碧天のノアズアーク

世良シンア

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ノアズアーク始動編

4 ソロの冒険者

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side ノア=オーガスト

ミクリヤさんに促されて訓練場を後にしたオレたちは、また別の部屋へと案内されることとなった。そこは一般的には立ち入り禁止であろう、この組織のトップの人間が使用している部屋らしい。

……こんな問題児、未だかつて存在していたのだろうか?

自分で言ってて悲しくなるけど、まず検玉石っていう特別な設備品を壊して、次に副ギルド長に試験を見てもらって、最後にはギルド長とご対面って……こんな変な事になってるやつ、そうそういないだろ!

前人未到の何かをやってのけるのは好きだけど、こういう完全に相手に迷惑かけてるだけの行動は、全く気持ちよくない。
むしろ、何かやらかしてしまったんじゃないかと、不安と心配で内心ヒヤヒヤしてるんだから。

そんなこんなでミクリヤさんの後についていけば、目の前には赤一色の異質な扉が見えていた。

『コンコンコン』

「ギルド長。至急相談したいことがあるんだが、中へ入ってもいいか?」

「……ああ、構わないぞ」

低めの落ち着いた声が聞こえた後、その赤い扉をミクリヤさんが開ける。

「忙しいところ悪いな」

「いや、ちょうど区切りがついたところだ。……で、話とは後ろの四人のことか?」

「ああ。実は訓練場をボロボロにしてしまっただけでなく、部屋にあるあの的を跡形もなく破壊してしまってな……」

「ほう、それはすごいな。的を破壊できたやつはいたし、部屋を壊したやつもいた気はするが、的を跡形もなく壊したなんてやつは見たことないぞ。よほど氣の質が高いのか?まあ、冒険者になりたいものは誰でも大歓迎だから構いはしないが」

真っ赤に燃える髪を持つギルド長。

雰囲気はまさに組織のトップに立つに相応しいって感じだ。
だけど意外と若いんだなー。てっきりヴォル爺みたいな人が出てくると思った。

「えーと、冒険者登録の方は結局……」

自分たちが無事に冒険者として認められるのかどうかが気になってしかたなかったオレは、真っ先に質問した。

「おー、そのことな。正直に言って、俺はAランクに認定してもいいと思うんだが、実際に見たミクリヤはどうだ?」

「僕もそれが妥当だと思う」

へ?いきなり上から二番目?それは色々とまずくないか?

「あの、普通にDランクから始めたいんだけど……」

Aランクスタートなんてしたら悪目立ちするじゃんか。
てか何より、みんなと同じようにコツコツランク上げるのが結構楽しそうなんだよなー。

「お前たちがそれでいいなら構わないが……。そういえば名乗ってなかったな。俺はグレン=トワイライト。一応このEDENのトップを務めている」

グレンさんか。外見だけじゃなくて名前までイケてるな。

「オレはノア。こっちからシンに秀に湊」

オレはいつもの感じでみんなを指差しながら紹介していく。

「ノア、シン、秀、湊か。よろしく。……で、お前たちはパーティーを組むのかな?」

「そりゃもちろん」

オレは大きく首を縦に振った。

せっかくの冒険に、シンたち無しなんて考えられない。

「なら、冒険者登録に続いてパーティ登録もしないとだな。ここで登録はできないから、受付でしてもらうといい。きっとミクリヤがやってくれる」

グレンさんがミクリヤさんの方へ顎をしゃくった。その様子に、ミクリヤさんは軽くため息をついた。

「……やっぱり僕がやるのか」

「お前と俺以外にこういう時のやり方を知ってる奴がいないだろ?」

口角を上げながらミクリヤさんを見つめるグレンさん。それに根負けしたように、ミクリヤさんは再びため息をついた。

「……わかった。では、僕についてきてくれ」







「アリア。ノア君たちのギルドカードある?」

ギルド長室を出たオレたちは、ミクリヤさんの案内のもと、もう一度あの受付へと戻ってきた。

そこまで時間はかかってないというのに、内心で色々考えすぎて実は以外と疲労感を覚えていたりするけど、みんなに悟られまいと、なんとかいつも通りを装っている。

オレが来たいと我儘を言って今日一日中連れ回したってのに、オレが先にへばったらみんなに示しがつかなさすぎる……!

