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第5章 意外なスキル

10話 後味の悪い結末

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 ヒロトシが王国騎士達に冗談を言っていたら、そこに血相を変えて駆けつけてきたのは、シルフォードや町の役員やギルド関係者たちだった。

「ヒロトシ君!盗まれた物を奪い返したと言うのは本当か?」

「落ち着いて下さい!今、王国騎士団の皆さんと話していたんです。隊長さん、さっきは冗談を言って悪かった。この通りだ」

「ちょっとやめてください!男爵様がそのような事を。我々も言い過ぎました」

「それで、シルフォード様。こいつ等が今回の賊ですよ」

「き、貴様らが町の倉庫から……」

 シルフォードは、犯人の顔を見た瞬間、顔を真っ赤にして怒りをあらわにしていた。

「シルフォード様、おちついてください!」

「ヒロトシ君、これが落ち着いてなどおれるわけがなかろう!こいつ等のせいで、町は立ち行かなくなるところだったのだぞ?」

「はっ!俺達のせいじゃない!」

「何を言っておる!貴様たちが町の倉庫から!」

「それもお前の部下のせいじゃねえか!借金のかたに倉庫の鍵を渡した馬鹿のせいなんだよ!」

「なんだと?私の部下にそんな事をするような人間はおらぬ!」

「はっ!シルフォードも愚かな奴よなあ!」
「そうだそうだ!部下に裏切られているとも知らないで滑稽だぜ」
「たしか、クバードだったかなその裏切り者わよぉ!」

「「「ぎゃははははははははははは!」」」

 テオ・トーマス・アーロンの3人は、このまま鉱山送りになるのは必至であり、自分達だけ罪を被るのは癪にさわったようで、兵士であるクバードも道連れにしたのだった。

「クバードだと?おい!クバードを連れてくるのだ!」

 それを聞いていた、町の兵士である団長が血の気を引き、部下にクバードを連れてくるようにと命令をした。

「す、すいません!団長。クバードは数日前から行方知れずになっていて、我らも困っていたとこなのです」

 クバードは、自分の罪の重さに耐えきれず行方をくらましていた。たぶん、鍵を渡してしまって、この3人に倉庫の物を盗まれてすぐに罪悪感に苛まれてその姿を消したのである。

「すぐにクバードを探すのだ!我ら兵士団の顔に泥を塗り負って!」

 兵士団団長は怒り心頭で、部下達にクバードの捜索指示を出していた。そして、シルフォードはヒロトシの側にきて手を握ってきた。

「ヒロトシ君本当にありがとう!これで町は救われる」

「何を言っているのですか?ミトンの町は全然救われませんよ」

「えっ?」

「あの取り換えした物は、証拠物件として提出しただけです」

「ば、バカな‼あれは……」

「取り戻したのは俺です!」

 信じられない事だが、ヒロトシは取り返した品物の権利を主張し出したのだった。これは信じられない事だと思うが、この世界では当たり前の事である。ヒロトシは独自に動き犯人を捕らえたのだった。
 盗賊に品物を奪われ、アジトにその商品があった場合、盗賊のアジトを壊滅させた人間の報酬となるのと同じである。つまり、盗まれた者は思いいれのある品物(母の形見のアクセサリー等)を取り返したい場合は、その手に入れた人間から買い戻すのがルールである。

「しかし、ヒロトシ君は町の為に取り戻し、復興の手伝いを……」

「ええ!復興の手伝いはしますよ。俺が研磨技術やサンライトの売り上げを税金として支払います。今回この品物は俺のものですよ」

「馬鹿な!そんなことをされれば!」

 王国騎士団も何も言う事が出来なかった。ヒロトシの主張はごく当然のものだったからだ。

「ヒロトシ君!頼むこの通りだ!これらを買い戻すとなれば、ミトンの町はどうなるか?火を見るのも明らかであろう」

「まあ、頑張ってください。俺の忠告を無視したからですよ。それに、この犯人達は貴族を恨んでましてね。クバードという兵士も悪いとは思いますが、主犯はこいつら3人ですよ」

「「「なっ!」」」
「俺達はクバードに金を貸していたんだ!それを返してもらって何がわりぃ」
「そうだそうだ!」
「そんな奴を警備にする方がわりいんだ!」

「お前等は本当に腐ってやがるな。自分の犯した罪を他の奴に擦り付けて罪を軽くしようとしてんじゃねえよ。お前等のせいでミトンの町は絶滅しかかっているのを自覚しろ!」

「「「ぬぐぐぐぐ!」」」

「じゃあ、シルフォード様後はよろしくお願いします」

 その場に残されたシルフォードと、町の幹部達は膝から崩れ落ちたのだった。それからしばらくして、クバードが遺体として見つかった。首をくくり自殺しており、側には遺書も見つかった。
 そして、この事で犯人の3人は、兵士の一人を罠に嵌めて自殺に追い込んだ事で、鉱山に送られる事なく極刑に処される事になった。

