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グランドベゼル編
23 決着
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side ノア=オーガスト
あんなロックスピア、初めて見た……!
土煙が舞い上がる中、オレは呑気にもジンさんの氣術に感動していた。氣の操作性が高ければああいうことができるっていうことは分かってはいたけど、実際目の当たりにすると、いつも胸を打たれる。
……ってこんなことしてる場合じゃないよな。
オレはまず状況把握を始める。
オレは今、土煙の中にいてジンさんからは姿が見えない。だけど、オレは眼の力を使えば見える。これは大きなアドバンテージだな。
それから体は……
オレは腕や手、足を曲げて動作確認を行う。いつも通り動けるかどうか、しっかり見極めないと次の行動に大きく関わるからな。
……うん、しっかり動くな。かすり傷ぐらいでそんなに大きな怪我もない。
そんじゃあ、次は、っと……
オレは黎明之眼を発動させた。
えーと、ジンさんは動きなし、か。追撃をしてこないってことは、オレの反撃を待つことを選んだって感じか。結構慎重なんだな……
なら、ありがたく先手はもらうことにしよう。
あ、そうだ。一応、あっちの様子も見ておこう。シンが負ける姿なんて想像もつかないけど…………ん?!
オレの目に映ったのは、明らかにシンが押されている姿だった。無表情なことが多いシンの表情が、鬱陶しそうな、煩わしそうなものになっている。つまり、それだけ相手が厄介ってことだ。
だけど、このままシンが劣勢のままで終わる、なんてことはまずありえない。何かしら策はあるんだろうけど……。
んー、このまま一対一の構図で戦うのもいいけど、せっかくのタッグ戦、連携攻撃をお見舞いして勝ちたい。
それならまずは、合流しないとな……!
オレは右手をジンさんの方へと構える。そしてジンさんと同じあの氣術を形成する。だけど、ジンさんのそれとはまた一味違う。
オレの右手にはみるみるうちに三角錐の形をした岩の槍が形成されていく。そしてそれは、超巨大なつらら状の物体となった。
さらにその間、オレは左手に氣弾をセットする。
これで準備完了っと。
「反撃開始だ……!」
オレは右手に構えていた超巨大ロックスピアを放った。それはジンさんへと向かっていく。
「なっ……!」
ジンさんは土煙の中から突如飛び出してきた超巨大ロックスピアに驚く。だがすぐに反応し、見事な槍捌きでロックスピアを簡単に解体した。
「ふぅ…………え……?」
土煙が晴れたのだろう。たぶん、土煙の中にいたはずのオレが消えたことにジンさんは驚いているはずだ。
実は、ジンさんへと超巨大ロックスピアを放ってからジンさんが驚くまでの間に、オレは土煙から駆け抜けてシンとウィリアムさんのところへと向かっていた。そしてあらかじめ用意していた氣弾を瞬時にウィリアムさんに放つ。
「……っ!」
オレの行動を捉えたであろうウィリアムさんは、氣弾を避けるためにシンから距離を取った。
「兄さん……」
よし、作戦通りシンから引き剥がせたな。
「無事か、シン」
オレはシンの隣に立った。
「それは俺のセリフだ」
「ははっ。ちょっとびっくりしたけど、かわせたから結果オーライよ!」
オレはにこにこしながらシンと話す。
「楽しそうだな、兄さん」
「あったりまえだろ?すげー強い人たちとやれてんだからさー。もう、わっくわくよ」
「ふっ……」
お、シンが笑ったぞー。
「そんな顔もするんだな、お前」
声のする方へ顔を向ければ、氣弾を難なく避けたウィリアムさんがいた。いつのまにか隣にはジンさんもいる。
「しかし、まさか邪魔をされるとはな……いいところではあったんだが、まあ仕方ない」
「ごめん、ウィリアム。これじゃ分断した意味がなくなっちゃったね」
「構わないですよ、ジン先輩。先輩がそんなに器用じゃないことは前々から知ってたんで」
「ちょ、なんで今ディスるわけー?これがタッグ戦ってこと、わかってるー?ほんと性格悪いよねー、ウィリアムってば」
「俺はいつも通りやってます。ただジン先輩が謎に緊張しているのはどうかと思いますが?」
「ぐぬぬ……何も言い返せないのがまたムカつくわー。このばかウィリアムめ……」
「さ、おしゃべりはここまでにして、戦いに専念しますよ、ジン先輩」
「わかってる」
短い談笑を終えたウィリアムさんとジンさんは武器を構え、戦闘体勢を整えた。
……やっぱり気迫が半端じゃない。ただ武器を構えて立ってるだけなのに、肌がピリつくような緊張感が身体中を走ってる。まるで難攻不落の城のようだ。
これは一筋縄じゃいかないぞ……。
「シン」
「ああ」
オレは体内で氣を練り上げ、瞬時に氣術を発動させた。
「「……っ!」」
オレの周囲を埋め尽くすかのように、一瞬にして三角錐状の氷の槍と岩の槍が出現した。それを見た二人は、驚いた表情を見せている。
これぞ数うちゃ当たる戦法だ。オレの場合、氣の量だけはバカみたいにあるからな。さっきみたいなアレンジをしない、既存の形で形成可能な氣術ならいくらでも早く、そして多く撃てる……!