「あ、はい。それと報告が遅くなったんですが、検玉石は光りませんでしたけど、一応適性属性と氣の種類、氣の保有量といった必要情報はすべて登録されてました」

「ん……?そんなことがありえるのか?」

ミクリヤさんは困惑の表情を浮かべながら、オレたちのギルドカードをまじまじと見つめる。

「え……つまりオレが壊しちゃったわけじゃないってこと?!」

オレは隣にいたシンに、ミクリヤさんたちには届かない程度の声量で聞いてみた。

「だから言ったんだ。兄さんがそんなヘマをするはずがないと。あの石が全面的に悪い」

またまた辛辣な言葉が検玉石に浴びせられたが、今度は動揺することなく、逆に安心感でオレの胸中はいっぱいだった。

「よかったー。罰金払うとかになったらどうしようって、変に考え込んじゃったんだよなー」

「そんなこと考えてたのかよ。いつもはズカズカ何にでも足を踏み入れるくせに、こういうことには妙に心配性なんだなぁ、ノアは」

肩をポンッと叩かれた。横には案の定秀がいる。

「だって人の物を壊すのはどう考えてもダメじゃん」

「おうおう、人間ができてて偉いなぁ。俺らの教育の賜物ってか?」

ポンポンと軽く頭を叩かれる。けど今は安心感が強かったために、特にオレは反抗しなかった。

「秀というよりもクロードさんの背中を見て育ったからだろう。秀の態度や口調は、一般的には荒い印象を与えるからな」

後方から湊の落ち着いた声がする。

「うっせぇよ。これが俺なんだからしょうがねぇだろうが」

後ろを振り向いた秀が湊へ反論する。

「それはそれとして、とりあえず冒険者登録はなんとかなるようだ」

湊の視線に釣られるようにしてその方向に目を向ければ、ミクリヤさんがギルドカードから視線を外して、アリアさんと話を進めている様子が見て取れた。

「原因は後で解析するとして……まあ何にせよ、あとはパーティ名を書き込むだけか」

ミクリヤさんはアリアさんから四枚全てのカードを受け取り、胸ポケットから白いペンを取り出す。そしてオレたちの方へ向き直った。

「君たち、パーティ名はどうする?」

あー、そういや考えてなかったな。冒険できればいいやって感じだったし……。さてどうしよう。

腕を組み頭を悩ませる。すると珍しくシンが提案してくれた。

「『ノアズアーク』はどうだ?兄さんがリーダーだ。ちょうどいい」

「え?オレがリーダーなの?」

シンからの急な提案に、オレは心から驚く。しかも自分がリーダーになるとは微塵も考えていなかった。

てか、オレの名前がパーティ名に入ってるって、かなり恥ずかしい。

「当たり前だろう。ノアが始めた冒険なんだ。俺たちはそれについていくだけだ。何より、俺も湊もシンも、ノア以外がリーダーになることを望んじゃいねぇよ」

「……そっか」

秀からの激励にオレの心は高揚感で溢れてくる。

なんかわからないけどすげー嬉しい。
よし!やるからにはみんなの期待に応えられるようなリーダーにならないとな!

「あ、ちなみにだけど他にパーティ名の案ある?」

仲間に方針を聞くって、きっとリーダーっぽい行動だよな?

「いや特にはねぇな。ノアズアークでいいんじゃね?」

「同じく」

「ノアズアークが一番兄さんにふさわしい」

秀はテキトーに返事してそうだけど、湊とシンはノアズアークって名前に乗り気らしい。

おお、マジか。

……まあ、正直オレもいいのが思いついてるわけじゃないし、せっかくシンが提案してくれたんだ。

ちょっと恥ずいけど……これでいくか。

「ミクリヤさん。パーティ名はノアズアークでお願いします」

「わかった」

ミクリヤさんはスラスラとペンを走らせカードへ文字を書き込んでいく。

「よし、完成だ。これが君たちのギルドカードだ」

ミクリヤさんから各々がギルドカードを受け取る。書かれたパーティ名と自分の名前の文字は達筆で、オレの拙い字とは大違いだった。

「これが冒険者の証かー……」

ようやく手に入れた冒険者としての第一歩にオレは心躍らせつつ、その薄く四角い物を手に持って、まじまじと見つめ始めた。

渡されたギルドカードの色は最初オレが検玉石を壊してしまったと勘違いした時に見たような透明なものではなく、カードに斜めの線が入り、その右上は緑色、左下は黄色に変化していた。

「それがDランク冒険者のカードになる。Cランクになると銅色、Bランクになると銀色、Aランクになると金色、そして最高ランクであるSランクになると透明な青色に変化する」

「へぇー、面白いな!」

カードの色が変わると、視覚的な効果でランクを上げたいって気分にもなりそうだ。

そして目指すはもちろん、青色だ!

