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ノアズアーク始動編
2 散策
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side ジン=グレース
「ジン師団長、彼らは一体何者なんですかね」
ノア君たちを快く通した後、部屋に残っていたキースが私が考えていたことと同じ疑問を口にした。
「さあね。まあ只者じゃないのは確かだね」
「ですよね。ビックベアを一撃で屠るとか、僕には到底できそうにないですよ」
「それもそうだけど、ノア君たちからは一般人が発する程度の氣しか感じられなかった」
「へ?ど、どういうことですか?」
「つまり、ビックベアを瞬殺できる力を感じられなかったってことね」
「???……ではなぜノア殿はあんな芸当を……」
キースは混乱しすぎているのか、頭の上に複数のはてなマークが浮かんでいそうなほどに頭を悩ませているように見えた。
「わざとある程度の氣を外に出すことで、本来の実力を隠してるのかも」
そうであると仮定するなら、相手を油断させることができるっていうかなり強いメリットがあるよねー。
でもそれを成すには相当緻密な氣のコントロールが要求されるはず。私たち師団長の中でもそれができるのは、第一師団『斑』の師団長ウィリアム=ブラッツと第二師団『暁』の師団長エルザ=アレクシスぐらいだろうね。
私はそんな器用じゃないから、絶対無理!
「ええ?!そんなことが可能なんですか?!」
「私にはできないけどね。氣をいとも簡単に、そして自在に操るってバカみたいに難しいから」
私の話を聞いたキースは目をキラキラさせた。
「ってことはノア殿たちは半端じゃない強さを持ってるってことですか?!んー、でもまさかジン師団長より強いってことは……」
「さあ、どうだろうねー。氣の制御能力が高いってだけで強さが決まるほど、そう単純な話じゃないし」
「いやいや、流石にこの大帝国グランドベゼルで五本の指に入る強さを持つジン師団長が負けるはずがないですよ」
片手をブンブンと横に振るキース。
五本の指、ねー。実のところ、冒険者たちも含めたらその指に私が入れるかはかなり危ういけど。
「……ところでキース。君、持ち場に戻らなくてもいいのかな?」
「へ……?あ!……え、えーと……」
この様子だと自分の持ち場の引き継ぎをせずに、もしくは自分が離れることを伝えずにここに来たね。
「はぁ。まったくもう……早く戻って自分の仕事をして。じゃないと私のキツキツ特訓コースに強制連行するよ」
「ひっ。そ、それだけはマジで勘弁してほしいです!では僕はこれで失礼します!!」
キースは慌ただしくドアを開け走り去っていった。
「にしても……ノア君たちは色んな意味で面白かったねー。師団長たちへのいい土産話になりそう」
side ノア=オーガスト
ようやく、この巨大な街、帝都アクロポリスへと足を踏み入れたオレたちは、早速EDEN探しに向かおうとしていた。
「よし、まずは早くEDENを見つけて冒険者登録しなきゃだな」
検問所を抜けた先をまっすぐ行き、露店が賑わう通りを歩く。街中は人々があちこちに闊歩している。
「いや、先に宿を探す方がいいだろう」
「あー、それもそっか。じゃあ先に宿をーーー」
「きゃーっっ。だ、だれかー!そいつを捕まえてー!!」
女性の大声がした方へ目を向けると、黒服に黒い帽子を被った人物が、ベージュ色のバックを抱えてこっちに走って来ていた。
「ど、どけー!!」
オレはそいつの右足に足をかけ転ばせる。
「っどぅわー!……いててて。な、何しやがんだテメェー!このっ!!」
盛大に転んだ男は地面に打ちつけた頭を押さえ声を上げた。そして立ち上がり、オレに殴りかかろうとする。
だがそれも虚しく、湊が再び男を転ばせ、倒れた男の眼前にむき出しの刃をつきつけた。
「ひ、ひいっ」
「……」
湊の無言の圧力マジでおっかないなー、ははは。
湊は刀を鞘にしまい、その刃先部分で男の頭部に一撃を入れ、気絶させた。
「ガッ……」
何事もなかったかのように湊は男が持っていたベージュ色のカバンを手にしてその場を離れ、オレたちのもとへ戻ってくる。
「あ、あの!ありがとうございました。その男を捕まえてくれて」
先程叫んでいた女性が俺たちに礼を述べてくる。
「突然後ろからぶつかられたと思ったらカバンをひったくられっちゃって。ほんとに助かりました。ぜひなにかお礼をさせて下さい」
「えーと……じゃあ、オレたち今宿を探してるんだけど、どこかいいとこ知らない?」
「宿ですか?それなら、ちょうど私が働いてるレストランの真向かいに良い宿がありますよ」
「ここです。『花鳥風月』っていう名前の宿で、雰囲気の落ち着いたとってもいいところなんです」
木材を使って建てられたであろう目の前の建造物。周りの建物とは異質な雰囲気を放つその建物は、屋根部分にあたる灰色の瓦でさえも、その落ち着いた風情を増進させているように感じさせる。
「へぇー。結構良い感じの宿じゃん」
オレは好みかも。
