碧天のノアズアーク

世良シンア

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ダスク・ブリガンド編

17 ダスク壊滅作戦Ⅳ/盗賊集団ブリガンド

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side ドミニク

「ドミニク様ー!」

私の部屋へとドタドタと入ってきた駒その一。相変わらずうるさいですね。

「なんですか?」

「ゴードンの野郎からこんな手紙が届きましたー」

机に置かれた手紙を開く。するとそこには、ゴードンが私を自身の根城に呼び出そうとするような内容が書かれていた。

「ふむ。なるほど」

これは間違いなく罠ですね。そもそもこんな呼び出し自体が初めてですし。さて、どうしたものか…

「ここはドミニク様が乗ったと見せかけて、逆にあいつらを殲滅させましょうよー」

私が考えを巡らせていた間に、駒その一は意外にもいい案を出した。

「いいですね。最近はうちの上納金も落ちていますし、ダスクから奪えばいくらでも上納できます」

それどころかこちらに大量のお釣りが来る。

「私たちは盗賊集団ブリガンドです。奪うのはこちらの専売特許。……ダスクを強奪してしまいましょうか」

うちは基本的には物を奪う。ですが、時には人の命も奪っています。ダスクとの実力差はほぼないに等しい。

「マージっすか?!俺、みんなを集めてくるわー!!」

駒その一はすぐに駆け出し、どこかへ行ってしまう。

忙しない駒ですねー。まあ使えるからいいですけど。

私は近くにあった小型ナイフで、机に置いてある手紙を突き刺した。

「ゴードンの企て、利用させていただきましょう」









「これは……」

ゴードンの指示通り、夜になってからゴードンの根城へとやってきたはいいものの、私は想定外の光景を目にした。

ゴードンの根城は半壊し、その周囲には幾人もの死体が転がっている。

一体何が……?

私は警戒しながらも壊れかけの建物内へと進んでいく。もしかしたらこれをやった奴がまだ潜んでいる可能性もありますからね。

「たしかここがゴードンの部屋でしたか」

一番奥の部屋の扉を開けようとした。だが、扉前に瓦礫があるのか開く気配はない。

「ふむ。では……」

私は腰に下げた剣を抜き、扉を切り刻む。もし潜伏者が私を狙うのであれば、いくらなんでもこの音で気づくはずですが……

私は部屋へと不用意に入らず、一旦その場で止まる。

……気配はなし、ですか。

「では、失礼しますよ」

中へ入ると、そこには異様な光景が広がっていた。私はそれに躊躇することなく突き進む。

「ゴードン。あなた、死んだんですか」

そう、私を呼び出した張本人であるゴードンがなぜか死んでいたのです。

これは……誰かに心臓を抜き取られたようですね。身体中に骨折や打撲痕が見られますが、直接的な死因は心臓を抜き取られたことでしよう。

「見事な手腕ですね。綺麗に心臓だけを抜き取るとは」

その心臓は死体の横に無造作に投げ捨てられていますが。

「ん?」

その心臓の先にはこれまた別の死体が。汚れてはいますが、この場に似合わず、ずいぶんときらびやかな服を着ている。

これは間違いなく貴族ですね。ここにいるということは、ゴードンと関係の深い貴族でしょう。

そしてこの死体には頭がない。つまりは首を切り落とされて死んだということ。

手口が異なるのは何か意図があるのか……。

ふむ。これからどうしますか……

「……ぅ……」

「おや、まだ息のある者がいましたか」
 
私はその声がする方へと向かう。

「ここで一体何があったんですか?」

壁にもたれながら座る男へ問いかける。

「の…あ……ず……あぁ……く……」

……ノアズアーク、ですか。

ふむ。聞いたことがないですね。

「……」

「おや、死んでしまいましたか。惜しい情報源を失いましたね」

ノアズアーク。ダスクを私たちの代わりに殲滅した者。……少し調べてみましょうか。









side ノア=オーガスト

「ギャァァァァッッ!」

もう何度目か分からない汚い悲鳴が、この荒野に鳴り渡る。オレはクズヤロウの腕を治してから、死なない程度に何度も何度も殴っていた。

「…ッ………」

クズヤロウは何度も繰り返される猛烈な痛みに耐えきれずついに失神してしまった。

クズヤロウの身体にはオレがつけた幾つもの打撲痕があり、骨折している部位も数知れない。

やりすぎた、とは思っていない。これでも足りないぐらいだ。けど、こいつばかりに構ってられない。さっきチラッとだけだけど、みんなが敵に襲われている姿が見えた。

助けに行かないと……!

