上 下
2 / 7

シャーレイ〜親友との出会い⑴〜

しおりを挟む
窓に差し込む光を感じて、オズウェルは瞼を持ち上げた。暫くまどろんで、大きく深呼吸しベッドから起き上がった。窓を開け、朝の澄んだ空気を吸いながら大きく伸びをする。
窓を閉めて、今度は身支度をする。
おろしてた長い髪を三つ編みに結いなおし、服を着替え、部屋を出る。
階段を下りていくと鼻腔を擽る美味しそうな香りが漂ってきた。
自然と顔がほころび、足取りが早くなる。
下の階に入り、オズウェルは笑顔で挨拶をした。
 
「おはようございます。オステリーアさん。良い香りですね。」
「あら、おはよう。早いのね。もうすぐでできるから座って待ってて頂戴。」
「はい。ありがとうございます。」
 
手近な椅子に腰かけ、周りを見渡す。まだオズウェルとオステリーア以外は起きていないようだ。
視線をずらし、オステリーアを見る。手慣れた手つきで食事を作る様子に思わず見とれてしまう。
あっという間に完成し、ホカホカと湯気を立てた料理が運ばれてくる。
 
「お待ちどうさま。ブットの香草グリルよ。」
「美味しそうです。この香草って昨日私が採ったテムス草ですか?」
「そうよ。匂い消しにも使えるからいいわよ。いろいろな料理に使われるわ。」
 
香草と魚の焼けた香ばしい匂いが鼻腔を満たす。お腹の虫が鳴り始め、フォークを手に取った。
 
「いただきます。」
 
一口頬張ると魚の淡白な味わいとテムス草の清涼感が押し寄せてくる。二つの完璧なバランスにほうと息を吐いた。
 
「とてもおいしいです!」
「それは良かったわ。ゆっくり召し上がって頂戴。」
 
そうオステリーアは微笑むと、またキッチンの方へ向かって行った。他の旅人の食事の準備でもするのだろう。
オズウェルはもう料理に夢中になった。
味わいながらもあっという間に平らげてしまった。食べ終わるころには、ほかの旅人もちらほらと降りてきてオステリーアの料理に舌鼓を打っていた。
その人たちを横目に見ながら、オズウェルは食器をキッチンへと運ぶ。
 
「ごちそうさまでした。とってもおいしかったです。」
「あら、ありがとう。良かったわ。そうだ、今日の予定はもう決まってる?」
「いいえ。これから何しようかと考えていたところです。」
「そうなの。ちょっと良かったらお使い頼まれてくれないかしら?」
「もちろんいいですよ。何でしょう。」
「ちょっとレーヴン市場に行ってきてミルクと小麦を5つずつ買ってきてほしいの。」
「わかりました。行ってきます。」
「お願いね。」
 
オズウェルがレーヴン市場につくと、そこはもう国民でごった返していた。呼び込みを行う店員の姿もあり、大層にぎやかだ。
これは目的の店に行くのさえ苦労しそうだ、とオズウェルは気合を入れて人ごみに紛れる。
昨日エドワードにあらかた店は教えてもらっていたが、流石に細かいところまで覚えられていない。確認しながら行くしかなさそうだ。
そうして一つ一つの店を確認しながら進んでいたのがいけなかった。前方への注意がおろそかになり、ぶつかってしまった。
 
「きゃっ。あ、すいません。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、こちらこそごめんなさい。」
 
ぶつかったのは少し年上の女性だった。艶やかな緑青の髪を長く垂らしている。目は細く、一見すると開いてるかわからない。表情も乏しく、正直何を考えているかわからない人であった。
 
「すいません、よそ見しちゃって………。」
「あたしもよく見ていなかったし気にしないで。何かお買い物?」
「あ、そうなんです。ミルクと小麦を探してて。」
「そうなのね、それらを売ってるお店はこっちよ。案内してあげるわ。」
「え、良いんですか?貴方も何か買うものがあったんじゃないんですか?」
「ちょっとお散歩がてら寄っただけだから大丈夫よ。ぶつかったお詫びだと思って。」
 
