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陛下が西の国境の宿へと着き、とある一室へと入ると、ベッドの上で横たわる女と女の顔を覗き込む母親、そして女の足の間にいる密偵の三人が居り、女はちょうど出産中だったことを知る。
普通ならば女の出産の苦痛に耐える声などが響き渡るはずなのだが、部屋の中に女の声が聞こえてくることはなく、少し間をおいて赤子の産声だけが部屋に響いた。
陛下は密偵の手元にいる赤子の元へと無言で近づいて行く。
血のついた赤いタオルにくるまれる赤子を見て目を見開いた。
その赤子の髪色は、黒に近き色ではあるが金色であったからだ。
明かりに反射した髪色はキラキラと輝いている。
あのときに陛下を襲った女はそのまま陛下のお子を身ごもり、この赤子をこの世に産み落とした。しかも男ではないか。
眉間に深い皺を寄せた陛下は、ベッドに横たわる女を見たが、女は青白い顔をしたまま瞳を見開き天井を見つめたまま動かない。
女は既に息絶えていた。
この赤子をこの場で殺すことにした陛下は護身用として持ち歩いていた短剣を取り出し、密偵に赤子を適当な所に置くように命じる。
視界に女の母親が目を閉じ床に座り、頭を地面へとつけて無言で震える姿が見えたが何とも思わない。
陛下は短剣を持ち、大きく振り上げ、一突きで終わらせようとしたが…
「おやめくださいませ!」
不意に聞こえた愛しき人の声に、振り下ろすのをやめ声のした扉の方を見たのだそうです。
そして最愛の人がこの地まで変装をして来たことを知り、親に罪はあれど、この赤子には罪はない。半分はあなたの血の入った子どもなのでしょうと…チャンスを上げるように王妃に言われたのでした。
王妃は赤子の元へと歩み寄り、男児であることを知ったようで…
少し悲しげに笑みを浮かべると、男児を慣れた手つきで抱き上げ、ベッドの上で息絶えている女を一目見たあとに、床に頭を擦り合わせている女の母親の前に座り込むと、母親に罰として陛下が視察をしている2日間の間に、他の方に宿を譲り、共に城へと来て赤子の世話をするように命じました。
視察を終え、皆で城へと帰ると王妃は妊娠し、療養ということで離宮へとこもり、早産という形で出産ということに。
エイクズ殿下の年齢は偽られ私と同じ歳になりました。
その後母子ともに体調に難があるということで1年ほどは公の場には出なかったそうです。
エイクズ殿下の事を実の息子であると認めたくなく、視界にもあまり入れたくなかった陛下は、教育等を教師陣に全部任せ、エイクズ殿下が10歳となり婚約者を決めなければならないその時まで、必要最低限しか接しませんでした。
王妃様はスピカ様や、後にお生まれになる第二王子殿下と変わらぬように接しておられたようですが…
ある日を境にエイクズ殿下に避けられるようになってしまいあまり会うことができなくなったらしいです。
時は過ぎていき、10歳になり婚約者をたてなければならなくなった時、年齢も釣り合い、王家や北の王家の血を継ぐ私を婚約者へ白羽の矢を立てた陛下。
10年という年月は、少しずつ陛下を変えていったらしく、家族としての愛情などは全く抱けないものの、王として父親としてエイクズ殿下に直接勉強に真剣に取り組むようにやら、婚約者殿の事を大切にするように注意をし、私のお父様のことが怖かったのかお父様には一切知られないように隠してきたのだそうです。
私は一人の人間としてとても愚かだったと。申し訳ないと謝る陛下に、私はお気になさらずと内心少し呆れつつも言葉を紡いだのでした。
「今回の婚約は解消とし、決してユミリアちゃんの名に傷が付かぬように配慮するから」
「はい。ありがとうございます。陛下」
色々と心の中がモヤモヤとするが、私は反射的に陛下へと返事をする。陛下とエイクズ殿下はやはり親子なのでしょうと内心で毒づきながら。
「エイクズとあの令嬢の処分で望むものはあるかい?詫びとして私が叶えてあげよう。死罪でも何でも言って良いんだよ」
