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【本編】どうやら一夜の過ちを犯してしまったようです。

“修羅場”と助っ人登場

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「彩加、俺が悪かった!許してくれ!よりを戻してくれ!頼む!!」
「「「!!??」」」

 仁科がテレビや漫画でよく見る、流れるような“土下座”をした。如月綾人と話す前の私なら、よりを戻したかもしれないけど。

「…………やめて、私はよりを戻す気はないの。諦めて」
「頼む彩加!俺を許してくれ!」
「真樹くん落ち着きなさい。昨日の今日で流石に…それは…ちょっとと思うわ…」
「でも!」
「『でも!』じゃないわ。それに…」

 援護をしたマスターが、ちらっと如月綾人を見る。弟の反応が気になるようだ。

「……貴方が仁科真樹さんですか?」
「あんただれ?彩加と話してるんだけど」
「…不味いわ。あの子、声が低くなってる。ぶちギレ寸前よ…」
「へ?」

 何かマスターが、小声で不穏な事を言っているけど、うん、めちゃ伝わってくる。負と怒りのオーラが凄い。

「マスター、止めれないんですか?」
「……
「へ?マスターに似た?」

 私は小声でマスターに助けを求めるが、マスターの口から意外な言葉が出た。マスターに似たってどういうこと??

「仁科真樹さんですか?」
「…そうだけど。なぁ、彩加、よりを戻してくれよ」
「ちょっと、放して!」

 仁科は如月綾人の質問に素っ気なく答えて、声をワントーン高くして私の両手をぎゅと握る。ぞぞぞと、私の身体中に鳥肌が立つ。
 それを見た如月綾人は私と仁科を引き離して間に入る。

「あんた、何?」
「貴方こそ、何ですか?俺の“”にと」
「は?彼女って」

 へ?彼女って、まだ返事していないけど、どういうこと???仁科も困惑してるじゃん。

「何言ってんの、彩加は俺と昨日別れたばかりで、男が居るわけねーじゃん」
「……彩加とは、
「は?」
「へ?」

 嘘も方便なのか如月綾人が私の肩をぎゅと、自分の方へ優しく寄せる。仁科が私の両手を握った時みたいに、嫌悪感や鳥肌が立つ事もなく、トクン…トクン…と、心臓が高鳴る。これってもしかして、私は。

「…くっ、く、く」

 ん?何?何か…笑いを堪えてる声が聞こえるって、マスタァー、カウンターに突っ伏して悶えてる!

「仁科、やめて、よりを戻すのは…もう無理よ。私は「何でだよ!高校の頃から付き合ってただろ」
「だから私は「なぁ、ほんとにこいつと付き合ってるのか?」
「さっきも言いましたが、少し前に付き合ったばかりです。諦めて下さい」
「真樹くん、お水よ。落ち着きなさい」
「兄さん、こうなったら“”か」
「んー、使、こうなったら仕方ないわよね」

 ヤバい、こうなった仁科は止めれない。マスターと如月綾人も困り果ててるし、他に人が居ないけど営業妨害になってる。こうなったら、

「………………分か」

 悩んだ末に「分かった。よりを戻す」と言おうとした時、カラン、カラ~ンと来店のベルが響き渡る。
 ちょ、このタイミングでお客様来る!と、私は青ざめる。

「マスター、久しぶり~!綾人は居る?」

 マスター+如月綾人の知人らしき、元気な男性の声が響く。誰?私達と同じ年ぐらいの男性と…後ろに女性?

「和也」
「あら、和也くん。久しぶりね」
「何か…取り込み中だった?」
「…うん、まぁな」

 どこからどう見ても“修羅場”な場面に、和也と呼ばれた男性が困惑する。でも、和也って、どこかで聞いたことあるような。あ、白玉と黒ごまを拾った時、如月綾人が電話してた相手が和也って名前だったはず。

「…、どうしてここに?」

 ん?可愛らしい声が、

、どうしたの?」
「和也くん。………その…が…いて……」

 んん?って、

、何で…ここに?」

 がポツリと呟いて、真弥は気まずそうに和也の後ろへ隠れる。これは…もしかして、

「あの、さんですか?」
「え、はい。そうです。……もしかして仁科先輩の……?」
。元カノです」
「え?あ、だから昨日、あっ」

 間宮真弥は仁科に“彼女”居るって知っていたようで咄嗟に自分の口を右手で押さえて、しまったって顔をする。

「真弥、どうしたの?昨日何かあった?」
「……………」

 間宮真弥は和也の質問には答えられず口ごもる。

「あー、すげぇタイミングだ……」

 今度は如月綾人が「やべぇ」って顔をしながら頭を抱える。

「ヤバい。面白い展開かも」

 んん?マスター?

