上 下
188 / 347
第5章 意外なスキル

25話 サキの心配事

しおりを挟む
 リディアは呆然としながらヒロトシの部屋を出た。そして、気はここに在らずと言った雰囲気で大部屋に入ってきた。

「ねえ、リディアどうだった?」

「あっ、うん……」

「うんじゃわからないよ。ご主人様はなんて言ってた?」

「うん……もっと休んでおけって……」

「何で何も言ってこないのよ?普通奴隷にこんな扱いしないでしょ?」

「だから、ご主人様はわたし達を本当に奴隷だと思っていないのよ。だから、そう言った扱いを絶対にしたくないと言われて……今はまだ休んでおけって言ってくださったのよ」

「そんな事ってあるの?」

「信じられないけど、ご主人様は本当に私達の事を心配して下さっているわ。わたし、もう一度他人をいえ、ヒロトシ様を信じてみようと思う」

「でも……」

 リディアの言う事に、他の人間達は抵抗があった。

「あ、そうだ。サキさんご主人様が呼んでたわよ」

「えっ?何でわたしを?」

「それは何も言ってなかったわ。ただ呼んできてくれと……」

「まさか、こんな時間からわたしに奉仕を……」

「それはないと思うわ」

「何でわかるの?」

「うん……先ほどまでご主人様と話して分かったんだけど、私達の事を気にかけてくれているのが分かったから」

「そう……」

「怖いのなら、あたしも一緒に行こうか?」

 声をかけてきたのは、同じパーティーだったジュリだった。ジュリも又心を閉ざしていたが、サキの事を心配していた。

「うん……一緒に来てくれる?」

「ああ。構わないよ一緒にいこ」

 そして、二人は一緒にヒロトシの部屋に向かい、部屋の扉をノックした。

「あ、悪いね。部屋に来てもらってって、何でジュリも一緒に?」

「なんでって、サキが一人来るのは怖いって言うから……」

「そうか……付き添ってくれてありがとな。じゃあ、一緒にいてあげてくれ」

「はい……」

 ジュリはサキの肩を抱いて、二人そろって震えていた。それを見たヒロトシは盗賊達を本当に許せなかった。町に帰ってきて、生き残った盗賊達は衛兵に引き渡したが、当然鉱山送りになった。もう死ぬまで逃げる事は出来ないだろう。
 しかし、盗賊達のやった事は彼女達の心に傷をつけて、取り返しのつかない事をしたのである。ヒロトシはサキたちの姿を見て、完治したとしても数年いや十数年掛かってもしょうがないと思っていた。

「それで、サキに用事は何でしょうか?」

「いやな、その姿を見て何をしてほしいか聞きたくてな?サキだけとは言わないが、得に精神的にきつそうだと思ってな。何か気になる事があるのかと思ったんだ」

「そ、それは……」

「な、なんだ?何でも言ってくれていいぞ?俺が出来る事ならいいんだけど……」

「い、いえ、何でもないです」

「まあ、言いたくなければいいが言いたくなったら何時でも言いに来いよ」

「そ、それだけですか?」

「ああ。それだけだよ。無理に聞き出そうとはしないから安心してくれ。ただ、協力出来る事ならできるだけやってあげたいと思うからさ」

「なんでですか?私達は奴隷ですよ。ただ、わたしを働かせたらいいんじゃ……」

 ヒロトシは、リディアに言った事と同じ説明を丁寧にゆっくり説明した。

「だから、俺はお前達をいいように扱ったりしないよ」

「「そんな事!」」

「今は信じれなくてもいいよ。君達はそれだけの事を他人にされたんだ。信じれなくて当然だと思うからね」

「「……」」

「話はそれだけだ。部屋に帰ってもらってもいいよ」

 すると、二人は無言で部屋を出ていくのだった。その様子を見て、ヒロトシは相当根気よくしないといけないと思っていた。しかし、その夜ヒロトシの部屋の扉がノックされた。

「誰だ?こんな夜遅くに?」

 ヒロトシは、夜遅くにノックされ又、誰かが奉仕にでも来たのかと思った。しかし、部屋に入ってきたのはサキ一人だけだった。その姿は恐怖もありつつも、何か言いたいことがあるようだった。