「じゃあ僕はこれで。何かわからないことがあれば受付のアリアに聞くといい」

そう言ったミクリヤさんはこの場を後にした。そしてオレはギルドカードをもう一度確認してみる。

白気:S
適性属性:氷・土

お、保有量はSなのか。測ったことなかったけどかなり多い感じかな。白氣びゃっき……そういえば人間・亜人・天使は白氣を使うけど、魔人と魔物は黒氣こっきを使うんだったな。あとは精霊は霊氣で……あ、人間や獣人でも霊氣もちはいるんだったか。でもオレは持ってないみたいだなー。ちょっと残念。

えーと、それから……適性属性は氷と土。確かにその二属性の氣術はかなり得意だ。他のは、使えても下級氣術ぐらいしか無理だし、めっちゃ氣を使うから、燃費も悪いんだよなー。

「みんなはどんな感じだったんだ?」

三人からギルドカードを受け取り順々に見ていく。

シン
白気:S
適性属性:火・雷


白気:A
適性属性:水


白気:S
適性属性:火

なるほど。三人ともオレと似たような感じかー。もしやこのステータスは普通なのでは?

ちょっと受付に聞いてみよ。

オレはギルドカードをみんなに返し、受付嬢ことアリアさんのもとへ向かう。

「あの、このステータスって一般的な感じ?」

「えーと、どれどれ……っ?!いえいえいえ、そんなわけないそんなわけないですよ!適性属性は普通一人一つが基本で、氣の保有量なんてSの人はほとんどいないですからね!Aでも騒がれるんですから!!」

アリアさんは、何言ってるんだ?!と言わんばかりにまくし立てた。

話の勢いがすごい……。

「な、なるほど。……あ、聞きたいことがあるんだけど、魔物のランクがわかる本とかってある?」

「魔物のランクですか?それでしたらカードにご自分の氣を流してもらうと表示されますよ」

あ、そうなんだ。このカード結構便利だなー。あとで試してみよう。

「ありがとな」

さてと、とりあえず登録は済んだしそろそろ宿に戻るか。

「ちょっといい?」

宿に戻ろうとすると、突然声をかけられた。

「あなたがノアで合ってる?」

「ああ、そうだよ」

振り返るとそこには、オレンジの髪を後ろで一つ縛りにした女が立っていた。装備はかなり整えられており、資金力もありそうだし、何より強そうだ。確実にオレたちのようなぺーぺーの冒険者という風貌ではない。

「ふーん、なるほどねー。私、グレンから頼まれてあなたたちの手伝いをすることになったんだよねー。だから明日からよろしくねー」

……唐突すぎて全く理解が追いつかないんだけど?

「あの……え?」

「あれ?カズハ?!もうあの依頼終わらせちゃったの?」

オレの困惑をよそに、アリアさんは突如現れた謎の女に話しかけた。

「そうそう。あんまり歯応えはなかったねー。すぐ終わっちゃってさー」

「流石ね。やっぱり『アグレッシブガーディアン』の名は伊達じゃないってことよね、ふふふっ」

「ちょっとやめてよー。恥ずかしいからさー」

「えー?いいじゃない?カッコいいし」

「……まあいいんだけどさー。……で話戻すけど、その依頼を終えて戻ってきてみたらグレンに呼び出されて、ノアって子たちのサポート頼まれたんだー」

「なんだ、そうだったのね」

アリアさんとしばらく話し込んだ謎の女性……カズハと呼ばれる人物は満足したのか、こちらを振り返りオレたちをまじまじと見始めた。

「えーっと、ノアにシンに秀に湊で合ってたっけ?」

指を折りながらオレたちの名前を呼ぶカズハさん。

「そうだけど……」

「ちなみに私はカズハっていうからねー」

「えーと、どうも。それでカズハさんが言ってた手伝いっていうのは?」

「あ、私のことはカズハって呼び捨てで呼んでもらって構わないからねー。そんなに歳変わんないと思うし……。で、私がノアたちに話しかけたのは、さっきアリアにも言ったんだけどあなたたちのサポートのためなんだよー。具体的には新人のDランク冒険者に、五日間先輩冒険者が付き添って色々教えるって感じかなー。たしか実践になれるためっていう目的だったと思うんだけど……。で、たまたま空いてた私にグレン直々のご指名が入ったってわけ」

