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第5章 意外なスキル

4話 ビアンカ

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 ヒロトシが魔の森から出てきた魔物達の前に立つと、魔物達の進行が止まり、今まで何かに怯えて逃げてきたはずなのに、その何かよりヒロトシの方が恐怖に感じ、魔の森へと逃げだした。
 これは、フェンリルの加護の影響だ。しかし、地竜はレベルが高くこの恐怖をレジストしたようだ。地竜だけはヒロトシに向かって突進してきた。

「エアーバースト!」

 ヒロトシは、地竜を鑑定し土属性と見破っていた。まあ、名前からして土属性だと分かるのだが。そして、弱点とされる風属性の魔法エアバーストを撃ちこんだのだ。ヒロトシ専用の武器は当然装備した上で、魔法を放ったのである。
 エアーバーストとは、空気を圧縮し空気の塊を高速で発射する魔法で、当然その空気の球は見えない。

『ぎぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
 
 地竜の首にエアーバーストのダメージを与えたのだが、あまりのダメージに地竜が咆哮をあげてのたうち回っていた。その咆哮は当然王都まで届き、平民達は何が起こっているのか分からず恐怖におののいていた。

 王都の兵士は、遠くで起きている事に何が起こったのか理解が出来なかった。地竜がヒロトシの魔法一発で倒れ込んでいたからだ。

「おい!いったい何が起こったんだ?」

「ここからではちょっとわかりかねません!ただ、ヒロトシ様がドラゴンに魔法を撃ったようです」

「魔法一発で食い止めただと?そんなバカな!」

「しかし隊長!これで王都に被害はなくなりそうですね」

「ああ……これもヒロトシ様のおかげと言えよう……」

 ヒロトシが第2発目のエアーバーストを放とうとした時、魔の森の方向から何やら物凄い威圧を感じた。その威圧にヒロトシは冷静に振り向くと、そこには一匹の真っ白で毛がフワフワに生えた小さなドラゴンがいた。それを見た地竜は、ヒロトシに構わず魔の森の方向へ逃げていった。

「魔の森の魔物は、お前にビビって逃げ出したと言う訳か」

 ヒロトシは、これからが本当の戦いになると思い、そのドラゴンに構えをとった。

 すると、そのドラゴンはがヒロトシの頭の中に直接語り掛けてきた。

『ねえ、貴方だあれ?今まで見たことのない形をしているのね?』

「えっ?ドラゴンがしゃべった?」

『ねえ、あたしが近づいても逃げなかったのは貴方が初めてなの?』

「俺はヒロトシだ。形っていうな俺のような人間に会ったのは初めてなのか?」

『うん……』

「お前の親はどうした?」

『親ってのは知らない。あたしが目を覚ましたら誰もいなかった……だから、あたしは周りのものに話しかけたの?でもみんな逃げて行くばかりで貴方みたいに話してくれなかった」

「お前、ひょっとして生まれたばかりか?」

『生まれた?よく分からないけど、目が覚めた時白い欠片があったよ』

 ヒロトシは卵の欠片だと思った。

「まず、みんなが逃げた原因は、お前から発せられる威圧のせいだな。その威圧を抑える事が出来るか?」

『こう?』

 ドラゴンは、自分の魔力を抑えた。

「それならもうみんな逃げないと思うぞ。だからもう森の中に帰るんだ」

『えっ⁉』

「ここから先は人間が住む領域だ。お前達魔物が住める場所じゃない。悪い事は言わないから自分の住かに帰るんだな」

『いや!せっかく話し相手を見つけたのにあんな所に帰りたくない』

「そんな事言われても、お前が人間の世界で住めるわけないぞ。下手をしたらお前は迫害されかねないぞ?」

『それでもあんなとこに戻りたくない!貴方についていく』

 生まれたばかりの白竜はヒロトシに懐いたみたいだった。白竜はとてとて歩き、ヒロトシの足元にへばりついてきた。

「お前、俺が怖くないのか?」

『なんで?初めてお話が出来たのよ。あたしは貴方についていく』

「っていうか、お前には親がいるかもしれないだろ?」

『親ってなに?』

「お前に似た真っ白な竜の事だよ。側にいなかったのか?」

『いなかったけど、珠の中に時々映っていたのはいたよ』

「球の中?」

 ヒロトシは、その竜から事情を聴くと竜水晶というのがあって見せてもらった。白竜は、口から綺麗な水晶を吐き出した。
 鑑定すると竜水晶は前世の記憶とあった。つまり、この水晶を見て世の中を覚えるようで、親というのはいなかった。
 つまり、この白竜は詳しい事は分からないが一度生を全うし、生まれかわったものだとわかった。

「お前は、この水晶で世の中の事を覚えて一人で暮らした方がいいぞ?この竜水晶はあらゆる知識が詰まっているから困る事はないしな」

『いや!じゃあ、この水晶を持っていけばどこでいてもいいでしょ?』

「そうじゃない。お前が人間社会で生活は無理だと言っている」

『大人しくするから!だから一緒に』

 ヒロトシは困ってしまった。この白竜は生まれたばかりで不安だったのだろう。周りに魔物はいるがしゃべる事も無く逃げ回っていたのだ。
 ヒロトシはいい案が無いか考えて、この白竜をテイムできないか試してみた。テイムできれば、自分が従えている動物としてギルド登録すれば何とかなるかもしれないと思ったのだ。

