碧天のノアズアーク

世良シンア

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グランドベゼル編

6 ノアとセツナ/シンとリュウ

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side ノア=オーガスト

「単刀直入に言う。私に氣術を教えろ」

帝都からそこまで離れていない南西部の森の中。その少し開けた場所にオレとセツナは来ていた。シンも付いてこようとしていたけど、リュウもシンにお願い事があったらしく、シンは仕方なくリュウに付き添って行った。

あの無愛想なシンが、リュウのお願いを優先するなんて…成長したよな、あいつも。

ってなわけで、今はセツナと二人きりというかなーり珍しい状況なわけだけど…

「氣術…?」

…なぜにオレ?
自慢じゃないけどさ、オレって確か誰かに何かを教えるってのは下手な気が…

「そう」

「一個聞いてもいい?」

「なに?」

「なんでオレ?秀とか湊の方が教えるのうまいぞ」

「秀は私と気が合わない。相性が悪い」

あー、ファーストコンタクトからちょっと微妙な雰囲気出てたもんなー。

「湊は私と適性属性が違うし」

「湊は水、セツナは雷と氷…あー、あと風もなのか」

適性属性が違うともちろん使える氣術は異なる。でも基本的な鍛錬方法は同じだったような気がするんだよな。ま、下級とか中級氣術の話だけど…

てか、秀も火だから違くね?秀は相性が悪いからって……かなりかわいそうだなー。

ドンマイ、秀!

「一応オレは氷と土で片方セツナとかぶってる。だからオレに教えてほしいってことか?」

「そういうこと」

「ちなみに、シンも火と雷で片方かぶってるけど」

ま、なんとなく……いや、もう確信はしてるが一応聞いてみよう。

「あの男は無理。あんたにベッタリすぎて、教えてもらうどうこうの話じゃない」

ですよねー。

「オッケー。話はわかった。オレが教えるのは問題ない。ただ……」

「ただ?」

「後悔するなよ」

オレはこの時ちょっとキメ顔的なことをしたかもしれない。いやね、せっかく教えるならさ、オレできますよ?みたいな雰囲気出してった方がいいじゃん?指導役っぽいし。

こうしてオレとセツナのマンツーマンの鍛錬時間が始まった。

「……だからー、こう身体中にビリビリって氣が走ってく感覚をブワッと感じるわけよ。その感覚をつかめたら、今度はそれを外に出すイメージをボンッて出すんよ。オッケー?」

「……」

なんだろうあの、何言ってんのお前的な表情は……。

「あれ?伝わんない?えーと、じゃあ……」

「…………あのさ」

懸命に教えようと考え込んでいると、それまでだんまりだったセツナから呼びかけられた。

「ん?」

「もしかして、下手なの?」

「…………そ、そんなわけないだろ?オレはノアズアークのリーダーだぞ?リーダーがこんなこともできないなんてそんなことあるわけが……」

「あ、そう」

冷ややかな眼差しが、ほら吹きなオレを射抜く。

見栄張ってるのバレバレなんだけどぉー!

「嘘です。ごめんなさい。オレ教えんのめっちゃ下手です」

「変な嘘つくな」

「はい、すみません…」

「別にリーダーだからってなんでもかんでもできる完璧人間じゃないし」

……!それはつまり……

「それはつまりオレをフォローしてくれてる?」

「……あの説明の仕方はどうかと思うけど。擬態語多すぎ」

うっ……。

「ほんと、おっしゃる通りで……」

だってどう言ったらいいかわかんねーんだもん。

いやさ、リュウの眼の力のコントロールを教えた時みたいに、オレとセツナの縁がつながってる状態なら、言葉じゃなくて感覚で教えられるから、オレでも簡単にできるわけよ。けど、縁結びってのは滅多なことじゃないと、秀からの許可が降りない。なんたって術者である秀がいないと縁結びは成立しないからなー……。

ちなみにセツナに今教えてたのは、自分の身体に流れる氣を感じること。つまりは氣術の初歩中の初歩だ。これがわからないと、氣術を上手く使えない。まあ下級氣術くらいなら分からなくても撃てちゃうけどな。みんな要領がいいのよ、うん。

けど、中級とか上級、さらには最上級氣術みたいなやつはこれが分からないとまず撃てない。センスがあればもしかしたら中級までは撃てるかもって感じだ。

だから氣を感じるってのは基本中の基本だし、氣術を増強させる上で必要不可欠なんだけど……。

オレの教え方が下手すぎてセツナを困らせてしまっている。かれこれ一時間もだ。そしてこの失態からわかることがある。

感覚派のオレに、言語化なんてものはできん!

