当主と外部の人達だけが座布団に座ると参無月が耳打ちしてくれた。
御三家と柊家以外は既に席に着いていた、当主の後ろに従者・式順に後ろに並んで座っている。
下級の家は当主の後ろに座っている人は綺麗なきものを着ているがそれより後の従者や式はボロボロのきものを着ている。
中級も当主と従者は綺麗な格好をして式は年期の入ったきものに独特な白いお面を付けている。
上級は当主も従者も式も綺麗なきものを着ていて式は「鬼」や「目」などの妖怪を表す字が書かれた白い紙を顔に付けている。
他所の家の式を見ると我が家の子供達はとても可愛い、うちの子が一番可愛いと確信した。
私達の席は上座に向かい合う様に入り口に違い下座に用意されていた、私は座布団に座りほぼ横だが一応は後に弐無月と参無月が私を挟む様に座り、飛車駒は弐無月の隣に座り、直ぐ後に漆蛇が座り、子供達は漆蛇の後に二列で並んでいる。
「柊家は一番下なのに遅刻とは恥をしれ」と右側の一番近くの座布団に座った下級のおっさんが怒鳴った。
「あらぁ遅刻してごめんなさいね、格下さん達」と弐無月がその場の全員を敵にした。
「兄さん…格上だとも分からないで軽口を叩く下級さん相手に可愛そうよ」と参無月が援護射撃を撃った。
「お二人共、弱い者いじめは駄目ですよ」と壱捨駒が追い打ちを掛けた、猫被り壱捨駒は二人に並ぶほど怖い。
 そこに御三家が奥の襖から入って来て左に七五三掛シメカケ家・加賀カガ家・東海林ショウジ家と順に座ると、上級・中級・下級・外部もコウベを垂れた。
「本日は加賀家主催の会合にお集まり頂きありがとうございます」とおじ様の隣でおば様が挨拶をした。
「我が加賀家は今月いっぱいで御三家を返上し七月一日から柊家の傘下に入り柊家を御三家とし我々夫婦は隠居して余生を楽しむ」とおじ様が宣言すると、一気に会場がざわめき一気に視線を向けられたが、弐無月と参無月に何が遭っても何が起きても動くな喋るな寝るなと言い付けられていたので斜め下を見てぼーとしている。
「加賀家御当主様、柊家に申したい事が有るのですが此の場をお借りしてもよろしいでしょうか?」と右側の一番近くの座布団に座った下級のおっさんが口を開いた。
「構わない」
「ありがとうございます、そもそも柊家は何故我が家の呪詛子を式にしている」
「橘家の呪詛子って何の事かしら」
「お前達が式にしている後に居るガキの事だ」
「当主様は屋敷に襲撃に来た呪詛子達が余りにも可哀想で式にしたそうよ?見違える程可愛いでしょう?当主様が弟や妹の用に可愛がってるのよ」
「ねぇ?呪詛子は呪詛師の命令が無いと呪詛を唱えに行けないのに、どうやって柊家に来たの?」
「「不思議よねぇ」」
橘家のおっさんが一瞬黙ったが、また口を開いた。
「そもそも何故我が家の呪術師が柊家に居るんだ」
「アタシは元々フリーの呪術師よ、縛りすら結べない没落寸前の下級の家に何時までもいる訳ないじゃない?」
橘家のおっさんは悔しそうに下を向いた、没落寸前だったのか、それは黙るな。
「そもそも何故藤井が生きていて雇った殺し屋と一緒に柊家に居るんだ」と、その隣に居た柳田家のおっさんが口を開いた。
「お久しぶりです、私は貴方の命令で柊家に襲撃に行き殺し屋に殺されましたが慈悲深い当主様が血術の死者蘇生をして血術縛りまでして頂き名付けまでして頂いて、今は柊家の従者をさせて頂いております。今後は柊壱捨駒ヒイラギヒシャコマとお呼びください」
「アタシも自分が殺した男が生きてるのを見て当主様に興味を持ったの、それで壱捨駒と同じ様に、血術縛りをして名付けまでして頂いて、今は柊家の従者をさせて頂いております。今後は柊弐無月ヒイラギニナツキとお呼びください」
「アタシは兄に当主様を紹介して頂き兄と同じく、血術縛りをして名付けまでして頂いて、今は柊家の従者をさせて頂いております。今後は柊参無月ヒイラギミナツキとお呼びください」
三人とも血術縛りネタを全く同じ言葉で言っている、私が寝ている間に考えたんだろうな。
この会話を御三家・上級・中級・下級・外部が聞きながらヒソヒソしている。
「深雪ちゃんも立派な血術使いの柊家の当主になった事が凄く嬉しいよ」
「孫娘の様に可愛がっていた深雪ちゃんの当主宣言の日に立ち会えて嬉しいわ」
ぼーとしているとおじ様とおば様に会話を振られてしまった。
わたくしも幼い頃から可愛がって頂いた加賀家の御夫妻に柊家の当主就任と家業再開の報告が出来て嬉しく思います」
「昨日深雪ちゃんのお宅にお邪魔した際に禍々しい霊力を感じたんだがアレは何だったのかな?」
「はい、わたくしの式の黒蛇の漆蛇ウルチの気配か…守護神の龍神様の気配でしょうか?」
「龍神を守護神に出来る訳無いだろう!」
「嘘を付くな!下級が!」