「『アイスロックスピア』……!」
無数の二種の槍が、二人目掛けてとめどなく飛んでいく。
「なんて量なの……!」
「だが捌けないほどでは、ない……!」
ジンさんとウィリアムさんは、思った通りこの程度ではやられはしないらしい。木剣や木の槍で切り落としたり弾き落としたりしている。さすがの腕前だ。というか、それはさっきまでの戦いでとっくに知り得た情報だ。
……これで終わりじゃないぞ!
「そんなに悠長にしていていいのか……?」
「ちっ……!」
この派手なオレの攻撃に乗じて、実はシンが二人に接近していた。オレに意識を割きすぎてシンの存在を疎かにしたんだろう。シンはシンで殺気も気配も絶っていたみたいだし。うちの弟は有能すぎて、それはもう兄ちゃんの立つ瀬がないくらいだ。
シンは両手に持った木剣を同方向から同時にウィリアムさんにぶち込んだ。
「ぐっ……!」
なんとか木刀で直撃を免れたウィリアムさんだったが体勢が不十分なことも相まって、シンの重撃に耐えられずにかなり遠くまで吹っ飛んだ。
「ウィリアム……!」
ジンさんは一瞬、意識を別に割いたものの、すぐにオレたちの攻撃への対応へと切り替えた。だが……
「いい判断だ。だが、兄さんと俺には勝てない」
ウィリアムさんをのしたシンは、オレの氣術の間隙を縫って、瞬時にジンさんへと接近し、再び得意の二刀流をお見舞いした。
「く……!」
ジンさんもウィリアムさんと同じく、会場の端まで飛ばされた。
ナイスだ、シン!
オレは氣術を止めてすぐさま走り出す。その途中、シンから投げられた木剣を受け取り、転がる師団長のもとへと向かう。
「……うぅ……」
地面に転がったジンさんは、仰向けの状態からなんとか立ちあがろうとしていた。オレはその瞬間、ジンさんの首元に木剣を突き出した。
「なっ……」
「オレたちの勝ち、だよな?」
オレは勝利を確信し、にっと笑う。それを見たジンさんは、両目を閉じた後大きく息をついた。
「…………そうね。どうやら私たちの負けみたい」
「ふぅ。よかったー。なんとか上手くいったみたいだな」
「そこまで!」
勝ったことに安堵した瞬間、審判役のグレンさんから終了の一言が発せられた。オレは太陽が煌々と輝く綺麗な青空を見上げながら、兄弟でもぎ取った勝利を噛み締めていた。
side ウィリアム=ブラッツ
幾重もの斬撃を打ち込み、シンの身動きを取れなくし続けた俺は、これ以上試合を長引かせることもないだろうと判断し、体内で氣を練り、シンを仕留める準備を整えていた。しかし、すんでのところで邪魔が入ってしまった。
数個の氣弾が俺を追い詰めようとする。俺は予想外の援軍にやむを得ず後退した。そして氣弾を避けつつちらっと横を見た。
……ジン先輩がやられたわけではないみたいだな。つまりは隙をついてこちらにきたということか。
どうやら二対二の戦いをご所望らしい。まあ本来なら最初からこういう構図で戦うものだが。
ノアとシンの双方が合流したのを見てすぐ、こちらもジン先輩と合流した。俺はジン先輩を少しからかいつつも、再び戦闘モードへとシフトチェンジした。
一応ジン先輩とは学生時代からの付き合いだ。そのため、ジン先輩の癖や戦い方はだいたい把握している。連携面での問題はほぼ皆無と言っていい。
俺は木刀を、ジン先輩は木の槍を構え、相手の出方に対応する準備を整える。こちらから仕掛けるのもありだが、正直あの兄弟がどのように俺たちを攻略するのかを見てみたいという欲求にかられてしまった。
そしてその慢心により、俺たちは負けた。アイススピアとロックスピアが前方から無数に飛んでくる中、木剣を二本手にしたシンの攻撃により、俺は飛ばされた。そして立ちあがり、ジン先輩の応援に向かおうとした瞬間、首元に冷ややかな殺気を感じた。
「……これでチェックだ」
首元に触れるギリギリの位置には木剣があり、俺は完全に身動きが取れない状態に陥ってしまった。まるで先ほどとは真逆な事態になっている。
「……ふぅ。俺たちの負けだ」
俺は木刀を離し降参の意を示した。そしてその瞬間……
「そこまで!」
試合終了の合図が会場に鳴り響いた。そしてシンは木剣を下ろす。俺は落とした木刀を拾い上げ、シンに体を向ける。
「お前、実は二刀流の使い手か?」
あの威力は相当なものだった。二本になったのだから、衝撃力が上がるのは当然のことだが、それにしても扱いに慣れている気がした。仮に二刀流がシンの本来の戦い方なのだとすれば……
「そうだ。だが、それがなんだ」
そう言いながら、シンは手に持っている木剣を眺めている。
「……やはりそうか」
俺が一方的にシンを攻撃できたのは、今回シンが使っていた武器が一本だったことによるのかもしれない。
……実に恐ろしい男だ。
「ヒュー!良かったぜー!!」
「最高の試合だったー!!」
「師団長!次は俺とやってくださいよー!」
「ブラボー!」
「お前ら、大帝国師団に入ってくれよー!」
「俺たちとも試合してくれー!」
シンの強さに畏怖と尊敬の念を覚えていると、いつのまにやら集まっていた観客たちがガヤガヤと騒ぎ始めた。拍手や指笛があちこちから聞こえてくる。それも鬱陶しいぐらいにな。