「そして、その向かいにあるのがレストラン『シャムロック』です。よかったら食べていきます?結構美味しいんですよ」
指をさされた方を見ると、今度は薄く黄色がかった建物が目に入った。屋根は赤く、向かいの花鳥風月とは全く雰囲気が異なっている。
あー、そういえばこっちにきてからまだ何も食べてなかったなー。
「じゃあ、お願いしようかな」
中へ入ってみると、若い男が忙しなく料理を運んでいる姿が目に入った。
「ソルくん!四名様ご来店されたから案内してくれる?」
オレたちを案内してくれた親切な女は、料理を運び終え空のトレイを脇に抱えて歩く茶髪の青年に声をかけた。
「あれ?キキさんじゃないっすか?今日は休みのはずじゃ……」
「ちょっといろいろあってねー。そんなことより、早く案内して」
「わ、わかったっす。えと、じゃあこちらの席へどうぞっす」
ソルと呼ばれた青年はオレたちを席に案内してくれた。オレたちはそのまま席に座る。
「あの、なんかあったんすか?」
「え?」
ソルさんは前屈みになって、顔を少し近づけてきた。何か気になることがあるらしい。
「あ、いやその、キキさんが休みの日にここに寄るのは初めてだったんで、気になっちゃって」
「あー、彼女……キキさんがーーー」
「ストーップ!」
ソルさんに事情を説明しようとした途端、突然横から猛ダッシュしてきたキキさんに遮られてしまった。さらにソルさんはキキさんに両手で押されて倒れてしまった。
近くにいたオレも思わず、「うおっ」と声を出しながら顔を後ろにやる。
「うわっ……いってて。何するんすか、キキさん!」
「その話は無し!ほら、ここは私がやっておくから、ソルは他の席のオーダーを取ってきな」
「ええー。気になって仕事に集中できないっすよー」
「いいから。早く行って」
キキさんはソルさんの背中をグイグイ押してどうにかこの場から離れさせようとする。
「わかりましたよ、もう」
ソルさんは仕方ないと言った声音で、一旦外へ出た後再び自分の仕事を開始した。おそらくは制服が汚れたから、外で払いにいったのだろう。
「ふぅ」
キキさんは、仕事をやり遂げた感を出しながら手で額を擦っている。
「あの、キキさん?」
「ん、何ですか?って、あれ?ていうか私、名前教えてましたっけ?」
「さっきのソルさんって人がそう呼んでたからさ」
「あー。そういえば、そうだったかも……。改めまして、私はキキって言います。さっきはほんとにありがとうございました」
キキさんはガバッと勢いよく上半身を曲げながらお礼を伝えてくれた。
「どういたしまして」
「あ、そうだ。さっきのことは誰にも言わないでくださいね」
キキさんは口元に人差し指を当てている。
あのやりとりを見てて思ってはいたが、そんなに聴かせたくないのか。
「理由を聞いてもいい?」
「それはですね……私の先輩としてのプライドが許さないからですよ!」
「……」
へ?
思いもよらない返答に、思考が停止する。
「私、ソルくんよりも年上だから、年下の子に恥ずかしいところは見せたくないんです。ひったくりにあったなんて聞いたらソルくん、私のことカッコいい先輩じゃなくてかよわい女性って思っちゃうかもしれないじゃないですか。それは私にとってはとっても不本意なんです。だから秘密にしといてくださいね、ね!」
「あ、うん」
息つく暇がないほどに言葉をつらつらと並べ立てて説明をするキキさん。
なんか湊やシンとは違う意味で、圧がすごいな……。
「それじゃ、メニューから食べたい料理を選んでもいただいて……」
「キキさん、休みなのに働くんだな」
「え?ああ、あの男のせいでせっかくの休日が台無しになってしまいましたから、仕事でもしてイライラを発散させようかなって思ってます」
キキさんは胸の辺りの高さで拳を力強く握った。
仕事したら逆にストレス増えそうなもんだけど……。この仕事がすごく好きなのかな?
「なるほど。お仕事お疲れ様です」
「いえいえー」
嬉しそうに口元を緩ませるキキさん。
きっといい職場なんだろなー。これなら、この世界に来て初の料理にも期待できそうだな!
「ちなみに、このレストランのオススメとかある?」
正直どれも美味しそうなのだが、ここでバリバリ働いてるであろう彼女に聞けば間違いなさそうだ。
「そりゃあもう、どう考えてもオムライスしかあり得ませんよ!ラルフさんが長年作り続けてる一押し料理で、その形が四葉のクローバーなんですよ」
おー、珍しい形だ。味だけじゃなくて見た目にも拘ってるのかー。
「じゃあ、それを四つで」
「かしこまりました!」
キキさんは足早に、おそらく厨房と思われる場所へ向かった。そして、十分程度して戻って来る。
「お待たせしましたー。シャムロックの看板メニューの、『幸せいっぱい四葉オムライス』です!」
手際よく並べられたお皿には、見るからにほくほくとしていそうな、柔らかな黄色いオムライスが乗っていた。中央には、この建物の屋根を彷彿とさせる赤いケチャップがかけられている。
おお!想像はしてたけど、やっぱり実物は違うな。
視覚からの情報だけでなく嗅覚で感じる卵の甘い香りやケチャップの芳しさが、さらに食欲をそそる。
口にしなくてもわかる。これは、絶対に美味い!
