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第6章 研磨という職

31話 魔の森の進行を止める

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 ローベルグは部下である貴族達に謝罪をした。その理由に魔の森が王都のある地域に進出をしており、ヒロトシの力を借りる事しか出来ないと説明した。

「では国王様は、魔の森から王都を救うためにヒロトシ殿の条件を飲んだと申すのか?

「そうだ……ヒロトシの要望は貴族達の賄賂の撲滅で、平民達の生活の向上だった」

「なんと言う事だ!ヒロトシ殿は自分の要望を通すために、国王様を思い通りにしたと言うのですか?」

「そのようにとられるかもしれぬが、魔の森がここまで広がってしまえば余にもどうにもならん……」

「……」

「皆の者も分かってほしい。今や、この状況を打破できるのはヒロトシしかおらんのだ」

 貴族達は、ローベルグでさえ魔の森の魔物には太刀打ちできないと言われ、無理やり納得するしかなかった。



 その頃、ヒロトシは王都の貴族達が大人しくなったと聞き、約束通り北の森にミルデンス達ときていた。

「主君。魔の森が進出してきていると聞きましたが、どうするつもりですか?」

「まず、魔の森がこれ以上進出しないように、城壁を作ろうと思う」

「なるほど!シュガーの村の時の様にバリケートを作るのですね?」

「そう言う事だな」

「それからどうするのですか?」

「後は時間稼ぎだよ。城壁にはサンクチュアリという魔法をかけておくから、大丈夫だ」

「いちいちかけに来るのですか?」

「最初はそうだが、魔道具を作ろうと思う」

「なるほど」

 ヒロトシは、早速魔の森の手前に、ウォールオブストーンでバリケートを作ってしまった。そして、城壁にサンクチュアリと言う魔法をかけて行き、その周辺の土地に聖域を作ってしまったのだ。

「これで取り敢えずは大丈夫だ」

「いつ見ても、主君の魔法はとんでもないですね……」

「まあ、これぐらいできなきゃ王家に逆らえないさ」

「でも、これで王都の安全も守られましたね」

「いやまだだよ」

「どうしてですか?主君なら魔道具もすぐに製作可能じゃないのですか?」

「いやいや……それは問題ないが、貴族達がそう聞き訳があるとは思えないよ」

「な、なるほど……王都の安全が確保されれば、また調子に乗るということですか?」

「そう言う事!後はローベルグ様が、どれだけ貴族の手綱を握れるかだな」

 城壁は一夜にして、全長数十キロというものが出来て、魔の森の進行がとりあえず止まった。そして、貴族達が逮捕された事で、食料や雑貨品が独占販売が無くなったことで、求めやすい値段となったのだ。
 王家が、今までの不正を認めて賄賂は絶対に取り締まると公式発表をした事で平民達は喜んだのだった。

 そして、ヒロトシはローベルグに呼び出されていた。

「まさかこんな手があるとは思いもしなかった……本当に礼を言う」

「まだ、安心するのは早いですよ」

「どういう事だ?」

「ローベルグ様も、今安全となったと安心しましたよね」

「違うのか?」

「とりあえずは安全となりました」

「とりあえずとはどういう事だ?」

「これから俺は、あの城壁に設置する魔道具を作ります。そうじゃないと、24時間ごとに魔法をかけ直さないといけないからです」

「そうなのか?」

「そうなればどうなると思います?」

「不味いではないか?」

「俺としては、貴族達の方がやばいと思いますよ?」

「どういう事だ?」

「つまり王都は、もう魔の森から守られたと思い込んでいる貴族達が、また動き出すと言う事ですよ」

「馬鹿な!」

「そうですか?安全となったとなれば、気が緩むのは人間の性というものですよ」

「しかし、あれほどの見せしめをして、平民達に公式発表をしたのだぞ?」

「まあ、これからがローベルグ様の腕の見せ所ですよ。俺の偵察部隊はすでに動いていますので、ローベルグ様も注意しておいてください」

「そんな事が……」

 ローベルグは半信半疑でヒロトシのいう事を聞いていたが、1ヶ月もしないうちに賄賂を再開した貴族が逮捕されたのだった。

「なぜあれほど言ったのに……」

「しかし、もう王都は安全となったのでは……」

「馬鹿者!安全になったから賄賂を再開して良いと誰が言った!王都は豊穣の地ではないと言ったではないか?」

「……」

「お主も禁錮刑と罰金と処す!」

「そ、そんな、待ってください!わたしはただ……」

「言い訳は聞かぬ。連れて行け!」




 ヒロトシは、王都が着実に良くなっていくのを感じていた。魔道具も何日かに分けてドンドン設置されていき、強固されていくのだった。

 平民達の生活も、まだ元には戻らないが物価の上昇が収まってきた事で余裕が出来てきたのだった。冒険者も、王都を離れるのは保留となっており、北の森の依頼を受けるのは高ランク冒険者だけとなり、Cランク冒険者達は北以外の方向に出かける事になっていた。

「ご主人様?」

「どうかしたのか?」

「2号店にビアンカを働かせると言っていましたよね?いつからになるのですか?」

「まだ先だよ。貴族達が不正をせずに働けるようになるまでだよ。そうなれば、王都の経済も回復してくるだろうしね」

「でも、ビアンカを2号店で働かせるとなると、この地はまた豊穣の地となり、貴族様達は元に戻ったと思うんじゃないのですか?」

「ビアンカを2号店にばかりは置かないよ。時たま、2号店で働いてもらうだけだ。ビアンカは、1号店の方がいいと言っているからね」

「なるほど……この王都が豊穣の地に戻らないぐらいに回復させるというのですね」

「そういうこと!ビアンカは生まれて初めて楽しく過ごしているんだからその邪魔はしたくないよ」

 ヒロトシは、ビアンカを2号店で働いてもらうが、基本は好きな場所で働いてもらうつもりだった。


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