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銀髪と緋色の瞳の聖女と仲間達
イーディス~ハルとムツキ~ ※主人公視点
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緋色と銀色の光の粒が私を覆う。
私の銀髪が黒髪に変わり、肩までだったふわふわした髪が、腰まで長くサラサラとしたストレートになり。
150㎝もなかった小柄な身体は、ぐっと身長が伸び、くりくりした緋色の瞳は、黒色の大人っぽい瞳に。
いつも身に付けている洋服から、白を基調として襟や袖口に赤で梅の刺繍が施されているシャツに、弓道で使うような黒い胸当て、黒の細身のパンツに焦げ茶のロングブーツ、ゲームに登場するアーチャのような格好に変化する。
春、ううん、春の身体に入った睦月がイーディスを真っ直ぐ見つめる。
「……千年前。イーディス」
「…………ムツキ」
驚愕を含んだイーディスの消え入りそうな声が零れる。ムツキは優しくイーディスに微笑む。
春の身体が、春以外の人間の意思で動く、不思議な感覚に春は困惑する。視界の端にフィル君とガルフォンがうつる。ふたりに驚きはなく、睦月のことを知っていた表情をしていた。きっとルディルナの都で銀色と緋色の光の粒に覆われた時も睦月が現れて、魔王の封印が解かれたことを睦月が報せたんだろう。
「…ムツキ、なのか?」
「うん。魔王の封印が解かれたあの日から、聖女達の魂を【封印の間】に縛りつける“枷”がなくなって、わたしは…わたしと元はひとつだった春の魂が宿る身体を借りることが出来るの。そのお陰で魔王の封印が解かれたことと“お願い”を“あのふたり”の子孫であるフィルシアールに伝えられた…」
「…願い?あのふたりの子孫?どう言うことだ?」
睦月はイーディスに近付き、イーディスの頬を両手で優しく包む。
「………わたしとイーディスが出会ったのも、わたしが“生贄”になったのも、わたしの魂の半分が春に生まれ変わったのも“運命”だったんだわ」
「…………そんな、ことを言うな」
イーディスの質問には答えず、睦月の呟きを聞いたイーディスの瞳から一筋の光が頬を伝う。涙だ。
「あの日、最後にお前の側を離れたのは俺だ。もっと俺を責めてもいいのだぞ」
イーディスは優しく睦月を抱き締める。睦月は力なく、ふるふると頭を振って、イーディスの言葉を否定する。
「“生贄”で誰かを責めたら、わたしは…わたし達は…“あの日”まで遡ることになるから…誰も責めたくないの…」
「“あの日”とは?」
「……………」
睦月はイーディスの問に答えず、身体を少しだけイーディスから離れる。春も睦月の記憶を持っているけど、睦月の言葉の意味が分からず困惑する。
「……春が覚えてなくて良かった。今はこれだけしか言えない」
「それ「ああ。もう、時間みたい。これ以上は春の身体に負担がかかるから、もう出ていかないと」
イーディスが「それはどういうことだ?」と、問いかける前に、睦月が時間切れが来たことを告げる。
春の身体をこれ以上借りると、身体に負担がかかりすぎて、意識不明や手足に痺れ等の障害が残り、最悪の場合は死亡する危険もあるとイーディスに説明する。
「…そうか。これが最後か」
「…わたしは【魔王城】の【封印の間】で待ってる。その時にまた会えるわ」
そう睦月が呟くと、ティティと睦月の目線が一瞬だけ合い、睦月はティティに口パクで『ティーニャごめんね。ありがとう』と、ティティにだけ分かるよう伝える。
ティティにも睦月の意思が伝わったのか、ティティの頬に銀色の雫が零れ落ちて、そんなティティをガルフォンが支えてる姿が春の目に入った。
再び銀色と緋色の光の粒が春の身体を覆うと、睦月の魂が春から離れていく。
『…春、お願いがあるの。……フィルシアールを…イグニのーーから…ーして…』
聞き取れない部分があるけど、睦月は春に何か大事なことを伝えてる。それだけは分かった。春も睦月に何かを伝えようと口を開こうとするが、それは発することはなく、春の意識は闇に沈んでいく。
最後に見た睦月の表情が、春が伝えたいことは理解しているようで“それでいいのよ”と、伝えるよう静かに頷いていた。