「いただきます!」
オレはスプーンを取り、輝くオムライスにスプーンを当ててみた。すると簡単に切れ込みが入り、中からとろとろの卵が流れ出した。
「待って待って。めちゃめちゃうまそうなんだけど……?!」
出された状態でさえオレの心を惹きつけてたってのに、こんなことされたら、鷲掴みも通り越して、心がいい感じにマッサージされてしまう。
オレは、ゴクリと唾をひとのみしてから、神秘とも形容すべきこの不思議なオムライスをひとすくいし、口へと運んだ。
「……んー!うまっっ!」
なんだこのオムライス?!口に入れた途端に卵がとろけ出すし、それが中のチキンライスとマッチしてて最高に美味い。
名前通り食べただけで幸せになっちゃう味だ。
「もぐもぐ……もぐもぐ……もぐもぐ……」
「おいおい、そんな急いで食べなくてもオムライスは逃げねぇぞ」
手が止まらず、どんどんオムライスを口に入れ込むオレに、秀が少し心配そうに咎めてきた。
「リスみたいだな」
「ぶっ、はは。おい湊、変なこと言うなよ。危うく吹き出しちまうところだったぜ」
「そのままのことを言ったまでだ」
「リスより兄さんの方が愛らしい」
「…………」
手を止めてちらと目の端で見れば、シンのその発言に秀が冷ややかな視線を向けていた。
「……どうすっかね。今回はかなりの自信作っすよ」
そんなこんなでホカホカのオムライスを食べ進めていると、ふと、さっきオレたちを席に案内してくれた青年の声が聞こえてきた。
そう問いかけたソルさんの前には、一人の女が四葉のクローバーオムライスをまじまじと眺めており、その向かいには男が一人座っていた。
女の方はオレやシンとそう年は変わらなそうだ。男の方は湊や秀と歳が近そうな感じだ。
そしてなんといっても、あの二人の容姿は目を見張るものがある。ものすごく美形だ。てか、髪や目の色が同じだから、もしかしたら兄妹なのかもしれない。
「もぐもぐ……んー、……六十点」
「えー、なんすかその微妙な数字は。今日こそは百点満点を取ったと思ったんすけど……」
「……ラルフのオムライスは、卵のふわふわ感や味付けの細やかさとか全てが洗練されててバランスもいい。対してソルのは表面上はできてるように見えても中身がペラペラ……」
ものの数秒でオムライスを平らげた女は、そんな辛口なコメントをした。
「私の舌は、誤魔化せない……!」
そして手に持ったスプーンを、ビシッとソルさんへと向ける。
「うっ……。何年もラルフ師匠の近くで学んできたんすけど、まだまだ追い付けねぇんすよー。料理の神様かって感じっす」
「うーん……僕は割と好きだよ、ソルのオムライス。前に食べた時より美味しいし」
「ほ、ほんとっすか!ミオちゃんは辛辣だけど、イオリさんは優しいっす」
「まあ、僕の舌はミオほど肥えてはないからかもだけどね。ははは」
あの二人、なーんかわかんないけど気になるな。いったって普通な二人組なんだけどなー。ま、見た目は常識外に綺麗だったけど……。
うーん、気のせいかなー……。
「ごちそうさま。オムライス、めちゃくちゃうまかったよ」
「それは良かったです。ラルフさんにも伝えておきますね」
いやほんと、昇天しそうなくらいに美味かった。できることなら毎日食べたい……!
「えーと会計は……」
「ああ、大丈夫ですよ。私が払いますから」
キキさんの申し出にオレは困惑してしまう。
「え?それは流石に……」
「いえいえ、助けてもらったお礼が宿の場所を教えるだけだなんて、私の中では全く理に適っていないので」
うーん……あまり相手の善意を拒否するのは良くないよな。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい。またのご来店をお待ちしてまーす」
この世界にきて初めての料理に満足し、今度はキキさんが教えてくれた宿である花鳥風月へと足を踏み入れた。内部も木造でできており、なんとなく根源界で住んでいた家を思い起こした。
「ようこそ、花鳥風月へ。ご宿泊は四名様でよろしいですか?」
紫を基調とした花柄の着物を身に纏った女性が問いかけてくる。
「はい」
「でしたら、その右手の靴箱に靴を入れてお上がりください。わたくしがお部屋までご案内させていただきます」
ご婦人の後に続き、正面玄関を右に曲がり、さらに曲がり角を左に行った二つ目の部屋へと案内される。
「こちらが宿泊される部屋になります。御夕食は後ほどご用意させていただきます。お風呂のほうは大浴場が部屋を出て、右にお進みになると見えてきますので、ぜひ疲れをとってください」
「わかりました」
「では、わたくしはこれで失礼いたします」
ご婦人は一通りの説明を終えて去っていった。
「……なんかここ、根源界の家と似てない?」
「兄さんの言う通りだ。懐かしい感じがする」
「ああ。まるであの家に帰ってきたみたいだ」
「だな。すげぇー落ち着く」
四人揃ってテーブル前の座布団に座り、リラックスする。
「もう夕方だし、EDEN探しは明日にするか」
「だな。初日から飛ばしすぎるのもよくねぇだろうし」
そんなこんなで数時間ほど部屋で雑談をしたり、風呂に入ったりしてのんびりと過ごしていると、廊下側の障子から、先程のご婦人とは別の若い女性の声が聞こえてきた。
「おくつろぎのところ失礼いたします。御夕食をお持ち致しました」
桃色を基調とした花柄の着物を身につけた少女が丁寧な口調で料理の説明をしながら、テキパキと料理を並べていく。先ほどのご婦人の娘さんだろうか。少し似ている気がする。
「……以上になります。なにかございましたらお手数ですが正面玄関受付にお越しくださいませ」
「わかった。ありがとな」
少女はにこりと微笑み、この場を立ち去った。
「では、私はこれで失礼します」
こうしてオレたちの輝かしい冒険の幕が開かれたのである。