「終わったのか、兄さん」

振り向いた瞬間、目の前にはシンがいた。その後ろにはみんなもいる。

「シン。それにみんなも……無事だったのか」

「それはこっちのセリフだよー。ノアの方が断然危なかったんだからねー」

「そうですよ。あのダスクのリーダーと一騎討ちなんて……!心配だったんですから」

「えと、ごめん」

「それで、ゴードンはどうなったー?」

「オレの後ろで伸びてるよ」

オレは後方を指差して、ゴードンの哀れな姿をみんなに見せた。 

「うわー。死んでないのが不思議なくらいの重傷だねー」

「これからどうするつもりだ、ノア」

「正直言えば、オレはこいつを殺したい。というか、殺す気でいた。でも冷静に考えたら、それを決めるのはオレじゃなく、リュウにあるとオレは思ってる」

オレがリュウを見据えると、リュウは困った顔をしていた。

「ぼ、ぼく……?」

「そうだよ、リュウ。ゴードンとの因縁を断つのなら、その因縁の渦中にある者自らが行動しなきゃいけないんだ」

オレはどんなに言い繕っても所詮は他人。他人が他人の因縁を切ったところで何の解決にもならないとオレは思う。

「……」

「必ず殺さなきゃいけないってわけじゃない。因縁の断ち方もリュウ自身が決められる。リュウのやりたいようにやればいいんだ」

「ぼくの、やりたいように……」

リュウは一度視線を落とした後、顔を上げ迷いのない目を見せた。

「ぼくは、むやみに人を、殺したくはない……から、ゴードンも…………殺さない」

……うん。リュウなりのいい答えだ。リュウは本当に優しい子だよ。

「分かった。クズヤ……んんっ……ゴードンはこのまま置いてこう」

「いいのか、ノア」

「湊も聞いただろ?この中で一番の被害者であるリュウが殺さなくていいって言ったんだ。なら、それを尊重しないとな」

オレの怒りだけで始末していい問題じゃない。ちょっと冷たいかもしれないが、これはゴードンとリュウの問題だ。

それに、オレはこのクズヤロウにまあまあ制裁を加えられた。ほんの少しだけだが、リュウの受けてきた痛みを返せたはずだ。まあこんなのオレの自己満足でしかないんだけどな。

「リュウが狙われる可能性を考えてないわけではないな?」

流石湊。ゴードンが復讐を考えて、リュウに危険が及ぶことを危惧してる。いいとこを突くなー。

「そん時はオレたちが守ってあげればいい。オレたちノアズアークなら余裕だろ?」

「そうだな……」

湊は納得してくれたのか、これ以上の追求をしてこなかった。

「おお。もう終わっちまったかぁ?」

この声、秀か……!

