血術使いの当主様

重陽 菊花

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深雪の決意

封印解けたョ!全員集合

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【六月十五日】
 翌日、目が覚めると霊力が回復していていつも通り動ける状態になっていた。
朝の支度をしてお岩さん・平井権八・小紫さん・藤井を居間に呼び出した、お岩さんの今後の話をする為に。
テーブルを囲んで座布団に座っていると呼び鈴が鳴った。
玄関を開けて呪詛師が居る状態は非常に危険で面倒くさいらしく呼び鈴に出るのは藤井の仕事に決まり、藤井が玄関に行けない場合は居留守を使う事になっている。
今は藤井が居るので来客に対応しに玄関に向かった、居間は玄関に近い部屋だから会話が全て聞こえる。
「はい…どちら様でしょうか」
「私は深雪様を病院へお連れする為に参りました…藤井と申します」
「では…今開けますので…」
ガラガラと建付けの悪い玄関の扉が開いた。
「只今、深雪様をお呼びします」
「……裕樹……生きてたのね……良かったわ」
思わず部屋を飛び出して玄関に行くと藤井のオネエ様が居た。
「顔が似てると思ったら兄弟だったんかい」
空気を読まずに思わず口を挟んでしまった。

「確かに
「深雪様は相変わらず空気が読めないのね…今生の別れをしたと思ってた兄弟の再開に割って入るなんて無粋ね」
「藤井のオネエ様こそ弟さんの通夜葬式に呼んでくれないなんて寂しいわね」
「誰かさんが死体を持ってるから通夜葬式が出来なかったの…ごめんなさいね」
「あらそうだったの…我が家の敷地内で呪詛師が死んでたから生き返らせて使ってるの…お兄様の許可を取らずに…ごめんなさいね」
「その様子だと今日が通院日だって事を覚えてないのね…事前に連絡しなかった私が悪いわね」
「本当に口が減らないのね…藤井のオネエ様は」
「そんな事無いわ…いつもの事じゃない」
「それで?貴方は誰?藤井のオネエ様じゃないでしょ?」
藤井のオネエ様は私を深雪様とは呼ばないしこんな態度を取らない、こいつは誰だ?
「深雪様…今日の貴女は可笑しいわ?」
「どっちらがねぇ?我が家の藤井を殺したのは貴方でしょう?」
「どうしてそう思うのかしら」
「彼は私の事をそんな呼び方をしないしそんな態度を取らない…ねぇ我が家の藤井…そうでしょ?」
「兄はそんな態度を取らなしそんな話し方しない」
私がメンタルを殺られて退職したのは社内の人間なら誰でも知っているが通院している事は知らない。
通院だって自力で行けるし日にちも家族にすら言っていないから彼が迎えに来る事自体が可笑しい。
「だって人間が敷地内で殺されたのに警察にも通報せず柊家は何の反応もしないなんて可笑しいじゃない?だから見に来たの…そしたらアタシが殺した筈の捨て駒が出て来たから驚いたわ」
「それで?貴方の目的は雇い主に捨て駒が生きていて柊家に死者蘇生が出来る術師がいると報告するの?」
「アタシはフリーの殺し屋だから捨て駒の雇い主に報告する義理もないわ…ただアタシ個人の興味で来てみたの…そしたら死者蘇生が出来る柊家の当主様が直々に出て来てくれて…アタシは貴女に興味を持ったわ」
「私に興味を持ってくれたのは嬉しいけど…何故彼の兄のふりをして来たの?」
「ふふふ…その方が面白いじゃない…そんな目で見ないでちょうだいな…彼には指一本触れてないしはこの事を知らないわ」
「そもそもどうして二人が兄弟だって知ってるの?」
「彼が呪詛師になる時点で戸籍を抜いたり別の戸籍を使ったり細工をしないから調べれば直ぐに分かるわよ」
「詰めが甘すぎて捨て駒にされたのか納得した…それで貴方はこの事実を知ってどうするの?柊家の当主の私を殺した実績が欲しいの?」
「アタシは貴女に興味を持ったって言ったじゃない…殺すなんて以ての外よ」
「じゃぁ?どうするの?」
「アタシを此処に住まわせて欲しいの」
うわぁデジャブ…襲撃して来た呪詛師にも雇用を強請られて承諾しちゃったんだっけ面倒くさいなぁ
「あら当主様!心の声が出てるわよ」
「断るとどうなるの…」
「まぁ勝手に住み着くから別に貴女の許可はいらないわ」
「うわぁ面倒くさい奴だなぁ…貴方を住まわせるメリットは?」
「特にないけど…秘密は守るわ」
「縛りは結ぶの?」
「勿論結ぶわよ…興味のある貴女との縛りなんてゾクゾクしちゃうわぁ」
「うわぁ気持ち悪い…」
「あらぁありがとう…支度が有るから荷物をまとめて出直すわ」
そう言うとオネエの殺し屋は帰った。
「捨て駒呪詛師の次はオネエの殺し屋か…」
「あらぁ…深雪ちゃんも大変ねぇ」
「お前とオネエの殺し屋は同室な」
 私は不機嫌な藤井を玄関に残して居間に戻った。
「ねぇ何かやばい奴が来たんだけど」
「深雪様…」
「深雪様…」
お岩さんと小紫さんに同情の眼差しを送られ、楽しそうに見てくるのは平井権八ヒライゴンバマチだ。
「深雪殿は面白い人間を引き寄せる才が有るのか…愉快だな!」
そこに不機嫌な藤井が居間に戻って来て二人で元の席に着いた。
「ねぇ深雪ちゃん…アレどうするの?」
「アレは絶対に荷物を纏めたら来る」
「あの感じだとそうでしょうね」
「でも深雪様はお優しいから来た物拒まずですね」
「愉快!愉快!」
小紫さんとお岩さんは心配してくれているが平井権八は楽しんでいる。
「愉快で良いではないか!監視役は引き受けた!いざとなれば頸を刎ねる!」
「平井権八さん…逞しい…藤井と大違い…アレが来る前にお岩さんの話を進めましょう」
「お岩殿は自身の子供を見つけるだけで良いのか?」
「私は子供が成仏してるのか…霊や妖怪になっているのか…兎に角それが知りたいです」
「子供達は情報集めや探しものが得意だと思うので現世でお岩さんの子供を探して貰います」
「深雪様…私達は何を?」
「小紫さんは此処には居ない心中四人組で隠世で田宮伊右衛門と伊藤梅を探してください…平井権八さんはこれから来るアレの監視をお願いします」
「深雪様…伊右衛門様達を探してどうするおつもりですか?」
「私は田宮伊右衛門と伊藤梅を討つ事が使命なので…藤井と私で現世に居ないか探します」
「深雪ちゃん…俺も探すの?」
「え?探さない選択肢が有ると思う?そもそも死者蘇生って呪術師や呪詛師が数人で行う稼げる仕事を無料でやってあげたんだから死ぬ迄こき使うに決まってるじゃん…今更何を言う…頭大丈夫?」