「ガーァッハッハッハーッ!!」
盛大な歓声に嫌気を感じていると、この騒音を超える爆音が会場の中央から発信された。そして鶴の一声かの如く、辺りは一瞬にして静まり返った。
「血気盛んだなー、お前ら!そんなに戦いたいってんなら、この俺、オスカー=レナードが相手になってやるぞー!」
「「「…………」」」
オスカーの上機嫌な言葉に、師団員たちは黙り込んだ。そして……
「ちょうど俺もうずうずしていたところだ!さあ誰からやるんだ?!」
オスカーのやる気に満ち溢れた言葉とは裏腹に、この場にいたはずの師団員たちはそそくさと離れていった。
「ガッハッハ!…………………………あれ?」
オスカー師団長は目をぱちくりさせながら、ようやく誰一人としていなくなっていることに気づいた。
「ウィル坊よ、あいつらはどこへ行ったんだ?」
困惑したオスカー師団長はなぜか俺に問いかけてきた。まったく、こんな簡単なこともわからないなんてな……。
「さあ?俺に聞かれても。自分の胸のうちに聞いた方がいいんじゃないですか?」
俺はバカな師団長を放置して、ジン先輩のもとへと歩き出した。
side ノア=オーガスト
「対戦ありがとな、ジンさん!」
オレは地面に倒れるジンさんに手を伸ばす。ジンさんは少し笑いながらオレの手を取り立ち上がった。
「ふふ……そんなに嬉しそうにされると、なんだか悔しいって気持ちが薄れてきちゃうね……」
「え、オレそんなに嬉しそう?」
オレは手で顔をペタペタと触ってみる。
「あははっ……ほんとに面白い子ねー、ノア君って」
「そうかな……?」
「ノア君のことは好きだけど、負けたまんまっていうのは師団長としても、私個人としても嫌だから……今度リベンジマッチしてもいいかな?」
今の今まで愉快そうに笑っていたジンさんは、それとはうって変わり、真剣な眼差しでオレを捉えた。
「そりゃもちろん」
オレはもう一度ジンさんに手を出した。水平に出されたオレの手には、すぐに温もりが感じられた。
「実に見事な試合だった」
オレは握手をしたまま声のする方へと顔を向けた。そこにはこの国を背負って立つ人物がいた。
「陛下……」
ジンさんはオレの手を離し、陛下に相対するように体を向けた。
「ジン師団長、それにノア。お前たちの戦いぶりは多くのものの心をつかんだ。当然、私も含まれている。皇帝となってからはほとんど感じられなくなったが、久々にあの頃のような高揚感を味わえた」
「もったいないお言葉です、陛下。けれど私は、結果だけ見れば完敗してしまいました。これはこの国を守る者の一人として恥ずべきことです。これからはより一層、自分自身を鍛えに鍛え上げます……!」
「ふ……相変わらず真面目だな、ジン師団長。お前は真面目すぎる分、時々休息を忘れ体調を崩すこともあると聞いた」
皇帝陛下の指摘にジンさんは言葉に詰まった。
「そ、そんなことは……」
「師団長となってからは特にその傾向が強い。理由は概ね理解しているが、あまり無理をするものではない。身体を壊しては本末転倒というもの。あまり気負わず、ほどほどに鍛えてくれればよい」
「…………」
ジンさんは納得できていないのか、応答せずに下を向いていた。
「……納得できないか」
「あ……いえ、そんなことは……」
「私は決してお前の努力を否定したいわけではないのだが……ふむ……」
皇帝陛下は少しの間、何かを考えるそぶりを見せた。そして口を開く。
「ならば私と試合をするか」
え?
「……へ?」
オレと同様に、ジンさんも驚き、顔を上げた。
「ちょうど私も鈍った体を鍛え直そうとしていたのだ。グレンにでも依頼しようと思っていたが、これで必要なくなったな」
「私なんかと試合をしてくれるのですか……?陛下直々に……?」
「流石に冒険者をしていた頃ほど動けはしない。だからあまり期待はしてほしくはないのだが……老いた私では不満か?」
「いえ、決してそんなことは!」
ジンさんは皇帝陛下の問いかけをやや食い気味に否定した。
「ふむ。では決まりだな」
おおー。皇帝陛下と試合できるなんて、ジンさんすごいなー。オレも一回くらいやってみたいけど……それは今じゃなくてもいっか。そろそろこの国以外の場所にも行ってみたいし。
「兄さん」
「ジン先輩」
後ろを振り返れば、シンとウィリアムさんが近づいてきているのがわかる。
「お、シン!やったな!」
オレはグーにした手をまっすぐシンの胸元へ突き出した。それに呼応するようにシンも軽く手を突き出す。
「それにしても、よくあの中を突っ切ってジンさんとウィリアムさんに攻撃しに行ったな」
オレは感心するようにシンへ言葉をかけた。オレもシンに当てないように意識してはいたけど、背中に目でもついてるのかってくらい、綺麗に避けてたんだよなー。
「俺はただ兄さんを信じただけだ。だから兄さんのおかげだ」
うーん…………。
「それ、答えになってるのか……?」
「ああ」
「…………」
そんな自信満々に答えられると返す言葉が見つからん。オレからすれば、どっからどう見てもシン自身の実力で避けてた気がするんだけど……?