「こんな夜遅くにどうした?」

「あの……昼間どんなこともしてくださると言いましたよね?」

「ちょっと待て!どんなこともとは言っていないぞ。できる事をやってやると言ったんだ。頼みを聞いてできない事もあるかもしれないだろ?」

「じゃあ、出来ないこともあると?」

「そりゃ俺だって人間だ。出来ないことだってあるさ。例えば、お前と一緒にいたパーティーメンバーを生き返らせろと言われても無理な話だろ?」

「そんな願いはしません……オサム達には申し訳ないですが、あれも運命です」

「じゃあ、何をしてほしいんだ?」

「そ、それは……」

「そう言いかけた所で、サキの身体がガクガクと震え出し、ショックで気を失ったのだ」

 それにびっくりしたヒロトシは、大声を出し助けを呼んだ。

「お、おい!サキ、しっかりしろ?おーい!誰か来てくれ!」

 すぐに、セバスとマイン達がヒロトシの部屋に集まってきて、その状況に驚いた。

「旦那様いかがなされましたか?」

「サキが精神的ショックで気を失った……」

 ヒロトシはみんなに説明をして、サキのベットに運んでもらい看護してもらった。サキがマイン達に運ばれてきたのを見てジュリ達も慌てていたようだった。
 夜遅くに部屋を出て言ったので、外の空気を吸いに出たのだろうと思っていたらしい。ここにいる12人は、同じ大部屋で一日中部屋に閉じこもっていたので、人目のなくなった夜にふらっと部屋を出ていたのだった。
 そうはいっても、㋪美研の敷地から出る事は無く、井戸の近くで夜風にあたるのが精一杯の行動だった。




 そして、次の日に目覚めたサキはジュリと一緒に、ヒロトシの所にやってきたのだった。

「ご主人様、昨日は申し訳ありません」

 研磨工房に入ってきたサキはヒロトシに昨日の事を詫びた。

「目が覚めたのか?」

「は、はい……」

 すると、研磨工房にはガインやその弟子たちがいっぱいいた事もあり、サキの顔は真っ青になっていた。

「ジュリ、サキを俺の部屋に連れていってやってくれ。ここにいると、また倒れそうになっているから、俺もすぐに行くから二人で待っていてくれ」

 ヒロトシに言われた二人は頭を下げ、研磨工房を出ていった。

「主、あの二人はまだ酷そうだな……」

「ああ、そうだな」

「主はあいつ等を見捨てないよな?」

「当たり前だろ。何言ってんだよ!」

「さすがそういうと思っていたよ。ワシは主に買われて本当に良かったと思うぜ」

「分かって言うな!」

 ヒロトシは笑いながら、ガインの頭を軽く小突いた。ガインも、今回救出した12人の事を心配していた。普通なら、役に立たない奴隷として主人は奴隷商店に気軽に売ってしまうのが普通だった。

 ガインは、ヒロトシがそんな事はしないとは思っていたが、昨日の夜サキが気絶したと聞き、思わず売らないよなと聞いたのだった。当然ヒロトシの答えは、見捨てないと言ったので、ガインは笑顔となったというわけだ。

 ヒロトシは、仕事の区切りのいいところまで終わらせて、ドロドロになった身体をクリーンの魔法で綺麗にして、部屋に戻ったのだった。

「遅くなって悪かったな」

「「いえ、仕事中に申し訳ありません」」

「それで昨日言いたかった続きでいいのか?」

「はい……」

「それで、俺に何を望む?」

「はい……私には血のつながらない妹がいるのです。私はその妹が心配でなりません」

「はぁあ?妹?心配って何?」

 サキには、親が再婚しその母親には連れ子だった娘がいたらしい。両親は魔物に襲われてもうこの世にはいないが唯一の家族がその妹だった。

「妹は身体が悪くて、あたしがその薬代を稼ぐために冒険者をしていたのです」

「なんで、そういう事は早く言わないんだ!」

 ヒロトシは先の言う事に大きな声を出した。その声にビクッと怯えたサキは身体を震わせた。

「ちょっとご主人様!」

「あっ……スマン……それでその妹は?」

「たぶん、1年ほどは生活できる生活費はあるとは思います……しかし、あの子は身体が強くなくて、普通に働けるとは思いません」

「じゃあ、その妹をここに呼び寄せたらいいんだな?」

「いいのですか?」

「なんだ?違うのか?」

「いえ……そんな簡単に願いを聞いて下さるとは思っていなかったから……」

「何言ってんだよ。妹の面倒ぐらい簡単にできる事じゃないか。それに妹だけを心配するって事は、お前達に頼れる人間はいないって事だよな?」

「はい……」

「それで妹の身体はどういう情況だったんだ?」

「完治とまではいきませんが、だいぶんと良くなっていた状況で……ですが、あくまでも予想ですので体調が悪くなれば寝たきりになると思います……」

「どこの町に住んでいる?」

「パルランです」

「分かったパルランだな?妹の名前は?住所は?」

「シャーロットです。番地は東通り5番地……」

「わかった。ちょっと商人ギルドに行ってくるよ」

 サキは一緒に行くと言ったが、㋪美研の敷地から出る事は出来なかった。通りには人がいっぱいいて恐怖を感じたからだ。盗賊に襲われた後遺症が出てしまったのだ。

「ご、ごめんなさい……」

「お前達は、部屋でゆっくりしておけ。後は俺に任せろ」

 二人を安心させ、ヒロトシは丁度側にいたカノンと一緒に、商人ギルドに出かけたのだった。


しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...