新人冒険者への手厚い配慮ってことか。これって新人からしたら結構ありがたい制度だよなー。

「そういうことなら、明日からよろしく頼むわ!」

手を差し出すとカズハも手を出して握手を交わす。

「はいはいー、よろしくねー」







side カズハ

「え?私が新人のサポート?」

ギルド長ことグレンに呼び出された私は帰ってきて早々新たな依頼を頼まれていた。

「そうだ。ちょうど受注した依頼が終わったんならいいだろ?」

「えー、明日から数日は休む予定だったんだけどー。それに新人のサポートってCかBランクが請け負うものじゃなかったっけ?」

AやSランクは人数が少ないことやギルド運営に尽力している人も多くて忙しいことなんかもあって、基本的にやらないはずなんだけどなー。

「まあな。だがミクリヤの報告を聞く限りではノアたちのサポートとしてCやBランクじゃ務まらない気がするんだよ」

「報告って?」

「今はもうほとんど使われてない訓練場があるだろ?あそこに的が設置されてるんだが、その的を氣弾で破壊してしまったらしい」

的ってたしか、氣を吸収して蓄える性質を持った素材……グリーム・リトスって名前の氣晶石ジュエルでできてたっけ。しかもかなり大きかったような……

それを跡形もなく、ねー……。

「……確かに、それならAランク冒険者にサポート頼むのも不思議じゃないね」

「お、分かってくれたか。流石俺の弟子だな」

「ちょっと、弟子になった覚えはないんだけどー」

たしかに刀を用いた戦闘方法を教えてくれたのはグレンだけど、師匠と思ったことは全然ないし。

「全く冷たいやつだな……まあいい。とにかくそういうことだからよろしく頼むぞ」

ほんとはパーティで動くのは避けたいところだけど、グレンの頼みだし仕方ないか。

「……りょーかい」







side グレン=トワイライト

カズハへ用件を伝え終え革製の黒椅子に腰をかける。あの子はAランク冒険者の中でトップクラスの実力者だから問題ないだろう。

「ふぅー」

『コンコンコン』

「ミクリヤだ」

「入れ」

「失礼する」

副ギルド長ミクリヤ。主にギルド本部運営のサポート担当だ。カズハと同じくトップレベルのAランク冒険者でもある。

「それで話というのは?まだ業務が残ってるから手短に頼む」

ミクリヤは仕方なく来てやったと言いたげな様子。

「単刀直入に聞く。……あいつらをどう見る?」

「あいつらというのはノア君らのことか。……そうだな。あくまでも僕個人の推察だが、現段階ですでにSランクに匹敵するかもしれないな」

ふむ。現Aランク冒険者たるミクリヤでも敵わないと感じるほどか。

「その根拠は?」

「……ノア君の氣弾を間近で見た僕としては、あの緻密な氣の操作能力と威力は人間業とは思えなかった。氣弾はやろうと思えば誰でも発動でき、かつ破壊力も高い代物だが、その分消費する氣の量は多く、おまけに一歩間違えれば自分の手元で爆発し自身の手あるいは全身を吹き飛ばす可能性のある危険な術でもある。それを平然とやってのけたノア君は異次元としか思えない。しかもあの若さで、な」

当然ながら俺も氣弾を発動するとこはできる。しかし、実践に使えるかと問われれば、正直なんとも言えない。それをいとも簡単にこなすか。ふむ、実に面白いな。

「異次元か……。一応聞くがの可能性はないな?」

「それはないな。四人とも白魔……銀嶺の民ではないと思う」

銀嶺の民、畏称を白魔ともいうが、彼らはここ大帝国グランドベゼルよりもさらに北に位置する地域、通称『ドロモス』に住んでいる。ちなみにドロモスはどの国の所有地でもない。そのわけは高ランクの魔物が生息し、かつ多くの魔物が跋扈しているために、とても人が住めるような場所ではないからだ。さらに、そこはこの人界ミッドガルドで最も危険な場所とされている。そのドロモスの北東地域には豪雪地帯が存在するのだが、銀嶺の民たちはそこで暮らしている。

魔物だけでも危険だというのに、それにプラスして猛烈な寒さが襲う地域で生きる彼らは、同じ人間とは思えないほどに強い。さらに彼らの特徴は、白銀の髪と金色の目、そして額の白い印だ。また適性属性はないらしい。