「お疲れー!ノア、シン」
「お疲れ様でした!ノアさん、シンさん」
呼ばれた声に振り返れば、今度は見守ってくれていたみんなが来てくれた。
「二人の連携見せてもらったよー。あれが阿吽の呼吸ってやつ?」
「まあなー。もう十六年も一緒にいるから、シンのことはたいていわかっちゃうんだよ」
「連携もすごかったですけど、ノアさんとシンさんの一人一人の技能も高かったですよ!師団長さんたちに引けを取らないなんて、本当にすごすぎです!」
オレとシンはカズハとエルから大きな賞賛の言葉をもらった。オレはそれが嬉しくて頬を緩ませる。
「ノア兄ちゃん、シン兄ちゃん……!」
浮かれていると、ドンッと体に軽い衝撃が走った。
「お、リュウー」
オレは抱きついているリュウの頭をなでなした。リュウの髪ってめちゃくちゃサラサラふわふわで、触り心地が最高なんだよなー。だからつい触りたくなる。
リュウは柔らかい笑顔を見せながら、オレとシンの双方の顔を見る。
「オレたちの戦いぶりはどうだった?」
オレはしゃがんで、リュウにそう聞いてみた。
「かっこよかった……!」
リュウはキラキラした目でオレたちを見た。どうやらよっぽど感動してくれたらしい。リュウに期待通りの戦いを見せられて、オレも嬉しい限りだ。
「そっかそっか」
「ぼくも、ノア兄ちゃんたちみたいに、剣うまくなりたい」
「お、それじゃ今度、一緒に剣の修行しようか。な、シン」
オレは横に立つシンの顔を見る。
えーと、嫌な顔はしてないな。
「ああ」
「シン兄ちゃんも来てくれるの……?!」
「あ、ああ」
リュウの勢いに驚いたのか、シンは返事に少し詰まった。リュウのおかげで珍しい一面が見れたなー。
「いいか、リュウ。剣の腕はオレよりシンの方が断然上だから、シンの教えはよーく聞くんだぞ」
「うん……!わかった!」
リュウといるとシンの新しい一面が見られてオレも嬉しいし、もっとシンとリュウの仲を深めてやろっと。
「……この戦いも本気を出してないな」
にやにやとしていると、鋭い声がオレの耳に届いた。
「……そ、そんなことないって。出せる範囲での本気は出したつもりだからさ」
嘘はついていない。ていうか、本当の本気は命をかけた戦いとか人生がかかった戦いとか、そういう時ぐらいしか出せないし。奥の手ってやつはいざってときまで取っておかないと意味がないからなー。
「出せる範囲、ね。……まあいいか。あんたらと一緒にいればそのうち見られるだろうから」
セツナのあの鋭い眼光ににらまれると、体がピシッて硬直するんだよな……。
「あ、そうだ。近いうちまた鍛錬に付き合えよ、ノア。セイに教わってからだいぶ上達はしてるけど、まだ動きの速い物体への命中率が低い」
……えーと、それはつまり、オレに的になれと……?
「それぐらいならできるよな?ノア師匠?」
一回も呼ばれたことのない師匠呼びに加えて、強めの語気で発せられた言葉。あと、射抜くような鋭い眼光……。
果たしてオレに拒否権などあるのだろうか?
「……はい。精一杯やらせていただきます……」
オレは少しうなだれてしまう。ただまあ、オレがセツナの……仲間の役に立つってんなら、やるしかないよな、うん。
「…………そうか。ご苦労だったな」
ふと、皇帝陛下の声が耳に入る。オレの知らない人物と話していたらしく、その見知らぬ男はすっとこの場を立ち去っていった。
「皆、よく聞け。どうやらパーティの準備が整ったようだ。私についてこい」
……ん?今なんて?
「パーティ、ですか?」
ジンさんは、おそらく全員の頭に浮かんだであろう疑問を皇帝陛下に言った。
「ああ。このように面白い試合を見せてもらったのだ。その感謝をするのは当然のことであろう?」
「おい、アイザック。いい加減にしろよ。お前はどんだけ身勝手なんだ」
「身勝手?私は感謝を伝えたいだけだ。ノアズアークには我が国を救ってもらった恩義もある。パーティを開くのは道理だと思うが?」
山脈に大穴あけまくったから、救えたかどうかはわかんないけどな……。
「それはそうかもしれないが、いくらなんでも急すぎないかと言っているんだ。パーティを開くにしてもそれを事前に招待状などで伝えて、それからパーティを開催するものだろう」
「わ、グレンがまともなこと言ってる……」
皇帝陛下とグレンさんの言い争いを見たカズハは、思わず本音がこぼれたみたいだった。
「しかしもう準備は整っている。これを無視しては臣下たちの苦労や料理がすべて無駄となってしまう」
「時すでに遅しかよ……悪いがノア。もう少しこのわがまま野郎に付き合ってもらえるか?」
いつもはミクリヤさんに苦労をかける側だけど、今回は全くの逆になっている。ちょっとグレンさんが可哀想に見えてくる。
「オレたちは全然問題ないよ。新鮮なことばっかりでオレ的には楽しいし」
こうしてオレたちは、皇帝陛下が急遽用意してくれたパーティへと招待されることとなったのである。皇帝陛下に謁見して、帝城のお抱え料理人のおいしい料理を食べて、師団長たちと戦って、今度はパーティに参加する……なんかめちゃくちゃハードな一日になってる気がする。
あんなロックスピア、初めて見た……!
