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第5章 意外なスキル

26話 シャーロット

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 ヒロトシは、すぐに商人ギルドに向かって、通信機を貸してもらえる様にお願いをした。

「ヒロトシ様……申し訳ありません。そういう個人的な事にギルドの通信機を使うのはちょっと……」

「どうしても駄目か?」

「はい……ヒロトシ様には日頃お世話になっておりますが、いくら何でも奴隷の家族に連絡が取りたいと言う理由では……」

「そ、そうか……無理を言って悪かった」

 いくらヒロトシが貴族だと言っても、通信機をそうやすやすと使用する事はできなかった。こういう時一般人は手紙という連絡方法を使うがそれだと1日かかってしまい、返信が来るのに3日以上かかる事になる。

「しょうがない……パルランの町に行くか」

 ヒロトシは、急いで屋敷に帰り今日の仕事を済ませた。そして、サキに手紙を書かせた。こういう時スマホが無いのは不便だと思うヒロトシだった。

 サキには、シャーロットに命の無事と今はミトンの町にいる事を手紙に書かせた。そして、1週間ぐらいでパルランの町に迎えに行く事を内容に記した。ヒロトシもすぐに迎えに行きたかったが、研磨作業がある為すぐに迎えに行けなかったのだ。

「すぐに向かいに行きたいと思うが、仕事があるからちょっと我慢してくれ」

「本当に向かいに行ってもらえるのですか?」

「ああ、約束する。しかし仕事が済み次第だ。もう依頼はたくさん入ってきているからな」

 ヒロトシは、パルランの町に出発できたのは10日後だった。それでも、サキとジュリは一緒に迎えに行くと言っていたが、やはり外に出る事が出来なかった。
 その為、サキやジュリの持ち物を借りることにした。ヒロトシだけ行っても怪しまれる恐れがあったので、それを証拠として持っていく事にしたのだった。

 ヒロトシは、カノン達を護衛に連れてパルランの町へと向かった。トラックで行けば、1ヶ月の道のりもスピードをあげれば今日中に着けるのだ。

「お前達は後ろに乗れよ」

「なんでですか?一人は助手席にお付きしないと」

「いや、今回はスピードを出すつもりだ。隣でずっと叫ばれても困るからな」

「ですが!」

「本当にいいのか?今回はいつもみたいにスピードは落とさないからな。それでも本当にいいのか?」

「「「「「それは……」」」」」

「だったら後ろに乗って置け!本来なら一人で行きたいくらいなんだぞ?」

「「「「「それは駄目です!」」」」」

「じゃあ!出発するから早く後ろに乗れ!」

 ヒロトシに言われて、カノンたち護衛メンバー全員は渋々後ろのコンテナ部分に乗った。そして、トラックが街道を走り出した時、後ろに乗ったメンバー全員は、やはり後ろに乗って良かったと安堵した。

「な、何このスピード……」
「助手席に乗らなくてよかった……」

 後ろに乗っていても、今までとは違うスピードに恐怖で目が点になっていた。ヒロトシが後ろに乗せた時、自分達にしゃべるなと言った理由がよくわかった。景色があり得ないスピードで後ろに流れていくからだ。

 そして、その日の夜には片道1ヶ月はかかるであろうパルランの町に到着していた。しかし、町には入場できなかった。もう日は暮れて城門が閉じていたからだ。
 ヒロトシは、城門前の広場で一夜を過ごす事になった。そして朝一でパルランの町に入り、シャーロットがいる家に向かったのだった。

 ヒロトシは迷うことなくサキの家に到着した。住所を聞いていたし、サーチするとシャーロットの名前が表示されていたからだ。

「ごめんください!」

 ヒロトシは、サキの家の扉をノックしたが、誰も出てくる気配が無かった。

 だが、家の中にはシャーロットの名前が表示されていた。すると、近所のおばさんだろうか。ヒロトシに話しかけてきた。

「あんた見ない顔だね。シャーロットちゃんに何か用かい?」

「近所のかたですか?」

「ああ、そうだよ。あたしゃ、ハンナだよ。それであんたは?」

「俺は、ミトンの町から来たヒロトシと言います」

「ヒロトシ……まさかあんた?いえ……貴方様はまさか?」

「へえ、こんな遠くまで俺の事を知っているとは驚いたな。そうだよ㋪美研の店主です」

 ハンナはヒロトシと聞き、無礼な口を利いた事で顔を真っ青にした。

「知らないとはいえ、申し訳ありません!まさか貴族様だとは」

 ハンナは土下座して謝罪した。㋪美研で知っていたと言うより、国王陛下と友人という方が有名だったみたいだ。

「ああ!止めてください。顔を上げて……それよりシャーロットさんは?」

「それがこの2日顔を見てないんだよ……家にいるのは確かなんだけどね。あたしも心配になってちょくちょく来ているんですが、具合が悪くなっていなきゃいいんだけどね……」

