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第5章 意外なスキル

15話 騒然となる商人ギルド

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 ヒロトシは、研磨業務を頑張りようやく余裕のある生活に戻り安心していた。納期に間に合わないと冒険者達に迷惑をかけてしまうからだ。

「さすがヒロトシ様だ。急な依頼にも対応してくれて本当に嬉しいよ。マインちゃんからお礼を伝えてくれ」

「承知しました。ご主人様も喜ばれると思います」

 冒険者達から、日々感謝の言葉を伝えてほしいと言われていた。そして、ヒロトシも又無理な注文は受けず、納期が間に合わない時は冒険者達に伸ばしてもらう様にお願いしていたのだった。

「えぇ……この日にはできないのかよ……」

「申し訳ございません。もう、この日の完成予定は詰まっておりまして、最短ではこの日から3日後となります」

「しょうがねえな……他の奴らも順番を待っているんだから、俺だけ我儘を言うわけにもいかねえよな……」

「ご理解していただき、ありがとうございます」

 冒険者達は、ヒロトシの研磨技術無しではもう考えられない状況だった。研磨効果を+3に維持をして1ヶ月が過ぎたらすぐに800#研磨依頼をする事にしていた。つまり、+2の効果で冒険はせず+2に落ちたらすぐに研磨依頼をしていた。その分、ヒロトシは研磨の回数が増え忙しい日々を過ごしていたのだ。

 そして、1ヶ月後㋪美研は1週間の休暇を貰う事にしたのだ。これは、ヒロトシの身体を労わっての事だった。

「えっ?㋪美研1週間の休暇?じゃあ研磨はやってくれないのか?」

「申し訳ありません。ご主人様の身体をおもってのことです」

「だが、週一で休みはあったんじゃないのか?」

「いえ、ご主人様は研磨の注文が途切れなかったので、2週間休みがなかったんです。3週間ぶりの休みなのでご理解して頂けるとありがたいです」

 ヒロトシも無理をしていたが、シルフォード達の様に睡眠時間を削ったりはしてはいないが、3週間休みが無いと言うのはさすがに休暇が欲しかった。

 ヒロトシからすれば、+3に磨いたら3ヶ月後に依頼をしてほしかったが、どうするのかはお客さん次第なので文句を言う訳も行かず、今回の休暇を取ることにしたのだ。
 ㋪美研もいきなりこういう事を言ったのではなく、ちゃんとお知らせを張り紙にして張っており、ギルドにも連絡を入れておいたのだった。

「ご主人様。本当にお疲れさまでした」

「ホント、この3週間疲れた……明日から1週間ゆっくりさせてもらうよ」

「はい。それがよろしいかと。私達㋪美研の担当は、明日からサンライトの方で手伝いをさせていただきます」

 マイン達は受付業務が無いので、サンライトでウェイトレスをすることになっていた。しかし、これが又マイン達の人気に拍車をかける事になった。
 次の日から、サンライトには冒険者達が詰めかける事になる。Cランクまでの冒険者達はマイン達とお近づきになりたかったが、研磨を利用できないのでいつも遠くから見ているだけだったからだ。
 しかし、サンライトで㋪美研の受付嬢達が、ウェイトレスをしているのでこの機を逃してはならないと、サンライトにお客としてやってきたのだった。

 そして、㋪美研で研磨依頼が出来なかった冒険者達もまた、やることが無くいつもより依頼のランクを落とし早々に終わらせ、サンライトに押しかける事になった。

「うひょう!いつもとは違う制服もいいねえ」
「やっぱマインちゃんは何着ても似合うよなあ」
「何言ってんだ。アイちゃんの方が可愛いじゃねえか」

 冒険者達は、自分の推しの受付嬢達に見惚れていて、中にはデートの誘いをしていた者もいた。当然、マイン達にその気はなくやんわりと断られていた。そもそも、マイン達はヒロトシの奴隷であり、身も心もヒロトシのものであり、デートが出来る訳もなかった。

 サンライトが異様に盛り上がっているさなか、ヒロトシは屋敷でゆっくりしている訳もなく、王都の魔の森に来ていた。理由は当然、ビアンカの言っていたカイワームを探しに来ていたのだ。

「まあ、そんな簡単に見つかるわけがないか……」

 ヒロトシは、独り言を言いながら魔の森を捜索していた。カイワームは桑の葉のようなものを食べるのかと思っていたが、そんな事はなくなんでも食べる雑食のようだ。臆病なだけあって、自分で獲物を狩る事もできず、それこそ魔物の死体を食べる事もあるようだ。

 するとそこに、ヒロトシは運よく何匹かのカイワームを発見したのだった。

「何だあれは?」

 ここは魔の森でも、山があり洞窟の中を探索していた。ここはダンジョンではなく鉱石が掘れそうな場所だった。そして、ヒロトシが影から様子をうかがっていると、1匹のカイワームが他のカイワームに虐められているように見えた。

「何かあの一匹色が違う様に見えるな……変異種か?」

 ヒロトシは、それを見ていてつい前のめりになってしまった。その時、地面を擦る音をたててしまい、その音にカイワームたちはヒロトシのいる方向を見た。

(やばっ……気づかれた!)