「誰が口を挟めと言った?下級」とおじ様が言ったが、そういえば壱捨駒と弐無月の話では二つの家は中級じゃなかったっけ?あれ。
「下級の血術ケツジュツ使いのわたくしは龍神様と双方の真名の血術縛り位しか出来ないのですが…橘家様と柳田家様は何が出来るのでしょうか?わたくしはまだまだ若輩者なのでこの界隈の事がわからないのですが」と竜の丸が刻まれている左手の甲をおじ様に見せると周りがざわ付き始めた。
「深雪ちゃんは性格がどんどん雪乃助さんに似ていくね」
「だから可愛いんですよ深雪ちゃんは」とおじ様とおば様が昨日気が付いたであろう漆蛇と龍神の公開のきっかけを作ってくれて、仲良しアピールまでしてくれた。
「久しぶりですね、深雪ちゃんが小さい頃一緒に私の屋敷や深雪ちゃんの屋敷で遊んだ事、覚えてますか?」
「…申し訳ありません…七歳の時にうっかり龍神様と式の漆蛇を封印してしまいましてその前後の記憶がすっぽ抜けてしまいまして…」
「アハハハ…うっかりで封印出来ちゃうって…昔から霊力が桁違いでしたからね」
私と仲良しだった事と霊力桁違いアピールをしてくれた七五三掛家の当主は、三十前後位の見た目で優しそうなイケメンで落ち着いた雰囲気のお兄ちゃんになって欲しい人ナンバーワン!雪臣じゃなくてこの人がお兄ちゃんが良かった。
「私も仲間にいれてくださいな、柊家当主の深雪様。お初にお目にかかります東海林家の当主の瞳子トウコと息子で時期当主の瞳道トウミチです。」
「お初にお目にかかります、瞳道と申します。」
「深雪様特殊な瞳孔をお持ちで」
「確かに深雪ちゃんの瞳…」
「綺麗な瞳ね」
「本当に綺麗な瞳ですね」
加賀夫妻と七五三掛家当主が気が付いて褒めてくれた、三家とも本気で敵意も悪意も見えない。
上級の席からも「本当に綺麗ね」「宝石みたい」などと本心で褒めてくれたが中級と下級と外部は龍眼が分からないみたいだ。
 「ありがとうございます、龍眼でして瞳孔が紫と青のランダムで現れます」
「黒い瞳に瞳孔が紫で周りが少し青で凄く綺麗です」といつの間にか七五三掛家の当主に両を頬を掴まれて感想を言われた。
漆蛇の殺気が背中に刺さって痛い気がする。
「…ありがとうございます」
「こら!嘉紀ヨシノリ!深雪ちゃんに許可無く触るな!」とおじ様が叱った、嘉紀さんの事も孫の様に可愛がってるんだろうなと微笑ましく思えた。
「深雪ちゃん…ごめんね…お詫びは必ず」と言い残し自席に帰って行った。
先程、口を挟んで怒られた橘家と柳田家のおっさんがまた口を開いた。
「柊家の当主が血術使いなのはわかりましたが経験がありませんのでいきなり御三家になるのは難しいかと」
「ですので橘家と柳田家が面倒を見るというのはどうでしょうか?」
「それはいいですな!柊家を面倒見ましょう!」
「あらぁ没落寸前の下級当主達に何を教わるのかしら?」
「襲撃の仕方とかかしら?」
「そんな言い方をしては同業を襲撃して失敗する実績しか無い橘家と柳田家に失礼ですよ」
うわぁ双子のオネエ様と壱捨駒の結託を初めて見たが普通に怖いし敵に回したくないと心の底から思った。
 部屋に案内された時から柳田家の式がこちらを見ている、一昨日商業施設で見ていた子だ。
龍眼を使って見ると見た目は五歳位だが魂が凄く幼い鬼の男の子で、ボロボロのきものを着ている、弐無月の袖の裾を引っ張り耳を貸してもらった。
「ねぇ柳田家の式の鬼の子…お岩さんの子供、龍眼で見たから間違い無い」
「アレが欲しいの?」
「うん…」
「龍眼って真名も見られるのか?」
「バッチリ見えるから…真名の血術縛り出来る」
「ねぇ柳田家の当主?柊家の襲撃の件は水に流してあげるからそちらの鬼の子を譲ってくれないかしら?」
「断ると言ったら?」
「ふふふ…断れる立場だと思う?我が家の当主様と真名の血術縛りを結ぶのと鬼の子を差し出すのどっちが良い?」
「面白い結べる物なら結んでみろ」
「あらいいの?自害も強制出来るわよ?」
柳田家のおっさんが黙り込んで鬼くんを差し出したら壱捨駒が抱き上げて連れて来た、喋るなと言われていたけど公ではなければいいと受け取った。
私は鬼くんを膝の上に乗せて目を合わせたら何故か周りがざわついた。
「お母さんに会いたい?」
「…会えるなら会いたいです」
「そうだよね…私の屋敷においで」
「行けば母上に会えますか?」
「会えるよ、今は隠世カクリヨで働いてるけど私の屋敷に住んでるから、一緒にお母さんの元に帰ろうね」
「でも縛りが…」
「私…縛りを解くのが得意だから大丈夫」
私は帯から本物の懐剣を取り出して鞘から刃物を出した、自身の右手のテノヒラを切った。
「左手の掌を上に出して」
「これでいいですか?」
「血で汚れちゃってごめんね」と鬼くんの左手の掌に私の出血している右手の手の掌を合わせて握った。

