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何も出来なかった私へ
しおりを挟む絵描きの友達がいた
彼女は本当に楽しそうに絵を描いて、見てるだけで私も楽しくなった
特別売れることも無かったが副業も一生懸命こなし、笑顔を絶やさず過ごしていた
ある日、彼女はテロに巻き込まれ、家族と自身の両腕を無くしてしまった
それから彼女は苦しそうに絵を描くようになった
口で筆を持つ、足でキャンバスを踏み荒らす、全身でインクを塗りたくる
おそらく同じことをしたとしても、以前の彼女なら笑顔でしていただろう
しかし今は顔を歪め、歯を食いしばり、悲しみや怒りの行くあてを探し求めているかのように絵を描く
それをみて苦しくなる私は彼女を哀れに思っているのか、それとももう会えない過去の彼女に懸想しているのか
いや、ただ彼女の気持ちに当てられてるだけかもしれない
それらの絵は最後に遺品のリップを唇に塗りたくり、キャンパスにキスをして完成した
苦しみと悲しみのこもった絵は高く売れた
副業など必要ないほど、よく売れた
それでも、彼女に笑顔は戻らなかった
段々と飲まず食わずで無茶な創作活動をすることが増え、体をよく壊すようになっていった
それと反比例するようにより迫力のある作品が生まれ続けた結果、これが芸術家の生き様だと褒めるような人もいた
私は止めようとした
ただ生きて欲しくて、止めようとして訴えた
もう絵なんて、表現なんて、全部やめてくれと
体を大事にして、一緒に生きてくれと
そんなエゴをぶつけて、懇願した
その言動に彼女は怒らなかった
ただ悲しい顔をして「ごめん、もう来ないで」とだけ告げられた
私は何も出来なかった
そして、何もしなくなった
1ヶ月後、彼女は死んだ
最期に描かれた絵はキスマークはついてるものの、いつもとは違う明るく、楽しくなる絵だった
タイトルは「ファン一号のあなたへ」と残されていた
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