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第6章 研磨という職

19話 権力者はやはり自分勝手

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 ヒロトシは、ハボリムに自室に連れていかれた。

「ヒロトシ!今日の態度は一体なんだ?」

「なんだと言われてもな……」

「本来なら打ち首にあっても文句は言えない所なんだぞ?」

「俺を打ち首?ないない!そんな事をすれば困るのは王国なんだぞ?」

「何を言っているんだ!お前は現国王に対して政権を降りろと言ったんだ。立派な反逆罪ととらえられてもおかしくなかったんだ」

「俺だって王国の事を想っての苦言だ。俺は王都の復興を手伝う代わりに口出しすると言ったはずだぞ?」

「口出しすると言ってもだな……」

「ハボリム!言っておくが王国貴族はもうどうしようもないほど腐っている。俺はそれをどうにかしたいと思っての提案だ!」

「王国貴族が腐っているだと!言っていい事と悪い事があるぞ?」

「いいか?よく聞けよ。今回、錬金屋の事件は氷山の一角だ。なのに、ローベルグ様はブロッケン家とファート家をお残しにされた」

「当たり前だ!両家は王国にとって必要な貴族なんだからな!」

「あの結果でどうなるかわかるか?」

「あの結果でだと?」

「ああ!ブロッケンとファートが上に上がる為に推薦を得るシステムで、金を得る予定だった貴族が噂を流すぞ?」

「どういう事だ?」

「麻薬密売という大罪を犯しても家は残ると言う事だよ。つまりだな。逮捕された時に自分は知らなかった。例えば秘書が勝手にやったと言い逃れる事が出来ると言う事だよ!」

「身代わりをたてると言う事か?」

「だから、俺はあの時ローベルグ様に任せるのは嫌だったが、案の定ローベルグ様は不正を取り締まる前に、国の運営を取ってしまわれた」

「だからと言って、父上に国を俺に譲れと言うのは違うだろ!」

「いいや……あっているよ。もう、王国はそれほどまでにどうしようもない国という事さ。だったら、ハボリムが国を継ぎ根底から覆す方が早いってことだよ」

「馬鹿な事を!」

「いいか?王国のシステムは賄賂があって、上に上がれるシステムだ」

「馬鹿な事を!そんな事容認などしておらん」

「当然、建前はそうだ。しかし、お前だって賄賂の恩恵はあるだろ?お前世代の貴族達は、ハボリムが王位継承した時の事を考えて色々やってきているんじゃないのか?今は金という物じゃないかもしれんが、色々袖の下を通しているだろ?」

「そ、それは……」

「その中でも、仲の良い貴族をお前はどうするつもりだ?」

「それはそうかもしれぬが、その人間は能力もあるんだ。俺が王位継承したら、国にとってありがたい人材には違いない!」

「じゃあ、お前は賄賂ではなくその人間の能力で役職を決めていると言うんだな?」

「当たり前だ!」

 ヒロトシは、ハボリムにそのことを確認を取って、さらにつづけた。

「だったら余計に、お前が王位を継いだ方がいいな?」

「だからなんでそうなるんだよ!」

「さっきも言った通り、このままでは賄賂は、人を陥れても犯罪にならない国になるからだよ」

「人を陥れても……」

「そうだよ。ローベルグ様は麻薬密売の家を残された」

「それは両家が王国にとって必要な家だからだ」

「それによって、これからは平民が騙されたり、被害にあった金で貴族はより裕福になるぞ?」

「これを見てみな?」

 ヒロトシは次なる犯罪の証拠をみせたのだった。

「こ、これは!」

「平民達が犠牲になっている証拠だよ」

 その証拠書類には、神官と貴族が繋がり神官が信者を集めて、お布施という名目で札やアミュレットを購入させている事が書かれていた。

「しかし、どうやって購入させているんだ……」

「王都周辺が枯れ地になったからだよ。そこに貴族は目をつけたんだ。人間は何か拠り所がほしいものだよ。その人間に何か不幸があった時に、その札やアミュレットを購入すれば神様は自分だけは見捨てないとか言われればコロッといくだろうさ」

 ある冒険者はこのアミュレットを購入した次の日に、薬草の群生地を見つけた事ですっかり信じ込んでしまった。

 またある家族は、父親が冒険で亡くなってしまった所に神官がやってきた。そして、この家には呪いが掛かっておると言われたらしい。
 御札を購入しないかと持ち掛けられ、お札を購入した次の日家の天井から金貨が落ちてきたそうだ。父親が亡くなった家族にとって、この金貨は生活が少しでも楽になる事で、呪いが無くなったと思い込んでしまい入信した。

「これは本当の事なのか?」

「ああ!本当の事だよ。うちの諜報部隊は優秀でね。次々、こういう情報が入手してくるんだよ。その貴族が手に入れた金は何に使われると思う?」

「そ、それは……」

「そう、王国では建前は禁止されている賄賂にだよ。そして、王国ではそのことは暗黙の了解となり、上級貴族ですら罪の意識がなくなって平然と受け取っている」

「そんな事は……」

「だったらどうするんだ?ローベルグ様は麻薬密売の家系を救ってしまわれた。要は前例を作ったんだよ。だから、俺はローベルグ様に引退を促し、ハボリムに跡を継いだ方がいいと提案したんだ」

「……じゃあ、ヒロトシは俺が王になってそう言ったしがらみを排除させる為に……」

「俺は俺で王国の事を考えた結果だよ。しかし、今いる権力者は変わる事には反対するだろうけどね」

「そ、それじゃ……王国は崩壊してしまうじゃないか!」

「俺が、国に口出しするデメリットはこういうことだよ。まあ、王国貴族達の重鎮は俺からしたら老害だよ。ハボリムがこの先をどう考えるかだな」

「もし、この俺が今すぐ王位を継がなければどうなる?」

「それはそれで、王国は今のまま続くんじゃないのか?」

「だったら、何でそんなにかき乱す必要があるのだ?」

「俺に協力を求めたのは王国の方だろ?」

「あっ……」

「俺は、王族の味方でも平民の味方でもないよ。賄賂という悪習は排除するべきだと提案しただけだ。それには貴族の根底を変えないと、なくなる事はないと言っただけだよ」

「……」

「当然、平民の間でも賄賂があるだろう?それが発覚すれば罪に問われるじゃないか。貴族の間で暗黙の了解は不公平だろ?」

 ハボリムは、ヒロトシの意見に黙りこくってしまった。

「あっ、そうそう。もし仮に、ハボリムが王位を今すぐ継がないという決断をしても、俺は責めるつもりはないから安心してくれ。それもまた王国の決断として理解するからさ」

 ヒロトシは、それだけ言い残しハボリムの自室を出て、サンライト2号店へと帰ってきた。

「はぁ……これは無理そうだな……」

「「ご主人様おかえりなさい。どうなりましたか?」」

「シアンとセレンか。まあ、予想通りだな……これから王都の平民は貴族達に食い物にされる街となるだろうな」

「「そんな!」」

「要は、全て自己責任で自衛しないと、貴族に利用されて終わりになるよ」

「「ご主人様はこれからどうするつもりですか?」」

「王国に協力はするが、それはあくまでもサンライトの経営だけで、商人として税を納めるだけだな」

「では、王国に口出しは?」

「それはやらないよ。お前達ももう諜報活動は中止してくれ」

「「わ、わかりました」」

 ヒロトシは、結局は権力者が得になるのが世の常かと諦めたのだった。

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