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第4章 魔道スキルと研磨スキル

34話 身代わりの犠牲者

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 孤児院を建築した棟梁のダニエルは、日々町の人間から責められていた。そして、シルフォードは燃え尽きてしまった孤児院の跡地に出向き視察を繰り返し、手抜き工事の片りんでもいいので見つけようと必死だった。

「やっぱり犯人の奴証拠隠滅を図ったみたいですね。すぐに瓦礫を調べろと言ったのに、なんで三日も経ってからなのですか?」

「ヒロトシ君!何でここに?」

「証拠の品を持ってきたからですよ」

「そんなのがあるのかね?これらを見たまえ……全部炭になってしまっているんだ」

「俺は今回の地震で、瓦礫の下から子供達を救いました。その時、収納スキルを使って、その瓦礫をそのまま収納していました」

「それは本当かね?」

「嘘を言ってどうするのですか?これが証拠の品ですよ」

 ヒロトシは、明らかにその材木が孤児院だったものを、インベントリから柱の一本を取り出した。

「しかし、これが孤児院の物とどう証明すればいいのかね?柱一本ならどこにでもある柱と一緒ではないか?」

「シルフォード様よく見てください。シスターさんも、これに見覚えは無いですか?」

「あっ、こ、これは!わたしが書いたものですわ」

 その柱には、シスターが書いたであろう子供達の背比べの記録が印されていた。この孤児院では、子供達が成長したのを確認する為、一年に一回このようにして背比べの後を測っていて、新築で出来たばかりの時子供達の成長の記録を記していた。そして、これと同じものが旧孤児院にも子供達の名前と共にしっかり残っていた。

「た、確かにこの柱は孤児院のものだ。ヒロトシ君でかしたぞ」

 シルフォードは、すぐに一緒に来ていた大工職人に柱を見せると、その大工職人は顔を真っ青にした。

「この材木は……とんでもねえ……こんな腐材で建築したのなら、新築と言っても瓦礫になるのはしょうがないですぜ……」

 大工職人は、一目見てそういってのけた。

 そして、シルフォードはすぐさま、この建築の責任者である大工の棟梁であるダニエルに話しを聞こうと思い、兵士に連行せよと命令した。

「すぐに、この孤児院を建てた大工職人を連れてくるのだ!」

「「「「「はっ」」」」」」

 しかし、この行動も後手とまわっていた。連日、町の人間から責め続けられていた棟梁はその姿を眩ませていた。

「ダニエルはどこだ?」

「棟梁、親方は昨日から姿が見えねえんです……」

「なんだと?それで?」

「いま、弟子である俺達が、町中を探している最中でして……」

「お前は何をしておる?」

「親方がふらっと返ってきたら困るので留守番を」

「わ、わかった!帰ってきたらすぐに兵舎に連れてくるんだ?ダニエルには腐材を使った容疑が固まった」

「わ、分かりました……」

「お前達はダニエルを捜索。残りはデリー材木店に行く」

「「「「「はっ!」」」」」」

 兵士達は二手に分かれた。この責任は棟梁であるダニエルだけの責任ではない。材木屋にもあんなスカスカの材木を用意した責任があるからだ。
 兵士達が、デリー材木屋に突入すると、兵士達を待ち構えていたように、この店の責任者が頭を下げて待っていたのだった。

「この店の責任者はいるか?」

「はい!私が店の責任者のデリーでございます」

「ほう……私達を待ち構えていたと言う事は、自分の責任が分かっているようだな」

「それは重々承知しております……しかし、私共の言う事を聞いていただけませんか?」

「お前の言い訳だと?」

「はい……私達に責任はございません」

「馬鹿な事を申すな!この材木店の材料を孤児院では使っておるのだぞ?その結果、新築物件が跡形もなくなり、数多くの子供達が犠牲になったのだ。なのに責任が無いとはどういう事だ!」

「それが、私の所の従業員に不正が明らかになったのでございます」

「どういう事だ?」

「その従業員は昨日から出勤しておりません……怪しいと思い帳簿を調べ直すと、高級木材を卸したとあるのですが実は腐材を渡していたことが発覚。その差額を横領した事が分かったのです」

「それは本当か!」

「はい……我々もこの事実に気づかず……」

 まさかの出来事だった。デリーは従業員にその罪を被せようとしていた。材木屋では知らなかったの一点張りで、従業員と現場の責任者が行方知れずとなれば、この二人の犯行が濃厚と言わざるを得なかった。

 そして、次の日最悪の結末を迎える事になる。町はずれの廃墟で、二人揃って首つり自殺が見つかり、その足元には遺書のようなものが見つかった。

 そこには、もう逃れる事が出来ないので命を持って償う事が、遺書に書かれていた。この遺書を見た兵士達は、この二人が共謀し今回の犯行を起こしたものと断定。
 そして、デリー材木店も被害者としたのだった。これはリヒターの口添えもあった事で、デリー材木店から上がってきた横領の証拠もあり、先日焼け出された子供達に避難物資を、デリー材木店が贈った事もあり、町の人間はすっかり騙されてお咎めなしと言う事になった。