「それは本当ですか?」

「えぇ……心配なんだけど家に押し入るなんてできないしね。それで、ヒロトシ様は何の用事でシャーロットちゃんに?」

「シャーロットさんを迎えに来たんですよ。前に手紙を送ったのですが、何も聞いてないですか?」

「シャーロットちゃんを迎えに?なんで?」

「話は長くなるんでちょっと待ってくださいね」

 ヒロトシは、ハンナの言った2日見ていないと言うのが気になった。具合が悪ければ、起き上がれないと判断したからだ。
 
「シアン!扉の鍵を開けてくれ」

「で、ですが……人様の家に無断で上がっては……ご主人様が犯罪者に」

「そうだよ?ヒロトシ様は貴族でいらっしゃいますが、人様の家に勝手に上がり込んでは?」

「この家は誰のものだ?」

「そりゃシャーロットちゃんの物ですよ?」

「いやいや、サキの物だろ?」

「ヒロトシ様、サキちゃんを知っているのですか?サキちゃんは死んだはずでは?」

「ちゃんと生きているよ。サキは奴隷に落とされ今は俺の物だ。という事は、サキの財産は主人であるこの俺の物だろ?」

「な、なるほど!たしかに」

「俺の物を、どうしようが犯罪になる訳ないじゃないか?」

「ちょ、ちょっと待ってください!それを証明するものは?」

 ハンナが、ヒロトシに証拠を求めた。そして、ヒロトシはギルドカードをハンナにみせた。すると、ギルドカードには、確かにサキの名前が表記されていた。
 つまりこの家はサキの物と証明され生きているのなら、この物件はヒロトシの物となり、厳密に言うとヒロトシの家に、シャーロットが勝手に寝ているという事になるのだ。

「早く!開錠をするんだ!」

「は、はい!」

 シアンは、家の扉を開いた。すると、中には顔を真っ青にして寝込んでいるシャーロットがいた。ヒロトシはシャーロットにヒールをかけた。しかし、怪我をしている訳じゃないので良くなるはずもなくハンナに薬の事を聞いた。

「ちょっとよくわからないね……医者ならこの先に行った病院にかかっていたけどね」

「わかった!」

 ヒロトシはシャーロットをおぶって、医者の所に走ったのだ。

「急患だ!頼むシャーロットさんを診てやってくれ!」

 ヒロトシが病院に駆けこんできて、シャーロットの姿を見た医者は驚いていたが冷静になり断ってきた。

「申し訳ない……金が無いこの子を見てやるわけにはいかんのだよ……こちらも生活があるでの……」

「はっ?どういう事だ?それに金なら俺が出してやると言っているんだ」

「あんた……何を言っておる?他人に金を出すとは酔狂か?それにここで、そんな事を言うのは止めなさい」

「あんた、それでも医者か?苦しんでいる人間がいるんだぞ?」

「主君……医者の言っている方があっていますよ……」

「お、おい!ミルデンスお前まで何を言っているんだ?」

「金のない他人にそんな事をすれば、不公平となり自分もタダで治してほしいと言ってくる人間が出てきます。この医者の言っている事は当然の主張ですよ……」

「あっ……」

「そうじゃ……ワシも、その子の事が可愛いし病気も治ってほしいとは思っておる。じゃが、金が無いのではどうしようもないんじゃよ」

「いやいや、この子と俺は他人じゃないよ。この子の姉さんは今俺のとこにいる」

「な、なんじゃと、サキちゃんが生きておるのか⁉」

「ああ!サキに頼まれてこの子を迎えに来たんだよ。だから、診てやってくれ。金なら俺が出すから」

「そういう事ならわかった。見てやろう」

 そういうと診察が始まり、ヒロトシは病院の受付嬢に診察室から出されてしまった。待っている時にカノンがシャーロットは何で金が無かった事を聞いたのだ。

「あの、ご主人様?」

「なんだ?」

「シャーロットさんはなんでお金が無かったんでしょうか?サキは、1年ほど生活が出来るはずだと言っていたじゃありませんか?」

「た、確かに……何で金が無いんだ?」

 する受付嬢が会話に入ってきたのだった。

「シャーロットちゃんは、サキちゃんが必ず生きていると思って、貯金を捜索願に使っちゃったのよ」

「ギルドに依頼を出したのか?」

「いえ……ギルドでは断られたのよ。盗賊に襲わられたと判明したので、生きてはいないから無駄な事は止めた方がいいと言われてねえ」

「だったら、金はあるはずだろ?」

「それが……それを悪い奴に目をつけられて、騙されて金をとられちゃったのよ。シャーロットちゃんにとったらその人間が唯一の希望で、調査費名目でちょっとづつお金を絞り取られて、お金が無くなったらその男は姿をくらませてしまって……」

 シャーロットは、ギルドとは違い冒険者風の男と依頼を直接結び詐欺にあったらしいのだ。ギルドを間に入って貰えば、依頼に失敗したら保証して貰えるが、直接交渉の場合詐欺に会えば自己責任となる。

 それほど、シャーロットは周りが見えなくなっていたのだろう。シャーロットにとって唯一の家族がサキだったので、なんとしてでも見つけようとしたのだった。



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