死罪と陛下は述べられたが、その目は死罪のみを望んでいそうな感じがした。婚約した8年間を無駄にされ、そして裏切られた高貴な令嬢が望み、王族失格な行動を長年やってきたエイクズをやっと始末できると顔に書いてあるような気がしたのは気のせいではないのかもしれない。
「望むものですか?」
私は不思議そうに陛下に尋ねてみた。
「ああ。死罪とか色々あるだろう?」
陛下の目の奥がどこか仄暗く感じた。
「おい!二人で何を話してる」
あら?丁度良いところにお父様の石化が解けたようですね。
「私があのお二人に望むものはですね…」
普通ならば女の出産の苦痛に耐える声などが響き渡るはずなのだが、部屋の中に女の声が聞こえてくることはなく、少し間をおいて赤子の産声だけが部屋に響いた。
陛下は密偵の手元にいる赤子の元へと無言で近づいて行く。
血のついた赤いタオルにくるまれる赤子を見て目を見開いた。
その赤子の髪色は、黒に近き色ではあるが金色であったからだ。
明かりに反射した髪色はキラキラと輝いている。
あのときに陛下を襲った女はそのまま陛下のお子を身ごもり、この赤子をこの世に産み落とした。しかも男ではないか。
眉間に深い皺を寄せた陛下は、ベッドに横たわる女を見たが、女は青白い顔をしたまま瞳を見開き天井を見つめたまま動かない。
女は既に息絶えていた。
この赤子をこの場で殺すことにした陛下は護身用として持ち歩いていた短剣を取り出し、密偵に赤子を適当な所に置くように命じる。
視界に女の母親が目を閉じ床に座り、頭を地面へとつけて無言で震える姿が見えたが何とも思わない。
陛下は短剣を持ち、大きく振り上げ、一突きで終わらせようとしたが…
「おやめくださいませ!」
不意に聞こえた愛しき人の声に、振り下ろすのをやめ声のした扉の方を見たのだそうです。
そして最愛の人がこの地まで変装をして来たことを知り、親に罪はあれど、この赤子には罪はない。半分はあなたの血の入った子どもなのでしょうと…チャンスを上げるように王妃に言われたのでした。
王妃は赤子の元へと歩み寄り、男児であることを知ったようで…
少し悲しげに笑みを浮かべると、男児を慣れた手つきで抱き上げ、ベッドの上で息絶えている女を一目見たあとに、床に頭を擦り合わせている女の母親の前に座り込むと、母親に罰として陛下が視察をしている2日間の間に、他の方に宿を譲り、共に城へと来て赤子の世話をするように命じました。
視察を終え、皆で城へと帰ると王妃は妊娠し、療養ということで離宮へとこもり、早産という形で出産ということに。
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その後母子ともに体調に難があるということで1年ほどは公の場には出なかったそうです。
エイクズ殿下の事を実の息子であると認めたくなく、視界にもあまり入れたくなかった陛下は、教育等を教師陣に全部任せ、エイクズ殿下が10歳となり婚約者を決めなければならないその時まで、必要最低限しか接しませんでした。
王妃様はスピカ様や、後にお生まれになる第二王子殿下と変わらぬように接しておられたようですが…
ある日を境にエイクズ殿下に避けられるようになってしまいあまり会うことができなくなったらしいです。
時は過ぎていき、10歳になり婚約者をたてなければならなくなった時、年齢も釣り合い、王家や北の王家の血を継ぐ私を婚約者へ白羽の矢を立てた陛下。
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「はい。ありがとうございます。陛下」
色々と心の中がモヤモヤとするが、私は反射的に陛下へと返事をする。陛下とエイクズ殿下はやはり親子なのでしょうと内心で毒づきながら。
「エイクズとあの令嬢の処分で望むものはあるかい?詫びとして私が叶えてあげよう。死罪でも何でも言って良いんだよ」
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