つまりオレは役立たずってことだ……はあぁぁ……。

オレは自分自身を卑下し、さらに気分を落とした。

「まあ、あんたが頑張って教えようとしてたのは伝わってる。だから別に落ち込む必要ないだろ」

……!!また神フォロー?!
セツナ、お前ってやつはっ……!

「セツナってやっぱめっちゃいいやつだよな?!」

「はぁっ……?!」

セツナは心底驚いたという表情をみせた。

「オレのことすっげー気遣ってくれてさ」

「別に。本当のこと言ってるだけ…そんなことより、鍛錬の続きだ」

「おう!」

セツナはスッとまたいつものクールな顔に戻ってしまった。初めてみた顔だったのになー。残念。








はい、今日の成果。ズバリ、オレはやっぱり教えるの下手だった。

一旦オレだけ宿に戻って秀にコツを聞いてきた。そしてそれを教えたら一瞬にしてセツナはものにしてしまった。自分の氣を感じてしまったのだ。

さらにはオレが聞きに行った時、秀に「クロードさんが教えてくれたやり方があんだろ?なんでそれを教えてやらなかったんだぁ?」と言われる始末。

盲点だった。オレ流ではなく、クロード流で教えれば何もかもうまく行ったのだ。

バカなリーダーだぜ、まったく。

はぁぁ……。

「もうこんな時間か…」

空を見ると鮮やかなオレンジ色に染まっていた。

そろそろ戻った方が良さそうだなー。

「おーい、セツナ。そろそろ戻ろう」

セツナは秀の教えを受けてから急成長を見せた。この短時間でもう中級氣術も撃ててしまったのだ。オレが手本を見せたとはいえたった一回見ただけなのに……。

才能の塊だな、あれは。だって白氣Aで霊氣Sでしょ?そんで適性属性は白氣は氷、雷で霊氣は風……

全くもって恐ろしいやつだな、おい。

セツナはオレの言葉を無視して氣術を木々に撃ちまくっている。

あのー、セツナさん?もうここ半径二、三百メートルぐらい木がないんだけど?最初は半径八十メートルぐらいじゃなかった?

……ちょっとやりすぎじゃないかー?

「セツナー!これ以上はもう破壊すんなー!森がハゲるぞー!」

オレは木陰に座りながら、小さく見えるセツナに叫ぶ。声が届いたのか、セツナは鍛錬をやめこちらに歩いてきた。

「あのさ、魔物狩りに行かない?」

「ふぇ?……んんっ。今から?」

ビックリしすぎて思わず変な声出ちった。

「今」

オレはもう一度空を見上げる。どうみても夕方。てかさっきより薄暗くなってる気がする。

「明日は……あ、トロイメライか」

「あんたが行かないなら一人で行くから」

そう告げるとセツナはさっさと歩き始めてしまった。

……それはダメだわ。リーダーとして仲間を危険なとこに放り込んだまま見過ごすのはよろしくない。

「分かった。オレも行くよ」

オレは立ち上がり先に歩くセツナの後ろについていく。ヒュウッと一筋の風が吹く。森はなんとなく、いつもより冷たく感じた。







side シン=オーガスト

EDENを出てすぐの大通り。俺はリュウに頼まれごとをされ、リュウと二人である目的地まで歩いていた。

「シン兄ちゃん……」

俺の指を握るリュウに呼ばれ俺は視線を落とした。

「なんだ?」

「ごめん、なさい…」

……気を使いすぎだ。元暗殺者だというのに、優しすぎるな、リュウは。

「俺が決めたことだ、リュウ。嫌なら嫌と俺ははっきり言う。だがそうはしなかった。なら謝る意味などない」

「うん」

俺は自分で言うのもなんだがこの世で兄さんを一番大事に思っている。ヴォルガやクロード、ノアズアークのやつらや自分よりも。だからといって別に他の奴ら全員をどうでもいいと思ってるわけではない。