「秀さん。無事だったんですね!良かったです……!」

エルは心から安堵した様子で秀の帰還を喜んだ。

「ははっ。俺があんな雑魚に負けるわけがねぇよ。……それで、そっちももう片付いた感じか?」

「とりあえずダスクのリーダーであるゴードンはノアが倒してくれたよー。で、リュウの意向で殺さず捕縛って形で落ち着いたかなー」

「なるほどなぁ」

「それで今、シンがあいつが動けないように拘束してて……ん?どうした、シン」

シンはもうゴードンを拘束し終わったようだけど、なぜかゴードンから離れずその場に立ち尽くしていた。

「……いや、なんでもない」

シンはオレの呼び声にしっかり反応しこちらに戻ってきた。

何かあったのか?でも何も言ってこないってことは、そんなに重要なことでもないのかもな……。

「さてと、ダスクも倒してみんなも揃ったわけだけど……これからどうする?」

「一旦村に戻るのがいいんじゃねぇか?目標は達成したし、疲れをとるって意味でもその方がいいだろ」

まあ、それが一番いいよなー。

「そうだな。よし、一度村に戻ろうか」






side リュウ

「てめぇ、リュウ!裏切りやがったな!」

「ぶっ殺してやるよ!」

リュウの前に立ち塞がる二人組。リュウの周囲には他にも多くの敵がおり、それぞれがノアズアークの面々と対峙していた。

リュウは手にした黒いナイフを構えた。

「は、はやすぎる……!ぐはっ」

「な、なんだこいつ?!ぎゃっ」

リュウは自身の俊足を活かして、即座に敵との間を詰める。そしてナイフを右から左、下から上といった具合に捌き、瞬時に敵を倒した。

リュウは暗殺依頼の命令が降った時、たいていは自身の眼の力を使うことが多かった。だが、身を守るすべとして対人を想定した護身方法を密かに身につけていた。眼の力に頼らない独自の力を幼い頃から習得したのだ。 

今までのリュウの境遇を考えれば、自分の身を守る力をつけようとするのは当然のことなのかもしれない。リュウは毎日隠れて森の中で特訓していた。

うまく、倒せた……!

リュウは倒れた敵から少し離れる。反撃がくる場合に備えたのだろう。

「やるねー、リュウ」

リュウは陽気な声へと顔を向ける。そこにはノアズアーク唯一のAランク冒険者であるカズハがいた。

「……カズハ、お姉ちゃん……?」

カズハお姉ちゃんは黄色の髪の明るいお姉ちゃん。ぼくのことを嫌わない優しいお姉ちゃんの一人。

「きゃー!かわいい!」

「ふぇっ……?」

突然、カズハはこの殺伐とした状況下に似つかわしくない行動をとった。そう、膝をついてリュウに抱きついたのである。

「エルもかわいいけど、やっぱりリュウも捨てがたいー!『……カズハ、お姉ちゃん……?』だってさー!これはヤバすぎるよー!!」

カズハは頬をすりすりとリュウになすりつけている。リュウは何が起きたのか分からずされるがままである。

「あの、カズハ?いくら敵を倒したからと言っても、油断はしちゃだめだと思います……」

カズハの後ろから現れたのはエルである。エルはカズハのこの行動を軽く咎めた。

「分かってるよー。でもリュウがあんなこと言うのが悪いよねー」

カズハは名残惜しそうにリュウを離し、立ち上がった。

ぼく?ぼく何か悪いことしちゃったの?

