「第二至上主義論者」の斯くも難しき恋心

第38話 第二至上主義論者の爆走

「春なら学校に行きましたよ」

　人気のない公園で春さんのお父様と対峙していると、ふと横から女性の声が聞こえた。声の方を見るとそこには一人の女性が立っており、その方の雰囲気は何処か春さんにも似ていた。

「明美…！もしかして春は…」

「えぇ、あの子は逃げてしまいました♪」

　春さんが逃げた？明美さんと呼ばれる女性と春さんのお父様の関係はわからなかったが、今は春さんが逃げて学校に向かったということだけを理解できた。であるならば、私が取るべき行動はただ一つだけである。

「お父様…と明美さん。申し訳ありませんが、私はすぐに学校に戻ります！」

「お、おい、まだ話は…！？」

「はーい♪娘をよろしくお願いしますねー♪」

　明美さんはやはり春さんのお母様であったらしく、彼女ががっしりとお父様を押さえてくださったおかげで私は一人公園を後にすることが出来た。想像するに春さんは今現在、望まぬ結婚を迫られており、一瞬の隙に逃避行に及んだに違いない。無事に逃げ果せればいいが相手がどんな人物かはまだわからない。もしかしたら地獄の果てまで追いかける執念深い奴かもしれないので、味方は一人でも多い方が良いに違いない。

「ん？やぁ、二階堂くん！こんな時間にジョギングかな？」

「やぁどうも……って、春さん！？」

　しかし、覚悟を決めて学校への登校道を駆け出して早々、何とすぐ隣に爆走する春さんと出会った。純白のドレスの裾を掴んで裸足で駆けるその姿はまるで魔法が解ける寸前のシンデレラの様であり、その美しさに目が眩みかけたがそんな場合ではないと二、三度首を振って正気を取り戻す。

「貴女は春さんですか？」

「おやおや、夏休みで会えないうちに私の顔を忘れたのかな？そうだよ、私が春だ。…というか、いきなり下の名前で呼ばれてドキッとしたよ。ビックリだ」

　どうしよう？今か？今このタイミングで私の気持ちを春さんに打ち明けるべきか？いや、今しかないだろう。走り出したら偶然にも好きな人が真横を走っていたんだから、これもある意味運命的な出会いというやつだ。

「春さん！折り入って大事なお話が！」

「おっと！それよりも先ずはあの人たちをどうにかしないといけない」

「あの人たち？」

　春さんに並走しながら肩越しに我らの後方を確認すると、そこには黒いスーツを着た男性が数人。彼らは表情の読み取れない仏頂面で走りながらぐんぐんとその距離を縮めてきている。

「実は彼らが運転していた式場へ向かう車から逃げ出せたはいいものの、そろそろ足が限界なのだよ…」

　土の上ならまだしも、アスファルトの上も裸足で走るのは辛いに決まっている。加えてこんな花嫁姿では、幾ら春さんと雖も走るのは辛いだろう。私の靴を渡しても時間が掛かるし、ひょいと私が春さんを担いで走れればいいがあまり現実的ではない。

　どうすればいい？この状況を打開できそうな案が思い浮かべずに焦っていると、そこに凄まじい勢いで軽自動車が現れ、アクション映画さながらのスリップで我々と黒いスーツの男たちとの間に割り込んで自らの車体で壁を作り出すと我々の方のドアが大きく開け放たれた。

「おほ～！ヤバいね～、案外上手くいくもんだね～」

「ナイス、三日月ちゃん！おい、次郎！一条さん！車に乗れ！！」