土煙が舞い上がる中、オレは呑気にもジンさんの氣術に感動していた。氣の操作性が高ければああいうことができるっていうことは分かってはいたけど、実際目の当たりにすると、いつも胸を打たれる。
……ってこんなことしてる場合じゃないよな。
オレはまず状況把握を始める。
オレは今、土煙の中にいてジンさんからは姿が見えない。だけど、オレは眼の力を使えば見える。これは大きなアドバンテージだな。
それから体は……
オレは腕や手、足を曲げて動作確認を行う。いつも通り動けるかどうか、しっかり見極めないと次の行動に大きく関わるからな。
……うん、しっかり動くな。かすり傷ぐらいでそんなに大きな怪我もない。
そんじゃあ、次は、っと……
オレは黎明之眼を発動させた。
えーと、ジンさんは動きなし、か。追撃をしてこないってことは、オレの反撃を待つことを選んだって感じか。結構慎重なんだな……
なら、ありがたく先手はもらうことにしよう。
あ、そうだ。一応、あっちの様子も見ておこう。シンが負ける姿なんて想像もつかないけど…………ん?!
オレの目に映ったのは、明らかにシンが押されている姿だった。無表情なことが多いシンの表情が、鬱陶しそうな、煩わしそうなものになっている。つまり、それだけ相手が厄介ってことだ。
だけど、このままシンが劣勢のままで終わる、なんてことはまずありえない。何かしら策はあるんだろうけど……。
んー、このまま一対一の構図で戦うのもいいけど、せっかくのタッグ戦、連携攻撃をお見舞いして勝ちたい。
それならまずは、合流しないとな……!
オレは右手をジンさんの方へと構える。そしてジンさんと同じあの氣術を形成する。だけど、ジンさんのそれとはまた一味違う。
オレの右手にはみるみるうちに三角錐の形をした岩の槍が形成されていく。そしてそれは、超巨大なつらら状の物体となった。
さらにその間、オレは左手に氣弾をセットする。
これで準備完了っと。
「反撃開始だ……!」
オレは右手に構えていた超巨大ロックスピアを放った。それはジンさんへと向かっていく。
「なっ……!」
ジンさんは土煙の中から突如飛び出してきた超巨大ロックスピアに驚く。だがすぐに反応し、見事な槍捌きでロックスピアを簡単に解体した。
「ふぅ…………え……?」
土煙が晴れたのだろう。たぶん、土煙の中にいたはずのオレが消えたことにジンさんは驚いているはずだ。
実は、ジンさんへと超巨大ロックスピアを放ってからジンさんが驚くまでの間に、オレは土煙から駆け抜けてシンとウィリアムさんのところへと向かっていた。そしてあらかじめ用意していた氣弾を瞬時にウィリアムさんに放つ。
「……っ!」
オレの行動を捉えたであろうウィリアムさんは、氣弾を避けるためにシンから距離を取った。
「兄さん……」
よし、作戦通りシンから引き剥がせたな。
「無事か、シン」
オレはシンの隣に立った。
「それは俺のセリフだ」
「ははっ。ちょっとびっくりしたけど、かわせたから結果オーライよ!」
オレはにこにこしながらシンと話す。
「楽しそうだな、兄さん」
「あったりまえだろ?すげー強い人たちとやれてんだからさー。もう、わっくわくよ」
「ふっ……」
お、シンが笑ったぞー。
「そんな顔もするんだな、お前」
声のする方へ顔を向ければ、氣弾を難なく避けたウィリアムさんがいた。いつのまにか隣にはジンさんもいる。
「しかし、まさか邪魔をされるとはな……いいところではあったんだが、まあ仕方ない」
「ごめん、ウィリアム。これじゃ分断した意味がなくなっちゃったね」
「構わないですよ、ジン先輩。先輩がそんなに器用じゃないことは前々から知ってたんで」
「ちょ、なんで今ディスるわけー?これがタッグ戦ってこと、わかってるー?ほんと性格悪いよねー、ウィリアムってば」
「俺はいつも通りやってます。ただジン先輩が謎に緊張しているのはどうかと思いますが?」
「ぐぬぬ……何も言い返せないのがまたムカつくわー。このばかウィリアムめ……」
「さ、おしゃべりはここまでにして、戦いに専念しますよ、ジン先輩」
「わかってる」
短い談笑を終えたウィリアムさんとジンさんは武器を構え、戦闘体勢を整えた。
……やっぱり気迫が半端じゃない。ただ武器を構えて立ってるだけなのに、肌がピリつくような緊張感が身体中を走ってる。まるで難攻不落の城のようだ。
これは一筋縄じゃいかないぞ……。
「シン」
「ああ」
オレは体内で氣を練り上げ、瞬時に氣術を発動させた。
「「……っ!」」
オレの周囲を埋め尽くすかのように、一瞬にして三角錐状の氷の槍と岩の槍が出現した。それを見た二人は、驚いた表情を見せている。
これぞ数うちゃ当たる戦法だ。オレの場合、氣の量だけはバカみたいにあるからな。さっきみたいなアレンジをしない、既存の形で形成可能な氣術ならいくらでも早く、そして多く撃てる……!
