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第4章 魔道スキルと研磨スキル

1話 宝石研磨

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 ヒロトシが闇ギルドの逃亡者を保護し、シュガー村を作ってから早5年の歳月が過ぎていた。ヒロトシもこの世界にきてすっかり青年となっていて、今年で20歳になっていた。

「旦那様!」

「何だ?いきなりびっくりするだろ?」

 セバスが勢いよく、ヒロトシの部屋に入ってきたのだった。

「旦那様、これはいったい何事ですか?なんでこんなに宝石を購入しているのですか?」

「ああ……ちょっと新しい事でも始めようと思ってな」

「新しい事?」

「ガイン達はもう一人で鏡面研磨が出来るようになったしな。俺がもう口出しする必要がなくなったからね」

 ガイン達は、ヘアラインの習得しやっとスタート地点に立てたのが7年ほど前だったが、ようやく鏡面研磨をやらせてもらえるようになり、驚くスピードで技術を習得していった。
 そして、今では400#研磨なら十分に任せる事が出来ていて、手鏡も少し口出しすることはあっても殆どヒロトシの手を離れていた。今では、研磨技術を弟弟子に教える事が出来ているほどだった。

「それで宝石なんか何を?」

「宝石研磨だよ」

「ご主人様は、宝石も磨けるのですか?」

「いや、宝石は磨いた事はないよ。だけど、この世界ってスキルという便利なものがあるじゃないか」

「しかし、スキルは経験を積んで覚えるものじゃないですか?旦那様のスキルは金属研磨ではないのですか?」

「違うよ。俺の研磨スキルは、【研磨】であって種類はないんだよ」

「嘘ですよね?万能研磨と言う事ですか?」

「俺が革の装備を磨いたのを覚えていないのか?」

「えっ?そうでしたか?」

「オイオイ……アイリーンやカノンの装備はレザーアーマーじゃないか。短剣職や武闘家は,金属防具じゃなくレザー装備だろ?」

「では、アイリーン達の皮装備も、旦那様のマジカル化が?」

「そうだよ。気づいていなかったのか?」

「えぇ……お店では金属研磨ばかりでしたから……てっきり金属しか研磨はないものとばかり……」

「まあ、いいや。とにかく俺の研磨技術は生きているもの以外なら磨く事ができるよ。それで宝石を磨こうと思ってね」

「ってことは、宝石もピカピカになると言う事ですか?」

「ぴかぴかと言うよりキラキラかな。とにかくこれが上手く行けば、貴族達から依頼が殺到すると思うよ」

「そ、それは凄い!」

 この世界の宝石は、磨いておらず色の付いた石という認識だ。それを丁寧にカットしていき、指輪やブローチにしている感じだ。
 王族が王冠などに使っている宝石は、より丁寧に砥石で形を整えて製作をしていた。
 
 そして、宝石と言う概念はどちらかと言えば、ダンジョンから出るマジカルアイテムであるアクセサリーという方がしっくりくるのだ。
 例えば、プロテクションリング+1であれば鉄のリングにダイヤモンドの魔法石がついている感じである。この魔法石は角が無く真珠の様に丸い形をしている。これが+2ならばリングが青鉱石、+3ならミスリルになり魔法石も若干大きくなっている感じだ。

 宝石研磨は、より丁寧に時間をかけて磨かないといけない為時間がかかる。それと石の硬度なんかも考えて、より深い知識が必要でなのだ。

「これが宝石研磨に使う魔道具か……」

 研磨道具召還で、宝石を磨く道具を召還するとレコードを鳴らすような感じの魔道具だった。レコードがまわるようにその円盤のような研磨道具が回転し、そこに宝石を当てて磨いていく。

 ヒロトシは、宝石をカットしていき、ブリリアントカットをやってみた。

「さすがスキルは万能だな……今まで宝石研磨をやったことが無いのに経験があるように磨けたぞ……」

「主、今度は何をやってんだ?」

「ガイン、これを見てくれ!凄いだろ?」

「なんだこれは⁉」

 ガインは、ヒロトシが磨いたダイヤモンドを見て言葉を失った。それほどまでに、宝石の美しさに心を奪われたのだ。

「凄いだろ?」

「これはダイヤモンドなのか?なんでこんな光り輝き、乱反射しているんだ?」

「これはダイヤモンドのカット方法にあるんだよ。そして、研磨技術を合せたことによって、より美しく輝いているんだよ」

「こいつは凄いな……主、今度はこれを売っていくのか?」

「まあ、そうだな。だけど、これは平民じゃなく貴族相手の商売になるな」

「主にしたら珍しいな。貴族相手に商売だなんて」

「まあ、値段が値段だからな。これ一個で数百万ゴールドになるからな」

「値段は高いが、それだけの価値はあるな」

 ヒロトシは、細工が出来るミドリの元にこのダイヤを持っていき、銀細工でペンダントを作ってもらう様にお願いした。ミドリは新しくヒロトシの奴隷になったドワーフの女性だ。今は、家の管理をして洗濯やら掃除担当として、
日々を過ごしていた。

