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第6章 研磨という職

57話 シルフォードの助言

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 聖教国の使者は、この結果を認めざるを得なかった。そして、ミトンの町の領主であるシルフォードに挨拶をした。

「このたびは我ら聖教国を受け入れてくれて感謝いたします」

「いえ、あの事はもう過ぎたことで、国同士で話はついたことです」

「そう言って頂けると助かります」

「その話はもうよろしいかと。それより、今回の視察で教会の内装や女神神像はいかがでしたか?」

 使者達は、シルフォードを見つめ、大きく息をはいた。

「いかがでしたか?と言われて、あの教会に不満を持つ人間はいませんね」

「そうですか!」

 シルフォードは、使者達の言葉を聞き、満面の笑顔となった。
 国同士で話はついたとはいえ、確執が残ったのは明らかにわかっていた。なので、今回の視察で聖教国が気に入ってくれたのは、シルフォードにとっても嬉しい事だった。

「ええ。あんなに美しい女神神像は見たことがありません」

「そうですか!では?」

「一度本国に帰還して、教皇様に報告してからになりますが、またロドン王国と普通に交流できる日が来ると願っております」

「そうですか。それを聞けて王国も安心しました。そして、これからも」

「あの・・・・・・」

 シルフォードが、使者達にこれからの交流の挨拶を言おうとしたが、話を変えられてしまった。

「えっ?」

「話を遮って申し訳ありません」

「ああ、構いませんよ。何か気になる事でもありましたか?」

「あの教会の内装を手掛けた人物なんですが、一体どういう人なのですか?」

「あっ、もうお会いになられましたか?」

「い、いえ、まだお会いしておりません。しかし、あの教会を管理しているのが、そのお人だとか?」

「何か気になる事が?と、言うより他国の人からだと、おかしな事ばかりでしょ?」

「ええ。なんで?シスターが奴隷なのですか?しかも、あんなに美しい奴隷は見たことがありません」

「ああ。ヒロトシ君は奴隷を奴隷と思っていませんからね」

「ヒロトシ君?その方の情報は王族だと認識しているのですが?」

「ああ。すみませんいつもの癖で・・・・・・ヒロトシ様は、自分を王族とも思っていませんからね。しかも、自分は商人だと思っているのですよ」

「奴隷に、衣食住を保証してその上、湯編みまで与える人間が自分は王族じゃないと公言なさっているのですか?」

「不思議な方でしょ?」

「そのような方が、なんで・・・・・・」

「教会を庇ってくれなかったと?」

「はい・・・・・・」

 司教は、ヒロトシがどういう人物なのか全然わからなかった。普通奴隷に、そこまで慈悲を与えることができ、女神ミレーヌ様の信頼もあるのに、教会関係者を助けない事があるのかよくわからなくなってしまっていたのだ。 

「ヒロトシ君は、大陸の常識は通用しません」

「常識が通用しない?」

「ええ。ヒロトシ君は、自分の常識を持っているんですよ。つまり、教会を救うことで信心があると言う事は関係ないのですよ」

「教会を庇ってくれなかったら、女神様の恩恵が薄れてしまうかもしれないのですよ?」

「これは、教会関係者だけではないのですよ」

「教会だけじゃない?どういう事ですか?」

「ヒロトシ君は独自の正義感があるんですよ」

「独自の正義感・・・・・・」

「ええ。ヒロトシ君は、王国貴族や我が主君にも間違っていれば平気で意見をして、それを通してしまいます」

「国王様に意見ですか?」

 聖教国の司教は息を飲んだ。司教の部下達もお互いを見つめあっていて、言葉を失っていた。

「そのような事がありえるのですか?」

「ええ。ヒロトシ君は王国の中で一番権力を持っています」

「う、嘘ですよね」

「いいえ。ヒロトシ君は我が主君より強く、政にも強い影響力を持っています」

「あの英雄王と言われた国王様より・・・・・・」

「だから、申し訳ありませんが今回教会側が、ヒロトシ君の中で救う必要がないと判断したのでしょうが、その意見が通ってしまうのがヒロトシという人物なんです」

「そ、そんな・・・・・・」

「信じられないかも知れませんが、それが現実なんですよ」

「そんな馬鹿な事が!」

 聖教国の司教は、シルフォードの言葉に大きな声を出した。シルフォードの言う事が理解出来なかったのだ。

「馬鹿な事だと思うかも知れませんが、聖教国もヒロトシ君の行動に何も出来なかったんですよ」

「聖教国が!そんなでたらめな事を言うなんて失礼ではありませんか」

「申し訳ありません。しかし、司教様もわかっておられるのでは?」

「・・・・・・」

「その様子だと心当たりがあるみたいですね」

「そ、それは・・・・・・」

「「「「「司教様本当ですか?」」」」」

 司教は、部下達の言葉を否定出来なかった。今回の事は納得いかない聖職者が沢山いたが、女神様の言葉があったからだ。
 今回の事は聖教国側が悪いと、女神が言って来たので従うほかなかった。

「まさか、ヒロトシ様が女神様に口添えを?」

「私は聖職者でも教会関係者ではありません。そこまではわかりません。しかし、王国側でも今回の交渉がこんなにあっさり治まった事は不思議に思っています」

「それは・・・・・・」

「そうなると、このような不思議な現象は、ヒロトシ君を見てきた我らにとってそれしか考えられないんですよ」

「そんな!王国を拠点に活動している王族、いえ商人の方が、聖教国に圧力をだなんて!」

「司教様、訂正させて頂きます」

「訂正?」

「ヒロトシ君は、聖教国に圧力は掛けていません」

「しかし、自分の意見を!」

「平和的解決したんですよ。ヒロトシ君のおかげであれ以上揉めることかなかったのです」

「それはそうですが!」

「一応忠告というよりは、助言させて頂きます。ヒロトシ君には絶対逆らってはいけません」

「馬鹿な事を!聖教国が他国の平民と自分で言っている人間の言う通りにせよと?」

「ヒロトシ君は、弱き者の味方です。不当な扱いをされたと感じさせない事です」

「「「「「不当な扱い?」」」」」」

「ええ。対等に接してもらえれば問題ありません。いいですね?ヒロトシ君といい付き合いがしたければ、聖職者とか奴隷や平民とかかんがえては駄目です」

「はっ?」

「こんなとこを言って気分を害されるかもしれませんが、ヒロトシ君といい付き合いしたいのであれば聖女様や教皇様であっても、ヒロトシ君とは対等に接する事をおすすめします」

 シルフォードの言葉に、聖教国の使者達全員が固まってしまったのだった。
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