「真弥がどうしてここに?そっちの男は?」

 空気を読めてない仁科が間宮真弥に、また問いかける。

「…真弥?」
「………………」

 和也はいくら待っても、間宮真弥が何も言わないことを悟ったのか、ズボンのポケットからスマホを取り出してポチポチと何かを入力してる。
 和也が操作を終えると、如月綾人のズボンのポケットからピコンッと着信音が鳴る。

「あー…」

 誰からか察した如月綾人は小さな呻き声をあげてスマホを操作する。
 如月綾人がスマホの操作を終えると、今度は和也のスマホがピコンッと着信音が鳴る。そのスマホの画面を確認した和也は仁科に、

「はじめまして、真弥の大学の先輩なんですね?」
「は、はい。まぁ」
「私は“萩原はぎはら”和也と言います。の“”です」
「は、ってって!」
「ええ。昨日、真弥から聞いてご存知かと思いますが、真弥の婚約者フィアンセです」

 な、何だろう。和也、敬語なんだけど怖い。まぁ、自分の大事な婚約者フィアンセに告白されたら面白くないけど。

「マスター“萩原”って“萩原コーポレーション”の?」
「そうよ。和也くんは次男で、お母様が間宮商事の社長の妹で、私の母と友人なのよ」
「そうなんですね」

 私はマスターに耳打ちすると、マスターはあっさりと答える。

「何か揉めてるようだけど、知人の“弁護士”をとおしますか?」

 荻原和也の言葉に、仁科はサーと血の気が引いたように青ざめて、やっと諦めたのか、権力?に屈したのか、

「あー、風間さん、悪かった。彼とお幸せに」

 そう言い残して脱兎の如く逃げたした。
 その姿に私がポカンと呆けていると、

「あの、少しいいですか」
「私?」
「はい。ふたりだけで話せませんか?」

 間宮真弥が青ざめた顔で私に声をかける。これは全て察した顔だな。

「じゃ、こっちに移動しようか?」
「……はい」

 私は如月綾人と話していた“奥”の席に間宮真弥と座る。

「本当に申し訳ございません」

 あー、やっぱり、そうなるよね。
 仁科を口説いた訳じゃないし、間宮真弥は何も悪くないんだけどなぁ。

「……間宮さん。仁科の事は…気にしないで」
「でも、お二人が別れたのは…私のせい…だから…もう少し私が先輩との距離を考えたら…違ったのかなって…」
「大学の先輩に分からないところを質問しただけでしょ?」
「そう、ですけど…」
「それに、私…今は…」
「……もしかして」
「……昨日の今日で心変わりが早いと思う?」
「いえ」

 私達の間はそれっきり会話がなく、如月綾人やマスター、萩原和也が待っている“表”へ戻ると、マスターはカウンターの中に戻り、如月綾人と萩原和也はカウンター席に座って何かを話している。私達に気付いて、

「真弥、話は終わったの?」
「先輩、話は終わりましたか?」
「「うん」」
「へー、この人が“例の人”か」
「へ?例の人?」

 萩原和也は私をまじまじと見つめ、如月綾人を指差して、

「こいつ、昔から女子にモテて難攻不落だったんだけど、一昨年からかな『好きな人が居るから付き合えない』って断り文句に変わ「わー、わー、和也、やめろ」

 ああ、その“好きな人”が“私”よね。如月綾人の友人も私の事知ってるなんて恥ずかしい。早く此処から逃げ出したいけど、

「マスター、メモ紙とペンある?」
「はい、どうぞ♪」

 マスターはにやにやしながら、メモ帳とペンを差し出す。開店記念日に配ってたメモ帳だ。
 キュポンとペンのふたをあけて、メモ紙の上にペンを走らせて、書き終わった後にメモ紙を二つ折りにして、如月綾人の胸に押し付ける。

「が…頑張れば」
「え?」
「じゃ、またね」
「え、これって?」

 私は何も答えず、入り口のベルをカランと鳴らして『flosフロース odorオドル』をあとにする。
 如月綾人はゆっくり二つ折りにされたメモ帳をひらくと、風間彩加のLINEのIDが書かれていた。

「やったぁぁぁ!」

flosフロース odorオドル』に如月綾人の歓喜の声が響いた。如月綾人が喜んでいる横で、

「なぁ、マスター」
「なぁに?」
「さっきの男に、よくブチ切れなかったよね?えーと『』だっけ?」
「やだ、
「和也くん、何それ?」
「ああ、荻原うちと間宮の顧問弁護士の助手をしてる息子いるだろう。その息子とマスターってで『孤高の虎』って言うだったんだよ」
「和也くんが来てくれなかったら、を呼ぶところだったわ」
「や、マスターの昔のお仲間って…、弁護士の助手や警察官、あと、企業の後取りばっかじゃねぇ」
「ほんと“”使わなくてとしたわ」
「“奥の手”って昔のお仲間だろ?」
「そうよ。元『孤高の虎』のメンバーは今でもお店に来てくれるんだけど、綾人の片想いに気付いて『綾人の恋を見守ろう会』が出来ているの。そのってあるのよね。付き合っていた頃なら何もしなかったけど、別れて綾人がアプローチ中に邪魔をするなら、真樹くんの将来の就職先もなくなっていたわ」
「ブッ、何それ、マスター、アイツの気持ち全員にバレバレって事?そういや、兄貴もそんな事言っていたよな」
「和也くんのお兄さん?」
「ああ、真弥は知らないのか、俺の『孤高の虎』のだぜ」
「え、一樹さんが?」
「そ、今の兄貴からじゃ想像つかないだろ」

 如月綾人は自分と風間彩加の間にそんな会や戒律がある事は何も知らないし、自分とマスターの中で“奥の手”を使う重みが違う事も気付いてはいない。


 
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