上 下
151 / 347
第4章 魔道スキルと研磨スキル

34話 身代わりの犠牲者

しおりを挟む
 孤児院を建築した棟梁のダニエルは、日々町の人間から責められていた。そして、シルフォードは燃え尽きてしまった孤児院の跡地に出向き視察を繰り返し、手抜き工事の片りんでもいいので見つけようと必死だった。

「やっぱり犯人の奴証拠隠滅を図ったみたいですね。すぐに瓦礫を調べろと言ったのに、なんで三日も経ってからなのですか?」

「ヒロトシ君!何でここに?」

「証拠の品を持ってきたからですよ」

「そんなのがあるのかね?これらを見たまえ……全部炭になってしまっているんだ」

「俺は今回の地震で、瓦礫の下から子供達を救いました。その時、収納スキルを使って、その瓦礫をそのまま収納していました」

「それは本当かね?」

「嘘を言ってどうするのですか?これが証拠の品ですよ」

 ヒロトシは、明らかにその材木が孤児院だったものを、インベントリから柱の一本を取り出した。

「しかし、これが孤児院の物とどう証明すればいいのかね?柱一本ならどこにでもある柱と一緒ではないか?」

「シルフォード様よく見てください。シスターさんも、これに見覚えは無いですか?」

「あっ、こ、これは!わたしが書いたものですわ」

 その柱には、シスターが書いたであろう子供達の背比べの記録が印されていた。この孤児院では、子供達が成長したのを確認する為、一年に一回このようにして背比べの後を測っていて、新築で出来たばかりの時子供達の成長の記録を記していた。そして、これと同じものが旧孤児院にも子供達の名前と共にしっかり残っていた。

「た、確かにこの柱は孤児院のものだ。ヒロトシ君でかしたぞ」

 シルフォードは、すぐに一緒に来ていた大工職人に柱を見せると、その大工職人は顔を真っ青にした。

「この材木は……とんでもねえ……こんな腐材で建築したのなら、新築と言っても瓦礫になるのはしょうがないですぜ……」

 大工職人は、一目見てそういってのけた。

 そして、シルフォードはすぐさま、この建築の責任者である大工の棟梁であるダニエルに話しを聞こうと思い、兵士に連行せよと命令した。

「すぐに、この孤児院を建てた大工職人を連れてくるのだ!」

「「「「「はっ」」」」」」

 しかし、この行動も後手とまわっていた。連日、町の人間から責め続けられていた棟梁はその姿を眩ませていた。

「ダニエルはどこだ?」

「棟梁、親方は昨日から姿が見えねえんです……」

「なんだと?それで?」

「いま、弟子である俺達が、町中を探している最中でして……」

「お前は何をしておる?」

「親方がふらっと返ってきたら困るので留守番を」

「わ、わかった!帰ってきたらすぐに兵舎に連れてくるんだ?ダニエルには腐材を使った容疑が固まった」

「わ、分かりました……」

「お前達はダニエルを捜索。残りはデリー材木店に行く」

「「「「「はっ!」」」」」」

 兵士達は二手に分かれた。この責任は棟梁であるダニエルだけの責任ではない。材木屋にもあんなスカスカの材木を用意した責任があるからだ。
 兵士達が、デリー材木屋に突入すると、兵士達を待ち構えていたように、この店の責任者が頭を下げて待っていたのだった。

「この店の責任者はいるか?」

「はい!私が店の責任者のデリーでございます」

「ほう……私達を待ち構えていたと言う事は、自分の責任が分かっているようだな」

「それは重々承知しております……しかし、私共の言う事を聞いていただけませんか?」

「お前の言い訳だと?」

「はい……私達に責任はございません」

「馬鹿な事を申すな!この材木店の材料を孤児院では使っておるのだぞ?その結果、新築物件が跡形もなくなり、数多くの子供達が犠牲になったのだ。なのに責任が無いとはどういう事だ!」

「それが、私の所の従業員に不正が明らかになったのでございます」

「どういう事だ?」

「その従業員は昨日から出勤しておりません……怪しいと思い帳簿を調べ直すと、高級木材を卸したとあるのですが実は腐材を渡していたことが発覚。その差額を横領した事が分かったのです」

「それは本当か!」

「はい……我々もこの事実に気づかず……」

 まさかの出来事だった。デリーは従業員にその罪を被せようとしていた。材木屋では知らなかったの一点張りで、従業員と現場の責任者が行方知れずとなれば、この二人の犯行が濃厚と言わざるを得なかった。

 そして、次の日最悪の結末を迎える事になる。町はずれの廃墟で、二人揃って首つり自殺が見つかり、その足元には遺書のようなものが見つかった。

 そこには、もう逃れる事が出来ないので命を持って償う事が、遺書に書かれていた。この遺書を見た兵士達は、この二人が共謀し今回の犯行を起こしたものと断定。
 そして、デリー材木店も被害者としたのだった。これはリヒターの口添えもあった事で、デリー材木店から上がってきた横領の証拠もあり、先日焼け出された子供達に避難物資を、デリー材木店が贈った事もあり、町の人間はすっかり騙されてお咎めなしと言う事になった。

「御屋形様、上手く行きましたね。ひひひ」

「フランクよくやった。しかし、よくあそこまで先手を打てたな」

「従業員であればだれでもいいのですよ。あ奴は何かといえば反抗ばかりしていたやつですからね」

 兵士達がデリー材木店にやって来る前日に、この男フランクは店で煙たい従業員の一人を飲みに誘っていた。そこで、話し合いと称して酒を浴びる様に飲ませて気を失わせたのだ。