「じゃあ、一つ試してみたいことがあるから協力してくれるか?」

『一緒にいてくれるの?だったらいいよ』

 ヒロトシはこの白竜にテイムを試すと、白竜の身体がパッと光ったのだ。

「テイムが成功した」

『これで一緒に行けるの?』

「ああ、なんとか行けるかもしれないな。だけど、とりあえずしゃべるなよ。黙ってればお前は子犬のように見えないか……まあ、従魔として認められれば……」

 どう考えても無理があった。真っ白でフワフワの毛が生えた子竜であり、背中には真っ白な綺麗な羽根まで持っていたからだ。

「まあ、テイムが成功したし何とかなるだろう。そういえば、俺はヒロトシと言うんだ。お前の名前はなんだ?」

『ビアンカ』

「そうか。白って意味だな」

「ビアンカこれからよろしくな」

『うん』

 白竜のビアンカはパタパタ羽ばたき、ヒロトシの肩に乗った。ヒロトシはそのまま王都へと帰ると兵士達がヒロトシの姿を確認できて歓声をあげていた。

「「「「「「ヒロトシ様万歳!」」」」」」
「貴方は王都でも英雄です!」
「すごいぞ!あの地竜を一人で退けた!」

 そして、近づいたヒロトシを見た騎士全員が呆気にとられた。

「ヒ、ヒロトシ様それはいったい……」

「ああ!俺のテイム動物だよ」

「テイムって……どう見てもドラゴンの赤ちゃんじゃ……何でそんなものを……」

「まあ、話は長くなるがローベルグ様に報告してきてくれ。もう王都はもう大丈夫だって」

「それはもう伝令を走らせています。しかし、ドラゴンの赤ちゃんを王都に入れる訳には……」

「だ、駄目なのか?この子はビアンカと言って今まで独りぼっちだったんだ。だから俺が一緒にいてやろうと約束をしてテイムをしたんだ。危なくなんかないよ?」

「そうは言っても、今まで魔物をテイムしただなんて実例はなく動物だけでした……」

『ねえ、ヒロトシ……一緒に行けない?』

「いや、大丈夫だよ。俺の村があるからそこには入る事が出来るよ」

 そこに、ローベルグと上級貴族が城門までやってきた。

「ヒロトシ!魔王に続きドラゴンまでよくやってくれた!感謝する……って何だ⁉」

「ローベルグ様この子を王都に入れさせてくれませんか?俺のテイム動物です」

「なんだと?どう見てもドラゴンじゃないか?ドラゴンをテイムしたと言うのか?」

「誰か!鑑定を」

 すると確かに、テイムされていた事が分かった。

「ヒロトシ、まずはスキルで厩舎があるだろう?そこに入れてもらえるか?」

「わかった。ビアンカここに一回入ってもらえるか?」

『分かった』

 ビアンカは厩舎に入るとすぐに出てきた。

『中、誰もいない……あたしはあんなとこに入りたくない』

「ローベルグ様、ビアンカは入りたくないそうです」

「しかし……そのまま魔物を町の中に入れる事は……何かあったら問題になるからな……」

「でも、俺のテイム動物ですよ?」

「テイム動物と言われても、動物じゃなく魔物ではないか?」

『ねえ、その姿になればヒロトシと一緒にいける?』

 ビアンカは、ローベルグに思念で喋りかけた。

「しゃべった?そのドラゴンはしゃべれるのか?」

「あっ、ビアンカしゃべるなと言っただろ?」

『ごめんなさい』

「それで何を言ったんだ?」

『ヒロトシのような形になれるよ?それでもだめ?』

 そう言うとビアンカの身体は光り輝き、人間の姿へと変化した。ビアンカはとんでもない美少女となり、白髪だがその髪はサラサラで陽に照らされ銀色にも見えた。

「これでどう?」

「ば、ばか!何て格好を!服を着ろ!」

 ヒロトシは慌てて、インベントリからローブを取り出し、ビアンカに被せたのだった。ビアンカに服を着るという発想がないので無理はなかった。

「何かまとわりついて嫌だ……脱いでもいい?」

「駄目だ!人間の姿になるなら服は着ろ。それがルールだ」

「何か面倒くさい……」

「だったら森に帰るんだな」

「えええええ!そんなのもっと嫌だ」

「ローベルグ様、こうやって意思疎通ができるし人間みたいでしょ?それに俺の村に連れて帰るからいいだろ?」

「わかった。こうして意思疎通ができると言うのなら差別してはいかんな。ビアンカだったな。お主を王都に入れることを許可しよう。そのかわり、人の迷惑になる事をしてはいけない。わかったな?」

『わかったよ。ありがとう!ローベルグ』

 ビアンカはローベルグを呼び捨てにして周りをひやひやさせた。しかし、まだ生まれたばかりのドラゴンの赤ちゃんにうるさく言うことも大人げないのでローベルグは大声で笑っていた。


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