そう言い、ふっと笑った。傍目にみれば微かに口角が上がっただけだが、オズウェルは眦が下がり、ほんのり頬が赤く染まったのを見て、かわいらしい人だと思った。
 
「そういうことなら……お願いします。」
「ええ、それじゃついて来て。」
 
彼女のおかげですぐに店にたどり着くことができた。一人だったら人々に押し流されてもっと時間がかかっていただろう。
 
「着いたわ。ここで買えるわよ。」
「ありがとうございます。」
「いらっしゃい。なにか欲しいものはあるかい?」
「ミルクと小麦を5個ずつください。」
「はい、毎度ありがとう。」
 
紙袋2つ分一杯になったものを受け取る。なんとか受け取ったが、流石に重い。
 
「ずいぶん多いのね。」
「はい、オステリーアさんのお使いなので。」
「そうだったの。それじゃあ一つ持つわ。」
「え、そんな道案内までしてもらったのに悪いですよ。」
「ここまで来て遠慮なんてしなくていいの。ほら貸して。」
 
いうが早いか、片方の紙袋を取ってしまった。
 
「さ、行きましょう!」
「あ、ありがとうございます。」
 
レーヴン市場から酒場への道のりは短い。それでも彼女は色々とオズウェルに質問してきた。
主に旅のことについての質問が多かった。ぐいぐい来るが不思議と嫌な感じはしない。
そんなこんなで酒場についてしまった。彼女が扉を開けてくれたのにお礼を言い、酒場に入る。
 
「おかえりなさい。結構重かったでしょう。大丈夫………だったみたいね。」
「はい、通りすがりなのにお手伝いしてくれて。」
 
オステリーアはオズウェルの後ろにいる彼女に目を止めて笑った。
 
「二人ともありがとう。お茶を入れてあげるわ。」
「「ありがとうございます。」」
 
オステリーアの入れたお茶を楽しみながら二人は会話する。
 
「自己紹介が遅れたわね。私はアラナ・グリーンよ。よろしくね。」
「わたしはオズウェル・ソディーです。こちらこそよろしくお願いします、アラナさん。」
「アラナでいいわよ。あたしもオズウェルって呼ばせてもらうわね。」
「はい、じゃあアラナちゃんで。」
「敬語もいいわよ。あたしたち仲良くなれそうだもの!」
 
初めて会ってからたいして時間が経っていないのにそう言い切れるのに驚いた。
 
「そ、そう……?」
「ええ!よくわかんないけどそんな感じがするわ。」
 
椅子から身を乗り出しながら言うアラナ。若干気圧されたオズウェルだが、アラナの先ほどとは違う生き生きとした表情を見て、笑った。
 
「ええ、そうね。わたしもそんな気がしてきたわ」
 
そして握手をする二人。ふふ、お互い照れ臭そうに笑いあった。
 
「ふふ、なんだか楽しそうね。」
「あ、オステリーアさん。」
 
オステリーアの登場にぱっと手を離す二人。それをほほえましく見守るオステリーアは、なにかを思いついたようにぽんと手を叩いた。
 
「そうだ、より親睦を深めるために採取に行ってみたらどう?」
「採取ですか?」
「そうよ。このプリローザ王国は自然豊かな国だから、昨日のテムス草やピペルの実以外にも色々取れるわ。」
「そうなんですね。」
 
二人のやり取りを見ていたアラナは、オステリーアに同意する。
 
「いいわね!行きましょうよ!」
「そうだね、行こう!」
「行ってらっしゃい。モンスターも出ることあるから気を付けるのよ。」
「はい分かりました!行ってきます。」
 
オステリーアに手を振り、二人は揃って酒場を出て行く。
オステリーアも手を振り返しながら二人がより仲良くなって帰ってくることを確信して微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...