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第4章 魔道スキルと研磨スキル

38話 王国領に連絡

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 ヒロトシ達がその話し合いをしていたころ、新しくできたダンジョンの底では、ある人物が大笑いしていた。

「わははははははは!我が居城が出来たな」

「魔王スルト様。おめでとうございます!」

「お前もご苦労だったなカミュラ」

「勿体ないお言葉です」

「それにしても、いきなり我が居城に入って来るとは無礼な奴らだ」

 ミトンの町に地震が襲ったのは、この新しいダンジョンが出来たせいだった。このダンジョンは魔王スルトが無理やりその魔力でこじ開けたもので、階層も1階だけで奥にお城があるだけだった。つまり、魔物が少なかったのも道理であり、魔王の配下の者がいるだけだ。

「あたしとしては好都合でした。久しぶりに味わう人間の生き血は美味でしたわ」

「そうかそうか!侵入者はお主に任せるから良きにはからえ」

「承知いたしました」

 ヒロトシ達は、この事実にまだ気づいていなかった。まさか魔王スルトがこのように復活することになるとは誰も予想だにしていなかった。
 この地点でもう人類にとって脅威のモノであり、魔王復活が現実のものとなった。つまり、これはもうヒロトシがどうこうするものではなく、国王陛下が出張るような案件だった。



 その頃、天界では騒然となっていた。

「ど、どうしましょう!まさか魔王が地上に降臨するなんて予想外の事だわ」

 女神ミレーヌ=アルフフォードはこの状況に焦っていた。まさか、闇ギルドの総帥が魔王を呼び出す事に成功するなんて思いもしなかったのだ。早くなんとかして、対策を練らなければ地上はとんでもない事になってしまう恐れがあった。

 ミレーヌもヒロトシに事情を説明したかったが、教会に来てくれないとコンタクトが取れないでいたのだ。ここ数年、ヒロトシは毎朝のお祈りをしていなかった。1ヶ月に1回お祈りで来たらいいほどであり、信仰心も成長しておらず1レベルのままだった。

「ヒロトシさんに連絡が出来ればいいんだけど……最近は忙しそうですしね。お祈りに来てくれれば、まだ何とか天界に呼び出す事が出来るのですが……」

「ミレーヌ様。ジェシカにコンタクトを取ってみたらいかがでしょうか?」

 ミレーヌの側近である天使のセラフィムがそう答えた。

「なるほど!それはいい考えね!」

 ミレーヌはすぐさま、ジェシカにコンタクトを取ることにした。ジェシカは650歳のエルフである。信仰心が最近5レベルになったばかりのクレリックだ。
 ジェシカはその昔、現王国国王陛下ローベルグの元パーティー【ドラゴンスピリッツ】のメンバーである。パーティーを解散したのち、ジェシカは自分の国アースレイト島というエルフ国に帰国していた。
 アースレイト島は、王国よりさらに東にある帝国領から南にある島の名前だ。殆どが密林でその中心部には世界樹という樹齢何万年じゃ測れない程、太古の昔から存在する大木があるエルフの国である。ジェシカは、そのエルフ国の森の中で隠居生活をしていた。

『ジェシカ……ジェシカ……私の言葉に気づいて下さい!』

「ま、まさか!女神様ですか?」

『はい!良ければ教会まで来ていただけると……』

「わかりました!すぐに教会へ」

『申し訳ありません……報せたい……事が……』

 そこでぶつりと言葉が切れてしまった。ジェシカは、まさかの女神からの啓示に興奮していた。信仰心が5レベルとなり初めての啓示だった。
 650年という長きにわたり、女神を信仰してきて本当に良かったと思い、急いで森から出る事にして中心部にある大聖堂に向かった。
 エルフ国では、ジェシカが森から出てきたことに驚きを隠せなかった。ここ数十年一切自分の家から出てこなかったのに、大聖堂に顔を見せたのだ。

「ジェシカ様だ」
「本当だ。久しぶりにみた」
「しかし、本当に美しい方だなあ」

 ジェシカは、エルフの中でもその美しさは群を抜いて美しい容姿をしていた。その髪はブロンドで光り輝き、絶妙なバランスで顔のパーツが整い、神の造形美かと思う程だった。

「少しお祈りをさせていただくわ」

「は、はい……」

 大聖堂にいたエルフのシスターは、ジェシカのあまりの美しさに見惚れてしまい言葉がうまくしゃべれなかった。

 そして、ジェシカは大聖堂の女神神像の前に膝まつきお祈りをすると、女神神像が輝きだし、ジェシカを包み込んだ。それを見た聖職者たちは、感動のあまり涙を流し出すほど感動した。

「ジェシカよくおいでになりました。感謝します」

 ジェシカは、ゆっくり目を開けるとそこは一面お花畑で、女神ミレーヌがお茶を飲んでいた。

「こ、ここは……」

「ここは天界になります。貴方は精神体になり天界にきています」

「ミレーヌ様と会話できる日が来ようとは、このジェシカ恐悦至極に存じます」

 ジェシカはミレーヌと会話できたことに涙を流していた。

「ジェシカ、今日はお呼びたてして申し訳ございません。時間が無いので簡単に説明します」

「何か私にできる事が?」

「はい!貴方はヒロトシさんと言う人間をご存知ですか?」

「確か王国領に出現した英雄とききましたが?」

「その通りです。その者に地上に魔王が復活したと報せてほしいのです」

「ま、魔王ですって⁉まさかまたベルゼバブが?」

 ジェシカは、魔王の存在を知っていた。その昔、王国領の英雄が討伐したと伝承があり、それを知っている者はもうエルフの国にも数えるしかいなかった。
 当然、ジェシカも当時の事は知らない。エルフの村長が、かろうじて生まれたばかりの時代の事である。