【血術・セツ
私の右手と鬼くんの右手が炎に包まれて、縛りを結んでいたであろう柳田家の当主の隣に座っていた綺麗なきものを着た女が死んだ。

またざわついたが馴れたから気にしない。
「血を拭かないとね、壱捨駒手ぬぐいある?」と聞くと直ぐに懐から出して渡してくれた、鬼くんの手を拭いた。
 今度は参無月の袖の裾を引っ張って耳元を貸してもらった。
「橘家の青髪の式が橘家のおっさんに凄い殺気を向けてる…龍眼で見たから間違えない、連れて帰りたい」
「面倒事が増えるけど良いの?」
「あの復讐に燃える目が気に入った」
「仕方が無いわねぇ」
「ねぇ、橘家の当主さん?後に控えてる青髪の式をくださいな」
「…血術を結ばないなら引き渡す」
「ふふふ…聡明な判断ね」
「お前早く柊家に行け」
「良かったでわね、当主様」
壱捨駒が式の子を私の前に連れて来た、鬼くんを膝に乗せている状態だ。
「縛りを解かないと右手の甲をだして」
「分かりました」と素直に手を出してくれた。

【血術・切】
私の右手と式の右手が炎に包まれて、橘家の当主の隣の男が死んだ。

此の男も先程の女もそうだが胸を押さえて吐血してバタッと前に倒れて死んでいる。
わたくしを橘家から開放して頂きありがとうございます…見ての通りお金を持っていないのに何故ですか?」
「単純に橘家のおっさんを殺すタイミングを見計らってる復讐に燃える目が気に入ったのと、見てもらいたい物があるから」
間違いない、蔵の引き出しで見た人魚の血縁者だから人魚だ。
「用は済んだのでそろそろお暇したい」と弐無月に小声で言うと「承知」と返事が帰ったきた。
「それでは当主様の用事は済んだのでお暇しますが加賀家の当主様、よろしいでしょうか?」
「そうだね、用事は済んだから帰って良いよ」
「ありがとうございます」
「それではみなさん御機嫌よう」
私は鬼くんを抱え、人魚と手を繋ぎ立ち上がろうとすると、橘家のおっさんと柳田家のおっさんが叫んだ。
「小娘のくせに調子に乗りやがって」
「俺らは御三家になる事は認めない」
何この典型的な負け犬、初めて見た。
「決闘でもします?」
 私がそう言うと隣の双子のオネエ様に脇腹を突かれ、漆蛇に痺れてる足の裏を押された。
「良いだろう、こんな小娘に負ける訳が無い」
「柊家が負けたら御三家の指名お願いします」
「深雪ちゃんは本当に雪乃助さんに似てきた」
「二人が勝てるはずが無いのにおバカさんね」
「深雪ちゃんの戦闘が見られるんですね」
「瞳道、滅多に見られない血術の対戦をしっかり見なさい」
「はい、当主様」
御三家は凄く期待してくれて、上級も中級も外部も見ている中でピンクの無地のスリーピースを着こなしてる春ちゃんが手を振ってきたから振り返したら、漆蛇に痺れてる足の裏を抓られた。
「決闘方法はどうしますか?」
「それぞれの術式で死ぬまで行うでいいだろ?」
「自信が無いなら辞退しろ、若くして死にたくないだろ?」
「此処で行ってよろしいのでしょうか?」
「構わないよ」とおじ様からのお許しが出た。
私は鬼くんを漆蛇の膝の上に乗せて、人魚を漆蛇の右隣に座らせた。
立ち上がると橘家の当主と柳田家の当主が立ち上がった、私の斜め前に二人は立って三角を描いている。
二人がどう出るかを見ていると橘家と柳田家がまさかの懐から拳銃を出した。
「術式じゃないんかい」と思わずツッコミを入れてしまったがこれが当たり前なら何か此の家業は悲しいな。
「「降参するなら今だぞ」」
龍神の目は自分の意思で瞳孔を開ける、瞳孔を全開で開くと相手の動きが遅くなり行動が分かる。
二人の拳銃を持ってる手首を掴み銃口を上に向けた。
「術式とかで戦わないんですか?」
「「え」」
「おっさん達、加齢なのか動きが遅い、その狸みたいな腹が原因?」
「うるさい!小娘!」
「離せ!」
「降参するなら今ですよ」
「クソガキが」
「おい、お前らも加勢しろ」
「弱い犬ほどよく吠える、最後に本物の負け犬が見られて良かったです…さようなら」

