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第6章 研磨という職

6話 王国の言い分

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 ヒロトシとシルフォードは、ビアンカを王都へ帰せ、自由にさせたらいいと、意見をぶつけ合っていた。すると、二人の間にセバスが割って入ってきた。

「旦那様もシルフォード様も少し落ち着いて下さい」

 セバスがそう言うと、二人はセバスを見て落ち着きを取り戻した。

「シルフォード様も危惧するところも分かりますが、ビアンカはこの町を離れてもよろしいのですか?」

「セバス!そんな事は当たり前であろう。このままでは王国に逆らう事になるやもしれんのだぞ?」

「しかし、ここにビアンカが移ってきたことで、恩恵は計り知れないのですよ?」

「それは分かるが……」

「セバス、ビアンカを利用するような言い方をするなよ。あいつは、そんな事など気にしてはいないよ」

「それは、私達がそう思わなければいいだけですよ。ビアンカは㋪美研の家族なんですから。しかし、赤の他人にとってはその恩恵だけを考えるのは当たり前でございます」

「それはそうかもしれないが……」

「しかし、このままではミトンの町が王国の恩恵を奪った事になるのだぞ?」

「それは、ミトンの町には関係のない事では?」

「なんでそうなる!」

「そりゃそうですよ。ビアンカはヒロトシ様の家族になっただけですからね。ビアンカはビアンカの意思でヒロトシ様を気に入りついてきているのです。それはシルフォード様が、その様にせよと言ったのですか?」

「それは言ってはいない」

「だったら、ミトンの町がビアンカを奪い取ったと言うのは違うのでは?」

「それが通れば問題はないが……」

「それは、旦那様が何とかしてくれますよ」

「お、おい!セバス勝手な事を言うな」

「あれ?旦那様は家族であるビアンカの事を放っておくと言うのですか?」

「そんな事は言ってないだろ?」

「では、よろしくお願いします」

 セバスは、ヒロトシに全てを任してしまったのだった。しかし、セバスの言う事を否定してしまえば、ビアンカの事を家族として認めないと言っているような物であり、ヒロトシは何とかするしかなかった。

「わ、わかったよ」

 それを聞き、シルフォードもホッとしたのだった。

「シルフォード様は王国にこの事を?」

「当然報告させてもらう」

「ですよね……」

「当たり前だ!」

「わかりました。じゃあそのように報告してください。俺は王国騎士達が動いたら、ローベルグ様とコンタクトを取ります」

「そうしてくれると助かる」

 シルフォードは、王国に反逆の意思はないと示す事が出来るので心底安心していた。そして、すぐさま行動を起こす為シルフォードは帰っていった。

「セバス!どういうつもりだ?」

「あのまま、二人で言い合っていても時間の無駄ですよ。それなら旦那様が行動を起こした方が早いですよ」

「うぐっ……」

「それに、ビアンカの意見も聞かずどうするのですか?」

 するとそこに、アヤがビアンカを連れてきたのだった。セバスはすでにアヤに言いつけて、ビアンカをサンライトへ迎えに行っていた。

「ビアンカを迎えに行ってくれたのか?」

「当然ビアンカの意見を聞かないといけませんからね」

「準備がいいな……」

「当然でございます」

「ヒロトシ!何か用?」

「ビアンカ、お前に聞いておきたいことがあるんだが、お前は前いた場所に戻りたいと思うか?」

「えええええ!いやだよ!あんな誰もいないとこ寂しいだけだし。それにあたしはヒロトシとずっと一緒だよ」

「そうだよな……」

「ヒロトシは、あたしの事が邪魔になったの?」

「いや、そんな事はないぞ。ビアンカがここにいたいと言うのなら、ずっといてもかまわないからな」

「だったら、なんでそんな事を言うの?」

「うん。落ち着いて聞いてくれ」

 ビアンカは、ヒロトシに向き合って正座をした。

「まあ、もっと気軽に聞いてくれ。話しづらいだろ」

「わかった」

 そして、ヒロトシはビアンカ自身の事を説明した。ビアンカは幸運の龍だということで、その土地に恩恵を与える存在で、王国がビアンカを取り戻す恐れがある事を説明したのだった。