「いえ……ベルゼバブではありません。スルトと言う名の炎の魔王です。闇ギルドの総帥が呼び出してしまったのです……」

「しかし、魔王などどうすれば……」

「大丈夫です。ヒロトシさんは少し職人気質な所はありますが、あの程度の魔王に負けるような人ではありません。しかし、今の状況はヒロトシさんが動く事はありません。なので、報せてあげてほしいのです」

「報せろと言われても、私にはそのヒロトシさんとの面識はないのですよ」

「大丈夫です。ヒロトシさんはローベルグさんと友人関係にあります。貴方は、ローベルグさんに名前呼びを許された元パーティーメンバーです。まずはローベルグさんとコンタクトを取ってください」

「ローベルグと友人?そんな事があり得るのですか?」

 ジェシカは、その事実にびっくりして声を荒げたのだった。ローベルグは自分が気に入った人間には、それなりの強さを示す必要があるのだが、あの戦闘狂に認められる強さはまず示す事が出来ないのを分かっていたので開いた口が塞がらなかった。

「ええ!貴方もヒロトシさんに会ったら気に入ると思いますよ」

「まさか?」

 ジェシカは自分の性格をよく知っていた。とっつきにくい性格で、人見知りの自分が気に入るには相当の時間が必要なのを。

「とにかく今は一刻を争います。魔王スルトは部下を召還し始めています。現在はバンパイアの真祖というカミュラを召還し、偵察に行った冒険者を全て殺してしまいました」

「し、真祖ですか?」

 真祖を部下につける魔王の存在に、ジェシカは言葉が出なかった。自分が現役の頃に討伐した最高峰の魔物以上の魔物が召還されていたからだ。
 バンパイアウォーロードやクイーンとかではない。それらの最高峰に位置するのが真祖である。つまり、生まれながらにしてバンパイアなのが真祖と言われる魔物である。

「そんな化け物を相手に……私達では足手まといに……」

「いいですか?貴方達でもその魔王に相手することは可能です。しかし、今は時間がありません。とにかくヒロトシさんにこの事を!」

「わ、わかりました」

「申し訳ありません……時間来たようです。貴方ほどのエルフを使い走りのような事をする私を許してくださいね」

「そんな!こうしてお話をさせていただき私は幸せでございます」

「貴方なら、こうして短時間なら話す事は可能ですので、又お祈りに来てくださいね」

 女神ミレーヌが、そう言った所で天界は雲に包まれたように真っ白になりフェードアウトした。

 そして、ジェシカはお祈りをやめ目を開けると、そこはエルフの国の大聖堂であった。

「ジェシカ様!まさか、女神様の啓示が?」

「ええ。女神様とお話をさせていただきました」

「本当ですか!それは凄い事です。それでなんと?」

「今、王国に大変な災いが起ころうとしています。それをわざわざ私に啓示としてお伝えしてくれました」

「すぐに連絡を取らせてください!」

 ジェシカは、エルフ国の冒険者ギルドの連絡ツールを使わせてもらった。

「こちらエルフ国冒険者ギルドです。王都本部応答してください!」

「はい。こちら王都本部。何かありましたか?」

「わたしは、元ドラゴンスピリッツSSランク冒険者ジェシカと言います。国王陛下ローベルグに緊急の用事とお伝えしてくれませんか?」

「ジェ、ジェシカ様⁉ドラゴンスピリッツのジェシカ様ですか?」

「そうです。今、女神様から啓示がありました。それを伝えるのでローベルグによろしくお伝えください!」

「わ、わかりました」

 ジェシカは先ほどあった事を、その王都本部のギルド職員に伝えた。

「そ、それは本当ですか?」

「ええ!魔王がミトンの町付近に復活しました」

「わ、分かりました……すぐにお伝えします」

 この事はすぐに、国王陛下に伝えられた。すると、信じられない事だがすぐに国王陛下が冒険者ギルドに現れたのだった。

「こちら王都本部だ?本当にジェシカなのか?久しぶりだな」

「貴方も相変わらずね」

 1時間後にすぐ折り返すようにとジェシカに言われていたので、大急ぎで本部の人間は王城に連絡を入れたのだった。そして、ドラゴンスピリッツのメンバーからの連絡は、どんなことも優先しろと指示を出していたローベルグはこうして本部に来たのだった。
 町の中は騒然として、土下座する人間で溢れていたのは言うまでなかった。

「お、おい……何でこんなところに国王様が来るんだよ……」
「知らないわよ……」
「いつまでいるんだ?」
「だから知らないって」

 冒険者ギルドのホールは、冒険者達が頭を下げ続けてひれ伏せていた。



「それで、その話は本当なのか?」

「ええ。本当よ!私もとうとう信仰心が5レベルになったのよ。それで女神様と交信できるようになって啓示を下さったの」

「まじか……人外と言われる5レベスキルに」

「そんな事はどうでもいいの。貴方の方からヒロトシさんですか?その方にこのまま連絡を入れていただきたいのです。貴方の言う事ならヒロトシさんも動いてくれるはずです。どうか頼みますよ」

「わ、分かった……女神様の指示と言うのならそう伝えよう。しかし、本当なんだろうな?」

「当たり前です!嘘を言ってわたしに何の得があると言うのですか?」

「わかったよ!そんな怒るな。しかし、こうして又話が出来るとは思わなかった。またいつでも、王都にきてくれ」

「貴方が生きている間にもう一度会いたいわ。じゃあ、後はよろしく頼みましたわよ」

「ああ……我が国のピンチを報せてくれて感謝する。ありがとう!」

「ふふっ。どういたしまして」

 そういって、短時間ではあったが、ローベルグはジェシカとの会話を終わらせた。




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