「いいのですか?本当にこのままで……ヒック……」

「アーア……こんなに飲んでしょうがない奴だなぁ」

「俺は酔っぱらってませんよ」

「酔っぱらいの酔っぱらってないは一番あぶねえんだよ。しょうがねえ送っててやるよ。肩に捕まりな」

 そうして、従業員の男は肩に担がれ酒場を出て言ったのを最後に行方不明となり、廃墟で首をつられ自殺と見せられてその命を落とした。
 それと同じころ、大工の棟梁のダニエルは町の人に責められ追い詰められていた。そして、夜の町をさまよいフラフラとしていたのだ。そこを、フランクの部下に気絶させられた。誘拐されてしまったダニエルは廃墟へと連れてこられてしまった。

「んんんん!」

「よう!ダニエルさん気づいたのかい?もうちょっと寝ていれば苦しまず死ねたのに運が悪いな」

「んんんん!(貴様は!)」

「何を言っているのか分からねえが、孤児院の手抜き工事の件でちょっとな。お前に生きていられたら、困るお人がたくさんいるんだよ」

「んーーーー!(待ってくれ!)」

「お前には罪を被ってもらい死んでもらう事にしたんだ。不運だったが、次の人生では幸せになれよ」

 そう言ってフランクは、手足を縛られていたダニエルの首に縄をかけた。

「んんーーーーー!(俺はまだ死にたくねえ!)」

「そう抵抗するなって。余計に苦しくなるぞ」

 そうして、フランクは力任せに、天井に架かったロープを引っ張ったのだ。

「ぐえぇ!」

 宙づりにされたダニエルは、バタバタと暴れたが手足が縛られておりどうにもできずに、そのまま窒息死となってしまった。
 フランクは、二人の死体のそばに靴を揃えて置き、用意していた遺書も一緒に置いた。そして、手足を縛ったロープを外し自殺を装った。

 そして、この孤児院の事件は収束したのだった。犯人だった二人が自殺したと発表されたからである。




 ヒロトシは、シルフォードの元にやってきていた。当然、この結果に納得がいかなかったからだ。

「シルフォード様!本当にこんな解決でいいのですか?」

「言いも何も、犯人だった二人は自殺してしまったんじゃどうにもならんだろ?」

「あの二人は事件に巻き込まれて殺されたんですよ!真の黒幕は他にいますよ」

「と、言っても証拠がないではないか?」

「じゃあ、聞きますがあの自殺した二人が横領したという金はどこに消えたと言うのですか?」

「それは今捜索中だ」

「あんな大金、一般人がその辺に隠すと思いますか?普通はギルドカードに預金するでしょ?」

「それはそうだが……」

「あったのですか?」

「いや、無かったよ……」

「あの二人の身辺を洗った所で何か出るとは思えないですよ」

「だったら、どうすればいいと言うのだ」

「今回の事件で得をした人間は誰ですか?デリー材木店でしょ?」

「馬鹿な!デリー材木店は横領された側だぞ?それに焼け出された子供達に、救援物資を100万ゴールドも自腹で出しておる」

「いいですか?もし、自分が疑われるとなれば俺でもそれぐらいはしますよ」

「はぁあ?何を言っておるんだ?」

「今回、デリー材木店の行動は先手先手を打ちすぎなんだよ。まるで自分達が疑われるから、先に自分達のアリバイを用意した様な感じで!」

「じゃあ、ヒロトシ君はデリー材木店が犯人だと言うのかね?」

「確証はありませんが、今回得したのはデリー材木店です。建て直しの依頼を、無条件でデリー材木店が受注したじゃありませんか」

「そりゃ、以前建てた孤児院の責任を取ると言われれば……」

「だけど、ただではありませんよね?そればかりか、今度の費用は割増しにしたと聞いてます」

「それは当然だろ。前みたいな手抜き工事にならない様に、信頼のおける人間に発注しないといけないんだからな」

「うっ……」

「それに、先ほど確証はないと言っただろ?証拠がないのであれば、迂闊に疑う事は出来んだろ?」

「それは……」

「悪い事は言わん。ヒロトシ君もこの事は忘れた方がいい。不正と地震が重なってしまって、地震で命を無くした人間には申し訳ないが、今後このような事が無い様に注意するしかないよ」

「……」

 実際証拠がないのでは、これ以上動く事も出来なかったが、この事が更なる不幸を出す事になる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ
ファンタジー
 前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生した主人公、実は悪役令嬢でした・・・・・・。え?そうなの?それなら破滅は避けたい!でも乙女ゲームなんてしたことない!妹には「悪役令嬢可愛い!!」と永遠聞かされただけ・・・・・・困った・・・・・・。  どれがフラグかなんてわかんないし、無視してもいいかなーって頭の片隅に仕舞い込み、あぁポテサラが食べたい・・・・・・と思考はどんどん食べ物へ。恋しい食べ物達を作っては食べ、作ってはあげて・・・・・・。あれ?いつのまにか、ヒロインともお友達になっちゃった。攻略対象達も設定とはなんだか違う?とヒロイン談。  なんだかんだで生きていける気がする?主人公が、豚汁騎士科生たちやダメダメ先生に懐かれたり。腹黒婚約者に赤面させられたと思ったら、自称ヒロインまで登場しちゃってうっかり魔王降臨しちゃったり・・・・・・。もうどうにでもなれ!とステキなお姉様方や本物の乙女ゲームヒロインたちとお菓子や食事楽しみながら、青春を謳歌するレティシアのお食事日記。 ※爵位や言葉遣いは、現実や他作者様の作品と異なります。 ※誤字脱字あるかもしれません。ごめんなさい。 ※戦闘シーンがあるので、R指定は念のためです。 ※カクヨムでも投稿してます。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

処理中です...