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第4章 魔道スキルと研磨スキル

26話 ノーザンとの決別

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 ヒロトシもまた、地球では一人親方で個人事業主だった。なので、ノーザンの気持ちは分からなくはなかった。弟子を取るとかでもなく、個人でやっていく事は自由があるからだ。今は㋪美研で数多くの奴隷を持ち、家族として生活しているがその人間達を守っていかなければいけない。
 しかし、個人事業主をやっていたころは、そういう事を考える必要がなく、1人で生活できるぐらい稼げば何も問題はない。ノーザンも又そういう職人だった。

「旦那……仕事をやらなくていいなんて言わないでくれよ……俺頑張るからよ」

「今はと言う意味だ。お前には鍛冶で頑張ってもらうから心配するな」

「ほ、本当か?」

「ああ。嘘は言わないよ」

 ノーザンはヒロトシから鍛冶で頑張ってもらうと言われて安心した。そして、ハンナやシェリー達の班からノーザンを外す事にした。

「「ご主人様、本当にありがとうございます」」

「お前達には迷惑をかけたな。もっと早く決断をしたら良かったのかもな」

「いえ、そんな事はありませんが、これでようやく段取りよくできるかと思います」
「それでノーザンは、どういう事をさせるのですか?」

「あいつには、個人で刃の部分の製作をしてもらう事にするよ」

「結局は個人工房に行かせるのですか?」

「いや、ここでみんなと一緒に作業をさせる」

「それでは……」

「ああ……しょうがない事だ。ノーザンはここで個人的に作業をしてもらう事にして、みんなは今まで通りの作業をしてもらうよ」

「本当にそれでよろしいのですか?」

「これからどうなるかわからんけど、今はお前達もその方がいいだろう?しかし、お前達にはノーザンの作業を見ていてほしい。そして、あいつの職人としての腕を盗んでもらいたい」

「それは、刀のレシピをと言う事ですか?」

「そうだ。わからない所があれば俺に聞いてくれたらいいよ。ノーザンに聞いても、多分余計に混乱することになると思うからな」

「それは大丈夫なのですか?」

「だいじょうぶだ。俺の方からノーザンに言っておくから」

 ヒロトシは、ノーザンに刀のレシピで、ロングソードやダガーの刃の製作の取り掛からせた。

「ノーザン、お前はここで一人で刃だけの製作をしてくれ。その際、やり方をハンナ達に見学をさせるいいな?」

「分かりました」

「お前はハンナ達に教える必要もないし、ただ刃を製作してくれたらいいよ」

「なるほど……」

「しかし、一応言っておくがこれだけ、俺がお前に対して譲歩しているんだ。手は抜くなよ?お前のレシピは俺も把握しているからな?」

「わかっているよ……自由に作業をさせてくれると言うのなら、こっちの方が俺には性が合っている」

「後、作業時間も残業は無しだ。わかっているな?」

「ああ。もうあんな間違いは起こさないよ」

 ヒロトシは、ノーザンを㋪美研で個人で作業をさせることにして、ハンナ達にレシピを習得させることにしたのだった。
 余談ではあるが、普通こんな事になればノーザンは、とっくに奴隷商に売られているのは間違い。




 そして、それから1ヶ月が過ぎ、ようやく剣が何種類か完成することになる。

「ノーザン、お前のやり方はなんとなく理解したけど、もう少し融通は出来ないのか?」

「しかし、ここまでは俺の作業だから、ここまではやらせてほしいんだ!」

「これでは、商売にならんよ……どんだけ時間をかけるつもりだ……」

「旦那も手を抜くなと言ったじゃないか」

「確かに言ったよ?だが、砥ぎはやらなくていいと言ったよな?それは、研磨の仕事だ。お前がやるよりこっちの方が本職だと!それをやらなければ、もっと本数を仕上げる事が出来るだろ?」

「しかし……」

「いいか?一つ忠告しておくぞ?」

「忠告って何だよ?」

「このままでは本当にここでも居場所を無くす事になるぞ。それでも本当にいいのか?」

「居場所を無くす?なんでだ?このレシピでこれから俺は旦那の役に立っていくのは間違いないだろ?」

「俺は言ったはずだぞ。レシピに未練はないのかと?なんでそんなに執着している」

「しかし、実際の所このロングソードの刃は上出来だろ?」

 ノーザンは出来上がった製品を満足げに並べていた。そして、出来上がった刃の部分と、魔宝石が嵌っている柄の部分を接続させて、ようやく一本の武器として完成するのだった。
 本来ならば、研磨はこちらですればこんなに時間がかかる事は無く、もっと多くの商品をそろえる事が出来るはずだった。