 ヒロトシは、逃げられてしまうと焦ったのだが、カイワームは何故がその場から動こうとはしなかったのだ。ヒロトシが慌てて、近づいても逃げようともせずよく見ると震えている様に見えた。

「どういう事だ?確か敵に会うと糸を吐き出し素巻きにして、全力疾走で逃げるとあったが……」

 ヒロトシは鑑定すると、カイワーム達はヒロトシに恐怖を覚えてその場から動けないようだった。これは、ヒロトシがフェンリルからもらった加護のせいだった。

 狼種以外の魔物は20%の確率(レベル差で変動)で恐怖で動けなくなる。つまり、カイワームはタダでさえ臆病でレベルが低い(魔の森の中では)ので、フィア(恐怖)にかかってしまっていた。

「なるほど……フェンリルの加護のおかげだったか」

 そして、糸を吐き出す事が出来ないカイワームにヒロトシも困っていた。カイワームの糸が欲しいのに、恐怖で何もできないので糸が取れなかったからだ。しかし、ここでヒロトシはある事をひらめいたのだった。

「ひょっとしてもっと良い事になるかも」

 ヒロトシは、動けなくなったカイワームに触れて、テイムしてみたのだ。すると、5匹のカイワームと色の違うカイワーム変異上位種のテイムに成功してしまったのだ。

「こう見るとなんか不思議だよな……でかい虫でなんかちょっと不気味さがある……」

 そして、ヒロトシは厩舎をだし、カイワーム達を中に入れた。もう、6匹は喧嘩する事も無く、ヒロトシの言う通りにしていた。

「それにしても、変異上位種が手に入るとは思わなかったな……」

 ヒロトシは、感心しながらミトンの町へと瞬間移動をして帰還したのだった。

「あっ!ヒロトシ帰ってきた!何で一人で行っちゃうの?」

「悪いなビアンカ。瞬間移動じゃないと時間がかかるし、王都にお前を連れて行こうと思ったら、トラックでいかないといけないだろ?」

「それで連れてってくれたらいいじゃない。何でおいていくのよ!」

「1週間しか休みが無いのに、時間がかけられなかったんだ。それに、お前はサンライトの仕事があっただろ?一緒に行けないじゃないか」

「それはそうだけど……休めばいいじゃない!」

「それは駄目だな。お前が休んだら誰かが休みを返上して働かないといけなくなるから迷惑がかかるだろ?」

「でも……」

「これが人間社会だ。ビアンカもそうやって、みんなの役に立っているんだよ?もし、休みたかったら前もって誰かと交代をしないとな」

「ううううう……分かった……」

「そうか?分かったか。ビアンカはえらいな」

 ヒロトシはビアンカの頭を優しく撫でると、何とも言えない笑顔で納得したようだった。そして、ヒロトシはまた従魔登録を、ギルドにして貰う事になったが又騒動となったのは言うまでもない。

「「「「「「きゃあああああああああ!」」」」」」

 商人ギルドでは、受付嬢達が悲鳴を上げていた。

「なんだいなんだい!騒がしいだろもう少し静かにおし!」

 ギルドマスターのベネッサが、ホール出てくるとそこにはカイワームが6匹もいて、あまりに大きな虫の気味悪さに、受付嬢達が悲鳴を上げていた。

「なんだいこれは!」

「ベネッサさん、どうもです」

「またあんたかい?坊やは何でそう問題ばかり起こすんだい」

「「「「「ギルドマスター……こ、これをなんとかしてください……」」」」」

 商人ギルドには、人はいないので騒いでいたのは受付嬢だけだった。

「それで何だいこれは?」

「従魔登録をしに来ただけですよ。騒いでいるのはその人たちだけです」

「ヒロトシ様!いくらなんでも、こんな虫の魔物を何でテイムするのですか?」

「そんな事を言っていいのか?この虫は、商人ギルドにとっても金のなる木なんだぞ?」

「なんで、虫が金のなる木なんですか?冗談はやめてください!」

「坊や、悪ふざけもその辺にしな。いくらあんたでも……」

「ベネッサさん。まあ、待ちなよ。俺は悪ふざけや冗談でこんな事は言わないよ。そればかりか、ミトンの町はこの虫の魔物に感謝するはずだよ?」

「感謝だって?」

「ああ!この町にまた新たな産物ができるんだからな。そうなれば俺の店はまた売り上げを伸ばす事になり、商人ギルドは絶対感謝するはずだよ?」

「で、なんだい!その産業ってのは?」

「この魔物はカイワームと言い、幻と言われる絹糸を吐く魔物だよ」

「な、なんだって!それは本当かい?」

 ベネッサが驚くのも無理はなかった。商人ギルドの長となり、その存在は見たことが無く、運よくその糸を入手した商人から、その長い人生で一度だけ手に入れたことがあったからだ。

「嘘を言ってどうすんだよ。それこそ、悪ふざけだと言われるだろ?とにかくこの6匹を従魔登録してくれよ」

「あんた達、そんな事で騒いでないで早く仕事をおし!これは本当にミトンの町に革命が起きる出来事だよ」

「「「「「ちょっと待ってくださいよ……」」」」」

 いくら金のなる木とは言え、若い女性達にとっては気味の悪い虫の魔物である。ギルドマスターに怒鳴られても近くに寄るだなんてもっての外だったようだ。

「ったく、しょうがないね……ランファーあんたが手続きをしな」

「ちょっと待ってください……何で私なんですか?」

「これがギルドマスター命令だ!早くしな!あたしゃ、こう見えて忙しいんだ!」

「そういって、ギルドマスターも気持ち悪いと思っているんでしょ?」

「そんなの当り前さね!マスター命令だお前がおやり!」

「そ、そんな……」

「やらないと、受付嬢をクビにするよ」

「そんな横暴な!」

「いやならさっさとやっちまいな!」

 そういって、ベネッサはそそくさと奥の自分の部屋に戻ってしまったのだった。

「ううう……理不尽……」

「「「「ランファーさん頑張ってください!わたし達の為に」」」」

「あんた達ねぇ!」

 ランファー以外の受付嬢は、神にお祈りする様にランファーにお願いしていたのだった。


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