ノアズアークのやつらにはそれなりにしっかりと接してるつもりだ。秀にはそう見えていないようだがな。まあそれは、秀が求めるもののハードルがやけに高いからだろう。

もし俺が兄さんから離れることさえ嫌うやつなら、今、リュウと一緒にはいない。それもわからない秀は観察力に乏しいと言えるな。

「シン兄ちゃん」

「なんだ?」

「あれ、何?」

リュウの指さす方向を見ると、行列のできた店がある。あれは確か武器屋だったな。最近新しくできたところだ。売りはたしか『ブラックスミスの武器直輸入』だったか。

……胡散臭いな。

「新しくできた武器屋だ。俺たちが行く武器屋とはまた別だ」

俺がリュウに頼まれたのは、武器の新調だった。だから俺と兄さんがよく行く武器屋に連れて行こうとしている。俺としてはその武器屋もギリギリ及第点という程度で、勧めたいかと問われればノーと答える。

ただ他にいい武器屋がない。仕方なくあの武器屋へ連れて行こうとしたが……。

「行きたいか……?」

「うん……!」

ダイダロスの武器どうこうのせいで、以前、面倒ごとになった。結局は嘘だったわけだが。しかもそいつは殺されている。この小さな暗殺者にな。

今回も面倒ごとに巻き込まれる可能性は大いにあるが、以前のように俺が余計なことをしなければいい話だ。微妙なら当初の予定通りの場所に行けばいい。

……少し寄り道だ。

列の最後尾に並び中に入れるまで待つ。リュウと他愛ない話やどんな武器がいいのかなど会話をした。そうして三十分ほどたったぐらいで店の中に入ることができた。

中は外観よりも広く感じた。壁には剣や盾、槍といったありふれた武器が飾られている。他には展示ケースのようなものがいくつか並び、その中でも中央にあるケースには多くの人間が群がっていた。

とりあえずは周りを見るか。

俺とリュウは人混みを避ける意味でも、中央には寄らず、壁に飾られた武器を見ていった。

どれもこれもありふれた武器だな。すぐに折れそうだ。それにリュウが扱いやすそうな武器がほとんどない。リュウは短剣が使いたいらしいからな。普通のサイズの剣では大きすぎる。そして大剣などもってのほかだ。

「どれもこれも微妙だ」

店内をぐるっと一周したものの、めぼしいものは見当たらなかった。近くの展示ケースの中も見はしたが、すぐに壊れそうな代物だったな。

俺は店内の中央部分に目をやる。いまだに人間がわらわらといるが、もう残っているのはあそこしかない。

「見て行くか?リュウ」

「うん」

中央の展示ケースは上からしか見えない作りになっていた。そしてリュウの背では確実に見えない。俺は着いて早々にリュウを持ち上げ抱っこした。こうでもしないと、リュウが見えない。俺が見極めるだけでなく、リュウ自身が気にいるかどうかも重要だからな。

「ほう。短剣か」

群がる人間たちの間から見えたのは、赤と白が目立つ短剣。壁に飾られていたものや他の展示ケースに入っていたものとは、一線を画している。

「カッコいい……!」

リュウが反応を示している。それもキラキラとした目で、だ。

展示ケースには『ブラックスミス作りし名剣』と、でかでかと書かれている。これがこの店の一押しなのだろう。

「気に入ったか」

まあこの店の中では確かに一番良さそうだな。俺たちが行こうとしていた武器屋にもあるかないかという程度にはましな武器だ。

「うん……でも……」

リュウは展示ケースに小さく書かれた数字に目を落とす。そこには十万円エルツと赤字で記載されていた。

周りの人間も最初は欲しそうな目をしていても、値段を見た途端に愕然とし離れているようだな。

十万円エルツということは、金貨十枚を支払う必要があるか。やけに高いな。

値段とその武器の価値がかけ離れている気がするが……まあいい。

「何も心配はいらない」

俺はリュウを抱いたまま店の奥へと進む。そこには剣を磨いている男がいた。俺はリュウを下ろしてから話しかける。

「お前が店主か」

「ん?そうだが?」

店主は不思議そうな顔でこちらを見上げた。

「あの短剣もらうぞ」

俺は懐から金貨十枚を取り出し手のひらに乗せる。そしてその手を店主へ見せた。

「っ?!あんちゃん、一体どこにそんな金が……」

店主は俺をじろじろと観察する。

は……?

