研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第5章 意外なスキル

8話 町の倉庫

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 クバードは、町の倉庫の鍵を渡してしまった事を後悔したが後の祭りだった。悪人たちはクバードに容赦をしてくれなかった。

「おい。クバード?どうしたんだ?」

「あっ!いや、なんでもない……」

「しっかりしろよ?今ミトンの町は大事な局面なんだからな」

「分かっているよ」

 町の倉庫には他の町に輸出する岩塩やシャープネスオイル、㋪美研から特別に卸して貰った宝石などが保管されていた。それらを警備するのがクバードの仕事である。

 兵士達は、最小限の人数で倉庫を守っていた。力のある兵士達は、ダンジョンの方に素材を取りに行ったりしていた。当然、町の警備や城門の警備、兵士のやる事は多岐にわたり交代制でやるのだが、今は連日勤務で大変であり、クバードはそのストレスから、やっともらった休日で賭博をしてしまったようだ。

 そして、夜中の一番疲れる3時ぐらいに野党が倉庫に押し入ったのだった。

「おい!早くしろ」
「そう急かせるな!」

 見回りや倉庫番の交代時間を狙った犯行である。10分ほどと短いが、この世界にはマジックバックという便利なものがあるので、片っ端からマジックバックに詰め込めば、10分という時間は十分すぎる時間である。これも鍵を手に入れれたからこそできる犯行だった。

「よし!全部詰込めた。ずらかるぞ」
「了解」

 犯行を行ったのはたった3人だった。交替の衛兵が戻った時には、倉庫には鍵がかけられ何もなかったようにされていたが、倉庫の中には何もなく全て盗まれていた。

 交代した時、衛兵は倉庫の鍵を開けて中を確認する決まりになっていた。衛兵達は寝ぼけ眼で、倉庫を開けて中を確認すると中にあったものが全てなくなっていた。

「な、なんだ?」
「これはどういうことだ⁉」
「中にあったものはどうした?」

 衛兵達は狐に化かされたのかと思い、その場に呆然となってしまった。

「これはいかん!」

 兵士達は警笛を鳴り響かせた。すると、宿舎から兵士達が急いでやってきたのだった。

「どうした!」
「なにがあった?」

「倉庫の中身がすべて消えてしまったのだ」

「馬鹿な事を言うな!先ほどまであったのだぞ?」

「しかし、我々が来たらこの通り中身は全てなかったのだ!」

「お前達の前の班は、交代時倉庫の中は?」

「はっ!確認しましたがちゃんとありました」

「じゃあ、いつ消えたと言うのだ?これはいかん!すぐにシルフォード様に報告をしないと……」

「分かりました!すぐに報告を!」

 部下の兵士がその足で報告に向かった。他の衛兵は町中に捜索に出たがすでに盗賊は町を出ていた。

「へへ!楽勝だったぜ」
「ああ!鍵さえあればこんな楽な仕事はあるまい」
「それにしても、兵士の一人を嵌めるとは兄貴は頭がいいな」
「本当だぜ!これを闇ギルドに売れば一生遊んで暮らせるぜ」
「そうだな!あの兵士も馬鹿な奴だ。まあ、後の事は俺達の知った事ではないがな」

