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第5章 意外なスキル

7話 復興のシワ寄せ

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 ヒロトシが、ミトンの町戻ってきたことは、町の話題をさらっていた。それはビアンカの存在にあった。

「すいません」

「あっ!ヒロトシ様どうなされましたかって……ド、ドラゴン?」

 商人ギルドにやってきたヒロトシの肩に、ドラゴンの赤ちゃんが乗っていたからだ。

「そうなんだ。テイム生物の登録をしておこうと思ってな」

「ちょ、ちょっと待ってください!テイムは動物しか出来ないはずでは?なんで魔物をテイムしているんですか?」

「ああ……ちょっと訳があってな。王都に行った時にテイムできてしまったんだよ。テイムしたとなれば登録は義務になるだろ?」

「確かにそうですが……大丈夫なのですか?」

『あたしは暴れたりしないよ』

「しゃ、しゃべった?そのドラゴンは人の言葉が分かるのですか?」

「ああ、ちゃんと意思疎通ができる賢い子だよ。名はビアンカというし危険など無いよ」

「そ、そうですか……分かりました。テイム生物として登録します」

 ビアンカはヒロトシのテイム生物として登録され、ギルドカードにちゃんと記載されたのだった。そして、ビアンカは㋪美研のマスコットキャラとして人気が出たのだ。この人気に便乗し、ビアンカにはサンライトの看板娘となった。特に町の子供達に人気が出たのは言うまでもなく、子供達が店の前に集まっていた。

 サンライトでは、小さなモフモフのドラゴンが料理を運ぶことで話題をさらっていた。

『おまたせした。早よ食え』

「「「「「かわいいい!」」」」」

 食事を運ばれたテーブルは、ビアンカの姿に騒ぎ、他のテーブルは自分の所にも来てほしくて、注文をするという連鎖が起こっていた。

 ビアンカのおかげで、サンライトの売り上げは確実にあがっていた。そして、ユリアの言っていた幸運の龍という守り神というのはあながち嘘ではないようだった。
 ミトンの町で復興のため急ピッチで建設が行われていたが、急げば事故が起きるのは世の常である。
 
「あっ!人が落ちたぞ!」
「早く医者を呼べ!」
「ポーションを用意しろ!」

 大工職人達は、仲間の事故に騒然となっていたが、その足場から踏み外した職人は運が良かったのか、落ちた下には土嚢が積まれていて、それがクッションとなり傷一つなかった。
 ある時は、トンカチで釘を打っていたところ手が滑ってトンカチが下に落として、下にいた作業員が怪我をしてもおかしくはなかったが、ちょうど土嚢を担いだところにトンカチが落ちてきて怪我をまのがれたりと幸運が重なることが多かった。
 その幸運がビアンカのおかげという事は、証明できなかったが町中で不幸が少なくなっていたのは事実だった。

 その中ヒロトシは、シルフォードの会議室にやってきていた。ヒロトシはミトンの町の復興について忠告をしに来ていた。

「今日はちょっとシルフォード様に苦言を言いに来ました」

「苦言とはどういう事だね?」

「復興は大事ですが、もう少し余裕を持った方がいいかと思います」

「余裕を持てだと?今は少しでも家を建て直さないと……」
「そうだ。今この町に必要な事は無理をしてでも、町の復興をすることだ」
「少しでも早く公共施設を建て直し、手抜き工事で倒壊した建物をだな建て直すべきなのだ」

