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第3章 新しい研磨

41話 サンライトの営業時間問題

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 ㋪美研には数多くの署名が届き、その代表がヒロトシと面会をしていた。ヒロトシに、署名を持ってきただけなのに屋敷の客室に通される事になってドキドキしていた。

「何で俺達が屋敷の中に通されるんだ?」
「そんな事俺に言うなよ」
「まさか俺達、不敬罪とかになるんじゃ……」
「お、おい!そんな事言うなよ!」
「だけどよう……」

 署名を持ってきた代表の男達は、今更ながら調子に乗ってしまったのかと客室で顔を真っ青にしていた。そこに、ヒロトシが客室に入ってきて、署名を持ってきた男達は扉がガチャリと開いた瞬間、直立不動となりガチガチになっていた。

「「「「「申し訳ありません!」」」」」

「うわっ!なんだよいきなり?」

「俺達が調子に乗りました!」

「まてまて。まずはちょっと落ち着けって。何か誤解をしている」

「ですが、俺達は不敬罪で処刑されるんじゃ……」

「何を馬鹿な事を。そんな事はしないからまずは落ち着けって」

「えっ……不敬罪では……」

「何でそんなこと思ったのか知らんけど、俺はそんな事しないよ」

「じゃあ、なんで俺達をここに?」

「なんでって、署名を持ってきたのは貴方達じゃないですか?」

「そ、それはそうですが、屋敷に通されるなんて思いもしなかったですし……」

「いや、君達の要望はいつも聞いていたから、説明をしないといけないと思っていたんだよ」

「ヒロトシ様自らですか?」

「そりゃサンライトの責任者として説明しないといけないと思っているよ。だから、次署名が来たときに、客室に案内する様にと指示を出していたんだよ」

「俺達みたいな平民にお時間を作ってくれてありがとうございます」

「まあ、俺も少し前までは平民だったからそんな緊張することはないよ。それで本題に入ろうか?」

「はい……」

「実際の所、今の地点ではサンライトの営業時間を延ばす事は出来ないんだよ」

「どうしてですか?俺達もサンライトで食事をしてみたんです」

「本当に申し訳ない」

 ヒロトシは、代表の男達に頭を下げた。その姿に男達は慌てて頭を上げて貰おうとした。

「や、やめてください!頭を上げて」

「俺も色々考えたんだが、営業時間を伸ばせないのはまず第一に、俺の店は個人店と言う事だ」

「個人店?」

「要はギルドの酒場の様に人員が少ない。今のローテーションが精一杯なんだよ」

「ですが、こういっては何ですが従業員は奴隷達ですよね?」

「君達にとって、リサ達は奴隷と認識しているが、俺にとってあの子たちは大事な家族と言う認識だ。だから、無理させるつもりはないよ」

「そうですか……申し訳ありません」

「理解してくれてありがとう」

 ヒロトシが奴隷を大事にしているのは、周知の事実である。男は失言を素直に謝罪した。

「そして、第二に㋪美研と同じ待遇にしたいからなんだ」

「同じ待遇とは?」

「知っての通り俺の本職は研磨屋だ。そこで働く従業員も同じ時間、同じように働いている。だが、サンライトの人間は聖の日も働いているんだ。これ以上無理をさせれば、疲労が蓄積され働く事自体が苦痛になりかねないということだ」

「ヒロトシ様。失礼を承知で言わせていただきたいのですがいいでしょうか?」

「ああ。かまわないよ」

「本気で奴隷にそんな事を考えているのですか?」

「ああ。先ほども言ったように俺はあの奴隷達を奴隷とは思っていない。家族のように接しているつもりだ。君達も家族が大事だろ?」

「それはそうですが……」

「それに君達は、働けば給金を貰えるから頑張れるが、あの子たちは実質タダ働きだ。その分食事や休みは当然の権利という物だからね」

 ヒロトシの説明に、署名を持ってきた男達はただ茫然となり、その説明を聞く限り、あの奴隷達は自分達より生活水準は高いと分かった。それほどまでに、ヒロトシは奴隷達を大切に思っていることが、男たち全員が理解した。

