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【本編】どうやら一夜の過ちを犯してしまったようです。
如月綾人の“失恋”と、舞い戻って来た元彼
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「え、まって、白玉と黒ごまを拾ったあの出会いから」
好きだったの?と、最後は消え入りそうな声が私からこぼれる。
「…っ」
如月綾人は顔を真っ赤にさせて、コクと1回だけ頷く。
「え、ええ。私達の接点ってその時だけよね?同じ大学だけど学年も違うし、サークルも…」
私の記憶が正しいなら、去年、この『flos odor』で再会になるのかな?するまではなかったはず。
「…………でした」
「え、何?」
「……一目惚れでした」
え?
ええええ????
聞き間違えかな????
「…えっと、もう1回言ってもらっていい?」
「一目惚れでした…」
どうやら私の聞き間違えじゃなかったみたいで、如月綾人の頭からぷしゅうと、茹でタコみたいに真っ赤になって顔を両手で隠す。本人には言えないけど、その仕草が乙女っぽいなと思ってしまった。
「……でも、すぐ“失恋”したけど」
「へ?」
何でと思ったけど、一昨年の雨の日、此方に来ていた母に捨て猫の話をしたら、猫好きの母はソッコー来てくれた。その時に、
『まぁまぁ、可愛い仔猫ちゃん達ねぇ。こんなに震えて可哀想に』
最初は仔猫を介抱していた母が男子高校生の存在に気付いて、
『…あら、可愛い高校生ね。彩加、貴女、真樹くんはどうしたの?別れちゃったの?』
『真樹とは別れてない!…この高校生は捨て猫の貰い手で困っていたから声をかけたの!』
『あら、そうだったの。お母さんは…』
『そんな“誤解”しないで、明日も大学終わったらデートなんだから。それより、お母さん猫を飼う準備していたよね?もう決まっちゃった?』
『……まだ悩んでで決まってないけど、うん、そうね、2匹飼うのもいいわね。この仔猫達にするわ!』
もう飼う猫が決まってても『3匹飼うのもいいわよね!』って言っただろうなぁって、違う違う、今はそれどころじゃない。……うん、たしかにお母さんが真樹の存在を言っていた。
「…えっと、私のLINEのIDを教えたら、その…友達としてじゃなくて…アプローチするんだよね?」
「……まぁ、そうですね。フリーなら猛アタックしても問題ないし」
如月綾人は言い淀みながら答える。
「……だよね」
「先輩モテるからライバルも多いし…」
「へ?モテる?誰が?」
「風間彩加先輩が」
「わ、私が?」
「大学や『flos odor』の“常連さん”にも、先輩を狙ってる人って大勢いるんですよ。これ俺のLINEのIDです」
如月綾人は私に自分のLINEのIDを書いたメモ用紙を差し出す。よく見ると色とりどりなチューリップやゼラニウム、春の花の中心に『flos odor』のロゴが入っている。開店記念日にマスターが配っていたメモ帳の紙だ。カモミールティーを持ってくる時に書いたのかな。
「……でも、自分への好意を」
自分の“失恋”の痛手を癒すために利用するみたいで嫌だなと、そう言おうとした時、
「はっきり言うと俺も打算してるから、先輩が罪悪感持たなくてもいいですよ」
「だ…ださん??」
「そ、他のやろ…いや、人達に先越されないように」
あれ?今、野郎って言いかけた??
如月綾人って、昨夜何もなかったし『優等生』なイメージだったんだけど違うのかな。
「……私のLINEのIDだ「マスター!彩加は居るっ!?」
「ちょ、ちょっとぉ、真樹くん、どうしたのよ?」
「「!?」」
焦った元彼の真樹の声とカランカランと、来店のベルの音は同時だった。
「ぜぇ、はぁ、彩加は来てますか!」
「あら、お水飲んで少し落ち着きなさい」
「彩加はっ、ぜぇ、はぁ、はぁ。ごく、ごく、ごく」
「本当に落ち着きなさいよぉ」
危機迫った真樹の声に、朗らかに対応するマスターの声が聞こえる。私と如月綾人は顔を見合わせて、
「俺、兄さん達の様子見てきます」
「私も」
「状況が分からないし、先輩はここにいて」
「でも」
あ、行っちゃった。
「兄さんどうしたの?」
「綾人、お話は終わったの?」
「…まだだけど、気になって」
「あー、そうよねぇ。ごめんね」
「それよりもマスター!彩加は居るの居ないの!?」
「真樹くんは、もう少し落ち着きなさい。ほら、お水、もう一杯飲みなさいね」
「…ごく、ごく、ごく」
マスターは同じ注意を真樹にする。声だけでも分かる。真樹はかなり興奮している。
「はぁ…」
「落ち着いたわね。それで彩加ちゃんがどうしたの?昨日別れたのよね?」
「…彩加から聞いたんですね。俺、彩加とよりを戻したくて」
「「は?どういうことかしら?」
ですか?」
へ?どういうこと?私の心の声と、マスター+如月綾人の困惑の声は綺麗にハモっていた。
「…真弥には彼氏がいたんです」
「真弥?ああ、真樹くんが好きになった子かしら」
「彼氏がいたって気付かなかったんですか?」
私の耳にマスター+如月綾人の呆れた声が聞こえる。
「間宮真弥は同じ大学の後輩で…」
「ん、ちょっと“間宮”って“間宮商事”のことかしら?」
「たしか一人娘が大学2年で、従兄弟が婚約者だったはずじゃ…」
“間宮商事”を知らない人はいない一流企業で海外ブランドを多く扱っている貿易会社。
如月綾人が言っているように社長の一人娘には婚約者がいたはず。誰もが知っている有名な話だ。
「「まさか、好きになった相手って間宮商事のお嬢様かしら」
一人娘じゃ」
まさか、好きになった相手って間宮商事のお嬢様なの!?
マスター+如月綾人の呆れ声と私の驚愕した心の声はまたハモる。
「…同姓同名だと思ってて」
「「そんな訳あるかい!」」
「は?マスター??」
如月綾人はともかく、マスターの口調が??
「あら、そんな事ないと思うけど?」
「兄さん、言い直しても遅いと思うよ…」
「綾人は黙ってらっしゃい。で、相手は間宮商事のお嬢様だったって事は分かったんだけど、昨日の今日で何かあったのかしら?」
「昨日、やっと彩加と別れて真弥に告白したんですよ。そしたら」
『えっ、私の事が好きって、付き合って欲しいって』
『うん、真弥も俺の事好きだろ?』
『え?私、仁科先輩の事好きじゃありません』
『え、でも、俺に色々と質問してたじゃないか』
『それは仁科先輩が同じ科目を専攻してて、サークルも一緒の“先輩”だったから、分からないところを聞いていただけです』
『え、ええ。そんなはずじゃ』
『それに私、婚約者がいるんです。一人娘だから父が決めた人と結婚して、会社を継がないと』
『へ?婚約者??』
『……その様子だと、本当に気付いていなかったんですね。私、間宮商事の娘です』
『え、同姓同名じゃなかったの』
『同姓同名だったら、話題のネタにしてますよ。お嬢様と同姓同名なんだって』
『え、じゃ俺は…』
『私、先輩の思いに答えられないです。ごめんなさい』
最後にお辞儀をした真弥は、真樹に背を向いて、去っていく。
「…って、事があったんです」
「「……………」」
((こいつ馬鹿だろう))
「俺には彩加しかいないって気付いて!マスター、彩加はどこですか!?」
「彩加ちゃんはねー…」
「……………」
マスターは困り果てて、如月綾人は無言。
うん、まぁ、そうよね。長年、片思いだった相手がやっと“フリー”になった!って喜んで口説いていたら、翌日に元彼がしょーもない理由で舞い戻って来たんだもんね。
「ねぇ、マスター、彩加はどこですか?LINEも繋がらなくてアパートにはいないし、大学には入れないし、俺、ここしか心当たりないんですよ」
「ああ、落ち着きなさい。他のお客様に迷惑だから」
「今は誰も居ないじゃないですか」
「今は居なくても、来店されたお客様が驚くでしょう」
な、なんか、マスターと真樹が押し問答をはじめた。
このまま迷惑はかけれないし。
「仁科」
私の呆れを含んだ声が店内に響く。
「…彩加ちゃん」
「先輩…」
「彩加!」
マスターは戸惑い、仁科は歓喜して、如月綾人は……ごめん、流石に見てみぬフリ出来なくて出てきちゃった。
仁科への嫉妬丸出しの不機嫌オーラをしまって!お願いだから!何で仁科気付いてないの~!!??