【血術・エン
私が掴んでいる手から炎が燃え上がった。

決闘前に左手の掌も切って出血させていた。
おっさんから手を離すと腕全体に炎が広がり上半身に燃え移り暴れている。
私は横からさっき迄は感じなかった殺気に目が行った、私に殺意を向けていたのは柳田家の下っ端の割には綺麗なきものを着て白髪の五歳位の女の子だった。
「そこの白髪のお嬢さん、殺気を感じるのですが何か御用ですか?」
白髪の女の子は燃えるおっさんの側に行き「私がその男を殺さなければいけなかったのに、私が殺したかったのに…私が」と女の子が畳を拳で叩き泣き出した。
「妹が申し訳ありません、お許しください」と妹より少し上の兄が後ろから妹の隣に行き、妹の頭を手で押さえて畳に額を押し付けて自身も畳に額を押し付けた。
私は兄の妹の頭の手を握り、妹の畳を叩く手を握った。
「女の子なんだから怪我する様な事はしたら駄目だよ、顔に傷が付く様な事は特に駄目だよ」

【血術・セツカイ
二人の縛りを解き、額の傷と普段から虐待されてた痣や傷が綺麗に治った。

柳田家の当主の席の男が焼死体になった、柳田家の側近全滅。
「…ありがとうございます…申し訳ありません」
「それで何で柳田のおっさんを殺したかったの?」
「…柳田家と橘家の当主です」
「因縁は?」
「母は二人に手篭めにされ自害しました」
龍眼で見ても嘘では無いし二人の恨みは凄い。
「どうやって殺す気だったの?」
「寝込みに全身麻酔を打ちギャグボールを噛ませ全裸の状態で上半身は亀甲縛りで下半身はM字開脚で固定し去勢し止血せず放置して無様な死に様を晒してやろうと…」
「採用!やろう!何処ドコでやる?此処ココでやる?」
「「え…」」
「此処での許可が降りなそうだから、そこに居る反社のお兄さんに倉庫を借りようか!」
「深雪ちゃん…倉庫貸すよ」
「ほら!春ちゃんが貸してくれるって!良かったね!焼死体を運ぶのと生きた人間を運ぶのどっちが楽ですか?」
「うーん焼死体は幅取るから生きてる方が良いかな」
「生き返ったら直ぐに捕縛出来ますか?」
「出来るよ、お前ら準備しろ」
「おじ様!決闘に勝ったので死体を貰っていいですか?」
おじ様「深雪ちゃんの好きにして良いよ」
おば様「本当に雪乃助さんね…」
瞳子「本当に…少しも慈悲が無い所がそっくり」
嘉紀「血術って凄いんですね」
瞳子「普通はあそこまで燃えないのよ」
瞳道「いいな」
おば様「瞳道くん、興味が有るなら今度柊家に遊びに行きましょう!」
瞳道「是非お願いします!」
嘉紀「私も行こう」
「皆さん、お待ちしてます!」
焼死体の前で御三家は楽しそうだし、他の家は帰るに帰れないし可哀想。
「弐無月!短刀貸して!懐剣だと書けない!」
「当主様何をなさるつもりですか?」
「死者蘇生」
「当主様がそこまでやってあげる義理は無いんですよ?」
「私の好奇心が止まらない、兄妹の復讐を見届けないと今夜眠れない」
「いつもぐっすり寝てるじゃないですか…」
「深雪ちゃん…日本刀貸してあげる」
「春ちゃん…でも血だらけになってしまうので」
「それでも良いよ、深雪ちゃんの為だから」
春ちゃんは日本刀を鞘から脱いて貸してくれた。
「春ちゃんありがとうございます!」
春ちゃんに心のこもったお礼を言って刀を受け取り、左手首の動脈を切って二体の焼死体を囲う様に陣を書いた。
周りに居る人が全員こちらを凝視している。

