研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第4章 魔道スキルと研磨スキル

24話 新人鍛冶師

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 次の日、ヒロトシはいつもと同じように朝の食事をとった。そこには当然だが、ノーザンの姿もありなんともいえない雰囲気をかもしだしていた。
 その中で、新参グループの人間達は、ノーザンに話しかけたりして元気を出してもらおうと話しかける人間も多数いた。
 しかし、ノーザンはもうやる気が無いようで、一日の仕事をこなす事だけを考えているようだった。そして、朝食が終わり、各人持ち場に行き一日が始まる事になるが、マールはノーザンについていき話しかけた。

「ねえ、ノーザンさん。貴方いつまでそうしているつもりなの?」

「……」

「黙っているだけじゃいつまでたってもそのままよ。それで本当にいいの?」

「マールか……俺の事はもう放っておいてくれ……」

「貴方……わたくしと一緒に旦那様に買って貰った日の事忘れてしまったの?貴方は旦那様の事を信じたんじゃないの?」

「そ、それは……だけど、旦那はもう俺の技術はいらないと……」

「本当に貴方はどうしようもない人ね。だったら何で、旦那様はあなたを奴隷商に売らないのよ?普通ならあんたみたいに腕が動かないドワーフを売ってしまうんじゃないの?」

「そ、それは……」

「ねえ、貴方は本当にこのまま終わっていいの?鍛冶でもう一花咲かせると言ったじゃない?」

「だが、旦那はその鍛冶の技術はいらないと言ったんだぞ?」

「だったら、何であなたを奴隷のままにしているのよ。その理由を考えなさい!このままだと旦那様をずっと裏切り続けているとは思わないの?」

「うるせえ!俺が旦那を裏切ってしまったのはもうわかっている。旦那の言う事を聞かず、夜更かしをしてこの事故だ……もう……」

「もうって何よ!もう一度治して貰ったらいいじゃない」

「だけど、それには刀のレシピを……」

「本当にあなたって、馬鹿ねぇ」

「なんだと!」

 ノーザンは、マールの胸ぐらを掴んでいた。しかし、マールの目をみたら怖がっているのにもかかわらず、毅然とした態度に躊躇して動きを止めてしまった。

「ふん!殴るなら殴りなさいよ!そんな握り拳全然怖くないわ。それどころか殴ったら、貴方を笑い者にしてあげるわ」

「ちっ!」

 ノーザンは、マールの胸ぐらから手を離し、舌打ちをしたのだった。

「貴方はなに刀のレシピに拘っているの?このままじゃ、せっかく編み出した技術が本当に廃れちゃうのが分からないの?あの技術は旦那様の為に使うのなら、旦那様にレシピを渡して思う存分活かした方がいいじゃない!」

「だが、あのレシピは……」

「旦那様の物よ!」

「なっ⁉あれは!」

「貴方は何?平民?お店を経営する生産者?」

「ぐっ……おれは、旦那に買われた犯罪奴隷だ……」

「だったら、あの技術は誰のもの?」

「旦那のもの……だ……」

「だったら、旦那様にレシピを渡して治療してもらったら、鍛冶師として働けるわよ?もう一度チャンスを貰い鍛冶師として花を咲かせば、貴方は今回のミスを取り戻せると考えられないの?いつまで、平民のつもりいるのよ!」

「ぐっ……」

「ハアァ……すっきりした。わたくしは言いたい事言えて満足だわ。後は、貴方がどうするかちゃんと考えてね」

「……」

 マールは言いたい事を言って、店の方に駆けて行った。昨日の夜、ヒロトシと話した結果、マールなりの考えだった。
 ヒロトシが言った古参メンバーは、こういった助言は絶対しないから、同期のお前がアドバイスをしてやれと、マールは受け取ったのだ。



