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第6章 研磨という職

33話 子供達のおやつ

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 王都の経済は、王族や貴族達に任せてヒロトシは、ミトンの町に戻ってゆっくりしていた。なにやら考え込んでいた。

「ご主人様、最近は王都の方にご熱心でしたのでミトンの事情を知っていますか?」

「なにかあったのか?」

 カノンが、ヒロトシに話しかけてきた。

「この辺りの地域が豊穣の地になって、盗賊が活発になっています」

「それは本当か?」

「ええ。数多くの行商人や旅人達が犠牲になっています」

「それで?」


「今のところ、冒険者ギルドでは護衛の依頼や盗賊の討伐依頼がでていますが対応しきれていないようです」

「そんなに多くの盗賊が出ているのか?」

「はい。シルフォード様が兵士様達に街道の巡回を指示されたほどですよ」

「ミトンの町の予算が出ているのか?」

「ミトンの町は、裕福になってきましたから。それに、人口が増え続けてるみたいですしね」 

「確かに、河川の堤防が急ピッチに進んでいたな」

 今のミトンの町は、人口が増え続け税金が集まり工事の進行も進んでいた。

「シルフォード様から盗賊の討伐依頼はないのですか?」

「いや、ないなぁ。町の予算で成り立っているんだろ?」

「ミトンの町も変わってきたのですか?」 

「まあ、予算があれば冒険者がなんとかできるんだろうな。今やSランク冒険者となれば、宝石研磨装備もあるんだ。まず、盗賊ごときに負けるはずないよ」 

「な、なるほど!」

「それでは、ご主人様は何を考えていらしたのですか?」

「ミトンの町も、これから発展していくだろ?」

「まあ、盗賊は増えていますが、冒険者がいるので問題はなく発展していきそうですね」

「そうなれば次の段階だろ?」

「次の段階ってどういう事ですか?」

「町が発展していくには、人が集まるのは大事だけど他に何が必要だと思う?」

「人が集まると経済が発展する以外になにがありますか?」

「子供達だよ」

「子供達は町のお荷物では?」

「そんな事はないぞ。確かに、今は労働者と考えられないかもしれないが、次世代を担う者を立派に育てないといけないんだ」

「子供達が育てば町の発展は更に進むのですか?今を考えた方が良いのでは?」

「まあ、それはシルフォード様に任せておけばいいよ」

「では、ご主人様はいったい何を?」

「まずは、子供達には楽しみが必要かもな」

「子供達に楽しみ?」

「ああ。そうだ!子供達には楽しみを与えてのびのび育ってほしいんだ」

「それで楽しみってどういうものを?」

「子供達ってお小遣いってどれくらいかな?」

「そんなのあるわけないじゃないですか」

「やっぱりそうか」

「ギルドでFランク依頼を受けても、家族の生活費に親に渡すのが普通ですよ」

「な、なるほど・・・・・・」

「じゃ、その辺を考えた方が良いな」

「ちょっとご主人様、どこにいくのですか?」

「新しい魔道具を考えないとな」

「そんなぁ教えてくださいよ」

 ヒロトシは、そう言って鍛冶工房に入った。カノンはヒロトシの考えが分からなくて、後をついてまわるのだった。

 ヒロトシは、鍛冶工房に入りガイン達に筒状の釜のような物を制作を指示した。
 そして、その筒状の釜を熱するコンロを、火属性の魔石を使って魔道具を作った。

「主、これはいったいなんだ?」

「圧力鍋だよ。絶対密閉にしてくれよ」

「ああ。これは大丈夫だよ」

 ガインは、青鉱石を使って圧力鍋を作った。そして、ヒロトシはその圧力鍋を回転するようにしたのだ。

「圧力鍋を回転させて炙るのか?」

「ああ。そうだよ」

「主の考える事はよくわからんな」

「これで子供達のおやつを売ろうと思ってな」

「おやつってなんだ?」

「サンライトでケーキやドラゴン焼きを売っているだろ?」

「それがどうした?」

「子供達は店に入って利用は出来ないだろ?」

「まあ、子供達だけではまず無理だな」

「だから、子供達にも砂糖菓子を楽しんでもらおうと思ってな」

「馬鹿な事を!子供達に砂糖を使った菓子が買えるわけがないだろう!」

「それを可能にするのが俺の仕事だ」

「そんな事が本当に出来るのか?」

「まあな」

 ヒロトシは、ガインの顔を見ながら笑っていた。
そんなヒロトシを見てガインは、子供達にどんな菓子を作るのかわくわくした。

 一週間ほどでヒロトシは圧力鍋を作ってしまい、筒状の釜はゆったり回転して、下から炙られる魔道具が完成した。
 
「これはいったい!?」

「これはポン菓子を作る魔道具だ」

「ポン菓子ってなんだ?」

「米を使った菓子でけっこう美味しいんだぞ」

 ヒロトシは圧力鍋の中に、米をそのまま入れて魔道具を起動させた。そして、20分くらい炙り続けて、それと同時に砂糖にも熱を加えて、シロップを作った。

「そろそろいいかな?ガイン耳をふさいでろよ」

「はっ?」

 そう言って、ヒロトシは蓋の金具をハンマーで叩いた。すると、バンという大きな音が鳴り響き中に入っていた米は20倍程に膨れて、網の中に飛び出たのだった。
 その大きな音にびっくりして、屋敷にいた人間が鍛冶工房に集まって来て、ガインはその大きな音にびっくりして両耳を押さえていた。

「旦那様いったい何事ですか?」

「悪い悪い。子供達のおやつを作っていたんだ」

「本当だぜ・・・・・・耳がまだ痛ぇ」

「だから、耳をふさいでろよと、言っただろ?」

「ふさぐ前に主が蓋を開けるから」

「なんでもいいです!いったい何をやったんですか?」

「これだよ。これ」

 ヒロトシは、網の中に飛び出た米を手に取り、笑顔で作業の続きをした。

「この米を器に移して、このシロップを混ぜるだけだ。食べてみるか?」

「「いいのか(ですか)?」」 

 二人は、ヒロトシからポン菓子を受け取り、それを食べたのだった。
 すると、あれほど固い米がサクサクしてほんのり甘くて美味しかった。

「「これは!」」

「どうだ?美味しいだろ?」

「これなら子供達が喜ぶこと間違いない!」

「本当ですね」

「だけど、これをいくらで売るつもりなんだ?」

「子供達には、米を一握り持って来てもらおうと思うんだ」

「米を一握り持って来て貰うのか?」

「そう!材料を一握り持って来て貰う。そして、持って来てくれた子供には1ゴールドで販売する」

「1ゴールド?」

「このポン菓子は、一週間に一回出店を出して、町の広場での販売だな。」

「なるほど!」

「子供達には、一週間に一回の楽しみにするんだ」

「だが、これは人気が出ると思うぞ?」

「まあ。大人達も買いに来ると思うが、その場合は10ゴールドいただく」

「差別化して、子供達だけの販売するということですか?」

「そういう事だな」

 ヒロトシは、あくまでもポン菓子は子供達の楽しみとして発売するつもりだった。
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