翌朝、夕食を運んできてくれた女性が今度は朝食を持ってきてくれた。それを美味しくいただいて、オレたちはEDENを探しに出たのだが……。
「お、なんだあのお店。へぇー、占いをやってるのか。なあ、ちょっと寄ってこうよ」
「おい、またか。こんなんじゃいつまで経ってもEDENに辿りつかねぇぞ」
「いいだろ、ちょっとくらい。EDENは逃げないんだからさ」
「……」
呆れた様子の秀に湊が言葉をかける。
「秀、諦めろ。俺たちの主は自由奔放人間だからな」
「……だな」
と、こんな感じでウキウキ気分で街を探索していったおかげで、EDENは全く見つからず時間だけがどんどん過ぎていったのであった。
まあ、全部オレのせいなんだけどな。
「そろそろ昼時かもな。腹減ってきたし。なんか食べにいくか?」
占いを終えて店を出ると秀が昼食を所望する。
ちなみにその店ではこれからの冒険のことを占ってもらった。結果は簡単に言えば新たな出会いが待っているって感じだったかな。正直、ありきたりな感じでちょっと残念ではあった。
「じゃあ、出店が色々出てるし食べ歩きってのはどう?休憩も兼ねて、宿に戻りながらさ」
途中出店に立ち寄り昼食を済ませて宿へと戻ると、正面玄関受付に昨日シャムロックで見かけた二人が、ガタイのいい男性に加えて昨日オレたちを部屋に案内してくれたご婦人と話をしていた。
「で、どうしたんだいドレイク。何か急用かい?」
「いえ、そうではないんですが、妻がイオリに頼んでくれないかときかなくてですね」
ドレイクと呼ばれたガタイのいい男はどう見ても自身より若い男に敬語で答える。
あの男はたしか、昨日シャムロックにいた二人組の片割れだ。
「だって、おかしいんですよ。朝にお使いを頼んだっきりニ人とも帰ってこないんです。いつもならとっくに戻ってきているのに……。もう何かあったんじゃないかって気が気じゃなくて……」
ご婦人は心配と不安が入り混じった表情を浮かべ、声を震わせていた。
「落ち着け、ヴァネッサ。もう少しすれば帰ってくるだろうしそんなに心配しなくても……」
「何を言ってるのあなた!娘たちに何かあってからでは遅いんですよ!!」
「……っ。いや、それはそうだが……」
「事情は分かったよ。とりあえず、僕とミオでーーー」
「あのー、困ってるならオレたちが何か力になるけど?」
おそらく、娘ってのは俺たちの部屋に夕食や朝食を運んでくれた少女のことだろう。
その娘さんやこの宿にはお世話になったし……ていうかこの宿をかなり気に入ったから、今後もお世話になる予定だし……感謝の意味も込めて手助けでもしちゃいますか。
「あなたは確か……」
「ノアって言うんだ。昨日から泊まらせてもらってて」
ヴァネッサさんの戸惑いに構わず自己紹介をしていると、遅れて三人が俺のそばへと来る。
「……で、こっちからシン、秀、湊」
「は、はぁ」
「それで、力になるってのはどういう意味だ」
ドレイクさんはヴァネッサとは異なる反応を示した。ヴァネッサさんは戸惑いを隠せない感じであったが、ドレイクさんはかなり警戒している様子だ。
それもそうだろう。急に見ず知らずの人物が話に割り込んできたら誰だって驚くし、多少なりとも警戒する。
「それは俺たちが説明する」
オレが口を開こうとした瞬間、湊と秀が前に出た。
「話を聞いた限り、ドレイクさんとヴァネッサさんの娘たちが戻ってこないから探してきて欲しいといったところだろう。その二人が探知系の氣術を持っているのならすぐに見つかる確率は高いだろうが、……どうなんだ?」
湊の少し不躾な質問にイオリと呼ばれていた青年が答える。
「正直なところ、すぐに見つけるのは難しいと言わざるを得ない。そういった術を持ち合わせているわけではないから、時間はかなりかかる。ただ迷子になってるだけなら大丈夫だろうけど、万が一にも彼女たちの身に誘拐などといった非常事態が起きてしまったのなら、居場所の特定は……少なくとも今日中にはできない」
イオリさんの冷静かつ的確な分析にヴァネッサさんは絶望し両手で顔を覆った。
「そ、そんなっ」
「なるほどな。なら、秀の氣術で見つけるのが一番早い」
「だな。ノアとシンもそれでいいか?」
別にオレたちに聞かなくてもいいのに……。
てか、話を聞いた時点で秀に頼る予定だったんだよなー。
「もちろん」
「……」
シンは無言だけど表情的にオッケーサイン出てるから問題なし。
「あー、ここでやるのは流石に目立つな。あんたら今暇か?空いてるなら俺たちが泊まってる部屋に来てくれや」
ドレイクさん、ヴァネッサさん、イオリさん、ミオの四人は皆秀の物言いには特に言及せずにオレたちの部屋へと来た。
「さてと。んじゃまあ、始めるとすっか」
「ジン師団長、彼らは一体何者なんですかね」
ノア君たちを快く通した後、部屋に残っていたキースが私が考えていたことと同じ疑問を口にした。
「さあね。まあ只者じゃないのは確かだね」
「ですよね。ビックベアを一撃で屠るとか、僕には到底できそうにないですよ」
「それもそうだけど、ノア君たちからは一般人が発する程度の氣しか感じられなかった」
「へ?ど、どういうことですか?」
「つまり、ビックベアを瞬殺できる力を感じられなかったってことね」
「???……ではなぜノア殿はあんな芸当を……」
キースは混乱しすぎているのか、頭の上に複数のはてなマークが浮かんでいそうなほどに頭を悩ませているように見えた。
「わざとある程度の氣を外に出すことで、本来の実力を隠してるのかも」
そうであると仮定するなら、相手を油断させることができるっていうかなり強いメリットがあるよねー。
でもそれを成すには相当緻密な氣のコントロールが要求されるはず。私たち師団長の中でもそれができるのは、第一師団『斑』の師団長ウィリアム=ブラッツと第二師団『暁』の師団長エルザ=アレクシスぐらいだろうね。
私はそんな器用じゃないから、絶対無理!