「ミドリ。ちょっと今いいかな?」

「ご主人様、どうかしたのですか?」

「ミドリって奴隷になる前は細工師だったんだよな?また、以前の様に細工師をやるつもりはないか?」

 ミドリは、奴隷になる前は細工師として働いていた。見た目は12歳の女の子の様に見えるが、成人したドワーフ族である。

「細工師として、また仕事が出来るのですか?」

「いや、ミドリが良かったらだけどな」

「やらせてください!もう一度細工師として腕を振るいたいです」

「そうか。ならよろしく頼むな。道具はよくわからないから一緒に買いに行こうか」

「はい!」

 ヒロトシは、ミトンの町にある商会に、細工道具を買いに来た。本当はガイン達に細工道具を作ってもらおうとも思ったが、やはりすぐに出来るものではなく時間がかかるので購入することにした。

「俺は道具の良し悪しが分からないから、ミドリが決めてくれ」

「じゃあ、これでお願いします」

「本当にこれでいいのか?俺に遠慮するなよ?いい商品を作ろうと思うのなら、いい道具や手になじむ物を選べ」

 ヒロトシも、研磨職人である、職人は手になじむ物や使いやすいものを選ぶことぐらいわかるつもりである。ミドリの取った道具は、一番安い道具だったので、ヒロトシはミドリに忠告の意味も込めて言ったのだった。

「は、はい……ですが、あたしのような細工師では立派な道具は……」

「お前は何を言ってんだ?もし自分で本当にそう思っているのなら、お前を細工師にはせず、他の人材を選ぶぞ」

「そ、そんな。ちょっと待ってください!」

「いいか?腕が未熟ならば精進するのが当たり前だろ?何を卑屈になっている」

「でも……」

「じゃあ、ミドリに聞くけど、お前は自分に自信がない職人の商品を買いたいと思うのか?」

「うっ……」

「確かに、50年その道を究めた職人の商品に比べれば、自分の商品は未熟と思うけど、それを口には絶対出すんじゃない。その時にできる最高の物だと公言しないと、お前の腕はそこで止まってしまうぞ」

「は、はい」

「今は未熟なのかもしれんが、いい道具を使って腕を磨け。いいな?」

「わかりました」

 そして、ヒロトシ達は商会にある細工道具を見て回った。すると、ミドリが声をあげて驚いたのだ。

「こ、これは!」

「どうかしたのか?」

 ミドリは、道具の一つを手に取って目を輝かせていた。

「何でこの人の作品がここに?」

「お目が高いですね。さすが、ヒロトシ様のお連れと言った所でしょうか?」

「「うん?」」

 ヒロトシとミドリが声のした方を見ると、商会の従業員がニコニコした顔で話しかけてきた。

「初めまして。わたくし、フェール商会会長のイアンといいます。以後お見知りおきを」

「会長さん?俺はヒロトシと言います。よろしくお願いします」

「まさかヒロトシ様が、うちの商会に来てくれるとは思いませんでしたよ。こんなうれしい事はありませんね」

「アハハ……それでお目が高いとは?」

「その道具の作者ですよ。今は行方不明になっている、道具の匠と言われる程の人物が作ったとされるものですからね。それを一目で見極めたその奴隷のお嬢さんに感心しましたよ」

「お嬢さんって、あたしは今年で50歳ですよ……」

「えっ……ミドリもそんな年だったのか?」

「そんな年ってご主人様!デリカシーが無いです!」

「ごめんってば、ドワーフ族の女性の年齢が、いまだに分からんだけなんだ」

「まあまあ、それでその商品にいたしますか?在庫はないので、その1セットで終わりなのでご購入するのなら今の内ですよ」

「ですが、この道具は……いくらなんでも……」

「どうしたんだ?匠の作品なんだろ?だったらそれがいいじゃないか?」

「ですが……この人の作品は高価で、職人の中でも使っている職人は限られています」

「高価だけど、いい道具なんだろ?イアンさんそうですよね?」

「ええ、その辺はわたくしも保証しますよ。使えば使う程手になじみ、自分の手の延長の様に作品を製作できるほどの一品ですよ」

「ほら、ミドリそれにしよう!お前にはその道具で頑張ってもらうから、高価なものだと考えなくていいよ」

「本当によろしいのですか?」

「先行投資だ。かまわないよ」

「じゃあ、これで!」

「毎度ありがとうございます!」

 会計の時、この道具1セットの値段は500万ゴールドと聞き、ミドリは焦りやっぱり違う道具でと返品しようとしたが、ヒロトシはすぐに支払いを済ませてしまい、イアンは物凄い笑顔となっていた。

 そして、この道具の作者が近い将来、ヒロトシに関係してくることになるのだが、このときは思いもしなかったのだ。




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