私の…春の身体を桜と梅の花びらが覆い尽くし、花びらから視界が晴れると懐かしい光景が目前に広がった。
『春ちゃん、どうしたの?どこか痛いの?』
『熱はないみたいだな』
『…………』
春によく似た20代後半の女性が4才の女の子を、心配そうに抱っこしてる。隣に寄り添ってる30代前半の男性は女の子のおでこに、手を当てて熱がないかを確認する。
『…………』
女の子はそんなふたりの姿が見えていないのか、ぼーと、空虚を見つめるだけだった。
『…いーでぃ、てぃー…にゃ、いぐ…に、どこぉ?』
『えっ、何を言っているの?』
『…誰かの名前か?』
『…もも…か、ちな…つ、どこぉ?あい…い』
『春ちゃん、泣かないで。どうしたの?ママとパパに教えて』
『ちな…つー、も…もかぁー、どぉちてぇ』
『“ちなつ”に“ももか”か?幼稚園の友達か?』
『貴方、そんな名前の子達は幼稚園にはいないわ』
この4才の女の子は“一ノ瀬 春”だ。
4才の私に寄り添ってる男女は、私の両親だ。
この頃の私は前世の記憶に引き摺られて、とても不安定な子供だったらしい。
現在の私にこの頃の記憶は一切なく、4才の私が何を伝えたいのか、私にも分からない。
ただ『千夏』と『百花』の名前が出てくる時だけ、4才の私は泣きわめいて、両親さえ、どうしたらいいのか困惑したみたい。
『…お前達、春を連れて田舎に来る気はないかえ?』
『母さん』
『なに一緒に暮らさなくとも良い。自然が多い場所で暮らせば、春も少しは落ち着くだろうさ』
『お義母さん。それで解決するでしょうか?』
『…それはわしにも分からん。…どうする?』
田舎に来ないかと両親に提案してるのは、現在は近所に住んでいる、私の父方の祖母だ。
両親も祖母の提案に、母は私を連れて田舎に行くことを決意し、父も不安定な私から離れたくないが、自身の仕事の都合もあって悩んだが、偶然にも田舎の支部に異動辞令が下りて、親子3人で父の田舎に引っ越して来れた。
引っ越しから、数日が過ぎ、私は祖母と近所にある神社へ来ていた。
『ばぁば、あれはなぁに?』
『んん、御神木のことか?』
『ごしゅんん』
『御神木じゃよ。まだ言いにくいか』
『“ちゃくら”と“うめ”がいっしょになってる?』
『そうじゃよ、よく分かったな。この御神木はな、現在から300年ぐらい前に、此処に男女の神様が降りたって、男の神様は桜に、女の神様は梅に姿を変えて、ひとつの木に、この桜梅の御神木、別名『夫婦木』になったんじゃよ』
『……なちゅかしぃ』
『春、なんか言ったか?』
春は祖母の問いには答えず、トコトコと桜梅の御神木の元へ歩いて行き、御神木に小さな手を触れる。
『春?』
『なちゅかしぃ、だぁれ?』
祖母が不安げに私の名前を呼ぶが、私は桜梅の御神木に問いかける。
当然、私の問いかけに何も返ってこないが、桜梅の御神木の桜と梅の木々が絡まってる隙間から、日光に照らされて、はっきりとした姿形は見えないが、キラキラ光る何かが、私の瞳に入る。
『はっ、春、大丈夫か!?何か入ったか??』
『ん~、らいじょうぶ』
祖母は慌てて私を病院に連れていったが、私の瞳に異常はなく、この日から、私が意味不明に泣きわめくこともなくなった。
『ねぇねぇ、パパ、ママ、ばぁば。“ちゃくらとうめ”にちゅれてって』
『おやおや、またかい。春は御神木が大好きなんだな』
『うん。むかしぃからしってるから、だいちゅき!』
『そうか、そうか。春がまだママのお腹にいた頃も来ていたから、それを覚えているんだな』
父が私の頭を優しく撫でる。
きゃははと、春に生まれて私は初めて笑う。
『…………』
『どうしたんじゃ?』
不安げに私を見つめる母に気付いた祖母が、母に問いかける。
『…春が元気になって良かったけど、これで良かったのか不安になってしまって…』
『それは』
『…いつか春が、私達の手も届かない、遠くへ行ってしまいそうで』
『……国際結婚でもするのかの』
『お義母さん?』
『春が結婚以外で、わし等から離れることはないから、そう不安になるな』
『……そう…ですね』
母は私を身籠ってから、何かと“勘”が鋭くなっており、母はいつか私が遠くへ行ってしまいそうと、時折、私にも言っていた。