「そんなの嫌だ!あたしはあたしの意思でここにいるんだよ?なんで、そんな人身御供のような事をしないといけないんだよう」

 ビアンカはヒロトシの説明を聞き、激昂の如く怒りをあらわにした。

「まあ、落ち着けって俺に任せておけって!」

「ホント?」

「ああ!ビアンカが俺の側を離れたいと言うのなら、それはそれで尊重するが……」

「そんな事絶対言わないよ」

 ビアンカは、ヒロトシの言葉にかぶせ気味に否定した。

「うんうん。ビアンカは俺にとって大事な家族の一人だ。ビアンカがここにいたいというのならそれを尊重するよ」

 それを聞き、ビアンカはホッとしていた。しかし、ヒロトシの言う事にビアンカは一つだけ否定をした。

「あたしはここにいたいわけじゃないからね」

「ここにいたくないのか?」

「違うよ!あたしはヒロトシのいる所にいたいの!この町は楽しい事もあるし、ヒロトシ以外の人間も好きだよ。だけど、一番の理由はヒロトシの側にいたいの」

「そっかそっか。ありがとな」

 ビアンカはそう言いながら、顔を真っ赤にして照れていた。それを見て、ヒロトシはビアンカの頭を柔しく撫でていた。 





 数日後、㋪美研に王国騎士達が面会を求めにやってきた。

「ヒロトシ様に面会を願いたい」

 マイン達は、ビアンカの事を聞いていたのですぐに取次ぎ、客室に案内をした。

「お役目ご苦労様」

「ヒロトシ様。ビアンカを保護したいと存じます。すぐに、ビアンカをこちらに引き渡してもらいたい」

「お断りします!」

「なっ!王国に逆らっても得になりませぬぞ?」

「まず、なんでビアンカを引き渡さないといけない納得できる理由を聞かせてもらおうか?」

「納得と言われても……私達は国王の命で動いているにすぎません。それに、ビアンカが王都を離れたことで、王都周辺は大変な事になっているのです!」

「大変なことじゃなく、それは元に戻っただけだよ」

「元に戻った?何を訳の分からない事を!王都の地は元から肥沃の地で……」

「それは人間単位の時間だよ」

「人間単位の時間?」

「そうだよ。王国歴はたかが1000年という事だよ」

「ヒロトシ様は王国を馬鹿にするおつもりか?」

「いやいや……馬鹿になんかしないよ。もっと広い視野で考えろと言っているんだ」

「広い視野?」

「そうだよ。ビアンカは叡智龍だ。それこそ何万年と生きてきているんだよ?つまり、王国歴の1000年なんてくしゃみをした時間と一緒だって事さ」

「王国歴がくしゃみした時間と一緒だと……」

「そうだよ。叡智龍というのは太古の時代から生き続けている。要は星の創世記(ジェネシス)という事だよ。つまり、王国歴どころか人間が誕生した時間でさえあっという間の時間だって事さ」

「それの何が元に戻ったというのだ?」

「つまりだな。数万年前王国が出来る前に、ビアンカはあの土地に住んでいただけだよ。そして、1000年前のその土地に王国が出来たと言う訳さ。そして、最近になってビアンカが住むところを移動したと言う訳だよ」

「そ、それは……」

「つまり、王都のある土地は数万年ぶりに元に戻っただけだよ。そして、ビアンカの住む場所は俺がいる場所になっただけってわけさ」

「そんな事でごまかされないぞ!」

「それにだ!」

「まだ何かあるのか?」

「ビアンカは俺の家族(テイム生物)なんだぞ?王国が引きはがす事なんか出来ないんじゃないのか?」

「それは……で、ですがテイム生物なら販売できるではありませんか?」

 巷のテイマーは野生の馬やロバを捕まえて、それを販売して生計をたてている。騎士達はそんなことを言ってきたのだった。

「ほう!家族であるビアンカを売れと?」

「い、いや……」

「じゃあ、その話に仮に乗るとして、叡智龍であるビアンカを、王国はいくらで購入すると言うのだ?」

「そ、それは……」

「言っておくが国家予算の10倍でも無理というものだぞ。まあ、家族を売ると言う事などしないけどな!」

「しかし、国王様の命で!」

「言っておくが、国王であるローベルグ様が何とかできると本気で思っているのなら、王国の歴史は近日中に終わる事になるぞ?」

「な、なんだと!こちらが下手に出ていれば言いたい放題いいおって!」

「そうカッカするな!俺は本気で王国を心配しているんだぞ?」

「馬鹿にしているようにしか聞こえんわ!」

 王国騎士達は、ヒロトシに対して激昂していて、今にも掴みかかろうとしていた。

「まあ、待ちなよ。ビアンカの意見も聞いてみないか?」

「意見など必要ない!」

「聞いた方が身のためだと言ったら?」

「身のためだと?」

「まあ、貴方達はビアンカの事をナメてるふしがあるからな。それを見てローベルグ様に相談しなよ」

 ヒロトシは、ビアンカを部屋に呼んだ。そして、ビアンカの意見を聞かせたのだった。

「ビアンカ?お前の正直な気持ちをこの人達に聞かせてやってくれ」

「うん。わかった」

 その話を聞いた王国騎士達は、青ざめて兵舎に帰ったのは言うまでもなかった。

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