「お前はこれを受け取る。俺はあれをもらう。ただそれだけだろう。お前はただ金を受け取ればいいだけの話だ」

「あ、ああ……」

店主は驚愕の表情が抜けないまま、群がる人間たちの間をかき分け展示ケースを開ける。そして手袋をつけた両手で短剣を取り出し、こちらへ持ってくる。

俺は金貨を店主に渡し、持ってきた短剣を受け取った。その間、有象無象どもがこちらをじろじろと見てきたが無視して店を出た。

「シン兄ちゃん……」

店を出てすぐ、リュウは不安そうな目を向けてきた。

「お金、ごめんなさい……」

「あれはただの端金だ。どうせ俺は使わない」

これは本当のことだ。冒険者になってから多くの依頼をこなし、それから多くの魔物を討伐してきたせいか、捨てるほど金がある。兄さんは自分の取り分より仲間の取り分を多くしようとする。誰が反対しても譲らない。それもあってか、俺は腐るほど金がある。

本心からの言葉だったが、リュウは未だ申し訳なさそうにしている。

「それに、武器がなければただの役立たずだ。そんなお荷物はうちにはいらない。だからこれは必要経費だ」

「……うん……ありがと、シン兄ちゃん」

ようやく納得してくれたのか、リュウははにかんだ。

「早速使ってみるか」

「え…?」

「この短剣だ。実戦前に試し斬りした方がいいだろう」

今はまだ昼頃。少し森に行って魔物を相手するぐらいなら、暗くなる前に戻って来れる。

「うん…!」

リュウは嬉しそうに微笑んだ。







「ゾンビウルフか。ちょうどいい相手だ」

大帝国北西の森。俺はリュウとともに森の中を探索していた。しかしながらなかなか魔物が見つけられずにいた。そしてようやくこいつらを見つけた。

目前にはただれた肉をボタボタと落とす魔物が数匹。肉が落ちた地面は溶け、少し穴が空いている。

「来るぞ」

ゾンビウルフもこちらに気づいたのか、一斉に飛びかかってきた。俺は腰に下げていた二本の剣を抜く。だが俺の間合いに入る前に、ゾンビウルフどもは切り刻まれ、地面にゴトっと落下した。そして肉は全てただれ落ちて消え、バラバラの骨だけが残った。

相変わらず速い。

俺が剣を抜くと同時に敵一直線に駆け抜け、一瞬で斬り裂いた。俺の目では捉えられるが、一般人には到底不可能。あの動きをノアズアークで出来るのは俺たち神仙族ぐらいかもな。

「流石だな、リュウ」

骨の残骸付近には短剣についた汚れを振り払うリュウがいた。

「どうだった」

俺はリュウに近づいていく。

「すごく、切れ味がいい……」

「そうか」

どうやらそれなりに使える武器だったようだな。ダイダロス産というのも、あながち嘘ではなかったということなのだろう。

確か常闇国シェードというところに、ダイダロスがいるらしい。そいつはブラックスミスという有名な鍛冶屋の鍛冶師の一人なようだ。そして俺や兄さんはクロードやヴォルガにもらった武器をまだ使えない状態だ。そのつなぎとしての武器を、そいつにつくってもらうのもありかもしれない。

今使っている剣は、氣を込めた場合、二、三回の戦闘ですぐに折れる。なんともやわい武器だ。全くもって使えない。

「もう少し強い魔物ともやれるのが理想だが……」

まあそんな簡単に見つかるわけもない。他の雑魚魔物を相手にしたところで結果は変わらないからな。それに時間的にもこの辺がやめ時だ。

上を見れば夕日に染まる空で森が覆われているのがわかる。

今日はこれで終わりにするか。

「そろそろーーー」

『フギャャャャャァァァァァァ!!!』

なんだこの声は。魔物の断末魔か……?