好きだったの?と、最後は消え入りそうな声が私からこぼれる。
「…っ」
如月綾人は顔を真っ赤にさせて、コクと1回だけ頷く。
「え、ええ。私達の接点ってその時だけよね?同じ大学だけど学年も違うし、サークルも…」
私の記憶が正しいなら、去年、この『flos odor』で再会になるのかな?するまではなかったはず。
「…………でした」
「え、何?」
「……一目惚れでした」
え?
ええええ????
聞き間違えかな????
「…えっと、もう1回言ってもらっていい?」
「一目惚れでした…」
どうやら私の聞き間違えじゃなかったみたいで、如月綾人の頭からぷしゅうと、茹でタコみたいに真っ赤になって顔を両手で隠す。本人には言えないけど、その仕草が乙女っぽいなと思ってしまった。
「……でも、すぐ“失恋”したけど」
「へ?」
何でと思ったけど、一昨年の雨の日、此方に来ていた母に捨て猫の話をしたら、猫好きの母はソッコー来てくれた。その時に、
『まぁまぁ、可愛い仔猫ちゃん達ねぇ。こんなに震えて可哀想に』
最初は仔猫を介抱していた母が男子高校生の存在に気付いて、
『…あら、可愛い高校生ね。彩加、貴女、真樹くんはどうしたの?別れちゃったの?』
『真樹とは別れてない!…この高校生は捨て猫の貰い手で困っていたから声をかけたの!』
『あら、そうだったの。お母さんは…』
『そんな“誤解”しないで、明日も大学終わったらデートなんだから。それより、お母さん猫を飼う準備していたよね?もう決まっちゃった?』
『……まだ悩んでで決まってないけど、うん、そうね、2匹飼うのもいいわね。この仔猫達にするわ!』
もう飼う猫が決まってても『3匹飼うのもいいわよね!』って言っただろうなぁって、違う違う、今はそれどころじゃない。……うん、たしかにお母さんが真樹の存在を言っていた。
「…えっと、私のLINEのIDを教えたら、その…友達としてじゃなくて…アプローチするんだよね?」
「……まぁ、そうですね。フリーなら猛アタックしても問題ないし」
如月綾人は言い淀みながら答える。
「……だよね」
「先輩モテるからライバルも多いし…」
「へ?モテる?誰が?」
「風間彩加先輩が」
「わ、私が?」
「大学や『flos odor』の“常連さん”にも、先輩を狙ってる人って大勢いるんですよ。これ俺のLINEのIDです」
如月綾人は私に自分のLINEのIDを書いたメモ用紙を差し出す。よく見ると色とりどりなチューリップやゼラニウム、春の花の中心に『flos odor』のロゴが入っている。開店記念日にマスターが配っていたメモ帳の紙だ。カモミールティーを持ってくる時に書いたのかな。
「……でも、自分への好意を」
自分の“失恋”の痛手を癒すために利用するみたいで嫌だなと、そう言おうとした時、
「はっきり言うと俺も打算してるから、先輩が罪悪感持たなくてもいいですよ」
「だ…ださん??」
「そ、他のやろ…いや、人達に先越されないように」
あれ?今、野郎って言いかけた??
