血術使いの当主様

重陽 菊花

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深雪の覚醒

妖怪屋敷に島流し

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【六月八日】
 翌日目が覚めると二人と一緒にいた時間が長かったからか一緒に寝たからかはわからないが姿が普通に見える様になった。
記憶の中と同じ七歳位のままだった。
葵も菫も黒髪で桃割れの日本髪を結っている。
藤色の振袖に半衿と足袋が白で黒色の帯を締めている。
髪飾り・帯揚げ・帯締め・志古貴は深紫で統一されている。
垂れ目垂れ眉毛で几帳面な性格なのが「葵」で
吊り目釣り眉毛で荒っぽい性格なのが「菫」だ。
バランスが取れてる仲良し双子だ。
「二人とも…凄く可愛い…」
思わず漏れてしまった。
「「私達可愛いでしょう!!」」
「とっても可愛いよ…一階のリビングに母が居るから先にそっちに行っててくれる?」
「「は~い」」
そう言うと双子は私の部屋を後にした。
 私はいつも通りに支度してリビングに行くとソファーで飛び跳ねて遊んでいる双子を父が口を開けて見ていた。
「ねぇお父さんにも見えるの?」
「あぁ可愛らしい双子の女の子がソファーで遊んでる…」
「ふふふ…女の子って…見た目は幼いけど私が幼い頃から二人の容姿は変わってないから結構な歳よ」
「結局あの二人は何なの?」
「簡単に言うと妖怪ね、詳しい事は屋敷で聞いて」
「「ねぇお腹すいた!ご飯はまだ?」」
ソファーで遊ぶのに飽きたのか双子はこちらにやって来た。
「ご飯は出来てるから椅子に座ってね」
そう言われ双子と父と私は大人しく席に着いた。
椅子は四脚しかないので双子には二人で一脚に座ってもらった。
母は人数分のピザトーストを持ってキッチンから出て来た。
「「わーい!ピザトースト!!私これ好き!!」」
双子がそう言い終える頃には既に手にピザトーストを持って食べていた。
「雪路のも美味しかったけど」
「雪子のも美味しい!」
「「深雪は作らないの?」」
「私は料理が全く出来ないから作らないよ」
「「そんなんじゃ嫁に行けないよ!!」」
私は双子に図星をつかれてしまった為、大人しくピザトーストを食べ始めた。
食べ終わった双子はまたソファーで遊び始めた。
私達人間三人組は大人しくピザトーストを食べ終えた。
 荷物を持って家から出て車に乗った。
「「わーい!車!久しぶり!!」」
はしゃぐ双子と私は後部座席・母は助手席・父は運転席だ。
これから柊本家の屋敷に二時間かけて向かう。
この調子で双子が騒いでるのかと思いきや秒で寝た。
車内はラジオが流れているが人間三人組の会話はない。
父は空気だからいいとして、母に双子の事や主様の事や屋敷の事を聞いても的を射た回答は返っては来ないだろう。
つまり話す話題がない、だから私も双子を見習って寝た。

ーー夢を見ている自覚があるーー
私は柊家の本家の裏庭にいる。
昨日も夢に出て来た男と幼い頃の私が裏庭にある小さな祠がある池の前でコソコソと何かを約束をしている。
今回も動く事の出来ない私は見ているだけだ。
コソコソ話が終わると男は振り返った、相変わらず変な紙を顔につけている。
【深雪…早く戻っておいで】
また、そこで目が覚めた。

「「やっと着いた!!」」
「深雪ちゃん!!早くしないと!!」
「主様が待ちわびてる!!ほら早く」
私に拒否権なんてものはなく菫に車から引きずる様に降ろされた。
双子に両手を掴まれて屋敷に連行された。
柊家の屋敷は家主兼来客用で普通車が六台止められるの駐車場スペースがある。
その向かいに昔ながらの立派な門構えがあり【柊】とこれまた立派な表札が掛けてあり、防犯会社のステッカーが貼ってある。
 私の両手を掴んで既に双子は敷地内に入っているが敷地に踏み込む勇気がない。
本能的に何かを感じる、入ったら戻れないと。
「どうしたの?深雪ちゃん」
「さっさと行きましょう?」
「入ったら戻れない気がする…」
「「今更戻れないに決まってるでしょ」」
そう言うと双子は私の両腕を引っ張り敷地内に侵入させた。

――チリン――
【深雪…早くおいで】
鈴の音と夢の男の声を聞いた瞬間に私の記憶は終わった。
 
 目が覚めると畳の上に引かれた布団で寝ていた。
障子の外は暗く部屋の中を見渡してもあまり見えない。
起き上がって枕元にある自身の鞄の中のスマートフォンを付けたが、眩しくて目をそむけてしまった。
「三時二十八分」と時刻を表していた。
昼前に屋敷に着いて今まで寝てたとなるとかなりの時間を寝てた事になる。
何か大切な記憶の様な夢を見たが全く思い出せない。
二度寝をしようとしたが寝すぎて寝られない…ならやる事は唯一つ、妖怪屋敷での肝試しだ。
布団から出ると白地に柄の入った浴衣を着ている、母か誰かが着せてくれたであろう。
 静かに障子を開けて廊下に出ると満月ではないが月が綺麗だった。
廊下をそろりそろり歩いていると先程の夢で見た懐かしい縁側を見つけた。
夢と同じ様に座って外を眺めるが、大切な何かを思い出せない。
思い出す事を諦めた私は立ち上がり肝試しを再開した。
誰も居なく家具も少なく寂しい畳の部屋が幾つかあったり、食材も飲料すらない寂しい台所や何もない風呂場を見て気が付いた。
生活感は全くないが埃一つない、毎日誰かが掃除してる。
最後に住んでいた祖母が他界して空き家になってから三年は経っているのに、庭が全く荒れていない。
裏の祠もちゃんと新しいお供物が上がってる。
気配はしないがここには妖怪誰かが住んでいる。
そう気が付いたら怖くてたまらない、双子が他にも妖怪が住んでると言ってた事を思い出した。
「普通に怖いんだけど」
声に出してしまったが反応はない、葵も菫もいないし心細い。
さっきの部屋に帰ろうとしたら庭から子どもの声が聞こえてきた。
もしかしたら葵と菫かもしれないと思い庭を覗いたら予想通り二人が鞠で遊んでいた。
「平安時代の貴族かよ」
心の声が漏れてしまい二人に気づかれた。
「「あ!深雪ちゃん!」」
「目が覚めて良かった」
「急に倒れて心配したんだから」
「今は私達以外いないから」
「「明日の朝は全員集合!!」」
「え…全員集合って…」
「ここの屋敷に住んでる妖怪が帰って来る」
「夜は基本的に皆、外に出てるからいないの」
「「私達は留守番組なの!!」」
「不法侵入する妖怪を始末したり」
「入って来た人間を追い出したり」
「二人が屋敷を守ってるんだね!凄いね!」
「「そうなの!!私達は凄いの!!」」
「そろそろ深雪ちゃん部屋に戻って」
「人間はまだ寝る時間なんでしょ?」
「そうだね…部屋に戻るね、おやすみ」
「「おやすみなさい!!」」
そう双子に言われた為に部屋に戻る事にした。
部屋に戻って布団に入ったら目が冴えてたはずなのに睡魔が襲って来た。
私は睡魔に抗う事なくそのまま寝た。
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