雨の上がる時・・・

本条蒼依

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1話 アオ

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 あたしの名前は明美(あけみ)。両親はあたしが生まれた時、いつも明るく周りには友達がいっぱいに美しく育ってほしいと想い、この名前を付けてくれた。
 しかし、高校一年生となった自分はボッチで、見た目は黒縁眼鏡で髪の毛はぼさぼさ、黒髪ロングでお洒落には程遠い感じである。
 そして、周りになじめず教室の隅でいつも小説を読んでいるような陰キャで、完全に名前負けになってしまった。

あたしの心の中は、今日のこの天気と同じだな……

 明美が高校を出て、帰宅途中に雨に降られたのだった。この季節になると父は自分が子供の頃の梅雨は、もっとしとしとと長期間降ってたんだけど、最近はゲリラ豪雨で昔の梅雨と全く違うというのが癖だった。

「ホント、こんな土砂降りじゃ帰る事も出来ないや……」

 明美は、通学途中の公園のベンチで雨宿りをしていた。この雨は自分の心の中と同じであり、そんな自分を変えたいとも思っていた。

「くう~ん……くう~ん……」

 ゲリラ豪雨の雨の音に交じり、変な声が聞こえたのである。

「な、何っ⁉今、へんな声が……」

 明美は、周りを見回しても何もなかった。

「くう~ん、くう~ん……」

「誰?誰かいるの?」

 明美の声に、反応する者はいなかったが、ブランコの側にダンボール箱が置かれていたのに気づいた。
 明美は濡れるのが嫌だったが、ダンボール箱を屋根のあるベンチに運び中を見ると、そこには生まれたばかりの子犬が一匹だけ入っていて、どこかの飼い主が捨てたようだった。

「ホント、心ない人間がいるのね……」

 そう思っていたら、さすがゲリラ豪雨だった為、雨が小降りになってきた。

「お父さん、この子犬を飼う事を許してくれるかな……」

 そう言いながら、明美はハンカチで雨でぬれた子犬を拭き、震えた身体を温めようと抱きしめた。

「やっと、雨が上がったわ……さあ、家に帰ろうね」

 明美は、子犬にしゃべりかけ家路に着くのだった。そして、家に帰ると父の俊蔵(としぞう)が出迎えてくれた。俊蔵は在宅ワークで、平日でも家にいる事が普通である。

「明美、心配したぞ。ゲリラ豪雨凄かったなあ……父さんが小さい頃の梅雨は……」

「お父さんただいま。もうその話は聞きあきたよ……それより、これを見てよ!」

「その子犬はどうしたんだ?」

「うん……さっきの豪雨で雨宿りしてたんだけど、公園で捨てられていたんだ。可哀想だから拾ってきたんだけど、ちゃんと世話をするから飼ってもいい?」

「ダメだ!」

「そんなこの子犬、雨に濡れて震えて死にそうだったんだよ……」

「ダメだと言いたいが、一回拾ってきてその場所に捨てたら、お前が捨てたになるからしょうがない……最後まで責任を持って飼う事!」

「お父さん、ありがとう!」

 明美は、父の俊蔵に抱きついた。俊蔵は、娘が優しい娘に育ち嬉しく思うのだった。
 
 早速、明美は子犬をお風呂に入れて、汚れを落とし綺麗にした。子犬は意外にも、湯を嫌がることなく大人しくして洗われて、真っ白な毛並みでモフモフになった。

「うん!決めたわ。貴方は今日からアオにするわ!こんな土砂降りの日に我が家に来たけど、いつも青空のように気持ち良い太陽が降りそそぐようになる期待を込めてそう名付けるわ!」

「アン!アン!」

 アオは、それが分かった様に、元気よく吠えたのだった。俊蔵も又、アオを可愛がり久しぶりに家の中が明るくなったように感じた。
 数年前に自分の妻が病気で亡くなってから、明美と二人で頑張って来たが、やはり自分の妻がなくなった事で家庭の陽が消えたようになった。
 妻の明子(あきこ)がなくなった時、明美はまだ小学5年生になったばかりで、小学生の子供を一人家で留守番させる事も出来なかった為、在宅ワークを推奨している会社に転職したのだった。

 それから二人で頑張って生活してきた。明美も自分が出来る事は家事を手伝い、今では料理の腕も亡き妻と同じ位美味しい料理を作れるようになり、在宅ワークに変えたことは間違いなかったと俊蔵は確信していた。

 しかし、やはり妻がなくなり家庭は暗くなっていたが、ここにアオがやってきたことで、家庭の中が明るくなったのだ。
 明美は、妻がなくなった時から明るく振る舞っていたが、夜に声を殺して泣いていた事も俊蔵は知っていた。しかし、アオが来てくれたことで明美の気持ちが明るくなってくれる事を願って、飼う事を許したのだった。

「アオ~、あなたって、ほんとモフモフだね」

 明美はアオを抱きしめて、頬擦りをしていた。そして、早速写メを取りスマホの待ち受けにしていた。
 


 次の日、明美は自分のお弁当を作り、学校に行くのだがアオとしばらくの間、お別れとなり名残惜しんだ。

「お父さん!アオの事頼むね。ちゃんとゲージとか買って来てね」

「あ~分かったから早く学校に行きなさい!遅刻するぞ」

「あっ、ホントだ!行ってきま~す!」

「ふう……やれやれだな。だが、前の笑顔に戻ったみたいでよかった」

 俊蔵は、我が娘を見送り笑顔になっていた。

「さあ!今日からまた仕事を頑張って、アオのご飯も稼がないとな!」

 背伸びをして、俊蔵は仕事を頑張ろうと独り言を言いながら、笑顔で家の中に入っていった。


 学校に着いた明美は、その日は勉強が手につかなかった。休み時間になるとスマホを開き、アオの動画や写真を見てニヤついていた。すると、隣の席の村田博也(むらたひろや)が話しかけてきた。