 そして、ノーザンはマールから言われた事を一日考えて過ごし、その日の晩に、ノーザンは改めてヒロトシにお願いしに部屋に入ったのだった。

「旦那……ちょっといいか?」

「な、なんだノーザン?こんな時間に俺の部屋に入ってくるなんて、俺はノーマルだからな」

「何を言ってんだ?俺が、夜の奉仕に来るわけないだろ!」

「そ、そうか……それならいいが、びっくりさせるな」

「俺の方がビックリするわ!」

「それで、冗談はそのぐらいにしてなんだ?ようやく決心したか?」

「ああ……俺にもう一度チャンスを下さい!その為に、刀のレシピを治療費として渡します。だからこの腕を治してください」

 ノーザンは、ヒロトシに土下座したのだった。

「ノーザン、本当にもう刀に未練はないんだな?」

「未練は無い!と言ったら嘘になる。しかし、俺は旦那の奴隷で、あのレシピは言うまでもなく旦那の物だし、あのレシピが旦那の為になるのなら本望だ」

「そうか。お前には鍛冶師として頑張ってもらう事にする。腕が治ったら、ハンナとシェリー達の下に就くんだ」

「旦那の指示に従うよ」

 ヒロトシは、ノーザンにリジェネイヤリングを渡した。今回は腕の神経がもとに戻るだけなので20分もかからなかった。

「明日からはハンナの指示に従ってくれ。朝食時に俺からハンナに言っておくから」

「わかりました。俺を再び治療してくれて本当にありがとうございます」

「ああ。もういいよ。これからがお前にとって大変になるから頑張れよ」

「これからが大変とは?」

「お前は、明日から集団行動に入ってもらうからだ。つまり、ハンナ達上司に報告連絡相談は絶対条件だ!今までみたいに個人で作業をするなよ?」

「嘘だろ?刀のレシピを俺がみんなに教えていくんじゃないのか?」

「お前は協調性が無いと言ってもいいからな。そこから修業のやり直しだ」

「じゃあ、レシピはどうすんだ?」

「お前が心配するとこはそこじゃないよ。自分の事を心配してろ」

「だが、俺はこのレシピを旦那の役に立てて貰いてぇから決断したのに意味が無いじゃないか?」

「意味が無いわけじゃないよ。お前はそんなこと心配しなくてもいいよ。レシピの運用は俺が考える事だからな。お前はまず鍛冶師のメンバーからの信頼を取り戻さないと、誰もお前の言う事は聞いてくれない事の方を心配しろ」

「なっ……旦那がそれを言ってくれるんじゃないのか?」

「甘えるな!お前は一回俺を失望させているんだ。それぐらい自分で信頼を勝ち取れ。じゃないと本当にお前のレシピは廃れると心しておくんだな」

「そ、そんな……」

「いいか?ここ数日お前はやる気をなくし雑用ばかりしていた。それは理解できるな?」

「は、はい……」

「明日からは一生懸命鍛冶師としての雑用をしろ」

「俺に、丁稚奉公からやらせるつもりなのか?」

「そうだよ。当り前じゃないか?お前はここで一番の新前だ。先輩から、作業工程を教えてもらう所からやってもらう」

「いいか?報告連絡相談のホウレンソウを絶対に忘れるなよ?」

 ヒロトシは、ノーザンに何回も口を酸っぱくして説明していた。そして、次の日ノーザンはハンナの下に就き、一から鍛冶師としてのノウハウを叩き込まれていた。

「ノーザン、何をやっているのよ?わたしはそんなこと指示を出した?」

「いや、ハンナさん。こっちの方が効率がいいじゃねえか?」

「口ごたえしてんじゃない!わたしがこうと言ったら、まずそれをしなさい‼」

「だけどよ。結局はこの形に成形するんだろ?だったら……」

「そういうやり方もあるけど、基本をまずやりなさい!貴方は確かに今まで1人で色々考えて鍛冶屋をやってきたのは分かるわ。だけど、この工房はチームで動いているの?あなた一人好きにやっていては、反対に効率が下がるの。今はこちらの言う通りに動きなさい」

「わ、分かったよ……」

「それと、何か別の方法を考えついたときは、一人で進めるんじゃなくわたしかシェリーに相談しなさい」

「……」

「返事は?」

「分かったよ」

 ハンナは、これを見て相当大変だと頭をクラクラさせた。ヒロトシの指示なのでしょうがなく下に置いているが、目を離すと独学の方法で作業をし始めるのである。



 すると、その工程を見ていたヒロトシが遠くから、ノーザンを怒鳴った。

「ノーザン!ちょっとこっちにこい!」

「あっ……」

 ノーザンは、ヒロトシに怒鳴られ昨晩の事を思い出して、顔を真っ青にした。

「ノーザン、俺が昨日言った事を忘れたのか?」

「い、いえ……そういう事じゃなく、あの方法だと時間が……」

「だったらなぜそれをやる前に、ハンナに相談しない?ホウ・レン・ソウを忘れるなと言っただろ?相談したら済む話じゃないか?」

「はい……」

「いいか?お前がこんな調子では本当に要らないと判断される事になるんだぞ?今の状況でレシピを教えれると思うな。誰もお前の言う事を聞いてくれないのが分かるだろ?」

「何で聞いてくれないんだよ?あんな攻撃力のある剣なんだぞ」

「お前が人の話を聞かないのに、誰がお前の話を聞くんだよ?」

「うぐっ……」

「うぐっじゃない。反対の立場になって考えろ。お前は弟子が、自分の言う事を聞かなければどう思うんだ?」

「そ、それは……」

「今は、お前が弟子の立場なんだ。その辺をよぉ~~~~く考えて行動するんだ。いいな?」

「はい……」

「じゃあ、ハンナに謝罪をして作業を続けろ」

「分かりました……」

 ノーザンは、ヒロトシに叱られてすぐにハンナの所に行き謝罪をして、作業を言われた通りに始めたのだった。




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