「え…あ…そうだね…死者蘇生と居候の対価を考えて無かった…」
「本当に詰めが甘い…流石捨て駒」
「ですが…深雪様…現世で伊右衛門様をどう探すおつもりですか?」
「人間社会を私達が探して見つからなかったら子供達にお願いします…そう言えば子供達と双子は?」
「子供達はまだ寝ていてます」
「葵と菫は朝から見かけてないですね」
お岩さんと小紫さんが答えてくれたら勢いよく襖が開いた。
「「深雪ちゃん!殺し屋を住まわせるってどういう事」」
「二人とも…住まわせるんじゃなく住み憑かれるんだよ」
「「死にぞこないの捨て駒呪詛師がしくじったからこうなったんでしょ!」」
「そうだ!そうだ!」
「「それで私達は何をすれば良い?」」
「葵ちゃんと菫ちゃんは平井権八さんとアレの監視役をお願いします」
「「はーい」」
「幽霊と妖怪は防げても人間は防げないからなぁ…そもそも何で門の所にインターホン付いてないの…玄関に呼び鈴のみを付けるの止めたい」
 バイクのエンジン音が聞こえたと思うとジャリジャリと敷地内に入って蔵を開ける音がした。
「不法侵入された…あいつ勝手に蔵にバイク停めやがったな」
「深雪ちゃん何で鍵締めてないの!」
「締めてるよ…ピッキングして開けたんでしょ…」
「あぁそう言えばあいつ殺し屋だったもんな」
「「はぁ…」」
ーーピーンポーンーー
「うわぁ来たよ…藤井頼んだ」
「…はぁ…行ってきます」
藤井は居間を出て玄関に向かった。
「どちら様でしょうか」
「アタシよ!早く開けてちょうだいな」
「断ったら?」
「無理やり入るわよ」
「…今開けます…」
藤井が鍵を開けて玄関の扉が開いた。
「お邪魔するわね…当主様は此処ね」
勝手に居間に入って来て無理やり私の隣に座った。
見た目は三十半ばで坊主頭で目鼻立ちが整って紫のアイメイクと紫の口紅を塗って閻魔顔でライダージャケットを着ている。
「本当に面白い屋敷ね…妖怪が五体も居るのね」
「自己紹介は無いの?」
「あなた達もさっきの会話聞いてたでしょう?」
「あぁ藤井兄の偽物だったわね…その姿が貴方の本当の姿なの?」
「そうよ…アタシは千の顔を持つ殺し屋よ」
「…自分で言うのね…それでいつまでその口調なの?」
「いつまでって…死ぬ迄?」
「その口調って…やっぱり…」
「ふふふ…正解」
「坊主頭で紫化粧の閻魔顔のオネエの殺し屋とか…」
「情報量が多すぎだろ」
「そうだ!当主様!早く縛りを結びましょう…でもアタシの真名を聞かれるのは困るから隣の部屋で縛りをしましょう」
 そう言われ隣の部屋に連れ込まれ、急に両手で顔面を掴まれ指で耳縁を暫く撫でられ耳元に唇を寄せられた。
「俺の真名は…深雪と俺だけの秘密だからな」
私の唇を指でなぞられた。
耳縁を撫でられたのはトラウマ物だし、唇を指でなぞられるのもトラウマ物だ。
それに加え普通に男の声で口調で話されて色々と頭からすっぽ抜けた。
「ほら深雪…」
そう言うと懐から短刀を取り出して渡された。
「え?」
「え?」
「縛りを結ぶのって結ぶ方が一方的に真名を名乗り忠誠を誓うんじゃないの?」
「その方法だと真名だけで縛られて呼ぶ時は俺の真名を呼ぶ事になるから新しい名前も付けてくれ」
「待って待って急に名付けを言われても困るから取り敢えず真名の縛りだけにして」
【仕方ないな…安堂武アンドウタケルは柊深雪様に生涯忠誠を誓います】
彼は自身の左首に刃物を当てて血を流しながら苦しみだした。
「待って待って縛り替えだったの?」
「違う…深雪の霊力が強すぎる…」
「大丈夫じゃ無いよね?藤井!」
「綺麗な名前が良いわ」
首から血を流す男に抱きつかれ血まみれになるカオスを体験していて思い出した、糞蛇に内面が少し似ている気がする。
彼の止血をしていると襖がスパーンと開いた。
「深雪ちゃん大丈夫?」
「藤井…彼の手当をしたいから救急箱を持って来て」
「葵ちゃーん救急箱!菫ちゃーん捨ててもいい濡れたタオル!」
「「はーい」」
「なぁ藤井…彼に名付けする…私の為に縛り替えをしてくれた藤井にも名付けをして二人には柊を名乗って欲しいと思う」
「深雪ちゃんはそれでもいいの?俺が生きてると知られて柊を名乗ったら柊家当主の深雪ちゃんにも火の粉が飛んで来るよ?」
「それは覚悟の上だよ…取り敢えず名前を決めるから彼を部屋で寝かせてあげて」
「こいつの部屋って…」
「同室以外に何があるの?名前が決まったら部屋に行くね」
そう言い残し隣の居間に戻った。
「先程の話で進めてください…今日はお開きでお願いします」
各自返事をして居間を出て行った、私は書斎に行った。
子供達の名付けは六繋がりで六月の花の名前にしたが大人二人の名前は難しい、漢数字に憧れがある私はどうにかして漢数字を入れたい。
壱郎イチロウ弐郎ジロウはボツ、壱弐参ヒフミ肆伍陸ヨイムもボツ、漢数字の名前って意外と難しい。
困った時のネットで漢数字が付く名前を調べたら良いのが思いついた!我ながら良いセンス!
半紙に私の血を混ぜた墨汁で二人の名前を書いた。
そうと決まれば呪詛師・殺し屋の部屋に走った。
 スパーンと襖を開けると二人共キョトンとした顔でこちらに向いた。
「名前を考えてきたから名付けをしま~す!」
「「あ…はい」」
失敗しても問題の無い藤井から名付けをする事にした。
座っている藤井の心臓の上に【壱捨駒】と書いた紙を押し当てた。
「この位置で持ってて!落としたりずらしたりしないでね」
「待って!深雪ちゃん!何この名前!」
「ヒシャコマ…素敵でしょ?」
「待って!普通に嫌なんだけど!」
「あらぁ良いじゃない!彼にぴったりね」

【私に忠誠を誓いし者に名を与えた私に従え】
ーーパチンーー
両手を思い切り叩くと半紙が燃えだした。

 苦しんでいる様子は無いが、幼い頃の藤井のオネエ様や亡くなった御両親との思い出や呪詛師になる経緯や捨て駒にされた経緯等が流れて来た。
だが子供達とは違い自ら呪詛師になったのだから境遇や苦労に涙が一粒も溢れなかった。
「今日から柊壱捨駒ね」
「本当に…」
「攻撃力の有る駒で良かったわね」
座ってる安堂武の心臓の上に【弐無月】と書かれた半紙を押し当てたら自ら持ってくれた。
「アタシの名前は何て読むのかしら」
「ニナツキ…六月の月の綺麗な夜に初めて会ったから」
「素敵な名前ね…ありがとう」