「ええ?!そんなことが可能なんですか?!」
「私にはできないけどね。氣をいとも簡単に、そして自在に操るってバカみたいに難しいから」
私の話を聞いたキースは目をキラキラさせた。
「ってことはノア殿たちは半端じゃない強さを持ってるってことですか?!んー、でもまさかジン師団長より強いってことは……」
「さあ、どうだろうねー。氣の制御能力が高いってだけで強さが決まるほど、そう単純な話じゃないし」
「いやいや、流石にこの大帝国グランドベゼルで五本の指に入る強さを持つジン師団長が負けるはずがないですよ」
片手をブンブンと横に振るキース。
五本の指、ねー。実のところ、冒険者たちも含めたらその指に私が入れるかはかなり危ういけど。
「……ところでキース。君、持ち場に戻らなくてもいいのかな?」
「へ……?あ!……え、えーと……」
この様子だと自分の持ち場の引き継ぎをせずに、もしくは自分が離れることを伝えずにここに来たね。
「はぁ。まったくもう……早く戻って自分の仕事をして。じゃないと私のキツキツ特訓コースに強制連行するよ」
「ひっ。そ、それだけはマジで勘弁してほしいです!では僕はこれで失礼します!!」
キースは慌ただしくドアを開け走り去っていった。
「にしても……ノア君たちは色んな意味で面白かったねー。師団長たちへのいい土産話になりそう」
side ノア=オーガスト
ようやく、この巨大な街、帝都アクロポリスへと足を踏み入れたオレたちは、早速EDEN探しに向かおうとしていた。
「よし、まずは早くEDENを見つけて冒険者登録しなきゃだな」
検問所を抜けた先をまっすぐ行き、露店が賑わう通りを歩く。街中は人々があちこちに闊歩している。
「いや、先に宿を探す方がいいだろう」
「あー、それもそっか。じゃあ先に宿をーーー」
「きゃーっっ。だ、だれかー!そいつを捕まえてー!!」
女性の大声がした方へ目を向けると、黒服に黒い帽子を被った人物が、ベージュ色のバックを抱えてこっちに走って来ていた。
「ど、どけー!!」
オレはそいつの右足に足をかけ転ばせる。
「っどぅわー!……いててて。な、何しやがんだテメェー!このっ!!」
盛大に転んだ男は地面に打ちつけた頭を押さえ声を上げた。そして立ち上がり、オレに殴りかかろうとする。
だがそれも虚しく、湊が再び男を転ばせ、倒れた男の眼前にむき出しの刃をつきつけた。
「ひ、ひいっ」
「……」
湊の無言の圧力マジでおっかないなー、ははは。
湊は刀を鞘にしまい、その刃先部分で男の頭部に一撃を入れ、気絶させた。
「ガッ……」
何事もなかったかのように湊は男が持っていたベージュ色のカバンを手にしてその場を離れ、オレたちのもとへ戻ってくる。
「あ、あの!ありがとうございました。その男を捕まえてくれて」
先程叫んでいた女性が俺たちに礼を述べてくる。
「突然後ろからぶつかられたと思ったらカバンをひったくられっちゃって。ほんとに助かりました。ぜひなにかお礼をさせて下さい」
「えーと……じゃあ、オレたち今宿を探してるんだけど、どこかいいとこ知らない?」
「宿ですか?それなら、ちょうど私が働いてるレストランの真向かいに良い宿がありますよ」
「ここです。『花鳥風月』っていう名前の宿で、雰囲気の落ち着いたとってもいいところなんです」
木材を使って建てられたであろう目の前の建造物。周りの建物とは異質な雰囲気を放つその建物は、屋根部分にあたる灰色の瓦でさえも、その落ち着いた風情を増進させているように感じさせる。
「へぇー。結構良い感じの宿じゃん」
オレは好みかも。
「そして、その向かいにあるのがレストラン『シャムロック』です。よかったら食べていきます?結構美味しいんですよ」
指をさされた方を見ると、今度は薄く黄色がかった建物が目に入った。屋根は赤く、向かいの花鳥風月とは全く雰囲気が異なっている。
あー、そういえばこっちにきてからまだ何も食べてなかったなー。
「じゃあ、お願いしようかな」
中へ入ってみると、若い男が忙しなく料理を運んでいる姿が目に入った。
「ソルくん!四名様ご来店されたから案内してくれる?」
オレたちを案内してくれた親切な女は、料理を運び終え空のトレイを脇に抱えて歩く茶髪の青年に声をかけた。
「あれ?キキさんじゃないっすか?今日は休みのはずじゃ……」
「ちょっといろいろあってねー。そんなことより、早く案内して」
