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シャーレイ〜定住への決意〜

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アラナとの出会いから3日経った。
オズウェルは未だに定住の件を決めかねていた。
理由は簡単。怖いのである。
この国の人たちがいい人たちなのは間違いない。
エドワードやアラナ以外にも親切にしてくれる人たちは沢山いた。
定住するならこの国が一番いいのかも知れない。
しかし、今まで旅でのらりくらりと生きてきたオズウェルにとって一気に責任が重くなる気がしてなかなか定住に踏み切れなかったのだ。
どうしようと思いながら当てもなく歩いていると背中に衝撃が走った。

「わあ!」

びっくりして後ろを振り返るとそこにいるのはアラナだった。

「ご、ごめん。何度も呼びかけたんだけど……。そんなに驚くと思わなくて。」

その言葉と、少し上がった息に、追わせてしまったことに気づく。

「そうだったんだ…。こっちこそごめんね。」
「いいよ。考え事してたみたいだけど定住の事について考えてるの?」
「ええ、そうなの……。なんだか怖くて。」
「へえ、なにが怖いの?」

オズウェルは悩みながらも言葉を紡ぐ。

「なんていうか……自分でもよくわからないんだけど……責任っていうのかな……そういうのをすごく感じちゃって…。」
「責任かあ……。」

アラナはうーんと考え込む様な仕草をする。

「そんなに重く考える必要ないんじゃないかなあ……。確かにガラリと生活は変わると思うけど、この国に定住したからと言って何かを為さなきゃならないってわけでもないし……。」
「そうだよね……。」
「まあ、今までの生活を変えるってすごい勇気がいるよね。」

アラナはそうだと手を叩いた。

「エドワードさんに相談してみましょうよ。きっと親身になって応えてくれるわ。」
「そんな!悪いよ。きっと困っちゃうよ。」
「でもオズウェルに親切にしてくれたんでしょ?ダメだとは思わないけどなあ。」
「僕を呼んだかい?」

その言葉にびっくりして2人は振り返るそこにはエドワードがいた。

「エドワード君!」
「久しぶり、オズウェルちゃん。なんだか僕の話をしてたみたいだけどどうしたの?」
「えっと…それは…。」
「ちょうど良いところに!エドワードさん、よかったらオズウェルの悩みを聞いてあげてくれないかしら?」
「ちょっとアラナちゃん!」

勝手にエドワードに相談を持ちかけた事にびっくりして止める。
しかし、時すでに遅しだった。

「オズウェルちゃん、悩んでいるのかい?僕で良ければ相談に乗るよ。」
「よかったね!オズウェル!相談乗ってくれるって!」

勢いに押されてオズウェルはうなずくことしかできなかった。
気がついたらアラナはいなくなり(何か言っていたかも知れないが記憶にない)、エドワードに連れられ釣りをしていた。

「それでオズウェルちゃんは何に悩んでいるの?」
「それは……。」

釣り糸を見ながら聞くエドワード。こちらを見ない事をありがたいと思うが、それでも言葉は出てこない。

「今思ってることを吐き出してごらん。途切れ途切れでもゆっくりでも構わないよ。」

そう優しい声で言われ、オズウェルはなんとか言葉を絞り出す。

「実は定住を誘われてて……なんだか怖くてなかなか踏み切れないの。」

エドワードの釣竿が揺れる。何度か竿を振り上げ、魚を釣り上げる。
再び、川に釣糸を垂らす。
そうしてエドワードは言葉を紡いだ。

「悩んでるなら辞めたらどうだい?」
「え?」

そう言われるのはなんだか意外だった。
それと同時に胸に暗い影が差す。
しばらく沈黙したのち、またエドワードが言った。

「今嫌な気持ちなんじゃないかな?」
「え……ええ。」
「じゃあそれが答えだよ。」

エドワードの切れ長の瞳がこちらを射る。

「今言われて嫌だと思ったなら、オズウェルちゃんの本当の気持ちはここにいたいってことだろう?それが答えだ。」
「あ……。」

そう言われてオズウェルはストンと胸の中に落ちたのを感じた。

「確かに今までの生活を変えるのはとても勇気がいることだろう。でも変えたいのなら勇気を出して一歩踏み込んでごらん。大丈夫。僕も、さっきの仲良い子…アラナちゃんもここにはいるだろう?」

そう言われてオズウェルは目が熱くなるのを感じた。色んな感情が雫となって頬を伝う。
エドワードは何も言わずにそっとオズウェルを胸にギリギリ触れないところまで抱き寄せ、頭を撫でた。
オズウェルが泣き止むまでエドワードはずっとそうしてくれていた。



どれほどそうしていただろうか。
ようやく落ち着いたオズウェルはエドワードからそっと離れる。
そしてエドワードはハンカチをオズウェルに差し出した。
豪奢な刺繍が隅に施されたハンカチ―――のちに知る事になるが王族の紋章だった―――
それを受け取り、涙を拭く。

「ありがとう。エドワード君。なんだか悩んでたのが馬鹿みたいね。とっくに答えは出ていたのに。」
「新しいことに挑戦するときは誰だって悩むものだろう?僕としてもオズウェルちゃんが定住してくれるのは嬉しいよ。」
「ふふ。そう言ってもらえて嬉しい。わたし、定住する。」
 
晴れ晴れとした表情で宣言するオズウェル。それにエドワードは笑顔で頷く。
 
「それじゃあ定住が決まったなら、アラナさんにも挨拶してこないとね。」
「ええ!わたし、行ってくるわ。」
「行ってらっしゃい。」
 
手を振り、別れる二人。
オズウェルは駆け足でアラナの所に向かった。
飛ぶように軽い足取りで進む。実際はかなりの距離を走ったはずであるが、体感は大した距離を感じずにアラナの所にたどり着いた。
 
「アラナちゃん!」
 
少し遠くに見えるアラナの背中に呼びかける。振り返ったアラナはびっくりしたようにこっちを見た。
アラナの目の前に来た瞬間、今までは平気だったのに突然酸素が足りないのを自覚した。
思わず膝に手を当て前のめりで呼吸する。
 
「はあっ……はあっ……」
「だ、大丈夫!?そんなに走って来たの?」
「だ、だいじょうぶ……すぐに伝えたくて……」
 
そういうとオズウェルは大きく深呼吸して笑顔で宣言する。
 
「アラナちゃん、わたし……プリローザ王国に定住する!」
 
それを聞いたアラナは言葉を飲み込むまで時間がかかった様子だったが、理解すると喜色満面の笑みとなった。
 
「ほ、ほんとっ!?うれしい!」
「時間かかっちゃったけど…よろしくね、アラナちゃん。」
「こちらこそよろしく!オズウェル!」
 
二人は手を取り合う。暫く笑いあっていた二人だが、ふと視線を感じた。
周りの人たちが見ている。
そう、ここは酒場のある広場とは違う広場だが、人が行き交うことは変わりなく…それゆえに注目を受けていた。
それを確認した二人は顔を真っ赤にする。顔が灼熱のように熱い。二人同時にぱっと手を離し、あわあわとする。
 
「そ、そうだ!オズウェル!オステリーアさんに言わないとね!行きましょ!」
「え、ええ!そうね、行きましょう!」
 
恥ずかしさのあまり、逃げるようにその場を後にする二人。
それでも嬉しさが勝り、自然と笑顔になっていた。
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