4 / 5
僕と吉野さんと渉先輩。
しおりを挟む
「明日来れないの?」
「うん。……予定があって」
「……そう。……仕方ないね」
吉野さんは犬の耳と尻尾がしゅんと垂れ下がったように凹んでしまった。
僕と吉野さんがこうして話すようになって5日が過ぎた。まだ例の記事は見せていない。
「明後日、また来るよ」
「約束よ。必ず来てね」
吉野さんはそう言うと自分の右手の小指を僕に差し出す。
指切りだと理解した僕も自分の小指を差し出して、吉野さんの小指と絡める。触れる感触も温もりもない。
ただ空気に触れているだけ。
「指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲ーます。指切った」
僕と吉野さんの周りに桜の花びらがパラパラと舞い散る。
ーーーー
…ー翌日。
「和人、こっち」
ファーストフード店マッドで席に座って居た、茶髪のツンツン頭とつり目の少年が僕に気付いて声を掛ける。
粟井架。僕と同じ日暮中学校の3年生で幼なじみ。
僕はメロンジュースをテーブルに置いてから架の隣に座る。
「神谷先輩そろそろ着くって」
架がスマホを見ながらそう呟く。渉先輩からメッセージが届いたんだろう。
事の始まりは一昨日。僕が美桜さんと渉先輩の卒業アルバムの住所にやって来たが、
「…ーいないか」
住所の場所には一軒家が建っているが、空き家になっている。
「電話番号も繋がらなかったし」
どうしよう。
「あれ、和人。神谷先輩家前でどうした?
もう誰も住んでいないぞ」
「…架。渉先輩を知っているの?」
「サッカー部の先輩だけどお姉さんの事件があって、中学卒業と同時に引っ越したぞ」
「そっか。連絡先知ってる?」
「知ってけど、なんでだ?
まさか幽霊がらみじゃないよな」
架は僕の秘密を知ってる人で、冗談っぽくそう言うが、
「まじで?」
僕の表情を見て本当だと悟る。
架は僕が神谷家の前に居た理由を理解して、眉毛を八の字に顔色は青白く血の気が引いていく。
「どんな幽霊だ?」
「…僕達と同じ日暮中学校の女生徒で真っ黒な髪と瞳。髪の長さはここまで」
僕が吉野さんの特徴を伝えると、架は頭を抱えた。
「神谷先輩のお姉さんと特徴が一致してるな」
「会ったことあるの?」
「写真なら見た」
渉先輩は部活の後輩が美桜さんを目撃していないか聞いてまわっていたらしい。架は複雑そうに思案して、
「連絡しとくけど先輩が信じるか分からないぞ」
「……分かっている」
大半の人間は信憑性がないことは信じない。架のような幽霊が見えないのに信じてくれる人は稀だ。
「粟井」
頭上から聞こえてきた声に僕の意識が現実に戻る。僕は声がした方へ見上げる。
漆黒の髪に瞳、夜明高校の紺のブレザーとゆるんだ赤いネクタイをしめたシャツ、紺と黒のチェックのスラックスを履いた吉野さんとよく似た男性が寝癖の髪を跳ねさせて立っていた。
「神谷先輩、お久しぶりです」
「久しぶりだな」
渉先輩が架に優しく微笑む。
「君が架が言っていた篠原和人?」
「はい。はじめまして」
ガタッと椅子から立ち上がりお辞儀をする。
「はじめまして神谷渉です。架から話は聞いてる。
姉さんのことだけど…」
渉先輩が半信半疑な眼差しを僕に向ける。
「幽霊なんて…、非現実過ぎて信じていいか分からない」
うん。そう…なりますよね。
「今日はどうして来て下さったんですか?」
「……………」
「神谷先輩、和人。そろそろ座りませんか?」
問いかけに無言のまま立ちすくむ渉先輩と僕を見かねた架が恐る恐る切り出す。
渉先輩はトレーにのったポテトとホットカフェラテをテーブルへ置くと架の隣へ静かに座る。僕も椅子へ座りメロンジュースでカラカラな喉を潤す。
渉先輩はホットカフェラテを一口飲んで、コトンとトレーの上へ置く。
ホットカフェラテを見つめながら、
「…ー3年」
「えっ」
「姉さんが行方不明になってから3年も過ぎているのに、未だに何も進展していない」
「「……………」」
「……架はタチの悪い冗談は言わないし、はじめての姉さんの情報だったから…」
渉先輩がホットカフェラテをもう一口飲む。
「…信じられなかったけど、確かめずにいられなかった」
「……えーと、ポテト買ってきます。和人は食べる?」
気まずくなった架がそろ~りと椅子から立ち上がる。
僕はふるふると頭を振る。
「じゃ、自分のだけ買ってきますね」
そう言うと、架はそろりそろりとレジに並ぶ。
「「……………」」
ヤバい。架が居なくなって、さらに気まずい。
早く戻って来てー!