 盗賊の3人は闇夜に消えて行ってしまった。

 その頃、シルフォード宅では盗賊の事が報告され、倉庫の中身が全て盗まれた事が報告されていた。

「な、なんだと?それは本当か?お主達は一体何をやっておったのだ?」

「申し訳ございません!」

「それで賊は捕らえたのか?」

「今、町の中を全兵士が捜索している最中でございます」

「絶対に逃がすでない!分かったな?」

「はっ!」

「分かっておろうが、あの輸出商品がなくなればミトンの町は終わりだぞ?それと、侵入経路の捜査も急げ!」

「はっ!」

 町中、その夜は騒然となっていた。夜中だと言うのに兵士が街中を捜索し、平民の家の扉を叩き不審な物音を聞いたか見たかを聞きにまわっていたのだ。

「おい!起きろ!」

 兵士は民家の扉を叩き、平民を起こしまわっていた。

「な、なんでしょうか?こんな夜中に?」

 明らかに家の者達は寝ていたようで、夜中に叩き起こされて不満そのものだった。

「夜中にすまぬ……不審な物音とか聞かなかったか?」

「何を言ってんですか?今の今までぐっすり寝てましたよ。何かあったのですか?」

「恥を忍んで言うが、町の倉庫に盗賊が入ったのだ。何か不審な物音を聞かなかったか?」

「私たち家族は全員寝てました……お役に立てそうもありません」

「そ、そうか……夜中にすまなかった」

 兵士は、血相を変えて次の民家に情報を得ようとしていた。他の兵士はスラム街に入ったりもしていた。しかし、何も情報を得る事は出来なかった。



 次の日の朝、㋪美研にも噂が耳に入ってきたのだった。

「あ~あ……とうとう警備の穴をつかれちゃったか……」

「旦那様は、この事を予想されていたのですか?」

「いいや、知らないよ。俺は町の事を忠告をしただけだよ。あんな警備態勢で長く続くわけないだろ?」

「どういう事ですか?」

「俺は町の復興作業は、10年単位で考えるべきだと忠告しただろ?シルフォード様は急ぎ過ぎなんだよ。だから、悪党に隙を作る事になったんだ」

「ですが、早急に復興しないといけないのでは?」

「そのせいで倉庫の品物は盗まれて、予算が組めなくなってしまったんだぞ?おかげで復興は滞ってしまい、このままでは政策の失敗だよ」

「そ、それは……では、これからどうすれば?」

「それは俺達の考える事じゃないよ。シルフォード様や町の役員達の仕事であって、俺達には関係ない事だよ」

「ですが……シルフォード様は、旦那様に協力を要請してくるのでは?」

「そうなれば協力をすればいいだけだよ。何も問題はないだろ?」

「そうですか……」

「ただ、俺の忠告を無視したツケはちゃんと払ってもらうけどな」

「ツケとは?」

「俺だって商人の端くれだよ?タダで協力はしないさ。その依頼を俺に出す事で町の予算がかかると言う事だよ」

「な、なるほど……」



 その日の昼に、シルフォードと役員達はヒロトシに協力を募ってきた。

「ヒロトシ君、申し訳ない……宝石をもう一度磨いてくれないか?」

「それは構いませんが、前回納品した料金を払ってください」

「それはちょっと待ってほしい」

「それは無理です。俺の宝石はそれなりの値段がします。前回のモノも売れたところから支払われるはずだったはずです。その支払いが無いのに次の宝石を納品しろというのは筋が通らないです」

「それはそうなのだが……倉庫の商品が昨夜盗まれてしまったのだ」

「それはお気の毒としか……ですが俺には関係ない事です。納品はちゃんとすませたのですよ。それも後払いという条件を飲んでです」

「そ、それは……」

「だから、俺が言ったじゃないですか?兵士達に休憩を取らせろと……」

「……だが、そんな事をすれば復興が……」

「しかし実際の所、町の倉庫に盗賊に入られ、復興予算になるはずの商品は盗まれてこれからどうするのですか?町の復興は滞るばかりか行き詰りましたよね?」

「だが、無理をしてでも……」

「今まで兵士達が倉庫の中身を盗まれた事は?」

「そんな事はあり得ない!」

「ですよね?それは今までちゃんと交代制で休暇もあったからだ。今は休暇もなく疲れきっていて万全な警護が出来ると本気で思っているのですか?それも復興の間、ずううううううううとそんな警備体制が出来ると本気で思っていたのですか?」

「うぐっ……しかし予算が無ければ、建築資材も手に入らないのだ。最近では冒険者達も素材を持ち帰ってこないのだ……」

「そりゃ当り前ですよ。冒険者は休憩も仕事の内です。高ランクになれば高ランクになるほどです。低ランクでは素材を持ち帰っても無理をすれば依頼失敗になりますからね。そんなの当り前の事じゃないですか?」

「だが……」

「その協力は他の所にも要請をしているのですか?」

「当然だ。建築素材を出してもらうようにお願いをしておる」

「それで資材は集まりましたか?」

「……断られた」

「まあ、そうでしょうね。材木屋も生活がありますからね。職人に給料を払わないといけないんですし、倉庫に賊が入った事は材木屋には関係がないことでしょうし」

「それではどうすれば!」

「これは、シルフォード様や役員達の責任ですよ。俺はちゃんと苦言しに行きましたよね?」

「それはそうだが……こんな事になるなんて」

「想定外なんて言わないでくださいよ。この町は犯罪者が全くいない治安の良い町ですか?と忠告したはずです」

「そ、それは……」

「とにかく、そんな都合の良い協力はできません。俺に動いてほしいのなら、それなりの企画書をお願いします。あと、盗まれた宝石の支払いも忘れないでくださいよ」

 それを聞いた、シルフォードと町の役員達はその場に崩れ落ちた。シルフォード達は反論が出来なかった。ヒロトシの言う事は当然であり支払いが無いのに、新たに商品を納品してくれと言われても断られるのは当たり前の事だからだ。
 その新たな宝石も支払いを待って欲しいと言えば、誰でも断られるのは当然である。シルフォードも返済計画の企画を立てる為、役員共々㋪美研を出ていくしかなかった。

 そして、ヒロトシはシルフォード達は店から帰った後、シアンとセレンを呼び出した。

「シアンセレン呼び出して悪いな」

「「いえ」」
「それで、要件は町の倉庫に押し入った賊の手がかりを掴めと言う事でしょうか?」

「ああ!よろしく頼む」

「「承知いたしました!」」

 シアンとセレンはそう言い残し、その姿をスッと消したのだった。

「旦那様。今更二人を動かして犯人を捕らえる事が出来るのですか?」

「まずは内通者のあぶり出しだ。犯人が捕まるかどうかじゃないよ」

「内通者ですか?」

「まあ、内通者がいないと町の倉庫から盗みに入るなんてできないからな」

「ですが……内通者となると兵士様がですか?そんなことがありうるのですか?」

「兵士も人間だよ。今の勤務状況なら謀反を起こしてもあり得ない事ではないよ」

 セバスは、ヒロトシの説明にまさかという様な顔をしていた。


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