「リュウくんのせいにするのは良くないです」

「えー。エルだってリュウに『……エルお姉ちゃん……?』って言われたら歓喜するでしょー?」

「うっ……そ、それはそうですけど……」

「でしょー?やっぱりかわいいは正義だからねー」

「で、ですがそれとこれとはーーー」

「ごめんなさい」

「「えっ?」」

突如としてリュウは謝罪の言葉を口にした。

「ぼくが、何かしちゃった、から……」

「いやいや、違うよー。これはリュウが悪いってよりも、私たちの方に問題があるっていうかー……ねー、エル?」

「そうです。リュウくんは何も悪いことしてないですよ。だから謝らなくていいんです」

「ほんと……?」

「もちろん!」
「もちろんです!」

「そっか……よかった……」

リュウは先ほどまでの不安そうな面持ちから一変して、深い安堵の表情を浮かべた。

「早いな」

三人の会話を遮りやって来たのは湊であった。湊は刀の血を振り払うと鞘へと戻す。

「一応言っておこう。周りに敵はいないようだぞ、ミナト」

「ああ」

湊の首に巻き付いている紫苑は、そう告げたかと思うと目を閉じその姿を消した。

「湊の方も終わったみたいだねー」

「そうだな。他愛もない相手ばかりだったが」

「お疲れ様です、湊さん」

「ああ。皆無事で何よりだ」

湊はカズハ、エル、リュウの元気な姿を目に留める。

「ていうか、早いなーってさ、そりゃ湊の方が相手した人数が多いんだから、湊たちより早く片付くでしょー」

「いや、以前の二人であれば俺たちよりも時間がかかったはずだ。そうならなかったのは二人が確実に強くなっているということだろう。シンもそうは思わないか?」

湊は後方からやってくるシンに問いかけた。

「……まあ、そうだな」

「ほんとー?!」
「本当ですか?!」

二人は嬉しそうな声をあげた。

「秀と湊が指導しているからな。強くならないはずがない」

「加えて二人は覚えが早い。そのうち師団長も超えられるかもしれないな」

「そこまで言うー?ま、まあ、素直に嬉しいけどさー」

「ありがとうございます!湊さん!シンさん!」

「それはそうと、すぐにノアのもとへ向かうぞ。…シン、分かってるな」

湊は何やらシンに釘を刺すような言い方をした。

「……」

「返事は?」

「……ああ」




リュウたちがゴードンと対峙するノアのもとへと着くと、ボロ雑巾のような姿と成り果てたゴードンと、服がかなり汚れ身体には傷がいくつか見られるもののピンピンとしているノアがいた。

「これからどうするつもりだ、ノア」

「正直言えば、こいつを殺したい。でもそれを決めるのはオレじゃなく、リュウにあるとオレは思ってる」

「ぼ、ぼく……?」

「そうだよ、リュウ。ゴードンとの因縁を断つのなら、その因縁の渦中にある者自らが行動しなきゃいけないんだ」

ぼくは、ゴードンをどうしたいんだろう。

「……」

「必ず殺さなきゃいけないってわけじゃない。因縁の断ち方もリュウ自身が決められる。リュウのやりたいようにやればいいんだ」

「ぼくの、やりたいように……」

ゴードンはぼくをいっぱい痛めつけた張本人。もちろん憎しみはないわけじゃない。殺したいかと言われれば少なからずそういう気持ちもあると思う。でも、それよりも……

リュウは一度視線を落とした後、顔を上げ迷いのない目を見せた。

「ぼくは、むやみに人を、殺したくはない……から、ゴードンも、殺さない」

何度も、何度も、何度も……ぼくは、人の死を見てきた。その死様は、ぼくの心をすり減らせてきたと思う。あの顔は何度見ても忘れられない。

あれはぼくが、ぼく自身が確かに殺したという何よりの証明だから……

リュウは人が苦しむことを嫌う性格だ。そして自分が苦しむことは気にしない。まさにノアと同じようなタイプと言える。

幼い頃から人の死に触れてきたリュウは、これ以上誰かが死ぬというのは許容できなくなっていた。それがどんなに自分を苦しめてきた相手であろうとも……

ぼくはこれ以上、誰も殺さない。

リュウは自身に固い誓いを立てたのであった。






side テンラル?

ダスクの本拠地であるこの城はかろうじて原型をとどめているものの、突風が吹き付ければ今にも崩れそうなほどにぼろぼろですね。

私は担いでいた巨体を無造作に投げ落とした。その身体は縄で拘束されていたが、ナイフで切り落としておく。一応まだ私はダスクのテンラルですから、最後までは彼らしく演じましょうか。

後方に置かれた机にゴードンを寄りかからせ、呼びかける。

「ボス…ボス、しっかりしてください!」

「……んっ………こ、ここは…」

ようやく目を覚ましたゴードンは状況把握に手こずっているみたいですねぇ。気絶していたのだから当然と言えば当然ですが。

「ボス。目を覚ましたんですね。良かった……!」

「お前は、テンラル、だったか……?……っダスクはどうなったぁ!!」

まだそんな元気があるとは、ゴキブリ並みの生命力というやつでしょうか。

……鬱陶しいですねぇ。

「それが……大変言いにくいのですが……全滅してしまいました」

最初からあなた方に勝ち目は無いと踏んではいましたが、まさかここまで差がつくとは……正直、私がここにいる意味はなかったですねぇ。また目的を達成できませんでした。

「全滅……だと……?!この俺様の組織が負けたというのか、あんなガキどもに……?」

ただ、収穫はありました。あのノアと呼ばれていた少年。あの少年はもしかしたら、長年の私の悲願を叶える存在となりうるかもしれません。そういう意味では今回の戯れは無駄ではなかったですかねぇ。