「わ、わかったっす。えと、じゃあこちらの席へどうぞっす」
ソルと呼ばれた青年はオレたちを席に案内してくれた。オレたちはそのまま席に座る。
「あの、なんかあったんすか?」
「え?」
ソルさんは前屈みになって、顔を少し近づけてきた。何か気になることがあるらしい。
「あ、いやその、キキさんが休みの日にここに寄るのは初めてだったんで、気になっちゃって」
「あー、彼女……キキさんがーーー」
「ストーップ!」
ソルさんに事情を説明しようとした途端、突然横から猛ダッシュしてきたキキさんに遮られてしまった。さらにソルさんはキキさんに両手で押されて倒れてしまった。
近くにいたオレも思わず、「うおっ」と声を出しながら顔を後ろにやる。
「うわっ……いってて。何するんすか、キキさん!」
「その話は無し!ほら、ここは私がやっておくから、ソルは他の席のオーダーを取ってきな」
「ええー。気になって仕事に集中できないっすよー」
「いいから。早く行って」
キキさんはソルさんの背中をグイグイ押してどうにかこの場から離れさせようとする。
「わかりましたよ、もう」
ソルさんは仕方ないと言った声音で、一旦外へ出た後再び自分の仕事を開始した。おそらくは制服が汚れたから、外で払いにいったのだろう。
「ふぅ」
キキさんは、仕事をやり遂げた感を出しながら手で額を擦っている。
「あの、キキさん?」
「ん、何ですか?って、あれ?ていうか私、名前教えてましたっけ?」
「さっきのソルさんって人がそう呼んでたからさ」
「あー。そういえば、そうだったかも……。改めまして、私はキキって言います。さっきはほんとにありがとうございました」
キキさんはガバッと勢いよく上半身を曲げながらお礼を伝えてくれた。
「どういたしまして」
「あ、そうだ。さっきのことは誰にも言わないでくださいね」
キキさんは口元に人差し指を当てている。
あのやりとりを見てて思ってはいたが、そんなに聴かせたくないのか。
「理由を聞いてもいい?」
「それはですね……私の先輩としてのプライドが許さないからですよ!」
「……」
へ?
思いもよらない返答に、思考が停止する。
「私、ソルくんよりも年上だから、年下の子に恥ずかしいところは見せたくないんです。ひったくりにあったなんて聞いたらソルくん、私のことカッコいい先輩じゃなくてかよわい女性って思っちゃうかもしれないじゃないですか。それは私にとってはとっても不本意なんです。だから秘密にしといてくださいね、ね!」
「あ、うん」
息つく暇がないほどに言葉をつらつらと並べ立てて説明をするキキさん。
なんか湊やシンとは違う意味で、圧がすごいな……。
「それじゃ、メニューから食べたい料理を選んでもいただいて……」
「キキさん、休みなのに働くんだな」
「え?ああ、あの男のせいでせっかくの休日が台無しになってしまいましたから、仕事でもしてイライラを発散させようかなって思ってます」
キキさんは胸の辺りの高さで拳を力強く握った。
仕事したら逆にストレス増えそうなもんだけど……。この仕事がすごく好きなのかな?
「なるほど。お仕事お疲れ様です」
「いえいえー」
嬉しそうに口元を緩ませるキキさん。
きっといい職場なんだろなー。これなら、この世界に来て初の料理にも期待できそうだな!
「ちなみに、このレストランのオススメとかある?」
正直どれも美味しそうなのだが、ここでバリバリ働いてるであろう彼女に聞けば間違いなさそうだ。
「そりゃあもう、どう考えてもオムライスしかあり得ませんよ!ラルフさんが長年作り続けてる一押し料理で、その形が四葉のクローバーなんですよ」
おー、珍しい形だ。味だけじゃなくて見た目にも拘ってるのかー。
「じゃあ、それを四つで」
「かしこまりました!」
キキさんは足早に、おそらく厨房と思われる場所へ向かった。そして、十分程度して戻って来る。
「お待たせしましたー。シャムロックの看板メニューの、『幸せいっぱい四葉オムライス』です!」
手際よく並べられたお皿には、見るからにほくほくとしていそうな、柔らかな黄色いオムライスが乗っていた。中央には、この建物の屋根を彷彿とさせる赤いケチャップがかけられている。
おお!想像はしてたけど、やっぱり実物は違うな。
視覚からの情報だけでなく嗅覚で感じる卵の甘い香りやケチャップの芳しさが、さらに食欲をそそる。
口にしなくてもわかる。これは、絶対に美味い!