【私に忠誠を誓いし者に名を与えた私に従え】
ーーパチンーー
両手を思い切り叩くと壱捨駒と同じ様に半紙が燃えた。

 壱捨駒の様に安堂武の生い立ちは流れて来なかった。
「ふふふ…アタシの生い立ちなんて見ない方が身のためよ」
霊力は足りている筈なのに意識が遠くなっていく、名付けの儀式は向いていないのだろうか。
私はフラッと後ろに倒れそうになり複雑な表情をした弐無月が受け止めてくた。
「私には名付けは向いてない…起きてられない…」
 特に夢を見る事も無く、十七時頃に目を覚ました。
自室の布団に寝かされて私の寝ている布団に覆いかさばる様に弐無月が寝ていた。
「弐無月…重い…どいて」
「あら…当主様…おはよう」
壱捨駒は部屋の入り口の襖を閉めて寄りかかって寝ていた。
「壱捨駒…おはよう」
「あぁ深雪ちゃんおはよう」
「早速で悪いんだけど人間会議をここでしたい」
「どうしてここなのかしら」
「私の自室と隣の書斎には結界が張ってあって妖怪は入って来られないからここでしたい」
「じゃあ俺は飲み物を持って来る」
そう言うと壱捨駒は部屋を出て行った。
「ねぇ弐無月はどうして私を当主様って呼ぶの?」
「柊家の当主様だからに決まってるだろ」
「壱捨駒みたいに深雪でいいのに」
「二人の時は深雪って呼んでるだろ」
「そうだけど…それに普段から素を出せば良いのに」
「この見た目でオネエ設定は都合が良い事が多いんだよ」
「なるほど…ビジネスオネエか…奥が深い」
「色々と都合が良いんだよ」
「でも壱捨駒は私を深雪ちゃんと呼ぶから普段の弐無月にも深雪ちゃんって呼んで欲しい」
「何故?」
「私は名前をちゃん付けで呼ばれて舐められてる当主だと思われたい」
「その意図は?」
「舐めてる相手には素って出しやすいでしょ?本性を見るにはこれ程楽な方法は無いと思う」
「なるほど…まぁ深雪が良いならそれでいいが」
「そう言えば壱捨駒には素を出したの?」
「まだアイツを信用してない」
「確かに…壱捨駒は初対面の私と直ぐに縛り替えをしたからな…正直まだ私も信用はしてない」
廊下から足音がしたからこの話はこれで終わりだ。
襖が開くとお盆にお茶を3つ乗せた壱捨駒が居た。
「お待たせしました~」
壱捨駒は部屋に入ると襖を足で閉めやがった後に私の隣に座った、弐無月と私を挟んで向かい合っている。
壱捨駒は私と弐無月にお茶を渡し床におぼんを置いたが口を付けずに私達はおぼんにお茶を返した。
「それで人間会議だけど私はメンタルを殺られて父方の親族経営会社を退職しこの屋敷に静養と管理を兼ねて住んで色々あって当主になったが収入は無い…屋敷は元々柊の祖父母の物で名義は多分母で光熱費等は父の実家が払っていて私は黒い魔法のカードを使って生きている」
「「とんでもねぇクズだな」」
「うるせぇ、それで二人の衣食住は保証が出来るけど給料を出したり小遣いをあげたりは出来ないからスマホ代やバイク等の維持費等や娯楽費用は自分達で稼いで来て欲しい」
「「とんでもねぇクズだな」」
「うるせぇ、だから弐無月は今後もフリーの殺し屋を続けて欲しい」
「そうねぇ…元々誰とも縛りを結んでいないし真名を隠しているから可能だけど柊家の人間だとバレたら一大事だからそれは辞めた方が良いわね」
「うーん実際書物で読んだだけだから他の同業の家の事情とか深くは分からないし…祖父が残した書物だから正直宛にならない」
「アタシもフリーで殺って来たから大体の家の事情とかは分かるけど深い所まではねぇ」
「俺は各家の事情には三人の中なら詳しい方だけど深い所までは…」
「「「だって捨て駒だもん」」」
「自分で言う様になった」
「まぁ事実だしねぇ?」
「壱捨駒は人望は有っても詰めが甘いから結局は下っ端で終わるタイプ」
「そうねぇ使い捨てにはちょうどいいタイプ」
「そして俺は捨てられた」
壱捨駒は性格が良くて人の懐に入るのが上手い、本当は無能なフリをして柊家に潜入しているのではないかと時々思う。
弐無月は私に過去を見せる事を拒否したから壱捨駒も都合の悪い事は見ぜず弐無月と共犯かもしれない。
そもそも二人共我が家に刺客で来た訳で、ある程度の柊家の状況を把握してる筈で、無収入の私が給料を出せないのは知っているだろう。
給料以上に私に価値が有るのだろうか…有るな。
私の霊力は強い、並大抵の呪術師・呪詛師の呪詛や呪は返せる。
私を縛れれば鬼に金棒だろう、二人の真相を知るにはどうしたら良いのだろうか。
糞蛇が居れば多少は訳に立っただろうが私の意志で追い出してしまったから呼び戻して聞く事はしたく無い。
「…ちゃん?…深雪ちゃん?」
「どうかしたの?…深雪ちゃん…?」
「あ…ごめん…考え事してた」
「柊家は元々依頼を受けて呪詛返しや呪返しをしたり私有地に取り憑いた幽霊や妖怪を祓う家業だったからそれを復活させて収入を得れば良いと思うの…内容によって報酬はピンキリだけど深雪ちゃんレベルの呪術師なら高額報酬の依頼も受けられるから商売として成り立つと思うの…死者蘇生なんて呪術師や呪詛師を数人潰して行う儀式を貴女は一人で何の代償も無く行えるから一目を置かれるでしょうね」
「深雪ちゃんを縛って側に置きたい人間は沢山居ると思うけど柊家現当主というのと深雪ちゃんを縛れる程の霊力の人間は居ないと思うし…龍神の加護が有る深雪ちゃんにちょっかいを出す奴は居ないから大丈夫だと思う」
「でも柊家が家業を再開させるとなるとその界隈の会合とかに出席しないと行けないんだよね…祖父の残した日記に会合の内容や言われた嫌味等が呪詛の様に綴られてた…」
「そうねぇ…出席はしないとだし同業同士の付き合いは有ると思うけど悪い事だけでは無いと思うわ」
「面倒事が増えるのか…」
「そこでアタシよ!アタシが深雪ちゃんの秘書をするわ!殺し屋のアタシが常に側に居れば安心だし物理的にちょっかいを出す奴は居ないわ!」
「それで呪詛師の俺が深雪ちゃんの側に居れば呪術等のちょっかいを出す奴は居ない!」
「壱捨駒の生存と弐無月の事がバレるのは時間の問題だし…堂々とバラす方が良いのか」
「そしたらその時に呪詛を唱える子供達も一緒にお披露目しよう!」
「呪詛を唱える子供達?そんなのもいるの?」
「二人の襲撃前に呪詛を唱える幽霊の襲撃が有ってその子供達を私の式として妖怪にして屋敷に置いてる」
「…本当に貴女は規格外ね…呪詛を唱える子供だと橘家よね…厄介ね」
「俺が居た柳田家と子供達の橘家が厄介…」
「どうして厄介なの?」
「この業界には格が有って御三家、上級、中級、下級の四つに別れてるの…今の柊家は下級ね…当主代理のお母様の代までは中級だったわね…それで代替わりした深雪ちゃんを殺し摘みに中級の橘家と柳田家が来たのね」
「何で?」
「この業界は実力主義だから若い目は若いうちに殺す摘むんだよ…特に摘む事に力を入れてるのはその二つの家」
「だから何も分からない私を摘み殺しに来たのか…でも摘んでどうなるの?」
「ライバルを潰して格を上げたいんだろう」
「柊家は実質休業中だから会合の招待とかされてないから橘家と柳田家がどうなったかハッキリと分からないのよね」
「だから尚更…家業を再開した事を知らせないと」
「因みに今の御三家は加賀カガ家と七五三掛シメカケ家と東海林ショウジ家ね…でもね御三家って言っても代替わりすると御三家から外れたり御三家になったりと入れ替わりが激しいのよ」
「古株だからと言って権力が有る訳でも無く実力主義だから柊家が御三家に返り咲く可能性は大いに有る」
「柊家が御三家になった事が有ると何処かに書いてあったけど本当だったんだ」
「だから柊家を御三家にするわよ!」
「深雪ちゃん面倒事が増えそうで嫌って顔してる」
そもそも簡単に縛り替えが出来る縛りしかしてないのに裏切らない証拠も無ければ信じられる実績も無い。
「楽しそうな二人に水を差して申し訳ないけど正直…私は二人を信用してない…だって元々刺客だし捨て駒と見張りの殺し屋をどう信じろと?」
「まぁそうねぇ」
「真名で縛るのは命令を従わせるだけ…実際裏切られた事例も有るし」
「有るんかい」
「縛り替えは立派な裏切り行為よ…だからアタシはそこの男を信用しないわ…深雪ちゃんもそいつは裏切ると思ってた方がいいわ」
「…普通の死者蘇生の儀式は数人の術者の生命力や霊力を対価に生き返らせるが…深雪ちゃんは『我に忠誠を誓いし死者よ蘇り我の役に立て今一度忠誠を誓え愚か者』と俺の死体と血術縛りを結んだ後に俺の致命傷に深雪ちゃんの致命的箇所の血で生き返ったから絶対に裏切られない血術縛りだから大丈夫…」
「血術の死者蘇生なんて…本当に規格外ね」
「その方法しか書物に記載が無かったから…血で術を使う事を血術ケツジュツって言うのね…糞みたいな呪文だなって思ったけど」
「その書物を残したのが御三家だった時の当主なのね」
「血術が扱えるから深雪ちゃんは御三家になれるよ」
「そもそも血術しか知らないんだけど」
「普通の術では血は使わないのよ…対価が大きいから使うとしたら…ね?」
「もしかして…子供達の名付けにも深雪ちゃんの血を使った?」
「使わない方法が有るの?」
「普通は使わないわよ…まさか…アタシ達の名付けにも…使った?」
「割と多めに使った」
 左手首を見せると二人はあたふたし始めた。
「何でリストカットの位置なのよ」
「ここ以外血がよく出る場所を知らない」
「何で傷口が剥き出しなの」
「止血はしたよ」
「ちょっと血が出て布団に付いてるわよ」
壱捨駒が襖をスパーンと勢いよく開けて廊下に飛び出て行った。
「双子ちゃーん!!救急箱!!」
そのまま叫びながら何処かの部屋の襖を勢いよく開ける音がした。
「相変わらず騒がしい奴だな」
「前言撤回あいつは深雪を絶対に裏切れない…裏切ったり縛り替えしたらそのまま頸が落ちるだろうな」
「普通に怖いんだけど…血術による名付けと縛りって何か違うの?」
「血術名付けと血術縛りは同じ様な物」
「同じ様な物って事は微妙に違うのね!一回殺して血術縛りをしてもいい?ちゃんと死者蘇生するから!」
「断る」
 私は布団から出て胡座をかいている弐無月ニナツキの膝の上に自身の膝を乗せ膝立ち状態で、弐無月の懐に右腕を突っ込んでライダースジャケットの内ポケットに有る短刀を取り出した。
 丁度良いタイミングで壱捨駒が救急箱を持った双子を連れて戻って来た。
双子は部屋に入れない為、襖の向こうに居る。
「「深雪ちゃん!何してるの!」」
「弐無月と血術縛りをしようとしてる!壱捨駒!見てないで手伝って!」
壱捨駒が弐無月を後ろから羽交い締めにして腹部を足を絡めて動きを止めている。
「写真撮りたいくらい面白い図」
「深雪ちゃん!いいから早くして!」
「痛いのは嫌よ!」
「「殺し屋のお前が何を言う」」
「「深雪ちゃんの破廉恥ハレンチ!!」」
 双子はそう叫びスパーンと襖を勢いよく閉めた。
 破廉恥とは失礼なと自分の服装を見ると長襦袢姿で胸と太もも部分がはだけていた、そりゃあ破廉恥だわな。
「弐無月…頸に切込みを入れるのと腹部に刺すのどっちが良い?」
「どっちも嫌に決まってるだろ!」
「深雪ちゃん!ザクッと俺の仇を討ってくれ!」
「あい、わかった」
「おい…お前ら楽しんでるだろ」
「「当たり前だろ」」
 私は弐無月の右手首の動脈を切り傷口を抉り私の左手首の動脈の血を弐無月の抉った傷口に垂らした。