私は『ずっと此処にいるよ!』と答えていたけど、私が再びディアーナ王国に“聖女”として召喚されたことで、母の“勘”は当たってしまったー…。
「…お母さん…お父さん…おばあちゃん」
私の視界に古びた布が幾重にもかかった天蓋ベッドの天井がうつる。
「…ー起きたか?」
イーディスが天蓋ベッドの、布のカーテンを開き、私を見下ろす。
「ッ!大丈夫かっ!どこか具合がっ!?」
「え?」
イーディスは驚愕して、私に駆け寄る。私はイーディスの問いかけに(具合は悪くないのに、なんで?)と頭を傾げる。
私がよく分かっていないことが、イーディスにも伝わったのか、イーディスもベットに寄りかかるように座り込み、寝てる私に目線を合わせる。
「…何故、泣いてる?」
「え、ええ、ほんと…だ」
私はイーディスに言われて、初めて自分が泣いていることに気付いた。
「…多分、私の…両親と祖母の夢を見たからだと…思います」
「……そうか、もう帰れないだったな」
ホームシックかと私は両手で顔を覆う。
睦月は召喚された日、もう二度と故郷に帰れないとイグニき聞かされた時に、散々「ひどい!」とイグニに泣きわめいてぶつけた。イグニはただ静かに睦月の言葉を受け入れていた。
現在思えば、イグニが睦月に付ききりになったキッカケの出来事だと思う。
春は召喚された時、見覚えがある光景で(またか)と、その想いが強かったけど、家族の夢を見て、もう二度と会えない人達への寂しさが溢れ出てしまった。
「…あの」
「なんだ?」
「…フィル君には…このこと言わないでぇ」
「………分かった。その代わりに…ハル、お前の事を俺に教えてくれ?」
「……私が睦月の生まれ変わりだから?」
「いや、ムツキは関係ない。…ただ俺がお前のことを知りたいだけだ」
(そうしなければいけない気がする)
「ハル、お前のことを教えてくれ?」
2度目のイーディスの問いかけに、睦月の記憶を持って不安定だった子供の頃や、神社の桜梅の御神木のことを、私はイーディスに語った。
イーディスはただ静かに私の話を聞いて、私はそんなイーディスを見つめていたら、不思議な懐かしさが込み上げてきた。
「…私達、何処かで会ったことある?」
私の口から、ポツリとそんな問いかけが零れた。
私の銀髪が黒髪に変わり、肩までだったふわふわした髪が、腰まで長くサラサラとしたストレートになり。
150㎝もなかった小柄な身体は、ぐっと身長が伸び、くりくりした緋色の瞳は、黒色の大人っぽい瞳に。
いつも身に付けている洋服から、白を基調として襟や袖口に赤で梅の刺繍が施されているシャツに、弓道で使うような黒い胸当て、黒の細身のパンツに焦げ茶のロングブーツ、ゲームに登場するアーチャのような格好に変化する。
春、ううん、春の身体に入った睦月がイーディスを真っ直ぐ見つめる。
「……千年前。イーディス」
「…………ムツキ」
驚愕を含んだイーディスの消え入りそうな声が零れる。ムツキは優しくイーディスに微笑む。
春の身体が、春以外の人間の意思で動く、不思議な感覚に春は困惑する。視界の端にフィル君とガルフォンがうつる。ふたりに驚きはなく、睦月のことを知っていた表情をしていた。きっとルディルナの都で銀色と緋色の光の粒に覆われた時も睦月が現れて、魔王の封印が解かれたことを睦月が報せたんだろう。
「…ムツキ、なのか?」
「うん。魔王の封印が解かれたあの日から、聖女達の魂を【封印の間】に縛りつける“枷”がなくなって、わたしは…わたしと元はひとつだった春の魂が宿る身体を借りることが出来るの。そのお陰で魔王の封印が解かれたことと“お願い”を“あのふたり”の子孫であるフィルシアールに伝えられた…」
「…願い?あのふたりの子孫?どう言うことだ?」
睦月はイーディスに近付き、イーディスの頬を両手で優しく包む。
「………わたしとイーディスが出会ったのも、わたしが“生贄”になったのも、わたしの魂の半分が春に生まれ変わったのも“運命”だったんだわ」
「…………そんな、ことを言うな」
イーディスの質問には答えず、睦月の呟きを聞いたイーディスの瞳から一筋の光が頬を伝う。涙だ。
「あの日、最後にお前の側を離れたのは俺だ。もっと俺を責めてもいいのだぞ」