通常人間だろうと魔人であろうと、氣術の適性属性は必ずある。しかし、銀嶺の民にはそれがない。では何を持って彼らを強者と称するのか。それは氣の量の多さと氣の操作能力の高さ、そして元々の身体能力の高さだ。

そもそも彼らの戦闘スタイルは両手両足に氣を放出したまま殴る蹴るというもの。やろうと思えば彼ら以外でもできるのだが、氣を出し続けるというのは氣をかなり消費してすぐに底を尽きてしまうために、そのスタイルで戦うものはまずいないのだ。

さらに彼らは氣の緻密な操作に長けている。でなければその戦闘スタイルは確立不可能だろう。氣は本来自身の内側に流れているもの。それを普段は無意識的にコントロールしているのだ。

しかし、これを外へ放出するにはうちに秘めていた時のようにコントロールしなくてはならない。でなければ氣の力が暴走して自身が痛い目に遭うだけだからな。このコントロールは訓練すればある程度身につくが、それを極めるにはそれ相応の努力と才能が必要になってくる。銀嶺の民はいわばその完成形、究極体とも言えるだろう。

加えて銀嶺の民は人間に比べて身体能力が異常に高い。亜人も人間より身体能力の高い者が多いが、その比ではないとされる。といっても俺も一度遭遇したぐらいで、ほとんどのやつがその姿を見かけたことはないらしいがな。

「そうか。なら異次元と称するのもあながち間違いではないかもな」

「直接この目で確認したわけではないが、他三人もノア君と同程度の実力者だと思うな。ギルドカードのステータスもかなり高かったし」

「ほう。ミクリヤもなかなかだったと記憶しているがな」

「それは今はどうでもいいって。……ギルドカードといえば、少し妙なことが二つほどあったな」

妙なことか。それも二つ、な。

「なんだ?」 

「一つは、通常は検玉石が光ることでギルドカードに氣に関する情報が書き込まれるはずだが、ノア君らが試した時には検玉石はなんの反応もしなかった。しかし、ギルドカードにはその情報がしっかりと書かれていた」

「ふむ、たしかに気になるな。検玉石にはなんの異常も認められなかったと報告が上がっているし故障ではないだろうからな」

「ああ。それともう一つは……まあ僕の気のせいかもしれないが、ノア君が放った氣弾が一瞬だけ、かすかだが金色の光を内包しているように見えたんだ」

金色の光?白氣は名前の通り白い色の氣だ。だから金色の光などというものを含むはずはないんだが……

俺は肘を机につき、両手を組んで軽く顎を乗せる。

「うーん」

「まあそんなに気にしなくても大丈夫だろう。長い人生だからな。そういうこともある」

「そうだな。……ああ、そうだったそうだった。ミクリヤ、悪いんだがこの書類を各支部に届けてきてくれ」

「はぁー……僕に雑務を押し付けるのはやめろっていつも言ってるだろ。自分で行けって」

ミクリヤはため息をつき、眼鏡のブリッジを指で押し上げる。

「だってめんどいだろ?全支部回るのは。何のための副ギルド長だ」

「……はぁ。なんでこの男がギルド長になったんだか。……んんっ。わかった。あとで済ませておく」

なんか今、かすかに俺に呆れた声が聞こえたような気がするんだが……。






side イオリ

人々が寝静まった真夜中のこと。帝都アクロポリスのとある一室に、僕はベランダ窓から音を立たてることなく入室する。そしてこの部屋の主人の前に跪く。

「どうした、イオリ?こんな夜更けに」

声の主はベット付近のテーブルで一息ついている様子である。

「は。急ぎ報告しなければならないことがあり、誠に失礼ながら御身の前に参上した次第です」

「……それは別に構わぬ。お前は私の信頼のおける腹心だ」

「恐縮です」

「それで話とは?」

葡萄えび色の髪をもつその男は手に持っていた高級感漂うカップを置きこちらを見据える。

「本日接触した秀という人物が伝説の術である陰陽術を行使していました。さらにこの男の仲間にノア、シン、湊という者たちがおり、いずれも陰陽術行使に関し、僕たちとは対照的に別段驚く様子はありませんでした」

「ふむ。あの文献上でしか確認されていない陰陽術を使えるものがいるとはな。面白いではないか……。その四人が何者なのか気になるところだ。イオリ、お前たちにはそやつらの正体を探ってもらう。お前がそやつらをこの国にとってのだと判断したなら……殺しても構わぬ。よいな」

「はっ」














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