【我に忠誠を誓いし役に立て安堂武アンドウタケルよ】
 弐無月は心臓を押さえて苦しみ出した。

「何何何何!遂に失敗した!」
「怖い怖い怖い怖い!遂に失敗した!」
 二人で大騒ぎをしていると弐無月が動かなくなった。
「壱捨駒…どうしよう…死んじゃった」
「深雪ちゃん…埋める?燃やす?」
「龍神の池に沈めよう…生贄として」
「確かに…深雪ちゃんは足を持って…」
 壱捨駒が弐無月の背後から脇に手を入れて持ち上げ、私も足を持ち上げた。
「これ二人じゃ無理だ…平井権八を呼ぼう」
 壱捨駒が雑に弐無月を落して襖を開けて叫んだ。
「平井権八さーん!!手伝って!!」
「取り敢えず死体を廊下に出そう」
 壱捨駒が死体の足を持って引きずり廊下に出した、暫くすると部屋の前に平井権八が来てくれた。
「平井権八さん…死体を池に沈めるから手伝ってください」
「あい、わかった」
 平井権八は弐無月を担いで無言でスタスタと勝手口から外に出て躊躇無く池に落とした。
「ありがとうございます」
「深雪殿は死者蘇生が出来るのだろう?」
「「」」
「ハッハッハっ愉快愉快」
そう言い残し平井権八は勝手口から屋敷内に戻って行った。
「壱捨駒…私…死者蘇生出来たわ」
「そうだね…弐無月を引き上げる?」
「面倒くさい…」
「それな」
 二人で池を見ているとブクブクと水面が揺れ弐無月の上半身が出て来た。
「「きゃーおばけ!!」」
「勝手に殺すな殺すぞ」
不機嫌な弐無月が殺し屋の目をして舌打ちをした。
命知らずの壱捨駒が弐無月のライダースジャケットの下に着ている白いシャツを上から中を覗いた。
「心臓の上に俺と同じ赤い柊蝶が刻まれてる」
「え…家紋が刻まれてるの…お前ら…キモッ」
「完全に縛られたね」
「裏切ったら即死だ」
「深雪ちゃん良かったね!裏切り者には制裁を!」
「わーい!わーい!駒が増えた!あ!そう言えば壱捨駒…子供達の居た橘の家に行ったんだろ?どうだった?」
「あぁ…そう言えば…屋敷に縛られていたのは深雪ちゃんの式の六人だけだった…屋敷に縛れる呪詛師が居ないから大騒ぎだったよ」
「何故抗議しに来ない」
「橘家と柳田家はグルで弐無月が言ってた様に俺が敷地内で殺されたのに警察沙汰にもせず何もしない事を不審に思ってはいるが偵察に寄こす捨て駒が居ないのと殺し屋の弐無月と連絡が取れないから柊家の件は保留らしい」
「どうやって調べたの?」
「屋根裏に潜んで盗み聞きやまぁ色々」
「スパイ活動も出来るのに何故捨てられたのかが疑問になってきた」
「なるほど…なら会合にこちらから出向く方が都合がいい」
「でも招待状とか無いよ?」
「御三家の加賀主催の会合は基本的に同業なら入れるし深雪は正式な柊家当主だから拒めないから大丈夫」
「それでそれはいつなの?」
「三日後の十八日」
本気マジ?」
本気マジ
「深雪ちゃんはボロを出さない様に基本的に喋らないで俺が受け答えをして都合が悪い事は弐無月が誑かせば乗り切れる」
「そうそう…呪詛を唱えてた子供達も会合等の経験が有る筈だから上手く立ち回るだろう」
「なるほど…私が余計な事を言わなければ上手く事が運ぶのね」
「「ご名答」」
「子供達の説明と当日の衣装も二人に任る…私は礼儀作法の本を熟読する」
「深雪ちゃん…賢い」
「ヘマしたら…ね?」
「怖いんだけど…私はやる事があるから後は頼んだ」
「何するの?」
「礼儀作法の熟読は?」
「龍神の封印を解く」
「「いつ?」」
「今から!気が散るから屋敷に戻って!誰も外に出ないように通達しといて!」
 壱捨駒と弐無月が仲良くなってるし弐無月が壱捨駒に素を出してた…血術縛りって凄い。
 龍神の封印を解くと約束してからもう一度、書斎や蔵の書物を漁ったが直接的な事を記した書物は出て来なかったが封印を解く方法は理解した。
封印を解く方法が分かったのに放置してしまった罪悪感と初めての会合までに封印を解けば自分自身が有利になると下心も有るがこのタイミングは中々無いと思う。
封印を解くのに必要なのは『神に対する信仰心』『供物』『祝詞』『生贄』だ。
『神に対する信仰心』は実際に龍神に会っているし霊力切れの時にお世話になったから信仰心は本物。
『供物』は定番の米・酒・塩は用意した。
『祝詞』は御三家になった当主が残した祝詞が綴られた紙を発見した。
『生贄』は私自身だ、これは一か八かの大勝負だ。
普段は優しい龍神だが儀式に拘るタイプの神で何かが間違っていたらそのまま食われるかもしれないが、そもそも私自身が封印してしまったのだから殺されようと仕方が無い事だと割り切った。
この屋敷には過保護が多いから儀式等の邪魔は入る可能性が高いから屋敷内で準備をすると必ずバレる、だから蔵に儀式に必要な物を隠して準備をしていた。
時計を見て来てないから正確な時間はわからないが日が落ちてきている、儀式をするには丁度良い。
蔵で死装束に着替え供物と祝詞を持ち出し蔵をでた。
供物を定位置に置き、祝詞を読み上げた。
何回か練習もしたしふりがながふってあるから問題なく読めた、後は生贄の私が池に投身するだけだ。
普通に怖いし寒いと思いながら顔面からジャボンと落ちた。

ーーチリンーー
「深雪…思い切った事をするね」
(封印を解く直球な資料が無くて私なりの解釈でやって見たんですが違いますか?)
「惜しい」
(惜しい?)
「柊家は血術が使えないと当主にはなれない」
(祖母も母も使えなかったから仮当主)
 「儀式は深雪の祝詞迄は合っていたよ」
(…血が足りなかったのか)
「正解」
(もう一回やり直すのは有りですか?)
「そこは自分で考えて」
(分かりました…ではここで失礼します)
私は念の為、本物の護り刀を帯に差して来た、鞘から刃を抜き首の深めにを切った。
「ふふふ…深雪は大胆だね…ありがとう…二十年振りに外に出られるよ」
(約束を守れて良かったです)
「取り敢えず深雪の治療ね…手首も切って血術の代償だから仕方が無いんだけど女の子だから身体を大切にして欲しいからその都度…私が治すね…もう意識が保ってられないね…私の可愛いーー」
最後の方は何て言っていたかは分からないがそこで意識を失った。
ーーチリンーー
 