「御屋形様、上手く行きましたね。ひひひ」

「フランクよくやった。しかし、よくあそこまで先手を打てたな」

「従業員であればだれでもいいのですよ。あ奴は何かといえば反抗ばかりしていたやつですからね」

 兵士達がデリー材木店にやって来る前日に、この男フランクは店で煙たい従業員の一人を飲みに誘っていた。そこで、話し合いと称して酒を浴びる様に飲ませて気を失わせたのだ。

「いいのですか?本当にこのままで……ヒック……」

「アーア……こんなに飲んでしょうがない奴だなぁ」

「俺は酔っぱらってませんよ」

「酔っぱらいの酔っぱらってないは一番あぶねえんだよ。しょうがねえ送っててやるよ。肩に捕まりな」

 そうして、従業員の男は肩に担がれ酒場を出て言ったのを最後に行方不明となり、廃墟で首をつられ自殺と見せられてその命を落とした。
 それと同じころ、大工の棟梁のダニエルは町の人に責められ追い詰められていた。そして、夜の町をさまよいフラフラとしていたのだ。そこを、フランクの部下に気絶させられた。誘拐されてしまったダニエルは廃墟へと連れてこられてしまった。

「んんんん!」

「よう!ダニエルさん気づいたのかい?もうちょっと寝ていれば苦しまず死ねたのに運が悪いな」

「んんんん!(貴様は!)」

「何を言っているのか分からねえが、孤児院の手抜き工事の件でちょっとな。お前に生きていられたら、困るお人がたくさんいるんだよ」

「んーーーー!(待ってくれ!)」

「お前には罪を被ってもらい死んでもらう事にしたんだ。不運だったが、次の人生では幸せになれよ」

 そう言ってフランクは、手足を縛られていたダニエルの首に縄をかけた。

「んんーーーーー!(俺はまだ死にたくねえ!)」

「そう抵抗するなって。余計に苦しくなるぞ」

 そうして、フランクは力任せに、天井に架かったロープを引っ張ったのだ。

「ぐえぇ!」

 宙づりにされたダニエルは、バタバタと暴れたが手足が縛られておりどうにもできずに、そのまま窒息死となってしまった。
 フランクは、二人の死体のそばに靴を揃えて置き、用意していた遺書も一緒に置いた。そして、手足を縛ったロープを外し自殺を装った。

 そして、この孤児院の事件は収束したのだった。犯人だった二人が自殺したと発表されたからである。




 ヒロトシは、シルフォードの元にやってきていた。当然、この結果に納得がいかなかったからだ。

「シルフォード様!本当にこんな解決でいいのですか?」

「言いも何も、犯人だった二人は自殺してしまったんじゃどうにもならんだろ?」

「あの二人は事件に巻き込まれて殺されたんですよ!真の黒幕は他にいますよ」

「と、言っても証拠がないではないか?」

「じゃあ、聞きますがあの自殺した二人が横領したという金はどこに消えたと言うのですか?」

「それは今捜索中だ」

「あんな大金、一般人がその辺に隠すと思いますか?普通はギルドカードに預金するでしょ?」

「それはそうだが……」

「あったのですか?」

「いや、無かったよ……」

「あの二人の身辺を洗った所で何か出るとは思えないですよ」

「だったら、どうすればいいと言うのだ」

「今回の事件で得をした人間は誰ですか?デリー材木店でしょ?」

「馬鹿な!デリー材木店は横領された側だぞ?それに焼け出された子供達に、救援物資を100万ゴールドも自腹で出しておる」

「いいですか?もし、自分が疑われるとなれば俺でもそれぐらいはしますよ」

「はぁあ?何を言っておるんだ?」

「今回、デリー材木店の行動は先手先手を打ちすぎなんだよ。まるで自分達が疑われるから、先に自分達のアリバイを用意した様な感じで!」

「じゃあ、ヒロトシ君はデリー材木店が犯人だと言うのかね?」

「確証はありませんが、今回得したのはデリー材木店です。建て直しの依頼を、無条件でデリー材木店が受注したじゃありませんか」

「そりゃ、以前建てた孤児院の責任を取ると言われれば……」

「だけど、ただではありませんよね?そればかりか、今度の費用は割増しにしたと聞いてます」

「それは当然だろ。前みたいな手抜き工事にならない様に、信頼のおける人間に発注しないといけないんだからな」

「うっ……」

「それに、先ほど確証はないと言っただろ?証拠がないのであれば、迂闊に疑う事は出来んだろ?」

「それは……」

「悪い事は言わん。ヒロトシ君もこの事は忘れた方がいい。不正と地震が重なってしまって、地震で命を無くした人間には申し訳ないが、今後このような事が無い様に注意するしかないよ」

「……」

 実際証拠がないのでは、これ以上動く事も出来なかったが、この事が更なる不幸を出す事になる。


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