「ぜってぇに殺してやるぞ。あのクソガキどもがぁぁ!!」

はぁ。本当に五月蝿いゴミですねぇ。あの少年の邪魔はしてほしくはないですし、そろそろ殺しますか。

「五月蝿いですねぇ」

私の一言にゴードンは先程の復讐心を忘れ、驚いた様子でこちらを見る。

「……あ?」

「ですから、五月蝿いですねぇ、と申し上げたのです」

「なんだとテメェ。俺様を誰だと……ぐはっ!」

私は黒い手袋をはめた右手をゴードンの胸へと突き刺し、その心臓を鮮やかに抜き取った。

「もちろん知っていますよ。ただのゴミクズですよねぇ」

私は抜き取ったばかりの血が滴った心臓を捨てた。

「さて、用は済みましたしお暇いたしましょうか」

『ガタッ……』

静かな夜に響いたかすかな物音。その物音を出した気配にはこの部屋に入った時から気づいてはいましたが、どうでもいいものでしたのでスルーしました。ここで音を立てるとは愚かという他ありませんが、私の目的に支障が出るようなことでも無いでしょう。

私は音に気づかぬ振りをして、その場を後にした。






side ネラコフ=グーザー

な、なんなんだよ、あいつ……。

あのゴードンを瞬殺したぞーっ……!

一体どうなっているんだ?!

瓦礫に押しつぶされ身動き取れずに気絶してしまった僕。目を覚ませば聞き覚えのある声と、聞き知らぬ声が聞こえてきた。助けを呼ぼうかと思ったその瞬間、ゴードンが死んだ。あっけなかった。僕は正直、今まで出会ったなかで一番強いのはゴードンだと思っていた。Sランク冒険者には会ったことがなかったし、そいつらよりゴードンの方が強いとさえ思ってた。

けど、ゴードンは見知らぬ男に瞬殺された。それに、遠目じゃよく見えなかったけど、死ぬ前から身体に殴られた痕とかアザとかがあったように見えた。

……あ、あんなに弱かったのか、あいつ。僕のことも見捨てたし……やっぱりダスクの資金援助を打ち切るのは正解だったな!

ていうか、誰でもいいから僕を助けろよ!

グーザー伯爵家次期当主たるこの僕がこんなところで死ぬはずがないんだよ。

僕は瓦礫に埋もれた身体を動かそうと身を捩ってみたが、びくともしなかった。

くそ。この高貴な僕がこんな無様を晒すなんて…!

「お前がネラコフだな」

突如頭上から響いた男の声。その声に僕は身体が震え上がってしまった。

……び、びっくりしただけだぞ。きゅ、急に声がしたら誰だってこうなる。

おそるおそる目線を上にすると、黒髪の男の姿があった。顔は暗くてよく見えないが、瞳は金色に輝いている。

「な、なんだ貴様は。というか、この僕を知っているのなら早く助けろ!お前なんか僕の家なら簡単に始末できるんだからなー!」

やっと助けがきたか。とっととこんなところから去ってやる。

「俺の兄さんに、手を出したな?」

「へ?」

お前の兄貴なんか知らねーし。てか……

「そんなことはどうでもいい!早く僕をーーー」

「お前は俺の兄さんを狙った。ならお前は俺の抹殺対象だ」

な、何言ってんだよ、こいつ。てか、何で僕身体の震えが止まらないんだ……?