「『アイスロックスピア』……!」
無数の二種の槍が、二人目掛けてとめどなく飛んでいく。
「なんて量なの……!」
「だが捌けないほどでは、ない……!」
ジンさんとウィリアムさんは、思った通りこの程度ではやられはしないらしい。木剣や木の槍で切り落としたり弾き落としたりしている。さすがの腕前だ。というか、それはさっきまでの戦いでとっくに知り得た情報だ。
……これで終わりじゃないぞ!
「そんなに悠長にしていていいのか……?」
「ちっ……!」
この派手なオレの攻撃に乗じて、実はシンが二人に接近していた。オレに意識を割きすぎてシンの存在を疎かにしたんだろう。シンはシンで殺気も気配も絶っていたみたいだし。うちの弟は有能すぎて、それはもう兄ちゃんの立つ瀬がないくらいだ。
シンは両手に持った木剣を同方向から同時にウィリアムさんにぶち込んだ。
「ぐっ……!」
なんとか木刀で直撃を免れたウィリアムさんだったが体勢が不十分なことも相まって、シンの重撃に耐えられずにかなり遠くまで吹っ飛んだ。
「ウィリアム……!」
ジンさんは一瞬、意識を別に割いたものの、すぐにオレたちの攻撃への対応へと切り替えた。だが……
「いい判断だ。だが、兄さんと俺には勝てない」
ウィリアムさんをのしたシンは、オレの氣術の間隙を縫って、瞬時にジンさんへと接近し、再び得意の二刀流をお見舞いした。
「く……!」
ジンさんもウィリアムさんと同じく、会場の端まで飛ばされた。
ナイスだ、シン!
オレは氣術を止めてすぐさま走り出す。その途中、シンから投げられた木剣を受け取り、転がる師団長のもとへと向かう。
「……うぅ……」
地面に転がったジンさんは、仰向けの状態からなんとか立ちあがろうとしていた。オレはその瞬間、ジンさんの首元に木剣を突き出した。
「なっ……」
「オレたちの勝ち、だよな?」
オレは勝利を確信し、にっと笑う。それを見たジンさんは、両目を閉じた後大きく息をついた。
「…………そうね。どうやら私たちの負けみたい」
「ふぅ。よかったー。なんとか上手くいったみたいだな」
「そこまで!」
勝ったことに安堵した瞬間、審判役のグレンさんから終了の一言が発せられた。オレは太陽が煌々と輝く綺麗な青空を見上げながら、兄弟でもぎ取った勝利を噛み締めていた。
side ウィリアム=ブラッツ
幾重もの斬撃を打ち込み、シンの身動きを取れなくし続けた俺は、これ以上試合を長引かせることもないだろうと判断し、体内で氣を練り、シンを仕留める準備を整えていた。しかし、すんでのところで邪魔が入ってしまった。
数個の氣弾が俺を追い詰めようとする。俺は予想外の援軍にやむを得ず後退した。そして氣弾を避けつつちらっと横を見た。
……ジン先輩がやられたわけではないみたいだな。つまりは隙をついてこちらにきたということか。
どうやら二対二の戦いをご所望らしい。まあ本来なら最初からこういう構図で戦うものだが。
ノアとシンの双方が合流したのを見てすぐ、こちらもジン先輩と合流した。俺はジン先輩を少しからかいつつも、再び戦闘モードへとシフトチェンジした。
一応ジン先輩とは学生時代からの付き合いだ。そのため、ジン先輩の癖や戦い方はだいたい把握している。連携面での問題はほぼ皆無と言っていい。
俺は木刀を、ジン先輩は木の槍を構え、相手の出方に対応する準備を整える。こちらから仕掛けるのもありだが、正直あの兄弟がどのように俺たちを攻略するのかを見てみたいという欲求にかられてしまった。
そしてその慢心により、俺たちは負けた。アイススピアとロックスピアが前方から無数に飛んでくる中、木剣を二本手にしたシンの攻撃により、俺は飛ばされた。そして立ちあがり、ジン先輩の応援に向かおうとした瞬間、首元に冷ややかな殺気を感じた。
「……これでチェックだ」
首元に触れるギリギリの位置には木剣があり、俺は完全に身動きが取れない状態に陥ってしまった。まるで先ほどとは真逆な事態になっている。
「……ふぅ。俺たちの負けだ」
俺は木刀を離し降参の意を示した。そしてその瞬間……
「そこまで!」
試合終了の合図が会場に鳴り響いた。そしてシンは木剣を下ろす。俺は落とした木刀を拾い上げ、シンに体を向ける。
「お前、実は二刀流の使い手か?」
あの威力は相当なものだった。二本になったのだから、衝撃力が上がるのは当然のことだが、それにしても扱いに慣れている気がした。仮に二刀流がシンの本来の戦い方なのだとすれば……
「そうだ。だが、それがなんだ」
そう言いながら、シンは手に持っている木剣を眺めている。
「……やはりそうか」
俺が一方的にシンを攻撃できたのは、今回シンが使っていた武器が一本だったことによるのかもしれない。
……実に恐ろしい男だ。
「ヒュー!良かったぜー!!」
「最高の試合だったー!!」
「師団長!次は俺とやってくださいよー!」
「ブラボー!」
「お前ら、大帝国師団に入ってくれよー!」
「俺たちとも試合してくれー!」
シンの強さに畏怖と尊敬の念を覚えていると、いつのまにやら集まっていた観客たちがガヤガヤと騒ぎ始めた。拍手や指笛があちこちから聞こえてくる。それも鬱陶しいぐらいにな。