イーディスは優しく睦月を抱き締める。睦月は力なく、ふるふると頭を振って、イーディスの言葉を否定する。
「“生贄”で誰かを責めたら、わたしは…わたし達は…“あの日”まで遡ることになるから…誰も責めたくないの…」
「“あの日”とは?」
「……………」
睦月はイーディスの問に答えず、身体を少しだけイーディスから離れる。春も睦月の記憶を持っているけど、睦月の言葉の意味が分からず困惑する。
「……春が覚えてなくて良かった。今はこれだけしか言えない」
「それ「ああ。もう、時間みたい。これ以上は春の身体に負担がかかるから、もう出ていかないと」
イーディスが「それはどういうことだ?」と、問いかける前に、睦月が時間切れが来たことを告げる。
春の身体をこれ以上借りると、身体に負担がかかりすぎて、意識不明や手足に痺れ等の障害が残り、最悪の場合は死亡する危険もあるとイーディスに説明する。
「…そうか。これが最後か」
「…わたしは【魔王城】の【封印の間】で待ってる。その時にまた会えるわ」
そう睦月が呟くと、ティティと睦月の目線が一瞬だけ合い、睦月はティティに口パクで『ティーニャごめんね。ありがとう』と、ティティにだけ分かるよう伝える。
ティティにも睦月の意思が伝わったのか、ティティの頬に銀色の雫が零れ落ちて、そんなティティをガルフォンが支えてる姿が春の目に入った。
再び銀色と緋色の光の粒が春の身体を覆うと、睦月の魂が春から離れていく。
『…春、お願いがあるの。……フィルシアールを…イグニのーーから…ーして…』
聞き取れない部分があるけど、睦月は春に何か大事なことを伝えてる。それだけは分かった。春も睦月に何かを伝えようと口を開こうとするが、それは発することはなく、春の意識は闇に沈んでいく。
最後に見た睦月の表情が、春が伝えたいことは理解しているようで“それでいいのよ”と、伝えるよう静かに頷いていた。
私の…春の身体を桜と梅の花びらが覆い尽くし、花びらから視界が晴れると懐かしい光景が目前に広がった。
『春ちゃん、どうしたの?どこか痛いの?』
『熱はないみたいだな』
『…………』
春によく似た20代後半の女性が4才の女の子を、心配そうに抱っこしてる。隣に寄り添ってる30代前半の男性は女の子のおでこに、手を当てて熱がないかを確認する。
『…………』
女の子はそんなふたりの姿が見えていないのか、ぼーと、空虚を見つめるだけだった。
『…いーでぃ、てぃー…にゃ、いぐ…に、どこぉ?』
『えっ、何を言っているの?』
『…誰かの名前か?』
『…もも…か、ちな…つ、どこぉ?あい…い』
『春ちゃん、泣かないで。どうしたの?ママとパパに教えて』
『ちな…つー、も…もかぁー、どぉちてぇ』
『“ちなつ”に“ももか”か?幼稚園の友達か?』
『貴方、そんな名前の子達は幼稚園にはいないわ』
この4才の女の子は“一ノ瀬 春”だ。
4才の私に寄り添ってる男女は、私の両親だ。
この頃の私は前世の記憶に引き摺られて、とても不安定な子供だったらしい。
現在の私にこの頃の記憶は一切なく、4才の私が何を伝えたいのか、私にも分からない。
ただ『千夏』と『百花』の名前が出てくる時だけ、4才の私は泣きわめいて、両親さえ、どうしたらいいのか困惑したみたい。
『…お前達、春を連れて田舎に来る気はないかえ?』
『母さん』
『なに一緒に暮らさなくとも良い。自然が多い場所で暮らせば、春も少しは落ち着くだろうさ』
『お義母さん。それで解決するでしょうか?』
『…それはわしにも分からん。…どうする?』
田舎に来ないかと両親に提案してるのは、現在は近所に住んでいる、私の父方の祖母だ。
両親も祖母の提案に、母は私を連れて田舎に行くことを決意し、父も不安定な私から離れたくないが、自身の仕事の都合もあって悩んだが、偶然にも田舎の支部に異動辞令が下りて、親子3人で父の田舎に引っ越して来れた。
引っ越しから、数日が過ぎ、私は祖母と近所にある神社へ来ていた。
『ばぁば、あれはなぁに?』
『んん、御神木のことか?』
『ごしゅんん』
『御神木じゃよ。まだ言いにくいか』
『“ちゃくら”と“うめ”がいっしょになってる?』