「いただきます!」
オレはスプーンを取り、輝くオムライスにスプーンを当ててみた。すると簡単に切れ込みが入り、中からとろとろの卵が流れ出した。
「待って待って。めちゃめちゃうまそうなんだけど……?!」
出された状態でさえオレの心を惹きつけてたってのに、こんなことされたら、鷲掴みも通り越して、心がいい感じにマッサージされてしまう。
オレは、ゴクリと唾をひとのみしてから、神秘とも形容すべきこの不思議なオムライスをひとすくいし、口へと運んだ。
「……んー!うまっっ!」
なんだこのオムライス?!口に入れた途端に卵がとろけ出すし、それが中のチキンライスとマッチしてて最高に美味い。
名前通り食べただけで幸せになっちゃう味だ。
「もぐもぐ……もぐもぐ……もぐもぐ……」
「おいおい、そんな急いで食べなくてもオムライスは逃げねぇぞ」
手が止まらず、どんどんオムライスを口に入れ込むオレに、秀が少し心配そうに咎めてきた。
「リスみたいだな」
「ぶっ、はは。おい湊、変なこと言うなよ。危うく吹き出しちまうところだったぜ」
「そのままのことを言ったまでだ」
「リスより兄さんの方が愛らしい」
「…………」
手を止めてちらと目の端で見れば、シンのその発言に秀が冷ややかな視線を向けていた。
「……どうすっかね。今回はかなりの自信作っすよ」
そんなこんなでホカホカのオムライスを食べ進めていると、ふと、さっきオレたちを席に案内してくれた青年の声が聞こえてきた。
そう問いかけたソルさんの前には、一人の女が四葉のクローバーオムライスをまじまじと眺めており、その向かいには男が一人座っていた。
女の方はオレやシンとそう年は変わらなそうだ。男の方は湊や秀と歳が近そうな感じだ。
そしてなんといっても、あの二人の容姿は目を見張るものがある。ものすごく美形だ。てか、髪や目の色が同じだから、もしかしたら兄妹なのかもしれない。
「もぐもぐ……んー、……六十点」
「えー、なんすかその微妙な数字は。今日こそは百点満点を取ったと思ったんすけど……」
「……ラルフのオムライスは、卵のふわふわ感や味付けの細やかさとか全てが洗練されててバランスもいい。対してソルのは表面上はできてるように見えても中身がペラペラ……」
ものの数秒でオムライスを平らげた女は、そんな辛口なコメントをした。
「私の舌は、誤魔化せない……!」
そして手に持ったスプーンを、ビシッとソルさんへと向ける。
「うっ……。何年もラルフ師匠の近くで学んできたんすけど、まだまだ追い付けねぇんすよー。料理の神様かって感じっす」
「うーん……僕は割と好きだよ、ソルのオムライス。前に食べた時より美味しいし」
「ほ、ほんとっすか!ミオちゃんは辛辣だけど、イオリさんは優しいっす」
「まあ、僕の舌はミオほど肥えてはないからかもだけどね。ははは」
あの二人、なーんかわかんないけど気になるな。いったって普通な二人組なんだけどなー。ま、見た目は常識外に綺麗だったけど……。
うーん、気のせいかなー……。
「ごちそうさま。オムライス、めちゃくちゃうまかったよ」
「それは良かったです。ラルフさんにも伝えておきますね」
いやほんと、昇天しそうなくらいに美味かった。できることなら毎日食べたい……!
「えーと会計は……」
「ああ、大丈夫ですよ。私が払いますから」
キキさんの申し出にオレは困惑してしまう。
「え?それは流石に……」
「いえいえ、助けてもらったお礼が宿の場所を教えるだけだなんて、私の中では全く理に適っていないので」
うーん……あまり相手の善意を拒否するのは良くないよな。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい。またのご来店をお待ちしてまーす」
この世界にきて初めての料理に満足し、今度はキキさんが教えてくれた宿である花鳥風月へと足を踏み入れた。内部も木造でできており、なんとなく根源界で住んでいた家を思い起こした。
「ようこそ、花鳥風月へ。ご宿泊は四名様でよろしいですか?」
紫を基調とした花柄の着物を身に纏った女性が問いかけてくる。
「はい」
「でしたら、その右手の靴箱に靴を入れてお上がりください。わたくしがお部屋までご案内させていただきます」
ご婦人の後に続き、正面玄関を右に曲がり、さらに曲がり角を左に行った二つ目の部屋へと案内される。
「こちらが宿泊される部屋になります。御夕食は後ほどご用意させていただきます。お風呂のほうは大浴場が部屋を出て、右にお進みになると見えてきますので、ぜひ疲れをとってください」
「わかりました」
「では、わたくしはこれで失礼いたします」
ご婦人は一通りの説明を終えて去っていった。
「……なんかここ、根源界の家と似てない?」
「兄さんの言う通りだ。懐かしい感じがする」
「ああ。まるであの家に帰ってきたみたいだ」
「だな。すげぇー落ち着く」
四人揃ってテーブル前の座布団に座り、リラックスする。
「もう夕方だし、EDEN探しは明日にするか」
「だな。初日から飛ばしすぎるのもよくねぇだろうし」
そんなこんなで数時間ほど部屋で雑談をしたり、風呂に入ったりしてのんびりと過ごしていると、廊下側の障子から、先程のご婦人とは別の若い女性の声が聞こえてきた。
「おくつろぎのところ失礼いたします。御夕食をお持ち致しました」