【我に殺されし哀れなおっさんよ人間として蘇れ】
唱えてから刀で自身の頸を少し切り二体の死体の頭から股間までにポタポタと二体に血をかけた。

ーーパチンーー
手を叩くと生前から焼死するまでを逆再生する様に肉が付き皮膚が付き元通りに生き返った。

自分で殺したのと死んでから魂が離れてなかった為に贄無し対価無しで死者蘇生が出来たと喜んでるとおっさんの一人が目を覚まして起き上がろうとしたので顎下から頭を蹴り上げ意識を飛ばした。
一部始終を見ていた人達がザワザワし始めた所でおじ様が騒ぎを沈めた。
「此の血術を見て御三家になるのに異議を申す者はいるか?」
誰も何も言わずに静まり返っている。
「満場一致でいいな」と瞳子さんが場を収めてくれた。
弐無月が手を上げて「わたくしから一つよろしいでしょうか?」
「発言を許可する」
「我が柊家の当主様は死者蘇生がご覧の通り出来ます。この様に贄無しの場合は相場の金額で、火葬済みや体の一部しか残っていない場合などの贄が必要な場合の金額は要相談で、死者蘇生のご依頼承ります」と弐無月ぎ宣伝した。
「この様に我が柊家の当主様の縛り返し屋呪返し等は即死です、その他にも今みたいな傷等もお返しするのでその際はご用命を」と今度は参無月が宣伝した。
ザワザワしてるが直接話しかけて来る人は居ない。
「春ちゃん!日本刀ありがとうございます、クソ野郎は縛れましたか?」
「ちゃんと縛ってトランクに積むよ」
「ありがとうございます、赤い縄とか鞭とか蝋燭とかって…」
「色々有るよ、深雪ちゃん楽しそうだね」
「ワクワクしてます!」
「二人はワクワクの楽しい復讐が終わったら行く所はあるの?」
「…無いです」
「なら我が家においでよ!」
「それは申し訳ないです…ですがお金は必ず返します」
「お金はいらないよ!これからワクワクドキドキの復讐を見せて貰えるから!楽しみだね!」
「当主様…好奇心に勝てないのは分かるけど不謹慎ですよ」
「おっさんが亀甲縛りとM字開脚で固定されて去勢されるのを見て喜ぶのは当主様位ですよ」
「漆蛇も子供達も青髪も白髪兄妹も春ちゃんも楽しみにしてるもん」
「俺も楽しみだ」
「「「私達も楽しみですよ!」」」
「「「公開処刑!」」」
「「「よろしくお願い致します」」」
「深雪ちゃんと初めての共同作業楽しみだね」
「私も楽しみです、深雪ちゃん…嘉ちゃんって呼んでね」
「ほら!皆楽しみにしてる!」
「柊家の当主と七五三掛家の当主が暴走してる為本日は御開オヒラキ」とおじ様の一言で御開になったが、御三家が退場するまで他の人達は席を立てないので他の家は自席で待機してる。

ーーチリンーー
私の背後から龍神が現れて腹部と肩を抱きしめられた。

現れ方と莫大な霊力と生命力で龍神だとひと目で分かり御三家でさえコウベを垂れた。
「私の深雪が場をかき乱してしまい申し訳なかった、会合も終わったし連れて帰るよ。加賀家当主、来月から柊家が御三家に返り咲くのに間違えはないか?」
「公開処刑見たい」
「間違えはございません。わたくしの真名に誓います」
「そうか、柊家を頼んだ」
「承知しました」
「公開処刑見たい」
「加賀夫人と東海林当主にはじゃじゃ娘を淑女にして欲しい」
「承知しました」
「公開処刑が見たい」
「深雪、これ以上の我儘は許さないよ」
「春ちゃん…楽しい公開処刑の動画撮っといてください、壱捨駒は復讐が終わったら三人を屋敷に連れて帰って来て、漆蛇と子供達は公開処刑を楽しんで、その前に漆蛇は鬼の子をお岩さんに会わせてあげて、弐無月と参無月に後の指示を任せます。それと橘家と柳田家の人間を連れて帰って被害者と加害者に仕分けしておいて」
「当主様、三人を連れて帰ってどうするんですか?」
「白髪兄妹は従者にします、人手不足なので。青髪には用が有るので連れて帰って三人を双子ちゃんに託してください」
「主様、この鬼の子がお岩殿のご子息でしょうか?」
「龍眼で見たから間違えない、早く会わせてあげて。漆蛇なら隠世に行けるでしょう?」
「承知しました、これにて失礼」と鬼くんを抱えた。

