研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第4章 魔道スキルと研磨スキル

21話 事故

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 それから3日が経ち、ヒロトシはまたいつものようにシュガー村に向かっていた。

「ご主人様?ようやくわたしも、このトラックのスピードになれました」

「そうか。それは良かったな」

「こうして慣れると、景色が次々変わって面白いですね」

「まあな。こういうのをドライブって言うんだぞ」

「へええ!」

「まあ直訳すると運転なんだけどな。ははっ」

「何かそのままなんですね」

「まあ、こういうトラックじゃなくもっとかっこいい車だったらいいんだけどな。研磨道具召還ではこういう運搬用のトラックしか出せないのが残念だ……」

 ヒロトシのスキルでは、前世で研磨仕事で使っていた道具として、納品に使っていたトラックが召還することが出来た。だから、自転車通勤していた自転車も研磨道具で召還が可能だった。
 もし、ヒロトシが営業などもして普通の自動車を使っていたら、その関係で普通車も召還できていたのかもしれないと残念に思っていた。

「かっこいい車ですか?」

「そうだな。後ろに荷台が無いような2人だけで乗るような車だな」

「それじゃ、荷物が運べないじゃないですか?」

「こっちの世界じゃ、馬車の意味合いがそうなるけどな。前の世界では移動手段として、こういう乗り物を個人で所有していたんだよ」

「凄い世界ですね……」

「だから、道もこういった砂利道は普通に生活していたら見る事が無かったな」

「どういう世界ですかそれは……」

 助手席に乗っていたシアンは、ヒロトシの言葉に驚きを隠せないでいた。

 シアンは、奴隷となってすっかりヒロトシに懐いていた。これが本当に闇ギルド最強と言われたアサシンとは思えない程だった。

 今日もシュガー村に行くと言えば、率先して助手席に乗ってきてずっと隣で喋っているほどで、ヒロトシと会話したいがためにトラックのスピードにも慣れたと言っていいほどである。

「でも、シアンがトラックのスピードに慣れてくれて本当に良かったよ」

「そうですかぁ。そう言って貰えてうれしいです」

 シアンは、ヒロトシが笑顔で言ったのをみて、ニコニコしていた。そして、ヒロトシがバックミラーで後ろをみると、セレンやミランダ達、トラックの助手席が苦手なメンバー達が恨めしそうにこっちを見ていた。
 後ろの荷台に乗っている護衛メンバーも、本当は助手席に乗りヒロトシと二人の空間で会話を楽しみたいが、スピードが速すぎてそれどころではない。恐怖のほうが勝ってしまい悲鳴をずっと上げ続け、目的地に着くころにはへとへとになってしまうのだ。

「俺も、普通に運転が出来て良かったし、こうして会話もできるからな」

「これからはシュガー村に行くときは、助手席はわたしの物ですね」

「まあ、他の子達が座りたいときは代わってやるんだぞ」

「そんな子たちはいないですよ」

「「「「「くう……」」」」」

 そう言ってシアンは、ちらりと後ろを振り向くと悔しそうにしているメンバーがいた。

「それにしても、カノンまで助手席が苦手とは信じられないよな……」

「わたしだって苦手なものはあります」

 後ろの荷台から声が聞こえてきた。

「だけど、お前は飛翔族で自ら空を飛べるじゃないか?それもスピードはそれなりの速さで飛べていたはずだったよな?」

「ご主人様……自ら飛ぶのとスピードを出されるのは別物ですよ。それに時々予想しない所でバウンドしたら怖いに決まっているじゃないですか」

「なるほどなあ……」

 ヒロトシはカノンの説明に納得した。そして、シアンと会話しながらだとシュガー村までの道のりは本当に早く感じた。

 ヒロトシがシュガー村に着くと、屋敷で家の管理をしていた人間達が慌ててヒロトシに話しかけてきた。

「ご主人様大変です!」

「どうしたんだスズ?まさか……」

「ノーザンさんが作業中に!」

「それでノーザンはどうしたんだ?」

「ご主人様が、万が一の為に置いて行ってくれた効果の高いポーションのおかげで命は取り止めたのですが、利き腕の腱を切ってしまい多分もう動かないかと思います」

 ヒロトシの不安が当たってしまっていた。スズが言うには、ノーザンは少しでもいいものを作ろうと夜遅くまで作業をしていたらしい。
 スズ達も気を付けていたが、次の朝作業場に行くと、肩口に作りかけの刃が刺さって倒れていたと言うのだ。確認したのは次の日の朝で、あのまま気づかれなかったら出血多量で命を落としていたとのことだった。その事故が起こったのは昨日の朝の事で、今だノーザンは意識を失っていたままだった。