『そうじゃよ、よく分かったな。この御神木はな、現在から300年ぐらい前に、此処に男女の神様が降りたって、男の神様は桜に、女の神様は梅に姿を変えて、ひとつの木に、この桜梅の御神木、別名『夫婦木』になったんじゃよ』
『……なちゅかしぃ』
『春、なんか言ったか?』
春は祖母の問いには答えず、トコトコと桜梅の御神木の元へ歩いて行き、御神木に小さな手を触れる。
『春?』
『なちゅかしぃ、だぁれ?』
祖母が不安げに私の名前を呼ぶが、私は桜梅の御神木に問いかける。
当然、私の問いかけに何も返ってこないが、桜梅の御神木の桜と梅の木々が絡まってる隙間から、日光に照らされて、はっきりとした姿形は見えないが、キラキラ光る何かが、私の瞳に入る。
『はっ、春、大丈夫か!?何か入ったか??』
『ん~、らいじょうぶ』
祖母は慌てて私を病院に連れていったが、私の瞳に異常はなく、この日から、私が意味不明に泣きわめくこともなくなった。
『ねぇねぇ、パパ、ママ、ばぁば。“ちゃくらとうめ”にちゅれてって』
『おやおや、またかい。春は御神木が大好きなんだな』
『うん。むかしぃからしってるから、だいちゅき!』
『そうか、そうか。春がまだママのお腹にいた頃も来ていたから、それを覚えているんだな』
父が私の頭を優しく撫でる。
きゃははと、春に生まれて私は初めて笑う。
『…………』
『どうしたんじゃ?』
不安げに私を見つめる母に気付いた祖母が、母に問いかける。
『…春が元気になって良かったけど、これで良かったのか不安になってしまって…』
『それは』
『…いつか春が、私達の手も届かない、遠くへ行ってしまいそうで』
『……国際結婚でもするのかの』
『お義母さん?』
『春が結婚以外で、わし等から離れることはないから、そう不安になるな』
『……そう…ですね』
母は私を身籠ってから、何かと“勘”が鋭くなっており、母はいつか私が遠くへ行ってしまいそうと、時折、私にも言っていた。
私は『ずっと此処にいるよ!』と答えていたけど、私が再びディアーナ王国に“聖女”として召喚されたことで、母の“勘”は当たってしまったー…。
「…お母さん…お父さん…おばあちゃん」
私の視界に古びた布が幾重にもかかった天蓋ベッドの天井がうつる。
「…ー起きたか?」
イーディスが天蓋ベッドの、布のカーテンを開き、私を見下ろす。
「ッ!大丈夫かっ!どこか具合がっ!?」
「え?」
イーディスは驚愕して、私に駆け寄る。私はイーディスの問いかけに(具合は悪くないのに、なんで?)と頭を傾げる。
私がよく分かっていないことが、イーディスにも伝わったのか、イーディスもベットに寄りかかるように座り込み、寝てる私に目線を合わせる。
「…何故、泣いてる?」
「え、ええ、ほんと…だ」
私はイーディスに言われて、初めて自分が泣いていることに気付いた。
「…多分、私の…両親と祖母の夢を見たからだと…思います」
「……そうか、もう帰れないだったな」
ホームシックかと私は両手で顔を覆う。
睦月は召喚された日、もう二度と故郷に帰れないとイグニき聞かされた時に、散々「ひどい!」とイグニに泣きわめいてぶつけた。イグニはただ静かに睦月の言葉を受け入れていた。
現在思えば、イグニが睦月に付ききりになったキッカケの出来事だと思う。
春は召喚された時、見覚えがある光景で(またか)と、その想いが強かったけど、家族の夢を見て、もう二度と会えない人達への寂しさが溢れ出てしまった。
「…あの」
「なんだ?」
「…フィル君には…このこと言わないでぇ」
「………分かった。その代わりに…ハル、お前の事を俺に教えてくれ?」
「……私が睦月の生まれ変わりだから?」
「いや、ムツキは関係ない。…ただ俺がお前のことを知りたいだけだ」
(そうしなければいけない気がする)
「ハル、お前のことを教えてくれ?」
2度目のイーディスの問いかけに、睦月の記憶を持って不安定だった子供の頃や、神社の桜梅の御神木のことを、私はイーディスに語った。
イーディスはただ静かに私の話を聞いて、私はそんなイーディスを見つめていたら、不思議な懐かしさが込み上げてきた。
「…私達、何処かで会ったことある?」
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