「ノーザン……お前の店ではこの生産量で良かったのかもしれない……だが、㋪美研でこの生産量では、冒険者の皆さんが不満が噴出するぞ」

「しかし、いいものを提供するには時間もかかる」

「そこだよそこ!それはどうやって生産量を上げるかは俺が考える事だ。お前が、それを妨害してどうする?今回作れたのは5本だけだ……これでは1パーティーに提供するだけだ」

「そ、それは……」

「いいか?俺はお前が集団行動が出来ないと考えて、一人で作業させる事にしたが、これではとてもじゃないが鍛冶師として任せる事ができないぞ」

「……」

「本当にこれでいいのか?」

「だが、俺一人ではこれが限界なんだ……」

「だから、仕上げの砥ぎは研磨部に任せろと言っているんだ。お前のやり方は砥石で丁寧に砥いでいくやり方だ。それではいくら時間があっても、1人ではこの生産量になるのは当たり前じゃないか」

「だが切れ味を出すには、一番大切な工程だ。鉄を鍛え上げるだけでは不安が残るだろ?」

「ノーザン、その言葉は取り下げろ!」

「何でだ?俺はこの武器に命を懸けているんだぜ?仕上げ工程は刃物の命だろ?」

「じゃあ、お前は仕上げのプロである俺の腕を信用していないと言うんだな?」

「えっ?」

「お前の気持ちは分かったよ。このまま、作業を続けてくれ」

 ノーザンは作業を続けるしかなかった。この武器で必ず㋪の売り上げは上がると信じ切っていたからだ。今まで個人店をやってきて、気に入った客に商売をしてきたノーザンは、自分の武器が客に喜ばれると思っていた。

 そして、ヒロトシはノーザンを当てにする事をやめたのだった。ハンナ達にノーザンの仕事を見学させていたが、自分で見学する様にした。

「旦那?そんなとこにいられると緊張するんだが……研磨の方は良いのか?」

「心配するな。お前は自分の作業をしてくれ」

 ヒロトシは、研磨作業を前倒しで完了させて、時間を作っていたのだった。そして、その様子を神眼で見学をしていた。鋼を鍛錬していき鋼を引き延ばし、刀身の形に成形していく。最後に焼き入れをして完成。後は仕上げの工程である。
 
 この一連の作業を、神眼で確認したのである。ヒロトシはそれまでノーザンに花を持たせる為に任せていたが、こうなってはもうしょうがなかった。言っても分からないのなら放っておくしかなかったのだ。

「なるほどな……鍛錬の仕方がよくわかったよ」

 ヒロトシは一度全工程を確認して、ノーザンのいる場所を後にした。そして、ハンナとシェリーにこれからの計画を指示したのだった。

「ノーザンすまないが、その場所を開けてくれないか?」

「じゃあ、俺はどこで作業をすればいいんだ?」

「悪いがノーザンにはシュガー村の方で、前みたいに個人でやってもらう事にした」

「本当か?俺もそっちの方が気楽でいい」

「そのかわり、この間のように無理はするなよ?」

「ああ!分かっているよ。でも、何で気が変わったんだ?」

「この場所をお前一人で使うと、やっぱ作業効率が上がらないからな。それなら、お前はシュガー村で個人工房で働いた方が、こっちとしてもありがたい」

 ノーザンは、自分の思い通りに仕事が出来、ヒロトシの役に立てると思い喜んでその申し出を受けた。そして、次のシュガー村に訪問するときに、ノーザンもシュガー村に連れて行く事になった。

 そして、シュガー村ではまたノーザンがやってきたことにビックリしていた。てっきり、もうこの村には来ないと思っていたからだ。

「ご、ご主人様?これは一体どういうことですか?」

「悪いな。ノーザンは㋪美研ではちょっと扱いづらかった。やっぱり、あいつは個人でやらせるのが1番みたいだ」

「ご主人様ちょっと待ってください!あの時は3日だけだったから注意して確認出来ましたが、これから毎日するとなると……」

「いや、もう確認する為に注意しなくてもいいよ。もう、時間は守るはずだしね」

「そ、そうですか……なら大丈夫です」

 今、シュガー村に出張に来ていたのはティアとルーである。二人はそれを聞き安堵していた。家の管理をしている人間も、たった一人の為に手を煩わせられるのは勘弁してもらいたかった。
 これがヒロトシならば話は別である。いくらでもヒロトシにあわせるように調整しお世話することに苦はないからである。しかし、犯罪奴隷のノーザンの為にそんな事をする義理は全くないのだ。

「あれ?ノーザンは?シアン、知らないか?」

「ノーザンなら、村に着いてすぐに工房の方に行きましたよ」

「そ、そうか……なら大丈夫だな」

 ヒロトシはすぐに、サトウキビの収穫に向かったのだった。


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