「ガーァッハッハッハーッ!!」
盛大な歓声に嫌気を感じていると、この騒音を超える爆音が会場の中央から発信された。そして鶴の一声かの如く、辺りは一瞬にして静まり返った。
「血気盛んだなー、お前ら!そんなに戦いたいってんなら、この俺、オスカー=レナードが相手になってやるぞー!」
「「「…………」」」
オスカーの上機嫌な言葉に、師団員たちは黙り込んだ。そして……
「ちょうど俺もうずうずしていたところだ!さあ誰からやるんだ?!」
オスカーのやる気に満ち溢れた言葉とは裏腹に、この場にいたはずの師団員たちはそそくさと離れていった。
「ガッハッハ!…………………………あれ?」
オスカー師団長は目をぱちくりさせながら、ようやく誰一人としていなくなっていることに気づいた。
「ウィル坊よ、あいつらはどこへ行ったんだ?」
困惑したオスカー師団長はなぜか俺に問いかけてきた。まったく、こんな簡単なこともわからないなんてな……。
「さあ?俺に聞かれても。自分の胸のうちに聞いた方がいいんじゃないですか?」
俺はバカな師団長を放置して、ジン先輩のもとへと歩き出した。
side ノア=オーガスト
「対戦ありがとな、ジンさん!」
オレは地面に倒れるジンさんに手を伸ばす。ジンさんは少し笑いながらオレの手を取り立ち上がった。
「ふふ……そんなに嬉しそうにされると、なんだか悔しいって気持ちが薄れてきちゃうね……」
「え、オレそんなに嬉しそう?」
オレは手で顔をペタペタと触ってみる。
「あははっ……ほんとに面白い子ねー、ノア君って」
「そうかな……?」
「ノア君のことは好きだけど、負けたまんまっていうのは師団長としても、私個人としても嫌だから……今度リベンジマッチしてもいいかな?」
今の今まで愉快そうに笑っていたジンさんは、それとはうって変わり、真剣な眼差しでオレを捉えた。
「そりゃもちろん」
オレはもう一度ジンさんに手を出した。水平に出されたオレの手には、すぐに温もりが感じられた。
「実に見事な試合だった」
オレは握手をしたまま声のする方へと顔を向けた。そこにはこの国を背負って立つ人物がいた。
「陛下……」
ジンさんはオレの手を離し、陛下に相対するように体を向けた。
「ジン師団長、それにノア。お前たちの戦いぶりは多くのものの心をつかんだ。当然、私も含まれている。皇帝となってからはほとんど感じられなくなったが、久々にあの頃のような高揚感を味わえた」
「もったいないお言葉です、陛下。けれど私は、結果だけ見れば完敗してしまいました。これはこの国を守る者の一人として恥ずべきことです。これからはより一層、自分自身を鍛えに鍛え上げます……!」
「ふ……相変わらず真面目だな、ジン師団長。お前は真面目すぎる分、時々休息を忘れ体調を崩すこともあると聞いた」
皇帝陛下の指摘にジンさんは言葉に詰まった。
「そ、そんなことは……」
「師団長となってからは特にその傾向が強い。理由は概ね理解しているが、あまり無理をするものではない。身体を壊しては本末転倒というもの。あまり気負わず、ほどほどに鍛えてくれればよい」
「…………」
ジンさんは納得できていないのか、応答せずに下を向いていた。
「……納得できないか」
「あ……いえ、そんなことは……」
「私は決してお前の努力を否定したいわけではないのだが……ふむ……」
皇帝陛下は少しの間、何かを考えるそぶりを見せた。そして口を開く。
「ならば私と試合をするか」
え?
「……へ?」
オレと同様に、ジンさんも驚き、顔を上げた。
「ちょうど私も鈍った体を鍛え直そうとしていたのだ。グレンにでも依頼しようと思っていたが、これで必要なくなったな」
「私なんかと試合をしてくれるのですか……?陛下直々に……?」
「流石に冒険者をしていた頃ほど動けはしない。だからあまり期待はしてほしくはないのだが……老いた私では不満か?」
「いえ、決してそんなことは!」
ジンさんは皇帝陛下の問いかけをやや食い気味に否定した。
「ふむ。では決まりだな」
おおー。皇帝陛下と試合できるなんて、ジンさんすごいなー。オレも一回くらいやってみたいけど……それは今じゃなくてもいっか。そろそろこの国以外の場所にも行ってみたいし。
「兄さん」
「ジン先輩」
後ろを振り返れば、シンとウィリアムさんが近づいてきているのがわかる。
「お、シン!やったな!」
オレはグーにした手をまっすぐシンの胸元へ突き出した。それに呼応するようにシンも軽く手を突き出す。
「それにしても、よくあの中を突っ切ってジンさんとウィリアムさんに攻撃しに行ったな」
オレは感心するようにシンへ言葉をかけた。オレもシンに当てないように意識してはいたけど、背中に目でもついてるのかってくらい、綺麗に避けてたんだよなー。
「俺はただ兄さんを信じただけだ。だから兄さんのおかげだ」
うーん…………。
「それ、答えになってるのか……?」
「ああ」
「…………」
そんな自信満々に答えられると返す言葉が見つからん。オレからすれば、どっからどう見てもシン自身の実力で避けてた気がするんだけど……?