「そして、第3の理由がどうしようもない」

「第3の理由?」

「ああ……夜の7時には料理が品切れになると言う事だよ」

「それは、もっと仕込みを多くすればいいのでは?」

「だから言っただろ?うちは個人店だと。人員が足りないんだよ」

「「「「「……」」」」」

「そういうわけだから、2号店や3号店が開店すれば話は別だが、そうなると今度は砂糖の在庫がなくなるんだよ。砂糖の貴重さは君達も分かるだろ?」

「は、はい……」

「だから、この署名は痛いほどわかるが、俺にもこればかりはどうしようもない。もし食事をしたければ早い時間に来てほしいとお願いするしかないんだよ。わかってほしい」

 ヒロトシは、署名を持ってきた代表に改めて頭を下げたのだった。

「わ、分かりました。頭をお上げください。俺達が無理を言っていたのが分かりました。申し訳ございません」

「分かってくれてありがとう。署名をしてくれた人達には、そういう理由と話してくれると助かる」

 署名をした人間は、この代表たちに理由を聞き、納得するしかなかった。そして、ヒロトシのこの対応は誠実だったとしてほとんどの人間から文句は出なかったのだ。

 しかし、どこにも厄介な人間はいるもので、閉店間際にやってきて文句を言う人間も少なからずいた。

「申し訳ありません……今日のラストオーダーは終わり、料理ももう品切れになりました。またのご来店をお待ちしております」

 店長であるリサは、苦情を言うお客に丁寧に断りを入れていた。

「うるせぇ!いつもいつも早じまいしやがって、全然この店で食えねえじゃねえか!もっと遅くまで営業しろよ!」

「申し訳ありません……」

 男は酔っぱらっていて、リサに絡み続けていた。あまりにしつこかったので衛兵に通報しようとした時、その男は酔っていたこともあり、リサを突きとばしたのだった。

「うるせぇ!どうにかやり過ごそうと思っているみたいだが、納得いくか!」

「きゃっ!」

「「「「「店長!」」」」」

「だ、大丈夫よ!誰か衛兵に……」

「わかりました!」

 しかし、ここにも護衛メンバーは配置されていて、すぐに取り押さえられてしまった。リサは、店の外で何とかしようと説得していたことが仇となって、男に突きとばされてしまった。
 店の中なら、ヒロトシの結界が働き突き飛ばされる前に、男は店の外に出されていたのだが、店じまいだった為店の外で対応して、突き飛ばされて尻もちをついてしまったのだった。
 そして、酔っぱらいの男は護衛メンバーで今日の当番だった、サムソンに取り押さえられてしまった。

 そして、その酔っぱらいは衛兵から注意を受け、サンライトから損害賠償請求をされてしまったのだった。この事でヒロトシはすぐに対応を検討したのだった。





 ヒロトシは、シュガーの村にやってきてサトウキビの生産量を見直していた。

「ヒロトシ様!サトウキビ畑に何か用ですか?」

「ああ……カエデさん。ここの生活にはもう慣れたようですね」

「これもヒロトシ様のおかげです。それもあれから脱走者を又、何人か保護して頂き本当にありがとうございます」

 闇ギルドからの脱走者は、あれから運の良い人間が何人かいた。オーランの町とガーラの町からの脱走者だった。
闇ギルドでは、脱走者が続出しており、なんとかヒロトシの所に辿り着けば保護してもらえると噂が出回っていた。

「サトウキビの方は生産量は上げられそうか?」

「ええ!この間救って頂いた子供達がいますので、多少は上げられそうです」

「じゃあ、無理が無い様に収穫量をあげてもらえるか?」

「はい!そんな事で良ければいくらでも!」

 カエデたちは、ヒロトシに恩を感じており、その程度の事なら引き受ける気満々で笑顔で承諾してくれた。

 そして、一年後やっと砂糖の収穫量は3倍となり、サンライトは倍の人員を増やし、昼の部は朝10時から夜7時までと、夜の部は夜7時から夜中の2時までの2交代制での営業が可能となった。


 そして、ようやく町で夜遅くまで働く人間達も、サンライトで食事が出来る様になり、署名を送っていた代表からお礼を言われる事になった。



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