如月綾人って、昨夜何もなかったし『優等生』なイメージだったんだけど違うのかな。
「……私のLINEのIDだ「マスター!彩加は居るっ!?」
「ちょ、ちょっとぉ、真樹くん、どうしたのよ?」
「「!?」」
焦った元彼の真樹の声とカランカランと、来店のベルの音は同時だった。
「ぜぇ、はぁ、彩加は来てますか!」
「あら、お水飲んで少し落ち着きなさい」
「彩加はっ、ぜぇ、はぁ、はぁ。ごく、ごく、ごく」
「本当に落ち着きなさいよぉ」
危機迫った真樹の声に、朗らかに対応するマスターの声が聞こえる。私と如月綾人は顔を見合わせて、
「俺、兄さん達の様子見てきます」
「私も」
「状況が分からないし、先輩はここにいて」
「でも」
あ、行っちゃった。
「兄さんどうしたの?」
「綾人、お話は終わったの?」
「…まだだけど、気になって」
「あー、そうよねぇ。ごめんね」
「それよりもマスター!彩加は居るの居ないの!?」
「真樹くんは、もう少し落ち着きなさい。ほら、お水、もう一杯飲みなさいね」
「…ごく、ごく、ごく」
マスターは同じ注意を真樹にする。声だけでも分かる。真樹はかなり興奮している。
「はぁ…」
「落ち着いたわね。それで彩加ちゃんがどうしたの?昨日別れたのよね?」
「…彩加から聞いたんですね。俺、彩加とよりを戻したくて」
「「は?どういうことかしら?」
ですか?」
へ?どういうこと?私の心の声と、マスター+如月綾人の困惑の声は綺麗にハモっていた。
「…真弥には彼氏がいたんです」
「真弥?ああ、真樹くんが好きになった子かしら」
「彼氏がいたって気付かなかったんですか?」
私の耳にマスター+如月綾人の呆れた声が聞こえる。
「間宮真弥は同じ大学の後輩で…」
「ん、ちょっと“間宮”って“間宮商事”のことかしら?」
「たしか一人娘が大学2年で、従兄弟が婚約者だったはずじゃ…」
“間宮商事”を知らない人はいない一流企業で海外ブランドを多く扱っている貿易会社。
如月綾人が言っているように社長の一人娘には婚約者がいたはず。誰もが知っている有名な話だ。
「「まさか、好きになった相手って間宮商事のお嬢様かしら」
一人娘じゃ」
まさか、好きになった相手って間宮商事のお嬢様なの!?
マスター+如月綾人の呆れ声と私の驚愕した心の声はまたハモる。
「…同姓同名だと思ってて」
「「そんな訳あるかい!」」
「は?マスター??」
如月綾人はともかく、マスターの口調が??
「あら、そんな事ないと思うけど?」
「兄さん、言い直しても遅いと思うよ…」
「綾人は黙ってらっしゃい。で、相手は間宮商事のお嬢様だったって事は分かったんだけど、昨日の今日で何かあったのかしら?」
「昨日、やっと彩加と別れて真弥に告白したんですよ。そしたら」
『えっ、私の事が好きって、付き合って欲しいって』
『うん、真弥も俺の事好きだろ?』
『え?私、仁科先輩の事好きじゃありません』
『え、でも、俺に色々と質問してたじゃないか』
『それは仁科先輩が同じ科目を専攻してて、サークルも一緒の“先輩”だったから、分からないところを聞いていただけです』
『え、ええ。そんなはずじゃ』
『それに私、婚約者がいるんです。一人娘だから父が決めた人と結婚して、会社を継がないと』
『へ?婚約者??』
『……その様子だと、本当に気付いていなかったんですね。私、間宮商事の娘です』
『え、同姓同名じゃなかったの』
『同姓同名だったら、話題のネタにしてますよ。お嬢様と同姓同名なんだって』
『え、じゃ俺は…』
『私、先輩の思いに答えられないです。ごめんなさい』
最後にお辞儀をした真弥は、真樹に背を向いて、去っていく。
「…って、事があったんです」
「「……………」」
((こいつ馬鹿だろう))
「俺には彩加しかいないって気付いて!マスター、彩加はどこですか!?」
「彩加ちゃんはねー…」
「……………」
マスターは困り果てて、如月綾人は無言。
うん、まぁ、そうよね。長年、片思いだった相手がやっと“フリー”になった!って喜んで口説いていたら、翌日に元彼がしょーもない理由で舞い戻って来たんだもんね。
「ねぇ、マスター、彩加はどこですか?LINEも繋がらなくてアパートにはいないし、大学には入れないし、俺、ここしか心当たりないんですよ」
「ああ、落ち着きなさい。他のお客様に迷惑だから」
「今は誰も居ないじゃないですか」
「今は居なくても、来店されたお客様が驚くでしょう」
な、なんか、マスターと真樹が押し問答をはじめた。
このまま迷惑はかけれないし。
「仁科」
私の呆れを含んだ声が店内に響く。
「…彩加ちゃん」
「先輩…」
「彩加!」
マスターは戸惑い、仁科は歓喜して、如月綾人は……ごめん、流石に見てみぬフリ出来なくて出てきちゃった。
仁科への嫉妬丸出しの不機嫌オーラをしまって!お願いだから!何で仁科気付いてないの~!!??
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