「お疲れー!ノア、シン」
「お疲れ様でした!ノアさん、シンさん」
呼ばれた声に振り返れば、今度は見守ってくれていたみんなが来てくれた。
「二人の連携見せてもらったよー。あれが阿吽の呼吸ってやつ?」
「まあなー。もう十六年も一緒にいるから、シンのことはたいていわかっちゃうんだよ」
「連携もすごかったですけど、ノアさんとシンさんの一人一人の技能も高かったですよ!師団長さんたちに引けを取らないなんて、本当にすごすぎです!」
オレとシンはカズハとエルから大きな賞賛の言葉をもらった。オレはそれが嬉しくて頬を緩ませる。
「ノア兄ちゃん、シン兄ちゃん……!」
浮かれていると、ドンッと体に軽い衝撃が走った。
「お、リュウー」
オレは抱きついているリュウの頭をなでなした。リュウの髪ってめちゃくちゃサラサラふわふわで、触り心地が最高なんだよなー。だからつい触りたくなる。
リュウは柔らかい笑顔を見せながら、オレとシンの双方の顔を見る。
「オレたちの戦いぶりはどうだった?」
オレはしゃがんで、リュウにそう聞いてみた。
「かっこよかった……!」
リュウはキラキラした目でオレたちを見た。どうやらよっぽど感動してくれたらしい。リュウに期待通りの戦いを見せられて、オレも嬉しい限りだ。
「そっかそっか」
「ぼくも、ノア兄ちゃんたちみたいに、剣うまくなりたい」
「お、それじゃ今度、一緒に剣の修行しようか。な、シン」
オレは横に立つシンの顔を見る。
えーと、嫌な顔はしてないな。
「ああ」
「シン兄ちゃんも来てくれるの……?!」
「あ、ああ」
リュウの勢いに驚いたのか、シンは返事に少し詰まった。リュウのおかげで珍しい一面が見れたなー。
「いいか、リュウ。剣の腕はオレよりシンの方が断然上だから、シンの教えはよーく聞くんだぞ」
「うん……!わかった!」
リュウといるとシンの新しい一面が見られてオレも嬉しいし、もっとシンとリュウの仲を深めてやろっと。
「……この戦いも本気を出してないな」
にやにやとしていると、鋭い声がオレの耳に届いた。
「……そ、そんなことないって。出せる範囲での本気は出したつもりだからさ」
嘘はついていない。ていうか、本当の本気は命をかけた戦いとか人生がかかった戦いとか、そういう時ぐらいしか出せないし。奥の手ってやつはいざってときまで取っておかないと意味がないからなー。
「出せる範囲、ね。……まあいいか。あんたらと一緒にいればそのうち見られるだろうから」
セツナのあの鋭い眼光ににらまれると、体がピシッて硬直するんだよな……。
「あ、そうだ。近いうちまた鍛錬に付き合えよ、ノア。セイに教わってからだいぶ上達はしてるけど、まだ動きの速い物体への命中率が低い」
……えーと、それはつまり、オレに的になれと……?
「それぐらいならできるよな?ノア師匠?」
一回も呼ばれたことのない師匠呼びに加えて、強めの語気で発せられた言葉。あと、射抜くような鋭い眼光……。
果たしてオレに拒否権などあるのだろうか?
「……はい。精一杯やらせていただきます……」
オレは少しうなだれてしまう。ただまあ、オレがセツナの……仲間の役に立つってんなら、やるしかないよな、うん。
「…………そうか。ご苦労だったな」
ふと、皇帝陛下の声が耳に入る。オレの知らない人物と話していたらしく、その見知らぬ男はすっとこの場を立ち去っていった。
「皆、よく聞け。どうやらパーティの準備が整ったようだ。私についてこい」
……ん?今なんて?
「パーティ、ですか?」
ジンさんは、おそらく全員の頭に浮かんだであろう疑問を皇帝陛下に言った。
「ああ。このように面白い試合を見せてもらったのだ。その感謝をするのは当然のことであろう?」
「おい、アイザック。いい加減にしろよ。お前はどんだけ身勝手なんだ」
「身勝手?私は感謝を伝えたいだけだ。ノアズアークには我が国を救ってもらった恩義もある。パーティを開くのは道理だと思うが?」
山脈に大穴あけまくったから、救えたかどうかはわかんないけどな……。
「それはそうかもしれないが、いくらなんでも急すぎないかと言っているんだ。パーティを開くにしてもそれを事前に招待状などで伝えて、それからパーティを開催するものだろう」
「わ、グレンがまともなこと言ってる……」
皇帝陛下とグレンさんの言い争いを見たカズハは、思わず本音がこぼれたみたいだった。
「しかしもう準備は整っている。これを無視しては臣下たちの苦労や料理がすべて無駄となってしまう」
「時すでに遅しかよ……悪いがノア。もう少しこのわがまま野郎に付き合ってもらえるか?」
いつもはミクリヤさんに苦労をかける側だけど、今回は全くの逆になっている。ちょっとグレンさんが可哀想に見えてくる。
「オレたちは全然問題ないよ。新鮮なことばっかりでオレ的には楽しいし」
こうしてオレたちは、皇帝陛下が急遽用意してくれたパーティへと招待されることとなったのである。皇帝陛下に謁見して、帝城のお抱え料理人のおいしい料理を食べて、師団長たちと戦って、今度はパーティに参加する……なんかめちゃくちゃハードな一日になってる気がする。
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