「そ、そうか……」

「本当に申し訳ございません!この罰はいくらでもお受けする覚悟は出来てます」

「はっ?なんでスズが謝っているんだよ?」

「でも、ご主人様の言いつけでノーザンさんを注意していたのに怪我をさせてしまって……」

「待て待て。注意して見ていてくれと言ったが、怪我をしたのはノーザンの自業自得だ。スズ達が責任を感じなくてもいいよ」

 そこでシアンが言葉を挟んできた。

「ですが、ご主人様?誰から命を狙われたと言う可能性は?」

「そんなのはないよ。この村にいる人間は全員が信じられる人間ばかりだ」

「しかし……ノーザンは貴族に嵌められて奴隷に落ちた人間です。その原因となった貴族が刺客を送ったとか?」

「その可能性はないとは言い切れないが、ここにどうやってやって来る?お前達でさえ、ここの魔物を討伐することは無理じゃないのか?」

「た、確かに……」

「相手が出来るのは、ここに常駐しているミルデンス達だけだし、それでも魔の森の入り口付近だけだ。それにこの村には、悪意のあるものは絶対に入れない結界が張ってあるから無理だよ」

「では、やはりノーザンさんは事故で?」

「そうだな……あの馬鹿が……」

 ヒロトシはそう言って、怒りをあらわにしていた。

「ご、ご主人様!ノーザンさんを怒らないであげてください」

「何を言っているんだ。あいつを庇う必要はない!お前達に心配をさせて言う事を聞かなかったんだからな。怪我をしたのだって自業自得だ」

「しかし、ノーザンさんの気持ちもわかるんです」

「……」

「ノーザンさんは、早くご主人様の役に立ちたかったんですよ。早く自分の技術を活かして、ご主人様の役に立ちたかっただけなんです」

「その気持ちはありがたいと思うよ」

「そうですよね?ご主人様ならわかってくれると……」

「しかしだ……」

「えっ?」

「俺は、ノーザンにそんな無理をさせてまで役に立ってほしいと言っていたか?」

「そ、それは……」

「俺は、そんな無理をしてたら事故を起こすと忠告していたし、そんな技術は長続きしないとも言っていたはずだ」

「で、でも……ノーザンさんの命は助かって……」

「だが、利き腕はもう動かなくなったんだろ?そうなれば、ノーザンの技術はこれまでだ。無理をした結果、ノーザンの技術はこれまでだよな?」

「でも……」

「いいか?ノーザンは自らその技術を終わらせたと言っても過言ではない。それは分かるな?もし、ノーザンが平民だった場合、この事故に気づかれないまま、後日死体で発見されただろう。もし、助かったとして後遺症が残り鍛冶師としてはもう終わりだ。違うか?」

「それはそうかもしれませんが……でも、ご主人様なら」

「じゃあ、スズに聞くが、もしスズがノーザンの立場だったらもう一度チャンスを下さいと言えるのか。俺に逆らってまで無理をして、今回の事故を起こし腕が動かなくなったんだぞ?」

「そ、それは……」

 スズはヒロトシの問いに返事が出来なかった。ヒロトシが、犯罪奴隷のノーザンに強制労働をさせたんじゃなく、むしろちゃんと休憩を取って、実働8時間にしろとまで言ったにのに、それを無視して寝不足で無茶をした結果だったからだ。
 それも、仕上げの刃の砥ぎ作業もしなくてもいいと指示をされていたので、急ぐ必要はどこにもなかったのだ。

「なあ?どう考えてもノーザンの行動が愚かだとしか言えないんじゃないか?せっかく、欠損が治ってこれから鍛冶師としてもう一花咲かせれたと言うのに……」

 ヒロトシの沈んだ声に、スズ達メイドは何も言う事が出来なかった。

「で、では、ご主人様はノーザンを治療することはしないのですか?」

「治療はするよ。ただ、あの刀のレシピは㋪美研の技術として聞き出す事にして、ノーザンは㋪美研に連れて帰る」

 ヒロトシの言葉に、スズ達はホッとしたようだ。普通ならノーザンの治療はせず、そのまま奴隷商に売られてもおかしくはなかったからだ。
 しかし、ノーザンは鍛冶師として㋪美研で働けるので見捨てられる事はない事が分かったので、メイド達全員が安心していた。

「ったく……馬鹿な事を……」

 ヒロトシは、ノーザンが眠り続けるベットの側で眉をしかめぽつりとつぶやくのだった。ヒロトシは、いつもの作業をこなし、魔の森へサトウキビの収穫をして帰ってきた。そして、シュガー村でのサトウキビはまだ収穫はできなかったので、ミランダ達にノーザンを静かにトラックのコンテナ部分に運び込むように指示を出した。

「あ、あの……本当にこの状態で連れて帰るのですか?」

「ああ!大丈夫だよ。その長椅子に寝かせておいてくれ。ゆっくり走るから大丈夫だ!」

「分かりました」

 トラックの荷台に設置されている長椅子は、硬い物ではなくフワフワのソファーである。そして、背もたれを倒せば寝る事も出来る便利なものだった。
 ノーザンが気づくまで、シュガー村にいるのがベストだったが、ヒロトシもそこまで暇ではなく、研磨作業があるのでのんびりする訳もいかなかったのだ。

 そして、スピードを抑えてミトンの町へと帰還したが、帰りの道中では全員が暗い表情で会話もない状態だった。
そして、ミランダ達はノーザンの行動を許せなかった。


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