ずーっとメロンジュースを飲み続けると、
あ!空になった。
「戻りました。レジが混んでて時間がかかって」
Mサイズのポテトと何故かアイスドリンクのカップがふたつある。
「和人、これ。もうジュースないだろ」
「ありがとう」
「……話は「終わってない」
終わりましたか?と、架の質問を読んだ渉先輩が先に答える。
さすがサッカー部の先輩と後輩だな。
「あーー…。和人、何か考えはあるのか?」
このままじゃ先に進まないと察した架が、かなり気まずそうに進行役を買ってくれた。
「吉野さん…美桜さんに渉先輩を会わせて、何か思い出さないか試してみたいんだ」
卒業アルバムの写真では無理だったけど、渉先輩なら違うかもしれない。
「これから行くのか?」
渉先輩の質問に僕はふるふると頭を振る。
「本当は…そうしたいんですが、あまり遅くなると…」
「あ。おばさん達、心配する?」
「部活終わったなら、早く帰って来いって言われたばかりで」
そんな僕と架のやり取りを見ていた渉先輩が、
「……卒業してからにするか?」
「はい。僕もそうしようと思っていました。6日後の日曜日、予定空いてますか?」
「その日は大丈夫だ。4日後じゃなくていいのか?」
僕と架の中学卒業式が3日後に控えていて、その翌日じゃないことを渉先輩が不思議に思ったようだ。
渉先輩が通う夜明高校はもう春休みに入るらしい。
「……5日後に、協力者が青森から来るんです」
「協力「八重が来るのか!」
渉先輩の言葉を遮って、架が凄い勢いで僕に駆け寄る。
それはもう渉先輩がドン引きするぐらいの勢いだ。
「八重も4月から夜明高校に通うんだよ」
「なんで早くいわないんだよ!」
こうなるからだよ。
僕はずーっと架が買って来てくれたオレンジジュースを啜った。
「うん。……予定があって」
「……そう。……仕方ないね」
吉野さんは犬の耳と尻尾がしゅんと垂れ下がったように凹んでしまった。
僕と吉野さんがこうして話すようになって5日が過ぎた。まだ例の記事は見せていない。
「明後日、また来るよ」
「約束よ。必ず来てね」
吉野さんはそう言うと自分の右手の小指を僕に差し出す。
指切りだと理解した僕も自分の小指を差し出して、吉野さんの小指と絡める。触れる感触も温もりもない。
ただ空気に触れているだけ。
「指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲ーます。指切った」
僕と吉野さんの周りに桜の花びらがパラパラと舞い散る。
ーーーー
…ー翌日。
「和人、こっち」
ファーストフード店マッドで席に座って居た、茶髪のツンツン頭とつり目の少年が僕に気付いて声を掛ける。
粟井架。僕と同じ日暮中学校の3年生で幼なじみ。
僕はメロンジュースをテーブルに置いてから架の隣に座る。
「神谷先輩そろそろ着くって」
架がスマホを見ながらそう呟く。渉先輩からメッセージが届いたんだろう。
事の始まりは一昨日。僕が美桜さんと渉先輩の卒業アルバムの住所にやって来たが、
「…ーいないか」
住所の場所には一軒家が建っているが、空き家になっている。
「電話番号も繋がらなかったし」
どうしよう。
「あれ、和人。神谷先輩家前でどうした?
もう誰も住んでいないぞ」
「…架。渉先輩を知っているの?」
「サッカー部の先輩だけどお姉さんの事件があって、中学卒業と同時に引っ越したぞ」
「そっか。連絡先知ってる?」
「知ってけど、なんでだ?