 死装束のまま龍神に背後から抱えられたまま湯船に浸かっていた。
「おはよう…深雪…寒くないかい?」
「おはようございます…この状況は一体」
「私の封印が解けて屋敷中大騒ぎで深雪を風呂に入れられる手隙の者が居なくてね…私が深雪を風呂に入れて温めてるんだ」
「ありがとうございます…」
「今屋敷には知ってる妖怪が三体と知らない妖怪が一体と深雪の式が六体と人間が二人居るね、本当に忙しそうだよ。私の封印を解くタイミングを間違えたね」
「すみません…タイミング間違えました」
「深雪らしいね。何故黒蛇が深雪を誑かしたかは私と深雪は結婚すると口約束をしたのを深雪に好意があった黒蛇が見ていて無理やり結婚すると指切りを切られて深雪は訳も分からぬまま黒蛇の言うがまま封印の儀式を成功させた」
龍神は私の家紋に噛み付いたら柊蝶を囲うように丸く龍の模様が赤く浮かび上がった。
「ふふふ…これで深雪は私の物だね、一人で風呂に入りたいだろうから私は出るよ。双子に着替えを用意させておく」
そう言い残して龍神は浴室を出て行った。
 私は取り敢えず死装束を脱いで普通に風呂に入り浴室を出て、用意されていた赤い振袖用の長襦袢を着て髪を乾かして風呂場を出るとあたふたした壱捨駒と弐無月に私の自室に連行された。
「龍神の印まで付けて何してるの!」
「面倒事を増やしやがって」
「すまん…あそこまで拗れてるとは思ってなかった」
「龍神の封印が解けたという事は蛇の双子が来ると思う」
「蛇の双子?何だそれ」
「白い方はまともたけど…黒い方は拗らせてる」
面倒くさい事になったと封印を解いたことを後悔していると襖の向こうに双子の気配を感じると直ぐにスパーンと襖を開けられた。
「深雪ちゃん着替えるから廊下に出て!」
「何でまだ足袋履いてないの!」
足袋を履き言われるがまま廊下に出ると葵ちゃんに紫地に赤い柄の振袖に金地に青柄の帯を締められて赤い小物を着付けされながら、菫ちゃんに化粧をされ髪の毛を纏められ髪飾りを着けられた。
「天敵の拗らせ蛇が来ちゃったよ!」
「話し合いが有るから立てこもってないで人間三人出て来いだって」
「二人はこれを着て!」
壱捨駒と弐無月に五つ紋の黒い羽織を渡した、元々二人は黒いきものに白い帯を締めていた為、着替えは無かった。
「早くしないと祟り殺すって」
「怖いんだけど…早急に行くとお伝えください」
返事もせずに二人は廊下を走っていった。
「早く行かないと殺される」
 私達は意を決して戦場に行くと居間の襖が見知らぬ襖になっていて、その前で私達を待つ式が居た。
男の子は白い着流しに黒い帯で女の子は白い振袖に黒い帯を締めて小物は墨色で男女共に五つ紋だった。
見知らぬ襖は金地に大きな紫と青が混ざりあった龍が襖二枚分を使い男鬼オオニ女鬼メオニの頭を掴み天に登る様子が描かれていて、左側一枚に白蛇が男鬼の胴体に絡みつき右側一枚に黒蛇が女鬼の胴体に絡みついている独特の絵柄にドン引きしながら、恐る恐る開けてみると教科書に記載されている平安時代と大政奉還が混じった様な空間が広がっていた。
一段上の畳に龍神が居るが御簾越しで、一段下の畳の左側に狩衣を着た蛇の双子が襖を背にし龍神に対し横向きに座り・右側に花魁姿の小紫さんといつも通りの姿の葵と菫が蛇の双子に向かい合うように座っていた。
入って着た襖の手前に打掛けを着たお岩さんと引き振袖姿のお染さんとお七さんに紋付袴の久松さんと吉三郎さんと平井権八が座っている。
私は蛇の双子達と少し距離を取り龍神の向いに座り私の右に壱捨駒、左に弐無月が座り私達の後ろに式の六人が座った。
会合なれしてる二人と子供達は立場を弁えていて頼もしい。
この屋敷に住む神と妖怪と人間の大集合だ。
この重い空気で最初の一言を発したのは勿論龍神だ。
「柊家当主就任実にめでたい。雪路も雪子も当主代理だったが深雪は雪之助以来の血術使いで御三家に返り咲く事が叶うだろう。それと封印を解いた事に感謝する」
「祝福並びにお褒めのお言葉を謹んで頂戴致します。幼い頃訳も分からぬとはいえ封印してしまった事を深くお詫び申し上げます」
私は三指着いて頭を下げた、二人だと優しい龍神でも公の場では上下関係はハッキリさせたいのだろう。
「約束通り封印を解いたからこの件は不問とする」
「寛大なお心感謝致します」
「それで私の弟子の白蛇と黒蛇は私がこの屋敷に居る限り側に置かねばならぬ故黒蛇の強制退場を解いてくれ」
「黒蛇様の件承知致しました」
「ふふふ…深雪は本当に可愛いね、黒蛇もそう思うだろ?」
「深雪ちゃんが可愛いのは童の頃から変わらず、師匠が封印されてる間も可愛かったですよ」
「黒蛇…口を慎め」
「まぁ良い、深雪後でね」

ーーパンッーー
 気が付くといつもの居間に龍神と蛇の双子以外が居た。

「今の何だったの…あんな部屋あった?そもそも皆の服装がいつもと違う…私も引き振袖が着たかったし打掛けも羨ましい…」
「深雪様…あれは龍神様の術です。龍神様の御前ですので普段着では失礼ですので」
「なるほど…龍神ってミカドだったの?そもそも蛇兄弟が狩衣を着てるって…平安時代の生き物なの?アレら」
「そうですね…あの姿がお好きなのも有るかと」
「なるほど…あの術の中に龍神と蛇の双子が住むんですか?」
「そういう事になります…基本的に用がある場合のみあの部屋に呼ばれるのでこちらから一方的に行く事は出来ません」
「家庭内別居的な感じね…触らぬ神に祟り無し…蛇の双子は龍神の弟子ってどういう事ですか?」
「白蛇さんと黒蛇さんは龍神様の元で龍神になる修行をされています…龍神様が封印されてる間は白蛇様は隠世で別の龍神様に修行を…黒蛇さんはご存知の通りです」
「そもそも龍神は何故この屋敷に居るんですか?」
「元々この土地に封印されていた龍神様を初代柊家当主の雪之助様…深雪様の曾お祖父様が封印を解きその代償で龍神様は加護を与え柊家はそこに屋敷を建てたと聞きました」
「小紫さんは物知りですね…」
「龍神様の次に古いですから」
本来なら親から子へ家業の事も家業の由来も伝えて行く筈なのに我が家は妖怪に教えて貰う少し他所とは違う…面白い、近々の事は後で母に問い詰めよう。
そもそも平安時代の龍神が何でこんな田舎に封印されたのか気になる…
「それでどうして小紫さんは柊家に住んでるの?」
私がずっと知りたかったけど聞けなかった事を壱捨駒が聞いてくれた。
「権八様の墓の前で自害した後に禿だった葵と菫も自害しました。成仏出来ずに幽霊として三人で彷徨っている所を雪之助様に拾われ雪之助様の式として妖怪にして頂きました、深雪様の式の子供達と同じで真名で縛られてはいないので当主様亡き後は自由になりましたが行く宛が無い私達三人を深雪様のお祖母様の雪路様はそのまま屋敷に置いてくださいました。以来住まわせて頂いております」
なるほど…だから我が屋敷に住み続けていたのか。
「ねぇどうして心中四人組は此処に住んでるの?隠世カクリヨで働いてるなら向こうに普通住まない?」
気になっていたのに聞けなかった事を今度は弐無月が聞いてくれた。
「私達は現世でバラバラで彷徨っている所を平井権八さんの様に雪路様に見つけて頂きました」
「隠世に住まない理由は芸者と番頭では一緒に住む事が出来ないと説明をしたら屋敷で一緒に住めば良いと武蔵様と雪路様に住まわせて頂いております」
お七さんとお染さんが答えてくれた。
「理由は分かったけど小紫さんと心中四人組はどうして隠世に働きに行くの?」
私が一番気になってた事をまた壱捨駒が聞いてくれた。
「「家賃を払うためです」」
「家賃収入あったんかい」
「月いくら?」と食いつく私。
「「一人三万円」」と元気良く答える双子。
何処からか電卓を出した壱捨駒。
「雪路様が他界してからの家賃分は七人分まとめて有りますので後でお持ちします」
流石小紫さん…抜かりが無い、使わなかった電卓を壱捨駒は静かに片付けた。
「あの…小紫様…私に仕事を紹介して頂けないでしょうか…?」
「私が今働かせ頂いている隠世の茶屋で給仕を募集しているのでそこでどうでしょうか?」
「是非!お願いします!」
「小紫さんとお岩さんが給仕をしてる姿が見たい!隠世に行ってみたい!」
「深雪様も是非!来てください!」
「落ち着いたら行きます!そう言えば…無職の葵ちゃんと菫ちゃんの家賃は小紫さんが払っているんですか?」
「葵と菫は私の連れなので私が払っています」
「なら葵ちゃんと菫ちゃんは我が家で雇うので家賃は免除で平井権八さんも免除します…心中四人組と小紫さんとお岩さんからは家賃を頂くので屋敷の仕事はしなくて大丈夫です」
「「私達は何を?」」
「葵ちゃんと菫ちゃんは炊事洗濯掃除をお願いします、平井権八さんは主に用心棒と外の見張りをお願いします。給金は後で相談です」
「アタシ達の給料は?」
「壱捨駒と弐無月と式の子供達は衣食住の保証+歩合で」
「「私達…料理した事無いんだけど…」」
「練習すれば作れる様になるよ…失敗しても皆で食べれば怖く無い」
「ねぇ深雪ちゃんの呼び方を統一しましょう…妖怪達と平井権八に関しては今まで通りでいいわ、は表に出ることが無いから。アタシ達は『当主様』式の子供達は『主様』ね?これは柊家の威厳に関わるから絶対ね?それと当主様には敬語ね?」
「我が家の黒幕の弐無月に従ってね!怖いから!って事で!それと…お岩さんの件は各自頼みました、日が暮れたので出稼ぎ組は隠世に行かないと行けないと思うので今日は解散で!」
それぞれ返事をして居間を出て行った。
「平井権八さんは用心棒や外の警戒をして頂いて基本は自由で…双子は今日の夕飯をよろしくね…人間二人は私の部屋で話し合いで子供達は糞蛇が破った結界の穴と結界の粗を探してきて…よろしく」
それぞれ返事を聞いてから居間を後にした。
 壱捨駒はお茶を入れてから行くと言い弐無月と二人で私の書斎に入った。
私は机を背に座布団に座り弐無月が何処からか二枚座布団を持って着て、私の左右に距離を取って置いた。
足で襖を開けて壱捨駒がお茶を三つ乗せたおぼんを持って入って来て足で襖を閉めた。
「飲んで貰えないお茶を入れて来ました~」
「さっきのはすまん」
「あの時は異物混入を疑って飲まないのが最良だろう」
「そうだね…あの時は信用されてなかったからね」
図星をつかれて弐無月と二人で黙り込んでしまった。
「深雪ちゃんそれで話って何?」
「そうそう話って?」
「三人の時は深雪ちゃん呼びに敬語は無しなのね…その方が話しやすくて良いけど…それで要件はね…私が買物や用事で出かける際に弐無月は連れて行くのは決定で留守番用の呪詛師か呪術師を雇いたいんだけど宛有る?」
「確かに…俺達が留守の間の来客対応や呪詛関連の対応出来る奴が欲しい」
「弐無月とか知り合い多いだろ?」
「俺の弟とか?橘家に居る呪術師で用心棒として雇われてるだけだから縛りも無いしヘッドハンティングしやすいと思う」
「血術縛りを結んでくれる相手じゃないと嫌だ」
「深雪とならしばれると思う…実際は縛らなかったんじゃなくて縛れなかったから」
「取り敢えず話を聞いて見ようと思うんだけど…どんな人?」
「双子の弟だから俺がもう一人居ると思って」
「「怖いんだけど」」
「まぁ気にするな…飯を食い終わったら弟の所に行って来る」
廊下をドタドタと走る音が聞こえて襖の前で止まった。
「三人共…夕飯…もどきが…出来たよ」
「「「もどき」」」
「皆で食べれば怖くないんでしょ?」
そう言われ書斎を出て台所に行くと見た目は食べそうな物が並んでいた。
我が家の台所は広いからコンロや水周りや食器棚の他に大人数で座れる大きなテーブルが有り椅子も沢山有る。
人間三人と双子と用心棒と式の十二人でも座れる、上座のパーティ席に私が座り私の向かいの下座に扉を背に平井権八が座った。
私の右側に壱捨駒と弐無月と式の男の子で座りコンロと水周りを背にした左側に双子ちゃんと式の女の子が座った、今日からここが固定席だろう。
私が「いただきます」と言うと他の十一人も「いただきます」をして食事に手を付けた。
白米・わかめと豆腐の味噌汁・卵焼きだった、食材が無いから仕方が無いが普通に美味しかった。
「美味しい!これだけの食材でよく作れたね急なのにありがとう」
「「普通に旨い」」
子供達も平井権八も美味しいと言ってご飯を食べていた。
「葵ちゃんと菫ちゃんは明日の朝食までに足りない食材や生活用品を書いた買物リストを私にください!明日弐無月と買い出しに行って来ますので留守中の来客対応や呪詛師等の対応は壱捨駒に任せます…式は三人連れて行くので六人で話し合いで決めといて!葵ちゃんと菫ちゃんは基本的に三食十二食お願いします…ご飯がいらない人は二人に申告してください」
「「分かりました!朝までに買物リストを作ります」」
「主様!朝までにお供の三人を決めておきます!結界の補習はいつしますか?」
「この後するので駄目な部分を教えて…その間平井権八さんには警護をお願いします!壱捨駒は…何でも無い!弐無月にはさっきの事をお願いします」
 ご飯を食べ終え子供達と外に出た、弐無月は早々に屋敷を出て行った。
後ろには平井権八が控えていて壱捨駒は敷地の入り口で結界と刺客の監視をしている。
子供達は丁寧に駄目な箇所や緩い箇所を教えてくれたがこの結界はおそらく祖父か祖母が張った物で全体的に劣化してる為、張り直す事を決めた。
 私の血で家の敷地に陣を書いたが慣れてない為、相変わらず汚い陣が出来上がった。
そこで糞蛇の強制退場を解く事を思い出した、糞蛇の強制退場を解く札を右手に持った。

【黒蛇の強制退場を解く】
言い終えると前回同様に札が燃え散り跡形も無くなった。

 強制退場を解く術に耐えられなかったのか『パッリーン』と綺麗な音を出して結果が砕け散った。
「わー綺麗」
「呑気な事を言ってないで早く直さないと!」
そうだったそうだったと現実に戻った私は直ぐに血術結界に取り掛かった。

【我が屋敷を覆いし結界の帳よ今一度結界を張り直しをお頼み申す】
ーーパチンーー
手を叩くと綺麗な紫と蒼みかかった夜空のような幻想的なドーム状の結界の一番高い所には赤色の柊蝶が浮かび上がった。

 結界は悪鬼や邪気を祓うだけで人間・妖怪・幽霊は入って来られるが私の血が混じった墨汁で書いた【強制退場】の血術札があれば強制的に結界から弾き飛ばす事が出来る。
これは最終手段だが一番は平和的に自ら帰って貰うのが好ましいがそうは言っていられない事も有るだろう。
だから糞蛇が結界を張り直す機会をくれたと思えば今回の結界破りは良かったのかもしれない。
 取り敢えず、今日やらないといけない事は終わり書斎に戻り今後の収入や出費等の大まかな計算をして明日の行きたい所を考えてから静かに襖が開けられた、開いた襖の方を見ると弐無月だった。
「おかえり…どうだった?」
「明日の昼に外で会う約束をしてきたから昼はいらないと双子には伝えた」
「分かった…明日は本屋とスーパーに行きたい」
「分かった…また明日おやすみ」
そう言うと弐無月は廊下に出て静かに襖を閉めて去ってった。
暫く書物を読み漁って居ると襖の向こうに黒蛇の気配がした為、机に伏せて寝たふりをした。
「深雪ちゃん…久しぶり…あの時はごめんね…どうしても深雪ちゃんに話したい事が有るから出て来て欲しい…寝たふりしないで…」
久しぶりの拗らせヤンデレ蛇には寝たふりが通用しなかった。
「結界を強制的に破った事も謝るから…」
遂に泣きながら謝りだした、怖い。
「分かった…今行く」
私はまだ振袖を着ている為、直ぐに襖を開けて廊下に出た。
久しぶりに見た拗らせ蛇は先程の狩衣姿ではなく黒い着流しだった。
「久しぶり…会ってくれてありがとう」
「話したい事って?」
「二人きりになりたいけど深雪ちゃんの部屋には入れないから」
そう言うと襖の隣の壁に手を当ててブツブツと呪文を唱えると、襖が二枚浮き出てきた、銀地に黒蛇がきもの姿の女児にまとわりつく絵柄だった。
直感でこれは幼い頃の私だと分かり怖くて逃げようとしたが叶わず襖の奥に連れて行かれた場所は普通の畳の部屋だった。
「ここは俺の術で出来てるから邪魔は入らない」
「黒蛇さんも異空間の術を使えるんですね」
「ここは俺の寝室だから…深雪ちゃんを独り占めしたいし用事が有るから」
何も言い返せずに沈黙を貫いているとそのままに布団の上に胡座をかいた黒蛇の膝の上に横向きで座らされた。
「深雪ちゃんが小さい頃はこうやって遊んだね」
両手で私の顔を包み強制的に目を合せて会話をする、小さい頃から変わらない。
「それで黒蛇さんのお話とは?」
「俺は龍神の弟子を辞める事にしたから俺と血術縛りをして欲しい」
「…龍神様の許可は取ったの?」