木々にとまっていた鳥たちが一斉に飛び去って行く。

近くで魔物がやられたようだな。それも複数体。ここまで大きい声をあげる魔物もいるのか。

「びっくり、した」

「そうだな……。一応見に行くか」

「……う、うん」

どういう状況でこの声が聞こえたのか、少し気になるからな。どうせやることもなかったのだから、ちょうどいい。

声のした方へと森の中を進んでいく。数分ほど歩いたところで開けた場所に出た。そしてそこには、ほぼ垂直に切り立った岩の壁がある。さらに、その壁には大きな洞穴があることがわかる。

そしてその穴の中からは妙な臭いがした。

「うぅ……くさい……」

リュウは手で鼻と口を覆っている。この臭いはおそらく…

洞穴に近づき入ろうとすると、何か液体が流れてきた。俺たちは進むのをやめ後退する。

やはり、血か。それもこれは魔物の血だな。

魔物の血は人間に比べてかなり黒ずんでいる。人間の血と比べたら一目瞭然にわかるだろうな。

「この洞窟は、なんだ……」

ここまで魔物の血が流れてくるということは、洞窟内には想像以上の魔物の死骸があるはずだ。誰が何のためにこれを実行しているのか。 
気にならないと言えば嘘にはなるが、だからといってこの状況に対して何かしたいわけでもない。

「大丈夫か、リュウ」

ふとリュウに目をやると、リュウは俺の後ろに隠れ終始鼻と顔を手で覆っている。

「う、うん…」

険しい顔だ。……離れるか。

「わわ……」

俺は半ば強引にリュウの手を引きこの洞窟を後にした。そして一直線に宿へと向かった。その頃にはもう、空は暗くなっていた。

宿には兄さんとセツナ以外の全員がいた。

「兄さんは?」

「まだ戻ってきてねぇよ……。ったく、どこをほっつき歩いてんだか……」

少しイラつき気味の秀。まるで弟を心配する兄だ。

「ノアはもうあの頃と違う。子供ではないんだ。そのうち帰ってくる」

「……んなこと分かってんだよ」

対極的だな。だがまあ、湊も内心では焦っているだろうな。普段はクールだが、俺たち……特に兄さんのこととなると熱くなることがまあまあある。今は秀がイラついてる分、逆に平静を保っていられるといったところか。

だが、俺も秀と同意見だ。

「俺が探しに行く」

俺は障子を開け、宿の外へと向かおうとする。

「馬鹿野郎。お前までどっかいったら面倒なことになるだろうが」

秀に肩を掴まれ、俺は少しばかりイラつく。肩に置かれた手を振り払い、秀と面と面を向かい合わせた。

「俺はかすかではあるが兄さんの氣を感じられる。時間はかかるが必ず見つけられる」

これは俺の……いや、俺たちの特殊体質というべきか。双子だからなのかは分からないが、俺たちはお互いがどこにいるのか、不明瞭ながらも感じることができる。それはお互いの氣を感じ取れるからだと俺たちは考えている。

幼い頃、これを秀や湊に説明したが不思議そうにしていた。紫苑の眼とはまた違う。特定の人物の氣を何となく感じられる。氣術とも言えないその能力は、クロード曰く双子であることと何か関係があるのかもしれない、とのことだ。

この能力は物心ついた頃にはすでに使えていたわけだが、俺としてはなぜ使えるのかなどということはどうでもいい。兄さんの場所が常に把握可能な能力。俺には願ってもない力だ。

「それはそうかもしれねぇが……ったく、しょうがねぇな。俺も行くぞ」

頭部をぽりぽりとかきながら、致し方なしといった面持ちの秀。

「おい。俺の話を聞いてたか。大人しくここで待てと言っている。……ノアを信じろ」

別に信じてないわけではない。ただ心配なだけだ。

「あ……」

険悪な雰囲気の中、ボソッと聞こえたのか声に俺たちは目を向けた。そこには窓の外を覗くリュウがいる。

「帰って、きたよ……!」

リュウはこちらを向いて嬉しそうに報告する。そして宿の戸が開かれた音が聞こえた。

俺は足早に玄関へと向かった。






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