「立花?今日は、やけにご機嫌じゃないか。何かあったのか?」

 明美はいつも一人で学校生活を送っていて、休み時間は小説を読んでいたから、声をかけられたことに驚いた。
 それに、村田博也は学校では女生徒に人気で、人には優しくイケメンであり、自分とは住む世界が違う人間と思っていて、声をかけられるとは思ってもいなかったからだ。

 学校が始まり、まさか自分の隣の席にこんなイケメンが来るとは思ってもいなくて、隣になった時はひそかに喜んでいたが、性格上自分から話すことが出来ずにいた。
 
「そんな驚く事ないだろ?もう高校になって2か月以上経つんだぜ」

「で、でも……いきなりだったから……」

「まあ、いいや。で、なんかあったのか?」

「うん……昨日、公園で子犬を拾って、その子を飼い始めて……」

「へえ!優しいじゃん?どんな犬なんだ?ちょっと見せて見ろよ」

 博也は、明美の側に寄ってスマホを覗き込んだ。

「おおおお!可愛いなあ。だけど、こんな子犬を捨てたやつは信じられないな……」

 博也は、スマホの写真を見て怒りをあらわにした。

「うん……昨日ゲリラ豪雨でびしょびしょに濡れていて震えていたから、うちで飼おうって事になったんだ」

「そっか。良かったな。で、名前はなんて付けたんだ?」

「アオって名前にしたんだ?」

「真っ白な犬でアオ?何でそんな名前にしたんだ?」

「笑わない?」

「何で笑うんだよ。なんか意味があるんだろ?」

「うん……昨日ゲリラ豪雨で大雨に降られたでしょ?だから、これからはこの子に青空のように晴れ晴れした天気でいつも青空が広がるようにって願いを込めたの」

「なるほどな!真っ白な子犬なのにアオか!いい名前じゃん」

「本当にそう思う?」

「ああ!」

 明美は、博也が肯定してくれた事に口角を上げてニコッ笑った。二人でアオの事を話していると、周りにいたクラスメイト達が、明美たちに話しかけてきた。

「なんだぁ~~~博也。珍しいやつと話してんだな?何かあったのか?」

「馬鹿か!変な事言ってんじゃねえよ」

「じゃあ、何楽しそうに話してたんだよ?」

「立花が、昨日子犬を拾って飼い始めたらしく、その写真を見せてもらっていたんだよ」

「えっ?マジ?俺にも見せてくれよ!俺も犬が飼いたかったけど、かーちゃんが犬嫌いでよ。絶対に駄目と言って、飼わせてくれねえんだ……」

「うん……いいよ。これがそうだよ」

 休み時間に、こんなにクラスメイトが集まってきたのは初めてだった。この会話をかわぎりに、クラスメイトの女子達も集まってきて、アオの写真に沸き上がっていたのだった。

「ねえねえ、直接会いに行きたいから家に行ってもいい?」
「俺も行きたい!」
「俺も!」
「あたしも!」

 明美は、学校生活で初めてこんなに人としゃべることが出来たのだった。昨日は、陰キャで友達もできないと嘆いていたのに、これもアオのおかげと思い嬉しく思うのだった。これで、自分にも友達が出来て、楽しい学校生活が送れると思い笑顔になっていた。
 
 明美は、みんなとアオと会わせる約束をして、その日は帰ることにした。いきなり、家に友達を連れて行くと、父は在宅ワークをしているので父に許可を取らないといけないからだ。
 それに、昨日アオが家に来たばかりで、予防注射もしないといけないし、色々準備をしないといけないから、友達にはその説明をしたところ、快く分かってもらえることが出来た。

 明美は、アオが家に来てくれたことに感謝したのだった。この写真がなければ、今日も一人で読書をして帰り道に嘆く事になっていただろう。
 しかし、今日一日休み時間になるたびに、アオの写真を見に来てくれて話しかけてくれた。こんな楽しい高校生活は初めて経験して、帰り道笑顔を自然と溢れて走って家路に着いたのだった。

「ただいま。お母さん!今日ね学校で!」

 家の扉を開けると、呆けたような顔をして明美を出迎えていた。

「はっ?」

「明美、そんな顔を見るのは、明子が亡くなって初めて見るな……」

「あっ……間違えちゃった……お父さんごめんね」

 俊蔵は、明美が帰って来た時必ず妻を呼び、その日にあった事を報告していた事を思い出していて、少し涙目になっていた。

「いや、いいんだ。それより、今日はいいことあったのか?」

「うん……今日ね。アオのおかげで友達が増えたんだよ?休み時間になるたびアオの写真を見せてくれって、あたしのところにきていろいろ話が出来たんだ」

「そっか、よかったな」

「それでなんだけど、友達がアオの事見たいって言ってくれて、友達を家に招待したいんだけどいいかな?」

「ああ、構わないよ。ただし、予防注射とか色々やってからにしろよ」

「お父さん、ありがとう!」

 明美は、あの土砂降りの中、友達が出来ず嘆いていたが、アオのおかげで晴れ晴れした感じになっていた。


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