「死ね」

「ちょっと、待っーーー」








sideシン=オーガスト

剣についた血を布で拭き取り、剣を鞘へと収める。赤いしみがべっとりとついた小汚い布はその辺に捨てた。

俺は用事を済ませ村へ戻ろうとする。すると何やら慣れ親しんだ気配がした。

「終わったのか」

「湊……」

どうやら湊は俺の後をつけてきたらしい。心配性なやつだ。

「お前があの時、鬼のような形相をしていたからな。何かあると思ってはいたが……」

あの時というのは俺がゴードンのポケットから取った紙を見た時だろうな。

あの紙は兄さんを……ノアを捕縛しろという内容の依頼書だった。そして依頼主はネラコフ=グーザー。

ダスクの奴らを相手取った時にあの城の近くでたまたま豪華な馬車を見かけた。どう考えてもこの地域に似つかわしくないものだ。

明らかに裕福な者の所有物。そして裕福な者という単語で真っ先に思い浮かぶのは皇族・王族・貴族だろう。

こんな危険な地域にこれ見よがしにあのような豪奢な馬車で来るというのは、自身の権威を見せつけたい愚か者だ。

普通であれば目立たないよう一般的な馬車で来るのが妥当と言えるだろう。基本的に皇族・王族はその身分の時点ですでに権威は高く見せつける必要などない。となれば、あれは貴族の馬車。それもかなり馬鹿な貴族の、な。

そして俺は依頼書を見てすぐに、この馬車と依頼書に書かれたネラコフ=グーザーという名前を結び付けた。依頼書には一刻も早くノアを捕まえろと書かれており、依頼書に記載された日付を見ると、依頼したのは十日以上も前のことらしい。ネラコフとやらが痺れを切らしてここに来てもおかしくはないだろう。

こうして俺は今容易にネラコフを見つけることに成功し、殺すことができたというわけだ。

「兄さんには絶対に言うな。これは俺の自己満足だ。兄さんに言うほどのことでもない」

このような愚物を兄さんに関わらせる必要はないしな。

「了解した」

薄く広がる曇り空から僅かに照らす月明かりが見守る闇夜。俺と湊は何事もなかったかのように村へと戻った。

そういえば城の中であの愚物……確かゴードンだったか?そいつも死んでたが、一体誰の仕業だ……?









side ノア=オーガスト

「え、まだかかるのか?」

「そうなんだよねー。あたいの知り合いがあの荷物を別の村に運んできて欲しいらしくてさー。どうせ次の商談まで時間があるからやりたいんだよねー。だから、あと一日待ってくれない?」

昨日の夕方頃に俺たちは村へと戻った。その後は村にお世話になり、無事に朝を迎えた。逼迫してそうな状況のこの村にお世話になるのは申し訳なかったけど、村長のコーディーさんの優しさで俺たちはゆっくりと休むことができた。本当にありがたい。

けどもう一日世話になるのは……ちょい気が引けるんだよなー。

「んー。待つのはいいんだけど、この村にこれ以上の迷惑かけるわけにはーーー」

「いやいや。大丈夫じゃよ、旅人さん。一日も二日も変わらんからの」

コーディーさんは一つ一つ丁寧にお茶を置いていく。お茶からは湯気がうっすらと立ち昇っている。オレたちのためにわざわざお茶を入れてくれたようだ。

「ありがとう、コーディー村長」

「茶は心と身体を落ち着かせてくれる。これを飲んでゆーっくり休むと良い。旅人さんをもてなせないほどこの村は廃れてはおらんから」

ニコニコと答えてくれるコーディー村長。とてもおおらかで誰からも好かれそうな人だなー。

「じゃあ、お言葉に甘えて、もう一日滞在させてもらうよ」

「うむ。それがいいじゃろ。この家は空き家でな。今は誰も使っとらんから好きに過ごしてもらって良い」

そう言うとコーディー村長はこの部屋を後にした。

この家は空き家と言う割には食器や家具が一通り揃っている。それに家自体が古びてるわけでもない。空き家となってからそんなに日が経ってないんだろうなー。

「じゃ、あたいとフィッツは出かけるから待っててねー」

「ちょっ……!」

村長に続いてリズさんとフィッツさんも出て行った。フィッツさんはリズさんに腕を強く引っ張られたのか「イテェよ!離せや!」と叫んでいた。本当に仲がいいな、あの二人。

その後はオレたちがどうしたかというと、完全に暇になってしまったので各々時間を潰していた。オレとシン、リュウの三人は村の周囲をぶらぶらと散歩。カズハとエルは村の人たちのお手伝い。秀と湊は空き家で待機。

「うおっ、ここ川が流れてんのかー。しかもめっちゃ綺麗じゃん。……うまいっ!」

村から西側へと進んだ先で見つけた小川は、澄んだ水が流れており味も最高だ。それに反対岸には鹿の親子がぐびぐびとこの清らかな水を飲んでいる。動物たちも絶賛みたいだ。

「……たしかにうまいな」

「だろ?おーい、リュウ。リュウも飲んでみろよー!」

リュウは少し大きめの石の上に座り、遠くを眺めている。何か物思いに耽っている感じで、ぼーっとしている。

返答なし。本当に聞こえてないみたいだな。何かあったのか…?