ーーチリンーー
漆蛇と鬼くんが消えた。

「橘家と柳田家の人間連れて帰ってどうするんですか?」
「被害者は縛り等を解いて今後の事について話し合います」
「ねぇ…加害者は?」
「贄のストック」
「どうやってストックスのよ…」
「真名の血術縛りをして待機させて、贄にする時に連れて行けば良くない?」
「絶対に逃げるわよ」
「血術縛りの命令は絶対だから命令すれば逃げないでしょう?」
「逃げたら?」
「その場で頸と胴体の泣き別れよ。それと、おっさんの公開処刑を見たい人には一緒に連れてってあげて」
「弐無月と参無月に後は任せるよ」
「「承知しました」」
「すまないね、礼はするよ」

ーーチリンーー
龍神の異空間に飛ばされたと思ったが異空間にしては広すぎる、まだ私を後ろから抱きしめている。
此処ココは常世の私の屋敷だよ」
常世トコヨ…」
「此処では私以外に頼れる者は居ない、私の機嫌を損なわない様にしないとね。私の色味の十二単を着させてくれ」
「かしこまりました、此方コチラへどうぞ」と急に吊り目で口の大きい赤系の十二単着た赤系と細目で口が裂けているピンク系の十二単を着たピンク系の女性二人が現れた、これが俗にいう貴族に使える女房かと思っていると別室に案内された。
 龍神の前では普通だったのに三人になると二人の態度が激変した。
龍眼が使える為、二人の嫉妬と妬みと悪意が見える、龍神に対しての恋心が原因だろう。
自分より身分が上なら諦めもつくが人間の私の事が気に入らないのだろう、それは仕方が無いが性格の悪い龍神はこの様子を見てるだろう。
「着替えさせてくれないんですか?」
「何でお前の着替えを手伝わないといけないんだ」
「お前みたいな女に着せる物は無い」
喋り方が現代人っぽい、昔テレビで時代によって話し方や言葉が異なるから平安時代と現代人では会話が成立しない可能性があると言っていた気がするが、長生きして色々な時代を生きているから普通に会話が出来るのか、とぼーと考えている。
「何で何も言わないんだよ」
「黙り込みやがって」とピンク系に檜扇ヒオウギを顔面に投げつけられた、この二人は赤系が先に喋りピンクが便乗するタイプと分析していると「何か言えよ」と赤系も檜扇を顔面に投げられた。
暴力的な二人は蛇の妖怪だ、この屋敷には蛇の妖怪しか居ないと悟った。
この二人の敵意を背く言葉は思いついたが、その言葉はこれを見ている龍神は怒るだろう、龍神の機嫌を損ねる訳にはいかないから黙りを決め込む以外に思いつかない。
そもそも龍神がこの二人の行動を予知して三人にして、それを見ている理由はなんだろう?
「お二人はこの光景を龍神様が見ていると気が付いてないんですか?」
「そんな訳ないだろ」
「おまえは何が言いたい」
「多分お二人は正室にした際に屋敷に来た女性に龍神様が不利になる態度を取らないか上手く立ち回れるか等を見定められているんだと思います」
今度は二人が黙りを決め込んだ。
「長生きしてれば心変わりもするでしょうし、側室や愛人に害をもたらす正室は足手まといですからね。龍神様の性格的に慈悲無く殺すと思いますが」
「本当に賢いね」と龍神が部屋に入って来た、紫の狩袴に青の狩衣を着て烏帽子は被って無く綺麗な長い黒髪を下ろしている。
「私は二人を正室や側室にする気は無い。私が寵愛するのはただ一人、傷つけたお前達は死のみだ」
わたくしは龍神様を」何か言い終える前に赤系は燃えて塵になった、私の【血術・炎】より速度と火力が桁違いで驚いていると、「どうかご慈」また何かを言い終える前にピンク系が燃えて塵になった。
「悪い事をしたからお仕置きをしたんだよ、女の嫉妬は怖いだろう?可哀想に可愛い顔が赤くなってる、治してあげないとね」と両手で顔を掴み徐々に痛みが引いていった。
「双子を呼んだから着せて貰って」
「…ありがとうございます」
「双子よろしくね」
「「かしこまりました」」
双子ちゃんと入れ替わる様に龍神が消えた。
「二人とも見てた?」
「「バッチリ見てた」」
「やばくない?怖くない?トラウマなんだけど」
「血術で焼き殺さなくて良かった」
「蛇はたたるからね!」
「…心配してくれてありがとう」
「着付けするので脱がせます」
「二人に着付けて貰うのが一番って実感した」
「そう言って頂けて嬉しいです」
長襦袢も脱がされた後に紫の長袴を履かされて、青の単を着せられて、紫のグラデーションで三枚着せられて、最後に青の唐衣を着せられてあっという間に着付けが終わり、龍の絵が書いてある檜扇を開いた状態で持たされた、髪の毛を下ろしてもらい術なのか技なのか髪をストレートにして後に流してくれた。
龍神も双子ちゃんも名前を呼ばないのは誰に聞かれているか分からないからなのか。
「双子ちゃんは十二単も着付けが出来て凄いね」
「「何でも着せられるよ!!」」
「流石…」
「常に檜扇で顔を隠して!」
「平安時代の決まりだから絶対!」
「座る時は胡座!」
「髪の毛を耳にかけるのは駄目!」
「顔を隠して胡座で耳かけ禁止ね、ありがとう」
「双子ありがとう、昼に屋敷に行くからよろしくね」
「「承知しました」」