ーーチリンーー
「私は初耳だが?」
邪魔が入らない筈の黒蛇の異空間の術に龍神が入っていた。
龍神は濃い青の狩袴に紫の狩衣を着て、黒い烏帽子エボシを被っていて、鼻筋が通り細い眉に切れ長の二重で唇が少し紅く兎に角色男だ。
「弟子の寝室に許可なく入って来るとは相変わらずですね…師匠は」
「それは悪かったね私の花嫁がまた誑かされないか心配でね…深雪はどちらがいい?」
「私は着流しより狩衣が良いです!…私は十二単が着てみたいです!」
「ふふふ…深雪が十二単が着たいなら着させてあげる」

ーーチリンーー
 黒蛇の寝室とは違う部屋に移動していた。
「ここが私の寝室だよ…十二単を着させてあげたいけど使用人は返しちゃったから後日着させてあげる」
「…ありがとうございます」
「深雪は綺麗な長い黒髪だから似合うよ」
布団に腰を下ろした龍神の膝の上に横抱きの様に座らされた。
「深雪…双方で真名を縛ろうか」
何言ってるんだこいつ…拗らせ蛇よりやばい、逃げようと思い辺りを見回したが出口が無い。
正確に言えば襖や障子は有るが開けた先が何処に繋がっているかわからない。
「龍神様…少し考える時間が欲しいので今日は…」
「ふふふ…深雪が逃げようとしてるのも真名を縛りたくないのも分かるけどこれは深雪の為でも有るんだよ」
「私の為?」
「これから深雪は正式な柊家当主として活動するにあたってちょっかいを出してくる輩も多いだろう…ただのちょっかいならまだしも既成事実を作られない為にも龍神の私の加護を示す必要が有る」
「でも私の手の甲の柊蝶には龍神様の印が有るから…」
「それだけだと弱いからね?正式な縛りをしてもう片方の手の甲に私の正式な印を入れたいんだ」
そう言いながら左手の甲を撫でている龍神は糞蛇よりもやばい目をしていた。
「双方の真名を縛ると私には龍神様の印が入り龍神様には私の印がが身体に入るんですか?」
「深雪と同じく左手の甲に柊蝶が入る…それにお互いを真名で縛っているから私の寿命も霊力も分け与えられる」
「老いてまで長生きしたくないです」
「縛った時のまま見た目の時間が止まるから今の深雪のまま老いないし霊力も減らない悪い話ではないだろう?」
「因みに拒否権って…?」
「無いよ…私の真名は紫青シセイ
紫青は自分の首に短刀を入れた後に私の首にも短刀を入れた後にお互いの血液を傷口に入れた、普通にグロいし痛いしで涙がちょちょぎれそうだ。

【紫青は深雪の真名を縛り】と龍神が唱え、
【深雪は紫青の真名を縛る】と私が唱えた。

呪文を唱えた後はとにかく痛くて騒いでいるのに紫青は全く動じず私の頭を撫でている。
「ふふふ…深雪はやっぱり可愛いね…私の与えた痛みに泣く所も愛おしい」
痛みと恐怖で震えているが急に痛みが無くなった。
「深雪は女の子だから傷が残らないように治したよ…左手の甲を見てみて」
恐る恐る見てみると赤い竜の丸が浮き上がっていた。
お互い血術縛りをしたから紋が血の様に赤いからグロい。
「痛みに耐えて偉かったね」
幼子をあやす様に抱きしめて頭を撫でたりと甘やかされた。
「本当はこのまま一緒に居たい所だが用事が入ってしまったから埋め合わせは後日…黒蛇が弟子を辞める件は承諾したから深雪の好きにしていいよ」

ーーチリンーー
また空間を飛ばされた、今度は何処だと周りを見渡すと胡座をかいた黒蛇の膝の上に横向きで座っていた。
「…深雪ちゃん…おかえり」
「…黒蛇さん…ただいま…龍神様が黒蛇さんが弟子を辞める件は承諾したって」
彼は私の左手首を掴み手の甲を見て悲しい顔をした。
「俺の事は好きにしていいって言われた?」
「…言われた」
「つまり…俺を破門したからこの屋敷に置いておくかの権利は深雪ちゃんに有るって意味で…」
また泣き出してしまった、情緒不安定過ぎるだろ。
「深雪ちゃんに捨てられる位なら殺して欲しい」
「泣かないで」と袖口から長襦袢を出して涙を拭った。
「俺を捨てないで」と泣くのが少し可愛く思えてきた、顔面はとても良い。
「血術縛りをして式になりたいの?」
黒蛇は両手で顔を包み目を合わせてきた。
「深雪ちゃんの側に居れるなら何でもいい」
「分かった…黒蛇さんの真名は?」
「…無いから深雪ちゃんに名付けして欲しい」
「分かった…名前を決めるから今日は…」
「今日は一緒に居たい…血術縛りをしないと深雪ちゃんが離れて行きそうで怖い」
私は情緒不安定のメンヘラ蛇妖怪が怖い。
「分かった…今日は此処に泊まるから…名前も考えるから…足袋と帯と振袖を脱いでも良い?苦しくて限界」
無言で帯と振袖を素早く脱がせた後に足袋まで脱がせてくれて楽な長襦袢姿になれた。
長襦袢姿になった黒蛇がいつの日かの様に下半身が蛇になり私の長襦袢の隙間から地肌に絡みついてきて身動きが出来ない状態で彼の膝の上に横向きで座っている。
「俺は深雪ちゃんを守る式になりたい」
「分かった…名前は…名前は…漆蛇ウルチ!」
納得したのか鞘を抜いた短剣を渡されてた。
黒蛇の右手首を切り自身の左手を切りお互いの血液を混ぜ合わせた、普通に痛い。

【我に忠誠を誓いし黒蛇に漆蛇と名付ける】
弐無月と同様に心臓を押さえて苦しみだした。

私はその間に自分の止血を行なった。
暫くすると漆蛇の額に赤い柊蝶が浮かび上がってきた。
成功して良かったが私は名付けと相性が良くない為、意識を保てずにそのまま意識を失った。
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