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第6章 研磨という職

30話 王国の選択

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 ヒロトシに選択をつきつけられて、ローベルグはどうにもならない状態になっていた。

「分かった……ヒロトシの言うようにこの8人の貴族達を逮捕し、王都の経済をかき乱したとして家系は断絶にしよう……」

「国王様!それはいくらなんでも……貴族達から反感をかいます」

「だったらどうするのだ、このままだと王都の目と鼻の先にまで、魔の森が迫り来る事になるんだぞ?」

「しかし……一気に8名の貴族が逮捕となれば王国の沽券に関わる事に!」

「宰相よ……こんな状態になった王家に今更沽券など……」

「うっ……」

「今すぐ王都にいる貴族達を呼びだせ!そこで、余は皆に頭を下げる」

 それを聞いた上級貴族達は、何とも言えない顔をして落ち込んだのだった。



 数日後王家からいきなり呼び出しがあった貴族達は何があったのかと、大広間で騒然としていた。

「いきなりの呼び出しだなんて何が……」
「やっぱあれじゃないのか?」
「あれとは?」
「なんでも、北の森に異変があるそうじゃないか?」
「ああ……ワシもきいたな。なんでも高ランクの魔物が出没しているらしいな」
「まあ、わしらに魔物の事は関係ない」
「まあ、そうだな……そのあたりは冒険者ギルドと騎士団の管轄だ」

 しばらくすると国王が大広間に入ってきた。貴族達は国王の姿に頭を下げ出迎えたのだった。

「本日はいきなり呼び出してすまなかった」

 国王ローベルグは開口一番、貴族達に謝罪した。これには貴族達も驚き神妙なおもむきとなった。

「本日は王家が間違っていたことを謝罪したい」

 王家が間違っていたと聞き、集まった貴族達は目を見開いた。

「その上で、今回名前を呼ばれた者は返事をしてくれ……」

 ローベルグは、一人一人名前を呼んだ

「ロドリゲス」

「はっ」

「ジェイコブ」

「はい」

「テイラー」

「はっ!」

「ヘルナンデス」

「はい」

「トンプソン」

「はい!」

「スコット」

「はい!」

「ベーカー」

「はい!」

 名前を呼ばれた8人の貴族は、褒美をもらえると思い元気に返事をした。

「お前達は、王都の経済をかき乱したとして貴族位を剥奪。家系は取りつぶし、お前達には一律5年の禁固刑と罰金刑処す!」

「「「「「「「「なっ!」」」」」」」」

 いきなり、禁固と罰金刑家系は取りつぶしと、ローベルグから宣言された8人は何が起こったのか分からなくて変な声が漏れた。

「いきなり何を言うのですか!」

「お前達は業者を操り、商品の値段を異様に釣り上げ、その儲けの一部を懐に入れ、王都の経済をめちゃくちゃにした罪だと言っておる!」

「それはアイデア料として!」

「言い訳はよい!騎士団こやつらをひっ捕らえい!」

「国王!いきなりそんな事言われても納得いきません!」
「そうです我々は今までと……」
「こんなめちゃくちゃな裁判あってたまるか!」
「そうです我々は……」

 8人は有無も言わさず、王国騎士団に連行されてしまった。そして、8人がいなくなってしまうと他の貴族から疑問が投げかけられた。

「国王様!無礼を承知で言わせていただきます!」

「わかっておる!皆のものすまないこの通りだ!」

 貴族達の不満が出る前に、ローベルグは貴族達に頭を下げたのだった。この行動に不満をもらそうとした貴族は言葉に詰まってしまった。

「これはどういうことですか?説明をしていただきたい」

「今まで王家は、賄賂を黙認してきた。皆の者もそれは分かっていると思う。しかし、この地は今まで幸運の龍のおかげで豊穣の地だからそれが成り立ってたと言えよう!」

「「「「「……」」」」」

「これからの王都では、それをやっていると成り立たなくなるのは必至だ。その為、あの8人は特にひどいやり方をしていたので逮捕したのだ。これは今まで黙認していた王家が間違いだったと認める。これからは賄賂は重罪として取り締まるので理解してほしい」

「それでは今までやって来た人間が得することになるではありませんか?」
「そうです!納得いきません」
「それにこんなやり方、あの8名は見せしめのような感じではありませんか?」

 声をあげたのはやはり、真面目に仕事をしてきた貴族達だった。

「ああ……見せしめと言われればそれを甘んじて受けよう。しかし、これを見てくれ。あいつ等は意図的に王都の第1次産業を高騰させた。これでは、国の事を全く考えておらん。自分の事だけしか考えておらんのだ!」

 トウモロコシやジャガイモ、王都の主食が軒並み値上がりをしていて、どうしようもないところまで来ていた。

「「「「「こ、これは……」」」」」

「余も目をつむりたいと思っていたが、今この地でそれをしたら王都は、いや……王国は滅亡しかねない……」

「では、国王様が間違いだと言ったことは……」

「余は貴族が賄賂をしているのは把握して居ったが、国の運営の為に目をつむっていた。これからもそれでまかり通ると思っておったからだ」

「……」

「この中にも、ここまでとはいかぬが賄賂を貰い出世しようと思っている人間がいると思う。しかし、これからはもうやめてほしい。この通りだ!」

「「「「「「「国王様!やめてください!」」」」」」」
「頭をお上げください!」
「私達が間違っていました……」

 ローベルグが、自分達に非を認め頭を下げたのが相当こたえたらしい。貴族達は土下座して謝っていた。

「そして……ブロッケン、ファートお前達にも貴族は辞めてもらう。家系も取りつぶしだ。しかし、お前達に罪はない余生は静かに暮らしてくれ」

「「おおせのままに……」」

 ブロッケンとファートは、家計を剥奪され土地を没収された。残ったのは引退した時に個人で買った土地だけだった。そこに家族と共に移り住む事になった。

「そして、申し訳ないがお前達には今まで以上に王都の経済を戻す為、働いてもらうのでよろしく頼む」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 ローベルグが、素直に非を認め頭を下げたことで、この場にいる貴族から不満が出ることはなかった。やはり、英雄王と呼ばれるだけあって、カリスマはとんでもなくあった。

「それと、皆の者に伝えたいことがある」

「「「「「なんでしょうか?」」」」」

「噂が耳に入っている者もいるとは思うが、北の森についてだが……」

「たしか、高ランクの魔物が出没していると聞きましたが……しかし、王国騎士団にかかれば問題は……」

「そうではないのだ。王国の情報では、北の森の先に位置する魔の森が南に向けて拡がっているそうだ」

「「「「「なんですって!」」」」」」
「それは本当なのですか?」

「ああ……その為、北の森の奥にいた魔物がこちらに出てきているそうだ……」

「そんなバカな!」
「それじゃあ、王都は!」
「そうです!経済をたてなおしても……」

「本当にすまない!余はお前達を売ったと罵られても構わない」

「どういうことですか?」

「今回、魔の森をなんとかする為に、余は王国の歴史の過ちを認めたようなものだ……」

「どういうことですか?」

「魔の森の進出を止める為に、あ奴ら8人を逮捕したのだ」

 ローベルグは、ヒロトシの条件を受ける為に王都と8人の貴族を天秤にかけたことを説明したのだった。貴族達はその説明を聞き、何とも言えない顔をしていたのだった。


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