 そして、証拠の品がシルフォードからヒロトシに返還される事になる。

「ヒロトシ君、このたびは本当にご苦労であった……そして、これらの品は私に買い戻させてもらいたい……」

「シルフォード様、俺からも一言よろしいですか?」

「なんだね?買戻しの値段交渉かね?」

「いえいえ。違いますよ。俺が町に帰って来た時の言葉を覚えていますか?」

「町がもう終わりだと言った事かね?」

「ええ。このままじゃ本当にミトンの町は終わる事です」

「それはヒロトシ君が、これらの品を買い戻せと言うからであろう!」

「まあ、結論から先に言わせていただきます。これらの品をタダで返してもいいと思っているんですよ」

「それは本当かね!」

「ただし条件があります。今回クバードという兵士が犠牲になりました」

「あ奴は裏切り者だ!死んで当然だ」

「いいえ。あの者はシルフォード様の犠牲者の一人です」

「何を言っているんだ!何で私が!」

「確かに、町の復興という大変な時期にあんなことをしたのは許されぬ事です」

「そうであろう!あ奴のせいで、町は今混乱の渦になっておる」

「いいですか?そうなった原因は何でですか?兵が賭博にのめり込むなど今までそんなことがありましたか?俺は、そんなこと聞いた事もありませんよ?」

「私のせいだと言うのかね?」

「誰がどう見てもそうでしょ?兵士の勤務体制はどうなっているのですか?王国騎士団から聞きましたが、あんなハードな勤務、奴隷と一緒だと聞いていますよ?」

「だが、今回不祥事を起こしたのはあ奴だけだ。他の者は全員が町の為に頑張っておるではないか?」

「シルフォード様は、兵士をゴーレムと勘違いしているんじゃないのか?兵士も人間で個人差があるんですよ?」

「そ、それは……」

「今回事件が発覚したのはクバードでしたが、このままこういう事を続けたら第2第3のクバードが出る事になるとなぜわからないんだよ?」

「……」

「今回、これら商品はタダでミトンの町に返還しますが、町の復興計画を見直してください!それが返還条件です」

「ヒロトシ君、君は初めからそれを考えて、あの時これらの商品を自分の物だと主張したのかね?」

「どうとるのかシルフォード様自身です。俺は商人という立場で話しているだけですからね。この条件を飲めないのなら買い取ってもらい、自分の利益を追求するだけです」

「しかし……それでは復興が遅くなってしまう。だが、買い取るとなれば更に……分かったよ……その条件を飲む。だから、品物を返還してください」

 シルフォードに選択の余地はなく、ヒロトシの条件を飲むしかなかった。

「あーそうそう。クバードの家族の方にも謝罪をいれてくださいね」

「何で私が!」

「そりゃそうでしょ?条件を飲むと言うのなら、最初からそれをしていればクバードは犯罪に手を染める事はなかった。なら、今も堅実な兵士でいられたんですから」

「うぐっ……」

「今回クバードも犠牲者の一人ですよ。当然家族謝罪をいれて謝罪金を支払ってください」

「何で謝罪金まで!」

「クバードの家族は夫が犯罪者となって生活も出来ていない状態なんですよ?その謝罪金があれば他の町に移住することだってできるし、他の町ならレッテルも無く生活が出来るようになりますからね」

「それは出来ぬ!あ奴の心の弱さが招いた事だ!実際、あ奴が犯罪に手を染めたことには変わらぬ」

「そうですか……」

「ちょっと待ちたまえ!復興計画は見直す条件を飲むと言っておろう!」

「いえ、そうじゃありません。品物はミトンの町に返還させていただきます。クバードの家族はもうこの町では生活が出来ないと言う事ですね」

「ああ!それは諦めてもらおうか。クバードのやった事は消える事はないんだからな」

 ヒロトシは、ここまでは言う事を聞かせられなくて諦めたのだった。そして、盗まれた商品は全部ミトンの町へと返還し、町の役員達は歓喜に震えたのだった。
 そして、兵士達はもちろん冒険者や岩塩を採掘している生産達は、ヒロトシに感謝をした。

 そして、㋪美研ではセバスがヒロトシと話し合いをしていた。

「旦那さま。本当に良かったのですか?」

「しょうがないだろ……クバードのやった事は確かに許される事じゃないしな。だが、今回の一番の犠牲者はクバードの家族だったのかもしれないな」

「そうですね……」

「これからは、町の復興も無理をせず進んでいくだろうから、犠牲者は少なくなるだろう……」

「それでどうするのですか?」

「どうするとは?」

「クバードのご家族の事ですよ」

「どうにもできないよ。俺は何回も言うけど慈善事業をやっている訳じゃないからね」

「そうですよね……申し訳ありません……」

 セバスはてっきりヒロトシが、クバードの家族をここで面倒を見るのかと思っていたがそうじゃなかったらしい。
ヒロトシが責任を取ることはお門違いだったのだ。そして、クバードの家族は生活が出来ず口減らしの為、子供を奴隷商に売る決断をしたらしい。

 このミトンの町でさえ、こういう家族が出るほどに治安は安定していないことを分からされたヒロトシだった。



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