上 下
285 / 347
第7章 新たな進化

21話 犠牲になった奴隷達

しおりを挟む
 スティーブの薬草問屋がつぶれてしまい、ヒロトシのポーション屋は更に人気が上がった。
 今なら、聖教国でも薬草の卸売業ができると、諦めていた商人達が出てきたのだ。この事で聖教国の商人ギルドは、ヒロトシに感謝したのだ。

「ヒロトシさん、このたびは本当にありがとうございます」

「シャインさん、礼なんかいいですよ。俺はやりたいようにやっているだけですからね」

「いえいえ、ヒロトシさんのおかげで薬草の価格が元に戻りつつあります」

 ヒロトシ以外の商人が、薬草問屋を始めれば価格は安定してくれるはずだからだ。
 今は、ヒロトシが赤字覚悟でギルドや錬金術師達に卸している。赤字覚悟でと言ったがヒロトシ自身は、ちゃんと利益を出している。他の業者がヒロトシと同じ価格で売った場合、完全に大損害になるという事だ。

「それより、シャインさんに聞きたい事があるんだかいいかい?」

「ヒロトシさんなら、なんでもお聞きしますよ」

「スティーブの薬草問屋で働いていた人間で迷惑がかかった従業員はいなかったかい?」

「それは・・・・・・何人か出ています。給料が未払いで生活がままならなくなり、いろんな支払いがある方は特に・・・・・・」

「その人達はどうなった?」

「はい・・・・・・言わなくても分かるかと思いますが奴隷に落ちました」

「その人達が、売られた奴隷商人を教えてほしい」

「まさか!ヒロトシさん、その奴隷達を購入するつもりですか?」

「まあ、全員じゃないけどね。従業員の中には本当にスティーブの薬草問屋の事を知らなかった人間もいるだろう。後、家族を守る為にしょうがなかった人なら購入を考えようと思ってね」

「ヒロトシさん・・・・・・」

 シャインは、後日ヒロトシにスティーブの犠牲者を教えた。ヒロトシは早速奴隷商人の元に出掛けたのだった。

「これはヒロトシ様、ようこそおいでになられました」

 聖教国の奴隷商人は、胡散臭い雰囲気を持つ小柄な男だ。しかし、ヒロトシの姿を見るやいなや揉み手をしながら近づいてきた。

「まさか、ターラの奴隷商会がスティーブの従業員を買い取っていたとは思わなかったよ」

「ヒロトシ様には、いつもお世話になっとります。それでギルドから聞いていますが、本当に購入を考えているので?」

「なんかおかしいか?」

「いえ、ヒロトシ様が購入する事に異論があるわけではないんですが、必要のない奴隷を善意で購入するのはオススメはいたしません」

 ターラは、ヒロトシとの付き合いでそういった購入の仕方は、ヒロトシの為にならないと奴隷を諦めさせようとした。

「ターラの気持ちは、ありがたく受け取らせてもらうよ。確かに、他人から見たら偽善者と言われてもしょうがないからな」

「だったら、今回の購入は止めておいた方がよろしいかと」

「いや、そういう訳にもいかないんだ」

「どういう事ですか?」

「ターラは、俺が王国領でサンライトを経営しているのを知っているだろ?」

「まさか、聖教国でもサンライトを?」

「ああ、土地も買ってあるしな」

「じゃあ、ポーション屋の土地を買った時に、違う場所の土地を買ったのは、薬草問屋の為じゃなかったのですか?」

「ターラは、俺が他にも土地を買っていたのを知っていたのか?」

「こう見えても、私も商人で情報は命ですよ。じゃあ今回の奴隷購入は、サンライト3号店に?」

「そういう事だ。スティーブの店の従業員なら計算もできるだろ?」

「しかし、私がおすすめしなかったのは理由があるのです」

「理由?」

「確かに、今回の従業員で犠牲者になった奴隷は真面目に働いてきた者達です。そして、店を潰れたことで家族と別れ離れとなった者ばかりで、人生に絶望しています」

「購入しても役に立たないと?」

「それもありますが、ヒロトシ様を恨んでいる節があるからです。私としては、オススメはいたしません」

「なるほどね」

「それならば、見た目のいい奴隷が揃っているのでヒロトシ様の所に行けば更に接客業に役立つ奴隷に育つかと思います」

「まあ、俺も慈善事業でサンライトを開く訳じゃないし、自分は偽善者でもないよ」

「えっ?」

「俺の事を恨んでいる節がある奴隷は、いくら薬草問屋の犠牲者でも購入はしないという事だ」

「ギルドからは真面目に働いてきた犠牲者を買いたいと聞いていたのですが?」

「いくら俺がそう言っても、俺の事を恨んでいたり信じられないのなら、その人間とは縁がなかったんだろう?」

「た、確かに!」

「だったら、その人間にこだわってもしょうがないだろ?それならば、気持ちよく働いてくれる人間の方がお互いの為だよ」

「わかりました」

「とりあえずは、犠牲者の奴隷達と面会させてほしい。購入するのはそれからだ」

「承知いたしました」

 ターラは、ヒロトシの事を侮っていた事を反省して、ヒロトシと今回の犠牲者の奴隷と面会させて、ただ黙って見ていた。
 すると、ヒロトシは奴隷に落ちた者達と面会をしているのを見て、ターラはヒロトシの人を見る目に驚愕した。
 少しでも違和感があれば、縁がなかったと言ってその人間を購入をしなかったのだ。



 それまで、丁寧に答えてなんの違和感もなかったのに、その奴隷も笑顔でヒロトシの意見に答えていた。

「あなたの購入はやめておきます。ご苦労様」

「えっ?なんで?」

「ターラさん、次の人をお願いいたします」

「なんで、俺がはじかれるんだ。俺を購入してくれよ!」

「あなたは俺の店にはいらない」

「ちくしょう!お前のせいで俺は!」

 最後にヒロトシに罵倒しながら、部屋から出されてしまったのだ。
 そして、ヒロトシが選んだ奴隷は75人面会して男性6人女性4人のたった10人であった。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...