まさか幽霊がらみじゃないよな」
架は僕の秘密を知ってる人で、冗談っぽくそう言うが、
「まじで?」
僕の表情を見て本当だと悟る。
架は僕が神谷家の前に居た理由を理解して、眉毛を八の字に顔色は青白く血の気が引いていく。
「どんな幽霊だ?」
「…僕達と同じ日暮中学校の女生徒で真っ黒な髪と瞳。髪の長さはここまで」
僕が吉野さんの特徴を伝えると、架は頭を抱えた。
「神谷先輩のお姉さんと特徴が一致してるな」
「会ったことあるの?」
「写真なら見た」
渉先輩は部活の後輩が美桜さんを目撃していないか聞いてまわっていたらしい。架は複雑そうに思案して、
「連絡しとくけど先輩が信じるか分からないぞ」
「……分かっている」
大半の人間は信憑性がないことは信じない。架のような幽霊が見えないのに信じてくれる人は稀だ。
「粟井」
頭上から聞こえてきた声に僕の意識が現実に戻る。僕は声がした方へ見上げる。
漆黒の髪に瞳、夜明高校の紺のブレザーとゆるんだ赤いネクタイをしめたシャツ、紺と黒のチェックのスラックスを履いた吉野さんとよく似た男性が寝癖の髪を跳ねさせて立っていた。
「神谷先輩、お久しぶりです」
「久しぶりだな」
渉先輩が架に優しく微笑む。
「君が架が言っていた篠原和人?」
「はい。はじめまして」
ガタッと椅子から立ち上がりお辞儀をする。
「はじめまして神谷渉です。架から話は聞いてる。
姉さんのことだけど…」
渉先輩が半信半疑な眼差しを僕に向ける。
「幽霊なんて…、非現実過ぎて信じていいか分からない」
うん。そう…なりますよね。
「今日はどうして来て下さったんですか?」
「……………」
「神谷先輩、和人。そろそろ座りませんか?」
問いかけに無言のまま立ちすくむ渉先輩と僕を見かねた架が恐る恐る切り出す。
渉先輩はトレーにのったポテトとホットカフェラテをテーブルへ置くと架の隣へ静かに座る。僕も椅子へ座りメロンジュースでカラカラな喉を潤す。
渉先輩はホットカフェラテを一口飲んで、コトンとトレーの上へ置く。
ホットカフェラテを見つめながら、
「…ー3年」
「えっ」
「姉さんが行方不明になってから3年も過ぎているのに、未だに何も進展していない」
「「……………」」
「……架はタチの悪い冗談は言わないし、はじめての姉さんの情報だったから…」
渉先輩がホットカフェラテをもう一口飲む。
「…信じられなかったけど、確かめずにいられなかった」
「……えーと、ポテト買ってきます。和人は食べる?」
気まずくなった架がそろ~りと椅子から立ち上がる。
僕はふるふると頭を振る。
「じゃ、自分のだけ買ってきますね」
そう言うと、架はそろりそろりとレジに並ぶ。
「「……………」」
ヤバい。架が居なくなって、さらに気まずい。
早く戻って来てー!
ずーっとメロンジュースを飲み続けると、
あ!空になった。
「戻りました。レジが混んでて時間がかかって」
Mサイズのポテトと何故かアイスドリンクのカップがふたつある。
「和人、これ。もうジュースないだろ」
「ありがとう」
「……話は「終わってない」
終わりましたか?と、架の質問を読んだ渉先輩が先に答える。
さすがサッカー部の先輩と後輩だな。
「あーー…。和人、何か考えはあるのか?」
このままじゃ先に進まないと察した架が、かなり気まずそうに進行役を買ってくれた。
「吉野さん…美桜さんに渉先輩を会わせて、何か思い出さないか試してみたいんだ」
卒業アルバムの写真では無理だったけど、渉先輩なら違うかもしれない。
「これから行くのか?」
渉先輩の質問に僕はふるふると頭を振る。
「本当は…そうしたいんですが、あまり遅くなると…」
「あ。おばさん達、心配する?」
「部活終わったなら、早く帰って来いって言われたばかりで」
そんな僕と架のやり取りを見ていた渉先輩が、
「……卒業してからにするか?」
「はい。僕もそうしようと思っていました。6日後の日曜日、予定空いてますか?」
「その日は大丈夫だ。4日後じゃなくていいのか?」
僕と架の中学卒業式が3日後に控えていて、その翌日じゃないことを渉先輩が不思議に思ったようだ。
渉先輩が通う夜明高校はもう春休みに入るらしい。
「……5日後に、協力者が青森から来るんです」
「協力「八重が来るのか!」
渉先輩の言葉を遮って、架が凄い勢いで僕に駆け寄る。
それはもう渉先輩がドン引きするぐらいの勢いだ。
「八重も4月から夜明高校に通うんだよ」
「なんで早くいわないんだよ!」
こうなるからだよ。
僕はずーっと架が買って来てくれたオレンジジュースを啜った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる