研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第4章 魔道スキルと研磨スキル

25話 向き不向き

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 ヒロトシは研磨をしながら、ノーザンの日々の態度を見ていた。ハンナがどうしても言う通りにさせることが出来ない時に、ヒロトシが口を出していた。
 ノーザンは、ずっと一人で黙々と作業をやり続けていたドワーフで、ドワーフの中でもより職人気質の激しいドワーフであり、なかなか仕事のやり方を合わせる事が出来なかった。

「なあ、ノーザン。俺の言っていることを理解しているか?」

「……」

「何で一人で作業工程を決めてしまう?お前のやる事はなんだ?」

「出来上がった品物のバリを取る作業です」

「そうだな。ちゃんとわかっているじゃないか?だったらなぜそこで別の作業をやろうとする?仕上げ作業は先輩に任せたらいいんだ。まずは、鍛冶師としてのサポートをやればいいんだ」

「しかし……」

「いいか?あの商品はお前の作った商品じゃない。お前はまだ新人で先輩のサポートをするんだ。ノーザンが腕のある職人と言うのはみんなわかっているが、お前の先輩も腕のある職人なんだぞ?」

「ぐっ……」

「納得いかないか?」

「ああ……」

「じゃあ、お前の仕上げた刃を磨いて見せようか?どれほどの違いになるか」

 ヒロトシは、ノーザンが鋳型の仕上げをした商品を磨いて見せると表面はボコボコで見れたものではなかった。

「どうだ?こっちがハンナ達が仕上げた商品だ。そして、これがお前の仕上げた商品だ。これが、冒険者達が使う武器の刃の部分だ」

「な、なんで……こんなにぼこぼこに」

「いいか?ここではお前は何も知らない新人なんだ。お前は金やすりで仕上げた方がいいと思っているが、俺の出したベビーサンダーで仕上げた方が早いし綺麗になるんだ」

「俺にも……」

「ノーザンは、まず仕事工程を全部把握してもらうところからだ。最初から商品の仕上げが出来ると思うな。まず鋳型のバリを取る仕事を満足にできてからだ」

「はい……」

「まだ納得していないみたいだな?これが冒険者の武器ではなく、貴族様の鏡台に使われる鏡部分だったらどうなるかわかるか?顔が歪んでその姿が映る商品になるんだぞ?」

「あっ……」

「そうなればどうなる?一応検品はするが、そんな商品が紛れ込んだら信用問題になるんだぞ?いや、信用問題ならまだいい。製作者は全員詐欺容疑で打ち首になってもおかしくない」

「そ、それは……」

「言い過ぎだとでも言いたいのか?」

「い、いえ……」

「とにかくお前の仕事はサポートをするところからだ。わかったな?」

「はい」

「じゃあ、仕事に戻れ」

「シェリー!この刃を仕上げ直しておいてくれ!」

「わかりました……」

 シェリーは、その刃の部分を持って、ヒロトシに何か言いたそうにしていた。

「何が言いたいかわかるが、もうちょっと我慢してくれないか?」

「はい……」

 シェリーは何も言わず言葉を飲み込んだようだ。ヒロトシは、本当に色んな人間がいると思ったが、その中でどのように行動するかで全員が楽しくなるようにと思っていた。




 そして、それから2ヶ月が経った頃ヒロトシの所に冒険者ギルドがやってきたのだった。

「ヒロトシ様。ちょっとよろしいですか?」

「冒険者達の言いたいことは分かるが、もうちょっと待ってくれないか?」

「急かすわけではないのですが、どうなっているのですか?広告を張ったは良いのですが、あれからとんと情報が来ないじゃないですか?」

「いや、悪いとは思っているよ。もうちょっと早くなんとかなる物だったんだよな」

「何を他人事の様に……どうにか中間報告みたいな事は出来ませんか?」

「実際の所、販売しようと思えばできるんだよ……」

「「「「えっ?」」」」」
「だったらなぜ?」

「カチュアさんには試作品を見せただろ?」

「ええ。あの武器は凄いものでした。しかし、ヒロトシ様が試作品だと言っていましたよね?」

「ああ、俺はあのオプションをある武器に設置しようと思っていたんだ」

「ある武器とはどういう事でしょうか?」

「カチュアさん達なら知っていると思うけど、オーランの町で開発された武器があるだろ?」

「まさかヒロトシ様はレートんさんと共同開発を?」

「いやいや、そうじゃないんだよ。あの武器の創始者はうちの奴隷だ」

「まさか!あのドワーフをヒロトシ様が購入していたのですか?」

「そうなんだけどね……ちょっとうまい事行かないんだよね」

「いやいや、あの剣は刀と言って、冒険者には不評なのですよ。あの刀に、オプションをつけたって」

「だから、上手く行かないんだよ……」

「ではその武器ではなく、通常の武器にしてもいいのでは?」

「本当にいいのか?基本ベースの攻撃力を上げておいた方が、冒険者にとって良いと思うのだが?」

「どういう事でしょうか?」

「前にSランク冒険者にも言ったんだが、あいつ等がこれから行く階層の魔物の事だよ。例えば、そんな事はまずないとは思うが、いきなり魔物のランクが引きあがった時だ」

「そ、それは、いきなり引きあがるとは思えないのですが?」

「カチュアさんは、絶対に引きあがらないと言うんだ?その根拠は?」

「それは、今までの階層がそうだったように……」

「で、深い階層を誰も確認した事が無いのに、今までもそうだから深い階層もそうだと?」

「そ、それは……」

「苛めて悪いな。しかし、ダンジョンではそのちょっとのミスが命運を分ける事になるんだよ。そういう場面で、もうちょっと攻撃力のある武器だったら、首の皮一枚で助かる場合もあるだろ?」

「だったら、このまま広告はそのままなのですか?」

「悪いな。そのまま張り続けておいてくれ」

 ヒロトシの説明に、冒険者ギルドは何も言えなかった。ヒロトシは店の売り上げでは無い理由で、販売延期をしていたからだ。
 実際は、ノーザンのコミニュケーション能力が著しく低かったのだが、ヒロトシはSランク冒険者に言った理由と同じ理由として説明した。

「そ、そうですか……」

「本当に申し訳ない!この通りだ」

「ちょっとやめてください。ヒロトシ様が頭を下げる必要など……理由が分かったので、こちらとしても冒険者達に協力を仰ぎたいと……」

 そして、冒険者ギルドは帰っていった。

「旦那様……どうなさるおつもりですか?このままでは、いつまでたってもオプション付きの武器が出来るとは思えないのですが……」

「だよなあ……どうするかなあ。だけどこのまま、ノーザンの奴をリーダーに置いても上手く行くわけないしな」

「こうなっては、旦那様がリーダーとなるしかないんじゃ?」

「俺は研磨職人であって鍛冶職人じゃないからな。細かいところが説明できないからな……そこはやはり、本人が説明させた方が分かりやすい」

「こういては何なんですが、ノーザンにそのあたりのノウハウがあると思いますか?私は旦那様がレシピを知っているのなら、旦那様が教えた方が潤滑に回るかと思いますが……」

 セバスの気になったところはヒロトシも思っていた。ノーザンは今まで全部自分でやってしまい、それを人に伝えるのがうまくないのではないかと言うところだった。

「そうだな。ちょっと悪いがノーザンを呼んできてくれるか?」

「分かりました……」

 しばらくすると、顔を真っ青にしたノーザンがセバスに連れられてヒロトシの部屋にやってきた。

「ノーザン、悪いな忙しいところ、そこに座ってくれ」

「だ、旦那……何の用だ?やっぱり俺は鍛冶工房から外されるのか?」

「何故そう思う?」

「何故って、俺はどうしても自分のペースで仕事やっちまうから……」

「それが分かっているのに、なぜ言われた通りにしないんだ?俺も、この2ヶ月ずっと見てきたが、お前の仕事に対してのこだわりは、この工房にはあってないんだなと分かったよ」

「だけど俺は、旦那の役に立ちたいんだ。それはみんなと一緒の気持ちなんだ」

「しかし、こう迷惑をかけられたんじゃ、他の者も困るんだよ」

「旦那!ちょっと待ってくれ……」

「まあ、落ち着けって。それで、俺も考えたんだ。そろそろ、刀のレシピで剣を作らないといけなくなってきてな。お前のレシピを俺に説明してくれるか?」

「えっ……旦那に教えると言う事は、俺は本当にもういらないと言う事か?」

「いや、違うよ。もし仮に、お前がいらなくなったのならこのまま奴隷商に売る所だ。それにお前のレシピは、俺の頭の中にもう入っているからな」

「じゃあ、なんで俺に説明をさせるんだ?」

「本当はお前には周りと馴染んでから、その刀のレシピをみんなに教えて貰いたかったんだ。しかし、お前がこうも不器用なドワーフだとは思わなかったんだ」

「それはしょうがないだろう……俺は昔からこうなんだからな」

「俺から言わせれば、そんな事自慢されてもどうしようもない事だがな。それで、セバスとも言っていたんだが、もし仮にお前がみんなと馴染んだ所で、レシピの説明がちゃんとできるのかという疑問にぶち当たった。だから、俺がお前の刀のレシピを聞いてやるから分かりやすく説明して見ろ」

「わ、分かったよ……」

 そして、ヒロトシはノーザンの説明を聞いたが、殆どが感覚的な感じで上手く説明が伝わらなかったのだ。折り返しの鍛錬や火入れの温度全てが火を見て感覚で行なっていた為、説明が抽象的で、ヒロトシに質問ばかりされて説明が出来なかった。

「火の色とはどういう感じだ?鉄が熱された時とミスリルとの違いは?火入れのタイミングは?」

「それはだな……鉄の色を見ればわかると言うか……」

「それじゃ、他人には伝わらないだろ?」

「それは教えてもらうんじゃなく盗み取るもんだ!」

「それはお前が弟子に言う言葉だな。俺に対して使う言葉じゃないないだろう?」

「い、いや、それは……」

「もういいよ。ノーザンは、集団行動が苦手ではなくできないと分かったよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!もう一度ちゃんと説明するから」

「いや、もう時間の無駄だと言う事が分かった。このままお前をこの工房で働かせても意味はないよ」

「そ、そんな……」

 ノーザンはこれで完璧に不要な存在と覚悟して、絶望に打ち震えた。しかし、予想外の事が起きて目の前には頭を下げて謝罪するヒロトシがいた。

「本当にすまなかった……」

「えっ?なんで旦那が頭を下げるんだ?」

「お前には、㋪美研での働き方は無理だ。だったら違う事を提案してやらないとな。今日はもう働かなくていいよ」

 ヒロトシは、ノーザンにはもう㋪の鍛冶工房で働かせることを断念した。


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