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第一章 木嶋真奈の日記より抜粋①
第一話 私は焼肉の他だと桜が好き
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「そ、そいつが犯人なんだろ! は、早く……! 早く殺ってくれよ!」
悠斗が声を荒げる。
分かってる。私は目の前のこの男を殺さなくてはならない。それが私の使命であり、目的のための手段なのだと。
「いいよ、早く殺りなよ」
(それでも……! それでも、私には……!)
落ち着いて、息を吸う。
思い出せ。報酬はなんだ?
寿々苑の焼肉だろ。そう、あのたっかい寿々苑のお肉が食べ放題だ。そうだ、サラダもめちゃくちゃ美味しい、というかサラダがメインと言っても過言ではないあの寿々苑だ。
私は……。私は!
桜舞い散る季節と言うフレーズが私は好きでよく使う。別に何か特別な思い入れがあるわけでもないけど、意味ありげに窓の外を眺めながら呟くと、それっぽく見えるからなんとなく使ってしまうのだ。
「桜舞い散る季節ね……」
「真奈ちゃん、またそれぇ。サークル棟の窓からはトイレしか見えないんだけど」
そう言って瑞稀先輩がちゃかす。もう何度も繰り返したルーティンだった。
先輩の方を見ると、丁度針を抜いているところだった。
「いいじゃないですか。ほら、よくお嬢様がトイレ行く時言うでしょ。『あたくし、お花摘みに行って参りますわ!』みたいな。あんな感じですよ」
「じゃあ真奈ちゃんはトイレしてる人を見たときは、桜舞い散る季節ねって言うのね」
「いやぁ、そう言うことじゃないですけどねえ……。あっ、それより先輩! それ新しいやつですか?」
「うんそう。我ながらけっこうよくできたと思うのよねぇ。そう思わない?」
「そうですね、いっつもぐちゃぐちゃにしてばっかの先輩にしてはいいんじゃないですか?」
「ちょっとそれどういう意味よぉ」
「アハハハ」
室内に二人の笑い声が響く。寂しいが、充実した日々を送ってるな、と自分でも思う。
去年、私は高校の同級生に誘われ、このサークルに入った。最初は嫌々だった私だが、だんだんと仕事を覚えていくうちにどんどんハマり、その同級生がやめた今でも私は活動を続けている。
「早いものよねぇ。もう真奈ちゃんが入って一年経つなんて」
「そうですねぇ」
「よくやめなかったよねぇ。最初は同級生のあの子に誘われただけだったんでしょ」
「そうですね、菜摘には感謝しないとですね。私にぴったりのサークルでした。もちろん、最初はびっくりしましたよ。まさか、手芸サークルが」
バン!
と、勢いよくドアが開いた。
「た、助けて、ください……」
ドアを開けると同時に、そんな声が、切らした吐息と共に聞こえてきた。
こうして、私と、桜と、焼肉の話が始まった。
悠斗が声を荒げる。
分かってる。私は目の前のこの男を殺さなくてはならない。それが私の使命であり、目的のための手段なのだと。
「いいよ、早く殺りなよ」
(それでも……! それでも、私には……!)
落ち着いて、息を吸う。
思い出せ。報酬はなんだ?
寿々苑の焼肉だろ。そう、あのたっかい寿々苑のお肉が食べ放題だ。そうだ、サラダもめちゃくちゃ美味しい、というかサラダがメインと言っても過言ではないあの寿々苑だ。
私は……。私は!
桜舞い散る季節と言うフレーズが私は好きでよく使う。別に何か特別な思い入れがあるわけでもないけど、意味ありげに窓の外を眺めながら呟くと、それっぽく見えるからなんとなく使ってしまうのだ。
「桜舞い散る季節ね……」
「真奈ちゃん、またそれぇ。サークル棟の窓からはトイレしか見えないんだけど」
そう言って瑞稀先輩がちゃかす。もう何度も繰り返したルーティンだった。
先輩の方を見ると、丁度針を抜いているところだった。
「いいじゃないですか。ほら、よくお嬢様がトイレ行く時言うでしょ。『あたくし、お花摘みに行って参りますわ!』みたいな。あんな感じですよ」
「じゃあ真奈ちゃんはトイレしてる人を見たときは、桜舞い散る季節ねって言うのね」
「いやぁ、そう言うことじゃないですけどねえ……。あっ、それより先輩! それ新しいやつですか?」
「うんそう。我ながらけっこうよくできたと思うのよねぇ。そう思わない?」
「そうですね、いっつもぐちゃぐちゃにしてばっかの先輩にしてはいいんじゃないですか?」
「ちょっとそれどういう意味よぉ」
「アハハハ」
室内に二人の笑い声が響く。寂しいが、充実した日々を送ってるな、と自分でも思う。
去年、私は高校の同級生に誘われ、このサークルに入った。最初は嫌々だった私だが、だんだんと仕事を覚えていくうちにどんどんハマり、その同級生がやめた今でも私は活動を続けている。
「早いものよねぇ。もう真奈ちゃんが入って一年経つなんて」
「そうですねぇ」
「よくやめなかったよねぇ。最初は同級生のあの子に誘われただけだったんでしょ」
「そうですね、菜摘には感謝しないとですね。私にぴったりのサークルでした。もちろん、最初はびっくりしましたよ。まさか、手芸サークルが」
バン!
と、勢いよくドアが開いた。
「た、助けて、ください……」
ドアを開けると同時に、そんな声が、切らした吐息と共に聞こえてきた。
こうして、私と、桜と、焼肉の話が始まった。
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