ーーチリンーー
双子ちゃんは私の脱いだ振袖類を持って屋敷に戻された。

「似合ってて可愛いね」
「ありがとうございます」
「一緒に見たい物があるから着いておいで」
龍神の後を檜扇で顔を隠して追っている為、平安時代の貴族の屋敷図を見た事が有るが何処を歩いているのか全く分からない。
「此処だよ…座って」
どっこいしょと言いたかったがグッと堪えて無言で龍神の左側に胡座をかくと龍神が裾を綺麗に整えてくれた。
「貴族の屋敷図を見た事は有るんですが…此処は何処ですか?」
釣殿ツリデンだよ、一緒に月が見たくてね」
「とても綺麗です…常世は二つ月があって平安時代の佇まいなんですか?」
「月は二つ存在するよ、全て平安時代の建物では無い、住めるの者は限られているから住んでる者の生まれた時代や好きな時代の屋敷や格好をしている。私は平安時代が好きだから屋敷も格好もこれなんだよ。」
「そうなんですね、一番見てみたかった平安時代が見られて着てみたかった十二単も着られて凄く嬉しいです」
「機嫌を損なわせるなと言ったが本心で言ってくれてるのが嬉しいよ、花嫁姿は何が良い?」
「一時期流行った白無垢に角隠しをして般若の面を付けたいです、でも平安時代の正装も着てみたいです」
「…随分と個性的だね、私に合わせてくれるのは嬉しいよ」
「後、お染さんやお七さんが着ていた引き振袖や小紫さんの着ていた花魁やお岩さんの打掛けも着てみたいです!江戸の町並みや明治時代も見てみたいです!」
「たくさん着たい物や見たい物があるんだね、全て叶えてあげるよ」
「…ありがとうございます」
「そろそろ移動しようか」
「龍神様…」と後ろから女性の声がした「振り向くな」と龍神に耳打ちされた。
「そちらの方はどなたでしょうか」
「呼んでもいないのに何故お前は此処に居る」
わたくしは龍神様をお慕いしています、ですから私のわたくしにも寵愛をくださいませ」
「何故此処に居るかを聞いているんだ」
「その女が居なければ…龍神様はわたくしに寵愛を頂けますか?」
「分を弁えろ」
「この女さえ居なければ」
本日二度目の女の嫉妬…怖い無理帰りたい、女がブツブツ呪文を唱え出した蛇の祟は嫌だと思っていると女の声は聞こえなくなった、龍神が塵にしたのだろう。
「見られすぎた」

ーーチリンーー
龍神の異空間に飛ばされたが、釣殿に変わりは無いが先程の庭園とは違う。
「此処は何処ですか?」
「常世の知人の屋敷の釣殿だよ、此処は鬼神の屋敷だから大丈夫」
「勝手に入って良いんですか?」
「奴も私の屋敷に勝手に入る」
「そうなんですね」と生返事をして月が二つ有り星が沢山の綺麗な非現実的な夜空をぼーと眺めている、無意識の内に左手を空に伸ばすと後ろから誰かに手首を掴まれた。
「久しぶりだね、紫青シセイ
「あぁそうだね、雷炎ライエン
雷炎は私の隣に私の座り左手の上に自身の右手を乗せている。
「私の屋敷で逢瀬とはね、この子は人間でしょう?」
「あぁ可愛いだろう?」
「でも彼女は怯えてる、人の感情を読むのが得意でね。此処では紫青しか頼れる者が居ないから機嫌を損ねないか内心穏やかではないのだろう?」
今日習得した何が遭っても動かない喋らない寝ないを実行していると私の檜扇を奪って池に捨てて、私の顔を両手で掴んで無理やり左を向かされて目が合った、紅眼に瞳孔が稲妻の様に縦に割れ金髪に赤い角が三本生えていて派手な出で立ちに金系の狩衣を着ている。
「紫青の寵愛している娘は随分と可愛いな、見た目も表情も内心も」
あまりの派手さに驚いていると正面から抱きつかれ腰と頭を無理やり引っ張られ胡座が崩れてしまった所を自身の胡座の上に乗せられた。
「何の真似だ、雷炎」
「人間一人でが住む常世に無理やり連れて来られた可愛そうな娘を抱きしめて落ち着かせてあげてるんだよ」
確かに雷炎は暖かいし落ち着くが此処で寝たら龍神に色々な意味で殺される。
「俺の妹が蛇の呪で床に伏せている、呪を解いたら返してやる」
私の頭を撫でていた右手で龍神の左手を掴むと景色が変わった、誰かが寝ている。
「妹の呪を解いてくれ、元々はお前の屋敷の蛇だ」
「何故そう思う」
「お前の屋敷の釣殿に妹と月を見に行き帰宅してから寝込んで額に謎の文字が刻まれている」
「それって…先程龍神様が燃やした女房の何方ドチラかではないでしょうか?妹様を直接拝見してもよろしいでしょうか?」
「構わないが」
「失礼します」
「兄の声と龍神様と女性の声が聞こえましたがどちら様でしょうか?」
わたくしは貴女様のお兄様の人質の人間です。拝見した所、鬼女キジョの呪だと思います。かなり強い嫉妬や妬みを感じます。此の屋敷の誰かではないでしょうか?」
「何故、屋敷の者が…」
わたくしの推測ですが二人で月を見に行くほどの仲の良い兄妹のお兄様の寵愛を受けるのは難しいと思い妹様を亡きものし憔悴中のお兄様に付け入るつもりだったのではないでしょうか」
「では何故紫青の屋敷の日を狙った?」
「龍神様の屋敷の何方どなたかが鬼神様に恋をして一緒に居た妹様を呪ったと見せかけたかったのではないでしょうか?」
「貴女様は推理がお得意なのですね」
「女の嫉妬が一番怖いです、呪返しをしてみて死んだ方が犯人だと思います、呪返しやりますか?」
「お前がそこまでやる必要は無い」と後ろから龍神に抱きしめられた。
「袖振り合うのも何かの縁が建前で本音は家計が苦しいのでお金ください」
「ハハハ!妹を治したら言い値をくれてやろう!」
「従者と式が増えたから食費を稼がないと、私は血術使いなので血陣を書きたいのですが…」
「その辺に書いていいぞ」
「ありがとうございます、そこの布を退けて頂いて畳だけにして頂きたいです」
「構いません、よろしくお願いします」
控えていた、女房が布を取ってくれた。
「何方か刃物をお持ちですか?」
龍神が無言で短刀を貸してくれた、私は頸を切りその血で畳の周りに陣を書いた、最近は慣れてきてだいぶ綺麗に書ける様になった。

鬼女キジョの呪をお返し申す】
パチンと手を叩くと近くに居た女官が燃えだし、ブツブツと何かを唱え始めた。

本日三回目の女の嫉妬が怖いと思ったが私の意識が朦朧として居て立って居られなく後に倒れると龍神が受け止めて姫抱きをしてくれた。
「お前が妹を呪ったのかと」私の持っていた短刀で女房の頸を落とした。
横目で見ると妹さんの額の文字は消えていた、妹さんは起き上がり歩けるまで回復した。
私の両手を掴み涙を流して喜んでくれて雷炎さんも喜んでくれたが、額に激痛が走り両手で押さえていると「まさか」と雷炎さんが私の両手をどかした。
わたくしのせいで申し訳ありません」とい妹さんが床に額を着いて謝り泣き出し、雷炎さんも青ざめて謝りだした。
「取り敢えず今日の所は失礼する」

ーーチリンーー
龍神の空間に飛ばされた。
「深雪は今、呪返しをした鬼女に呪をかけられて額に雷炎の妹と同じ文字が有る」
「龍神様に連れて行って貰えて楽しかったです」
「此の結末は予知していたが、深雪が此の呪を自力で解ければもっと強くなれるし深雪なら出来ると思ったからだ」
「龍神様からの試練ですね」
「本当に優しくて良い子だね、私の霊力と生命力を直接流し込む」そう言うと接吻をされ霊力と生命力が流れて来るのは感じるが意識を保ってられない、一度唇を離された。
「昼に柊家で屋敷の者を集めるからそれまでは時間が有るから寝ていてくれ」とまた接吻をされ、そのまま気絶してしまった。
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