桃色を基調とした花柄の着物を身につけた少女が丁寧な口調で料理の説明をしながら、テキパキと料理を並べていく。先ほどのご婦人の娘さんだろうか。少し似ている気がする。
「……以上になります。なにかございましたらお手数ですが正面玄関受付にお越しくださいませ」
「わかった。ありがとな」
少女はにこりと微笑み、この場を立ち去った。
「では、私はこれで失礼します」
こうしてオレたちの輝かしい冒険の幕が開かれたのである。
翌朝、夕食を運んできてくれた女性が今度は朝食を持ってきてくれた。それを美味しくいただいて、オレたちはEDENを探しに出たのだが……。
「お、なんだあのお店。へぇー、占いをやってるのか。なあ、ちょっと寄ってこうよ」
「おい、またか。こんなんじゃいつまで経ってもEDENに辿りつかねぇぞ」
「いいだろ、ちょっとくらい。EDENは逃げないんだからさ」
「……」
呆れた様子の秀に湊が言葉をかける。
「秀、諦めろ。俺たちの主は自由奔放人間だからな」
「……だな」
と、こんな感じでウキウキ気分で街を探索していったおかげで、EDENは全く見つからず時間だけがどんどん過ぎていったのであった。
まあ、全部オレのせいなんだけどな。
「そろそろ昼時かもな。腹減ってきたし。なんか食べにいくか?」
占いを終えて店を出ると秀が昼食を所望する。
ちなみにその店ではこれからの冒険のことを占ってもらった。結果は簡単に言えば新たな出会いが待っているって感じだったかな。正直、ありきたりな感じでちょっと残念ではあった。
「じゃあ、出店が色々出てるし食べ歩きってのはどう?休憩も兼ねて、宿に戻りながらさ」
途中出店に立ち寄り昼食を済ませて宿へと戻ると、正面玄関受付に昨日シャムロックで見かけた二人が、ガタイのいい男性に加えて昨日オレたちを部屋に案内してくれたご婦人と話をしていた。
「で、どうしたんだいドレイク。何か急用かい?」
「いえ、そうではないんですが、妻がイオリに頼んでくれないかときかなくてですね」
ドレイクと呼ばれたガタイのいい男はどう見ても自身より若い男に敬語で答える。
あの男はたしか、昨日シャムロックにいた二人組の片割れだ。
「だって、おかしいんですよ。朝にお使いを頼んだっきりニ人とも帰ってこないんです。いつもならとっくに戻ってきているのに……。もう何かあったんじゃないかって気が気じゃなくて……」
ご婦人は心配と不安が入り混じった表情を浮かべ、声を震わせていた。
「落ち着け、ヴァネッサ。もう少しすれば帰ってくるだろうしそんなに心配しなくても……」
「何を言ってるのあなた!娘たちに何かあってからでは遅いんですよ!!」
「……っ。いや、それはそうだが……」
「事情は分かったよ。とりあえず、僕とミオでーーー」
「あのー、困ってるならオレたちが何か力になるけど?」
おそらく、娘ってのは俺たちの部屋に夕食や朝食を運んでくれた少女のことだろう。
その娘さんやこの宿にはお世話になったし……ていうかこの宿をかなり気に入ったから、今後もお世話になる予定だし……感謝の意味も込めて手助けでもしちゃいますか。
「あなたは確か……」
「ノアって言うんだ。昨日から泊まらせてもらってて」
ヴァネッサさんの戸惑いに構わず自己紹介をしていると、遅れて三人が俺のそばへと来る。
「……で、こっちからシン、秀、湊」
「は、はぁ」
「それで、力になるってのはどういう意味だ」
ドレイクさんはヴァネッサとは異なる反応を示した。ヴァネッサさんは戸惑いを隠せない感じであったが、ドレイクさんはかなり警戒している様子だ。
それもそうだろう。急に見ず知らずの人物が話に割り込んできたら誰だって驚くし、多少なりとも警戒する。
「それは俺たちが説明する」
オレが口を開こうとした瞬間、湊と秀が前に出た。
「話を聞いた限り、ドレイクさんとヴァネッサさんの娘たちが戻ってこないから探してきて欲しいといったところだろう。その二人が探知系の氣術を持っているのならすぐに見つかる確率は高いだろうが、……どうなんだ?」
湊の少し不躾な質問にイオリと呼ばれていた青年が答える。
「正直なところ、すぐに見つけるのは難しいと言わざるを得ない。そういった術を持ち合わせているわけではないから、時間はかなりかかる。ただ迷子になってるだけなら大丈夫だろうけど、万が一にも彼女たちの身に誘拐などといった非常事態が起きてしまったのなら、居場所の特定は……少なくとも今日中にはできない」
イオリさんの冷静かつ的確な分析にヴァネッサさんは絶望し両手で顔を覆った。
「そ、そんなっ」
「なるほどな。なら、秀の氣術で見つけるのが一番早い」
「だな。ノアとシンもそれでいいか?」
別にオレたちに聞かなくてもいいのに……。
てか、話を聞いた時点で秀に頼る予定だったんだよなー。
「もちろん」
「……」
シンは無言だけど表情的にオッケーサイン出てるから問題なし。
「あー、ここでやるのは流石に目立つな。あんたら今暇か?空いてるなら俺たちが泊まってる部屋に来てくれや」
ドレイクさん、ヴァネッサさん、イオリさん、ミオの四人は皆秀の物言いには特に言及せずにオレたちの部屋へと来た。
「さてと。んじゃまあ、始めるとすっか」
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