オレは心配になりリュウに近づいた。

「どうしたんだー、リュウ。元気ないぞ」

「あっ、えと、ごめんなさい」

ペコっと頭を下げるリュウ。

「いやいや、謝ることないって。…なんかあった?オレでよければ聞くぞー」

「……あ、あのっ……!」

リュウは前のめり気味で声を発した。

「ノアは、ぼくを助けて、くれた」

「うん」

「えと……もう一回、助けてくれる……?」

不安そうな顔だ……もうそんな顔しなくてもいいのになー。

オレはリュウの純白の頭に手を乗せた。

「当たり前だろ?オレのことは頼れる兄ちゃんだと思ってなんでも言ってくれ。兄は弟を助ける義務があるからな!」

まあ兄弟じゃなくても仲間なんだから、当然助けるけどなー。

「それに、シンっていうカッコいい兄ちゃんもついてるだろ?ほら、シン兄ちゃんって呼んでみなー?」

「シン兄ちゃん……?」

「……っ……ん」

オレの隣に立つシンはそっぽを向いた後、小さく返事した。

リュウが可愛すぎて直視できなかったんだなー。珍しいこともあるな。シンも子どもには弱いのかも。新しい発見だ。

「シン兄ちゃん、怒った……?」

シンがそっぽ向いたせいで、リュウはどうやらシンが怒ったと思ったらしい。

「いや……」

ったく、正直にリュウが可愛すぎて反応に困ったって言えばいいのになー。

「全く素直じゃないな、シンは。大丈夫だよ、リュウ。シンはリュウの可愛さにやられただけだから」

「……?」

コテッと首を傾けるリュウ。

わー、久々に見たよ、その仕草。可愛すぎるからやめてくれ。

「……んんっ。それで、リュウは何に悩んでるんだ?この頼れるノア兄ちゃんに言ってみなさい」

自分で頼れるとかいうの恥ずいな。でもこれくらいカッコつけてるほうが、リュウも頼りにしやすいだろ。

……実際どうなのかは別としてもな。

「えと、前にぼくに優しくして、くれたお姉ちゃんが、いて……それで、お姉ちゃんも、ぼくみたいに、苦しんでた、から、助けてほしい……」

リュウに優しくしてくれた女、か。その人はリュウの本質を見てくれたいい人なんだろう。リュウが助けたいと願うのだから。

「なるほど。ちなみにそのお姉ちゃんの名前とか場所、分かるか?」

「セツナ、だったと思う。場所は、たぶん、ブリガンドのアジト」

名前がセツナで場所はブリガンドのアジトね。

……確かブリガンドってダスクと同じで悪名高い組織じゃなかったっけ?ダスクが暗殺集団、ブリガンドが盗賊集団って言ってたような……。

まあ、ダスクがあの程度だったからブリガンドもたかが知れてるよなー。けど油断大敵って言うし、一応甘く見ないようにしよう。

「ブリガンドのアジトの正確な場所って分かる?」

「えと、たぶん、海の近くの、ボロボロの、教会……」

あー、あれか。エルが書物で見たっていう廃教会……

まあそこそこ大きそうだったし拠点としては使えるのかもなー。

「んじゃあ、今から行っちゃうか。早いほうがいいし」

「……今?」

「そ、今。シンもそれでいいよな?」

「ああ」

ちょうど今日は用事がなくて暇だったんだ。ブリガンドを倒せなかったとしても偵察する価値ぐらいはあるはずだ。

オレはリュウの左手を掴んで天へと掲げた。

「ではでは早速、ブリガンドのアジトへレッツゴーだ!」
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まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

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