「しかし、事故が多発していると……職人に休暇を十分与えたうえで進めるべきです。それに兵士もストレスが溜まっていると噂で聞いてますよ?」

 兵士の中にも余裕が消えて、町の人間に辛く当たる人間が出ているようだった。

「しかし、それは分かっているがここは無理をしてでも……」

「それは反対です!俺から言わしたら貴方達ももっと休憩を取るべきだ。上が休まないからこういう雰囲気になるんだ」

「馬鹿な!我々が休んでどうする?」
「そうだ!こういう時こそ我々が見本となって必死さをアピールせねばならんのだ」

「いいですか?復興を急ぐ気持ちは分かります。しかし、貴方達は人間で休憩は必要なんです」

「そのような事を今は言っている場合ではないんだぞ?」

「いいえ。言っている場合です。シルフォード様貴方いつから寝ていないのですか?フラフラではないですか?そんな事で冷静な判断ができるのですか?」

「そ、それは……」

「皆さんもそうです。ふらふらになっているシルフォード様をフォローするのが正解なのに、一緒になってふらふらになっていてどうするんですか?」

「しかし……」

「しかしもかかしもないです。ここでシルフォード様が倒れたらどうすると言うんですか?副委員長が全責任を取って舵を取るつもりですか?」

「い、いや……それは……」

「それとも生産ギルドマスターさんですか?」

「我々ギルドは町の復興の手伝いをだな……」

「じゃあ、商人ギルドですか?ベネッサさん?何で目をそらすんだ?」

「坊や……それはいくらなんでも無理というもんじゃ……あたしにもやる事はいくらでもある」

「だったら、今のやり方は止めてください!言っておきますが悪人はこういう穴を見つけて犯罪を犯しますよ?」

「そんな事が起こるというのか?」

「あくまでも心配事の一つです。こういうのは最悪の事態を考えてくださいと言っているのです。兵士や冒険者が疲れている今、もしスタンピードが起こったらどうすると言うのですか?」

「そ、それは……」

「また俺におんぶにだっこするつもりですか?」

「「「「「「えっ⁉」」」」」」」
「ヒロトシ君は助けてくれないのか?」

「いいえ?助けますよ」

「だったら……」

「本当にその考えでいいのですか?もし、今の状態で俺に依頼した場合、貴方達の自業自得としてあり得ない報酬を請求させていただきますよ。それこそ復興予算が足りなくなるくらいに!」

「ば、馬鹿な!常識という物があるであろう」

「そうですか?非常識な事をして町の人間をピンチにしている貴方達に言われたくないですが?」

「ぐっ……」

「ここは魔物がいない安全な場所ですか?闇ギルドや犯罪者がいない治安のいい町ですか?」

「そ、それは……」

「そんな事も分からなくなるほど、冷静な判断が出来なくなっていて、何が復興ですか?もし今のようなピッチで作業を進めるのなら、もっと人員を確保してやってください!」

 ヒロトシは、シルフォード達に忠告をしてその場を後にした。しかし、復興の事がどうしても気になり、町の責任者達は寝る事を疎かにしてしまい、遂に犠牲者が出る事になってしまった。



 ミトンの町のスラム街で一人の男が、賭博場で借金が膨らんでいた。

「すまぬ!後、10万だけ貸してくれ!」

「クバードさんや……あんた、もういくら借金があるか自分で知っているのかい?」

「後10万あれば絶対に取り戻せる!だから……」

「あんたが、いくら衛兵の一人だからと言っても、これ以上は無理というもんだ」

「そ、そんな!」

 ヒロトシの危惧した事が、起ころうとしていた。兵士は日頃のストレスで博打に嵌っていた。

「しかし、我々に協力してくれると言うのなら、後10万ぐらい貸してやれるんだがな」

「協力とは何だ?」

「町の倉庫の鍵を頂こうか?それと見張りと巡回時間を教えてくれよ」

「馬鹿な!そんな事教えれるわけなかろう!」

「それならいいんだぜ。給料の差し押さえと支給品の剣と鎧は担保として頂くことになるけどな」

「ちょっと待ってくれ!」

 ヒロトシの心配事は現実のものになりそうだった。仕事があまりにきつくなったことで、ストレス発散の為に兵士が犯罪者に弱みを握られてしまった。

「だったら、どうするかわかるよな?」

「だが!鍵を取られれば俺だと言う事が分かってしまう……それだけは勘弁してくれ!」

「大丈夫だよ。1日だけ預かるだけだ。スペアキーを作らせてもらうからよ」

「だったら、お前から鍵が紛失した事にはならねえだろ?それに、町の倉庫の物が手に入ればお前の借金はチャラにしてやるよ」

「ほ、本当か?」

「嘘は言わねえよ。で、どうする?」

 クバードはその甘い言葉に、悪人たちに警備の情報と共に鍵を渡してしまった。




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